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地域性を売りにしながらも普遍性を持つプロダクトを作るための設計思想

目次
はじめに
製造業が世界に向けて製品やサービスを提供する際、「地域性」と「普遍性」のバランスは重要なテーマです。
地域に根付いた特性を持ちながらも、グローバルなマーケットで通用するプロダクトを生み出すことは、多くの企業が抱える課題でもあります。
この記事では、私自身が工場長、調達購買、生産管理、品質管理、自動化プロジェクトに携わった実体験と、製造業界全体の変遷をふまえて、「地域性を売りとしつつ普遍性を持つ製品設計とは何か?」その考え方と実践アプローチ、必要なラテラルシンキングについて深く解説します。
なぜ「地域性×普遍性」が今、重要なのか?
市場の多様化と原点回帰
かつて日本の製造業は、「世界一均質で高品質な製品作り」を競っていました。
「どこで作っても同じ品質」がモットーでしたが、世界が多様化する中で「原点回帰」が起きています。
顧客は「どこかで見た製品」以上に、「この土地、この会社だからこそ生まれる価値」を求めつつあります。
一方で、「ニッチなご当地アイテム」はマーケットを限定しやすく、過度に地域性を強調すると成長機会を逸しがちです。
令和時代は、地域ごとの良さとグローバルで競争できる普遍性を両立することが、競争優位性に直結しています。
昭和型からのブレークスルー
昭和の製造業はアナログ指向が根強く、地域ごと、部門ごとに「うちのやり方」が支配的でした。
しかしIT化や自動化、人的流動性が進む現代では、組織の壁を越えた“普遍的な価値基準”を求める声が増えています。
求められるのは、「らしさ」を残しつつ、誰もが評価し、受け入れられる“軸”を構築する力です。
この変革の波は、設計思想そのものを問う時代となっています。
「地域性を売りにする」とはどういうことか
素材・技術・文化の独自性
例えば、地元産の原料使用や伝統技法の継承は、わかりやすい地域性です。
具体例として、新潟の燕三条は金属加工の町として、硬度・光沢・フォルム美に地域性を宿します。
あえて大量生産の道を選ばず、「燕三条刃物工房謹製」「播州織」のタグが世界でブランド力となっています。
こういった“ローカルアイデンティティ”は、他社・他国が模倣できないアドバンテージになります。
ユーザー体験や価値観への伝播
単なる素材や技術だけでなく、「その土地で生まれた理由」「地域のストーリー」を商品体験に組み込むことは、今では必然になっています。
例として、北海道で製造されるスイーツメーカーが大自然や酪農体験と結び付けてプロダクトを語る場合です。
ストーリーテリング型の設計は、“バイヤーやエンドユーザーが商品に情緒的に共感する力”を持っています。
「普遍性」とは何か、どう実装するか
設計思想と国際競争力
普遍性とは、「どの地域でも価値が伝わる設計基準」を持つことです。
それは、ISOやASTMに代表される国際標準、シンプルな操作性、誰にでもわかるインターフェースなどが該当します。
要件や法規制が異なる地域でも通用する「基本性能の高さ」「安全性」「機能性」は、どの市場でも共通した訴求点となります。
カスタマイズ可能な“余白”づくり
地域の特性を出すために「カスタマイズ性」を設計初期から想定することが重要です。
ベースの設計はグローバル規格に合わせ、オプションや添付書類、ロゴやパッケージ等でローカル要素を加えることで、現地化対応と統一性を両立できます。
トヨタ生産方式の“標準作業+カイゼン自由度”には、まさに普遍性と地域性双方の知見が詰まっています。
具体的な設計思想のステップ
1. 地域性の棚卸しと再発見
まず、その土地が持つ強みや特殊性、昔から受け継がれてきた技などを徹底して棚卸しします。
自分たちにとっては「当たり前」だった価値を、第三者視点で発掘することが大切です。
そこから、プロダクトにどう活かすか「ストーリー」として再構築します。
2. 市場調査とエスノグラフィー手法
ターゲットとしている市場やバイヤーが求めている“普遍的価値”を調査します。
海外バイヤーは、何を評価基準にしているか。
例えば「SDGs対応」「メンテナンス性」「グローバルな安全規格」等です。
現場の観察やインタビュー(エスノグラフィー手法)を活用して、“外部から見た強み”と“内部から出る個性”の掛け算ポイントを探ります。
3. 設計段階での“ゆらぎ”の設定
設計工程では、コアとなる機能・性能要件を明確化しつつ、「ここは変えてもいい」「各地域でカスタマイズ可能」という“ゆらぎ(柔軟な余地)”を、仕様や標準書に盛り込みます。
昭和的な「全部自分で設計・全部きっちり統一」から、「変化を受け入れる設計」へのパラダイムシフトが求められます。
4. サプライチェーンとの協創
製品設計の現場では、購買・調達・サプライヤー・営業・エンジニアリング部門が連携し、川上から川下まで横断的に考えます。
「この素材は地元メーカーしか出せない」「輸出対応ならどんな規格・書類が必要か」「サプライヤー側でローカライズアレンジができるか」など、現場と設計が一体化するプロセスが不可欠です。
サプライヤーの視点からも、“自社の何が評価されているか”“バイヤーの求める普遍性はどこにあるか”を理解することで、提案力や受注拡大に繋がります。
昭和アナログ体質から脱却するために
現場でのラテラルシンキング
これまでの製造現場では、「過去のやり方」に固執してきた事例を数多く見てきました。
しかし、現代は「違う分野」「他地域」「異業種」から学ぶ横断的(ラテラル)な発想が不可欠です。
たとえば地元伝統の職人技を、デジタル技術や海外標準プロセスと掛け合わせることで、新しい商品像が生まれます。
また、単なる“現場改善”だけでなく、「設計思想」「ブランド価値」まで視野に入れた改善こそが、持続的発展のカギを握ります。
失敗から学ぶ現場トライアル
私自身、工場現場で「些細なトライアル」を多く経験しました。
標準化やデジタル化に踏み切ろうとすると、現場では「うちは特殊だから」と抵抗が起きがちです。
そのとき、現場に「なぜ今のやり方なのか」「より良い形はどこか」と問い続け、必ず“実際に触る”“失敗例をみる”ことで、次の設計思想の武器になりました。
現場トライアルが「想像から実装」へ、「合理化から共感設計」への架け橋となるのです。
まとめ:21世紀のものづくりに求められる精神
製造業現場が進化を遂げる今、求められているのは「過去の積み重ねを世界へ翻訳する力」です。
昭和とは違い、“完成品”を押し付けるのではなく「地域性で選ばれつつ、普遍性で共感される」プロダクトを創る。
そのカギは、自分たちの“らしさ”を深く掘り下げること、そして“誰もが納得できる客観的基準”を設計思想に組み込むこと。
バイヤーを目指す方、またはサプライヤーとしてバイヤー視点を知りたい方にとっては、この両面思考が欠かせません。
ラテラルな視点を持ち、現場を変え、業界のアナログな壁を突破し、より広い市場と未来へ製品価値を届けましょう。
これが、21世紀型ものづくりの新しい地平線です。
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