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投稿日:2026年10月1日

デジタルインボイス(Peppol)と受発注・請求の電子化

この記事のポイント(結論先出し)

2026 年 10 月時点で、日本のデジタルインボイスの標準仕様(JP PINT)は 2026 年 6 月 8 日に Ver. 1.1.3 へ更新されている[1]。Peppol は電子請求書の国際的な標準仕様で、使うことも電子での授受も義務ではない[2]。購買側が押さえる点は三つある。第一に、Peppol のネットワークには請求データを保存する仕組みがないので、受け取ったデータは自社で電子帳簿保存法に沿って保存する[3][6]。第二に、仕様には請求書を発注書・契約・納品の記録と突き合わせる機能が含まれ、発注番号の欄がある[5]。発注番号が請求データに入らなければ、照合の手間は紙と変わらない。第三に、仕入先の全員が対応するわけではないので、紙・PDF と併存させる前提で受け取りの流れを組む。

「電子インボイス」と「デジタルインボイス」は違う

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PDF の請求書をメールで受け取ることも、広い意味では電子の請求書である。デジタル庁の資料は、紙の請求書、PDF や CSV のような電子インボイス、Peppol に基づくデジタルインボイスを分けて説明している[4]。紙や PDF は人が読んでシステムに打ち直す必要があり、独自形式のデータは相手ごとにシステムが違うので自動処理が難しい。標準化・構造化されたデータであれば、売り手と買い手のシステムの違いを問わず自動処理ができる、という整理である[4]。

同じ資料は、デジタルインボイスを「請求情報を、売り手のシステムから、買い手のシステムに対し、人を介することなく、直接データ連携し、自動処理される仕組み」と定義している[4]。つまり、データの形式が標準であることと、受け取った側で人が介さずに処理されることの両方がそろって初めて、デジタルインボイスの効き目が出る。

受け取り方 仕様 データの形 購買側で残る手作業 保存の扱い
紙の請求書 相手ごと 非構造 読み取り・入力・照合 紙またはスキャナ保存
PDF をメールで受領 相手ごと 非構造 読み取り・入力・照合 電子取引として電子のまま
相手独自の CSV・EDI 相手ごと 構造化 相手ごとの変換の設定 電子取引として電子のまま
Peppol(JP PINT) 標準 構造化 例外の確認(発注番号が入っていれば) 自社で電子のまま(ネットワークに保存機能なし)

表は、デジタル庁の整理[4]と電子帳簿保存法の一問一答[6]をもとに、購買側の作業に置き直したものである。最後の行の「例外の確認」は、後で述べる発注番号の受け渡しができている場合に限る。

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Peppol の仕組みと、日本の標準仕様

デジタル庁は、2021 年 9 月から OpenPeppol のメンバーとして日本の Peppol Authority を務め、Peppol をベースにした日本の標準仕様 JP PINT を管理している[1]。JP PINT として公表されているのは三つで、適格請求書に対応する Peppol BIS Standard Invoice JP PINT、仕入明細書に対応する JP BIS Self-Billing Invoice、区分記載請求書に対応する JP BIS Invoice for Non-tax Registered Businesses である[2]。2026 年 6 月 8 日に、三つとも Ver. 1.1.3 に更新された[1]。

やり取りの仕組みは「4 コーナー」と呼ばれる。売り手(C1)は自らのアクセスポイント(C2)を通じて Peppol のネットワークに接続し、買い手側のアクセスポイント(C3)にデータを送り、それが買い手(C4)に届く[3]。売り手と買い手がそれぞれ自分のアクセスポイントを持てばよく、相手と同じサービスを使う必要はない。アクセスポイントを提供する事業者(Peppol Certified Service Provider)の一覧は、デジタル庁のページで公開されている[1]。

JP PINT が規定するのは、C2 と C3 の間でやり取りされるデータの仕様である。デジタル庁の FAQ は、C1 と C2 の間、C3 と C4 の間のデータの標準仕様は Peppol がカバーする範囲ではないとしている[3]。購買側にとっては、自社の会計・購買システムと、自社が契約するアクセスポイントとの間をどうつなぐかが、導入の実際の作業になる。

義務ではない。だから「誰と使うか」を自社で決める

デジタル庁の FAQ は、JP PINT の標準仕様を用いることは義務ではなく、いわゆる電子インボイスの提供・受領も義務ではないと明記している[2]。適格請求書発行事業者には求めに応じて適格請求書を交付する義務があるが、それを電磁的記録で提供することまでは義務付けられていない[2]。

したがって、自社が Peppol で受け取れるようにしても、すべての仕入先が Peppol で送ってくるわけではない。紙・PDF・Peppol が併存する期間は長く続くと考えておくほうが現実的である。受け取りの流れは、Peppol で来たものは自動で、それ以外は従来どおり、という二本立てで設計する。取引先にシステムの利用を求めるときの線引きは取引先に「システムは使えない」と言われたらで扱っている。

免税事業者の仕入先も、区分記載請求書に対応する仕様(JP BIS Invoice for Non-tax Registered Businesses)で送ることができる[2]。この仕様は登録番号を含めてはならず、税額に 0 を入れるといった検証のルールが違う[2]。受け取った側で、どの仕様で届いたかを見れば、その請求が適格請求書か区分記載請求書かを機械的に分けられる。経過措置の割合の扱いはインボイス制度の経過措置の変更(2026 年 10 月以降)を参照してほしい。

受け取っただけでは仕入税額控除の要件は満たさない

デジタル庁の FAQ は、適格請求書の記載事項を含む Standard Invoice JP PINT のデータをやり取りするだけでは、直ちに仕入税額控除の要件を満たすことにはならず、データを法令が求める要件を満たす方法(電子帳簿保存法に準じた方法)で保存する必要があると書いている[2]。

しかも、Peppol の仕組みの中には、やり取りされるデータを保存する仕組みが用意されていない[3]。アクセスポイントの事業者の中には保存のサービスを別に提供しているところもあるが、それは通常の Peppol のサービスとは別のものだと FAQ は注記している[3]。受け取ったデータをどこに、どの形で保存するかは、自社で決める必要がある。

電子帳簿保存法の一問一答は、EDI 取引で授受したデータについて、取引内容が変更されるおそれのない合理的な方法で編集したデータで保存することも可能だとし、例として XML 形式のデータを一覧表に変換して保存する場合を挙げている[6]。一方で、授受したデータを手動で転記して別形式のデータを作る場合は、合理的に編集したものに当たらないとしている[6]。Peppol のデータを受け取ったら、自動の変換で保存するか、元のデータのまま保存する。人が打ち直したものを正本にしない。システムを使わない保存の方法は電子帳簿保存法の対応にまとめてある。

購買側の効き目は「照合」に出る

OpenPeppol が公開している JP PINT の仕様書は、請求書が支える機能の一つに「契約・発注書・納品された物品とサービスとの照合(Invoice verification)」を挙げ、請求書には関連する発注書、契約、買い手の参照番号、物品やサービスの受領の確認などを探し出すのに十分な情報を含めるべきだとしている[5]。

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具体的には、発注書の参照(Purchase order reference)は条件付きの項目で、買い手が発注書を出している場合はその番号を請求書に入れ、そうでなければ買い手の参照(Buyer reference)を使う。請求書は、買い手の参照か発注書の参照のどちらかを持たなければならない[5]。出荷案内や受領の通知を参照する欄もある[5]。

ここが購買にとって肝心な点である。仕入先が請求データにこちらの発注番号を入れてくれれば、受け取った瞬間に発注・検収の記録と突き合わせられる。入っていなければ、データで届いても、どの発注の請求かを人が探すことになる。発注書・受領・請求の三つを突き合わせる手順は3 点照合の実務、合わなかったときの扱いは請求書が発注と合わないときで扱っている。

なお、同じ仕様書は、在庫管理や納品の手続きを明示的な対象外として挙げている[5]。デジタルインボイスは請求の情報を運ぶもので、発注や納期回答をやり取りする仕組みではない。発注から納品までの電子化は、別に考える必要がある。

支払側が明細を作る(仕入明細書)場合

買い手が仕入明細書を作って支払う運用をしている会社は、JP BIS Self-Billing Invoice を使う選択肢がある。FAQ によれば、Standard Invoice JP PINT と Self-Billing は同じ意味の構造(Semantic model)を持ち、仕入明細書の記載事項を満たすように作られている[2]。ただし、仕入明細書を仕入税額控除の根拠にするには相手方の確認が要る。確認の取り方と運用は支払通知書とはにまとめてあるので、データで送る場合も同じ考え方で確認の手順を決めておく。

導入するときの順番

以下は実務の提案である。

1. 受け取っている請求書を数える。仕入先ごとに、月の件数と受け取り方(紙・PDF・独自データ)を一覧にする。件数の多い上位の仕入先がどれだけ Peppol に対応しうるかで、効果の大きさがほぼ決まる。

2. 自社側のアクセスポイントを決める。いま使っている会計・購買のシステムが Peppol の受け取りに対応しているか、提供事業者に確かめる。対応していなければ、アクセスポイントの事業者と契約し、受け取ったデータを自社のシステムへ渡す経路を作る。この部分は Peppol の標準の外なので[3]、つなぎ方は個別に決める。システム間のつなぎ方の考え方は購買システムと会計・生産管理のつなぎ方にある。

3. 発注番号の受け渡しを決める。発注書に番号を必ず載せ、仕入先には請求データの発注番号の欄にそれを入れてもらうよう頼む。1 枚の請求で複数の発注をまとめる仕入先には、明細ごとの参照の入れ方も相談する。

4. 保存の方法を決める。受け取ったデータの正本をどこに置き、何で検索できるようにするかを決める。アクセスポイント事業者の保存サービスを使うなら、それが通常の Peppol のサービスとは別であることを前提に契約内容を確かめる[3]。

5. 併存の運用を決める。Peppol で届くもの、PDF で届くもの、紙で届くものの流れを一枚にまとめ、どれでも同じ照合の手順に乗るようにする。

基幹システムの入れ替えを控えているなら、請求の受け取り方の変更は入れ替えの計画の中で決めたほうが手戻りが少ない。どの順番で業務を見直すかは古い基幹システムの刷新と、購買業務の見直しの順番で扱っている。支払の側では、紙の約束手形をやめて振込や電子記録債権に切り替える動きも重なる(紙の約束手形の廃止に向けて)。請求の受け取りと支払の手段を同じ時期に見直すと、照合から支払までを一つの流れで設計し直せる。

起きやすい行き違い

一つ目は、売り手側の都合で始まった Peppol の請求を、買い手側が PDF に戻して処理してしまうことである。受け取ったデータを人が見て会計に打ち込むなら、標準化の効き目は出ない。しかも手で転記したものは、電子帳簿保存法の上で合理的な編集とは扱われない[6]。

二つ目は、発注番号を出していない取引である。電話や口頭で頼んだ追加の加工、月次でまとめて請求される消耗品などは、請求データの発注番号の欄が空になりやすい。仕様上は買い手の参照(Buyer reference)で代えることもできるので[5]、部署コードや契約番号など、空にしない約束を仕入先と決めておく。

三つ目は、保存の場所が決まっていないまま受け取りだけ始めることである。ネットワークには保存機能がないので[3]、受け取りの開始日と保存の開始日をそろえる。

よくある質問

仕入先から「Peppol で請求書を送りたい」と言われた。受けなければならないか

受領は義務ではない[2]。受けるなら自社側のアクセスポイントが必要になる。受けない場合は、従来どおり紙や PDF で送ってもらう。

Peppol で受け取ったデータを印刷して保存してよいか

電子取引で受け取ったデータは電子のまま保存する扱いになる。保存の要件は電子帳簿保存法の一問一答で確認してほしい[6]。

発注書も Peppol で送れるのか

この記事で扱った JP PINT は請求の仕様で、仕様書は在庫管理や納品の手続きを対象外としている[5]。発注をデータで出す方法は別に検討する。

どの事業者のアクセスポイントを使えばよいか

デジタル庁が日本の Peppol Certified Service Provider の一覧を公開している[1]。自社の会計・購買システムとのつなぎ方と、保存のサービスの有無で比べる。

まとめ

Peppol は義務ではない標準仕様で[2]、日本では JP PINT として 2026 年 6 月に Ver. 1.1.3 へ更新されている[1]。購買側の効き目は、請求データを発注・受領の記録と人手を介さずに突き合わせられることにあり、その前提は請求データに発注番号が入っていることである[5]。ネットワークに保存機能はないので[3]、電子帳簿保存法に沿った保存を自社で用意し[6]、紙・PDF との併存を前提に流れを組む。受け取りを始める前に、発注番号の受け渡しと保存の場所を決めておく。

出典・参考資料

  1. JP PINT(デジタル庁)
  2. よくある質問:JP PINTについて(概要)(デジタル庁/2023 年 7 月 21 日)
  3. よくある質問:Peppolネットワークでのデジタルインボイスのやり取りについて(概要)(デジタル庁/2023 年 7 月 21 日)
  4. デジタルインボイス(Peppol e-invoice)について(資料4)(デジタル庁)
  5. Peppol Specifications for Japan implementation of PINT(Peppol International (PINT) model for Billing)(OpenPeppol)
  6. 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(国税庁/令和 7 年 6 月)

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