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缶詰の密封性を高めるダブルシームと圧縮率の最適化設計

目次
はじめに:ダブルシームが缶詰の品質を決める理由
缶詰は長期保存・流通性に優れた食品ですが、その安全性・品質を支えているのは「密封性」です。
この密封性を担保している技術のひとつが「ダブルシーム」と呼ばれる缶蓋と缶胴の接合方法です。
本記事では、缶詰製造の現場に20年以上携わった経験から、ダブルシームの基礎、圧縮率の最適化設計について、現場目線で詳しく解説します。
缶詰の製造工程でダブルシームがもたらす課題や、昭和から続くアナログな慣習が残る業界ならではの現状、DX化のヒント、さらには調達・購買サイドやバイヤー目線の最新動向まで、幅広く実践的な観点で考察を深めていきます。
ダブルシームとは何か?〜缶詰密封の命綱〜
ダブルシームの基本構造
ダブルシームとは、缶詰の本体(缶胴)と蓋(エンド)を機械的に圧着して密封する、2重に曲げ込む構造のことです。
この構造により、食品と外気・微生物の接触を防ぎ、長期保存が可能になります。
ダブルシームは、単純な折り曲げや溶接ではなく、「カール」と「フック」を組み合わせる2重折り技術です。
これにより、衝撃や圧力・加温殺菌など過酷な条件にも耐えられる密封を実現しています。
なぜダブルシームが選ばれるのか?
・殺菌や流通過程でも変形・漏れが発生しにくい
・主に金属缶に採用されており、プラスチック・ガラスと比べてコスト・生産性が高い
・再現性が高く、大量生産に向いている
このような理由から、缶詰業界で今日まで標準技術として利用されています。
昭和期から改良を重ね、金属缶の高強度化、耐食性向上、設計自体の軽量化も実現されてきました。
ダブルシームの「圧縮率」が密封性を左右する
ダブルシーム形成の工程と圧縮率設計
ダブルシームは、シーマー(巻締機)という機械で、一次・二次ローラーを用いて2段階で巻締めて形成します。
このとき重要なのが「圧縮率」の設計です。
圧縮率は、シーム形成時の部材の重なった厚みと、理論的な板厚合計との比率(%)で示されます。
高すぎると変形やシール不良、低すぎるとシール強度不足や内容物漏洩につながります。
最適な圧縮率は、材質や板厚、内容物の種類、缶寸法、殺菌条件など多数の要因から検討します。
ベテラン現場作業者の経験的な“勘”に頼るケースも多いですが、現代では規格値に基づく管理が一般的です。
実際の現場での圧縮率管理の「壁」
昭和型の缶詰工場では、圧縮率は目視点検、分解測定、経験則による調整が中心でした。
しかし、オートメーション化やDX化の波を受け、データロギング、画像解析、IoT計測など新しい管理手法への移行が求められています。
現場では「設計規格は理解しているが、原材料ロットごとの板厚ムラや湿度・温度、シーマーのメンテナンス頻度で微妙に仕上がりが変わる」「徹底的な標準化が難しい」といった声が根強く残っています。
この背景には、高品質を維持したい昭和的な“匠文化”と、グローバルな製品標準化圧力がせめぎ合っている現実があります。
圧縮率最適化による工場経営への影響
「過剰品質」からの脱却とコストダウン
日本の缶詰業界では「漏らないように」と過剰な圧縮率で安全マージンを多めに取りがちな傾向があります。
これは、材料コスト増、設備部品の消耗、作業性低下を招きます。
また、シーム部の樹脂シール材(シーラント)の消費量、殺菌工程での熱歪みリスクも上昇します。
実際、各工程ごとに実データを収集し、圧縮率を最適化した結果、「厚みの最小許容付近」に設計値を寄せ、材料・作業コスト・不良率を削減した工場も数多く生まれています。
ただし、“攻め”の最適化は全数検査やトレーサビリティ体制の強化とワンセットで考える必要があります。
自動化・デジタル化で現場と設計が連携する時代へ
圧縮率の最適設計は、巻締機シーマーの精密制御、板厚・部材寸法の自動計測、ビッグデータ解析といった現代的な管理技術の活用で大きく進歩しています。
AIのディープラーニングを活用し、製造過程の異常予兆を検知するといった試みも行われ始めています。
とはいえ、完全自動化には限界があり、「最終チェックは人間の目」という昭和的価値観も強く残っています。
自動監視データとベテラン作業者の経験知を融合し、現場主導で最適設計をアップデートしていくスタイルが理想といえるでしょう。
調達・購買やサプライヤー視点でのダブルシーム動向
バイヤーが注意すべき品質ポイント
缶詰製造の調達・購買担当者が最重視するのは
・缶本体・蓋の安定供給
・ロットごとの寸法・板厚のばらつき管理
・シーマーメーカーとの情報連携
・時代に合わせたコスト削減の提案力
などです。
特にグローバルバイヤーは、海外工場の異なる規格・公差感覚と日本国内仕様との間で、購入仕様の決定や品質監査で苦労するケースも目立ちます。
サプライヤーが求められる対応力
サプライヤーの立場では、「これ以上圧縮率を落とすと破損リスクが…」という設計限界や、「新しい設備投資に踏み切れない」事情もあります。
一方、バイヤー側は、「同等品質でコストダウン」を強く求めます。
缶詰のダブルシームは工程間に大量の部材協力企業が絡むため、上下流連携が重要です。
例えば、板厚ばらつきを少なく納入する、急な仕様変更の際にはトライアルサンプルを迅速に供給する、設計段階からコストダウンの可能性を共に探るなど、密なコミュニケーションがカギとなります。
業界全体が昭和から令和へ〜次なる進化のために〜
缶詰業界は長く“成熟産業”ともいわれ、アナログな現場勘と属人的な運用が根付いてきました。
しかし、グローバル競争や消費者の食の安全志向、多様化する需要に対応するためには、ダブルシームをはじめとする密封技術の最適化・自動化・標準化は避けて通れません。
・設計、購買、工場、サプライヤー、現場作業者が一丸となったチーム経営
・DXによる品質データの見える化と、自動検査・現場改善の並行推進
・バイヤーとサプライヤーが「対等なパートナー」としての連携強化
これらが、缶詰の新たな価値創造と日本の製造業発展の道筋となるでしょう。
まとめ:缶詰の密封性向上は現場の知恵と科学の融合で進化する
缶詰のダブルシーム技術とその圧縮率最適化は、食品の安全と品質確保の根幹をなす要素です。
最適な密封設計のためには、現場目線の経験知と最新のサイエンス、サプライヤー・バイヤー間の対話、現場で培われた“匠の技”と自動化技術のハイブリッド型運用が求められています。
20年以上製造現場で積み上げた経験から申し上げると、缶詰製造は今も生き物です。
たとえAIやIoTが進化しても、その品質の最後の砦は現場一人ひとりの“気づき”と“責任感”にかかっています。
昭和から続くノウハウを活かしつつ、「なぜこの圧縮率なのか?」を考え続けること、それこそが日本の缶詰業界が世界に誇る最大の競争力だと思います。
缶詰製造や密封技術に携わるすべての方が、「現場と科学」「技術と心」の両輪で、次世代のものづくりに挑戦されることを期待しています。
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