投稿日:2025年6月9日

故障を発明する発想で故障・不具合を解明するAFDの効果的な進め方と実践事例

はじめに:なぜ「故障を発明する発想」が必要か

製造業の現場において、故障・不具合は避けて通れない課題です。
日々の生産活動の中で異常や不良が発生すると、その原因解明や再発防止に多大な労力とコストが発生します。

従来、日本の製造現場では「発生した不具合に対して受け身で対応する」文化が根強く、いわば昭和のアナログ思考が残っている場面が散見されます。
しかし、グローバル競争が激化し製品ライフサイクルが短期化する現代では、故障や不具合を「発生後に分析する」のではなく「仮想的に発生させて先回りで潰しておく」ことが求められています。

ここで注目されるのがAFD(Anticipatory Failure Determination/先取り故障解析)という手法です。
この記事では、AFDの基本から実践的な効果的な進め方、さらに私自身が工場長や現場で経験した実践事例まで、現場目線でわかりやすく解説します。

AFD(先取り故障解析)とは何か

AFDは簡単にいうと「まだ発生していない故障をあえて発明し、その発生メカニズムを徹底的に分析することで、根本的な対策をとる」手法です。
TRIZ(ロシア発祥の発明問題解決理論)に端を発し、近年は自動車、半導体、設備メーカーでの不具合予防設計やリスクアセスメントとして導入が進んでいます。

AFDの基本プロセス

1. 製品や設備、工程単位で「起こりうる故障や不具合」をあえて考え出す
2. それら仮想的な不具合ごとに、どのように起きるのか、何が原因になりうるのか、現場の視点や文献、過去事例を基に洗い出す
3. 「発明した故障」が本当に起きるのかどうか、FMEAなどのリスク評価と組み合わせて検証
4. 原因の根底(根本要因)まで掘り下げ、起きる前に技術的対策や運用・設計変更などで未然防止につなげる

この一連の流れすべてが、「単なる机上の空論」ではなく、実際の工程や設備現場で実践することに価値が生まれます。

昭和思考からの脱却:なぜAFDはアナログ業界に有効なのか

一見すると、「未発生の故障を考えるなんて非現実的だ」と感じる方も多いでしょう。
とくに長年、日本の製造業では「不良は起きてから改善するもの」「現場のカイゼンが最善」という文化が根付いてきました。

ところが、生産設備の自動化やグローバルサプライチェーン構築が進むなか、“見えない故障”や“潜在的不具合”が致命的な損失やリコールリスクにつながることが増えています。

そうしたトラブルを未然に防ぐためには、下記のような現場問題にAFDは大きな効果を発揮します。

現場の課題に応えるAFDの有効性

・現場で暗黙知となっているリスク要因まで掘り下げられる
・工程設計や設備選定、部品購入の場面で“見落としがちなリスク”を事前に洗い出せる
・属人的な経験や勘による「なんとなく大丈夫だろう」という判断から脱却できる
・上流設計・調達・生産・検査のどの段階でも応用でき、再発防止にも転用しやすい

これにより、「後手の対策」から「先手の未然防止」へ現場文化をアップデートできます。

AFDの具体的な進め方と深掘りポイント

では実際に、AFDを効果的に進めるプロセスと現場に即した深掘りポイントを紹介します。

1. 最初に想定する“本来起きてほしくない現象”を書き出す

最初のステップは「意図的に故障・不具合の仮説をつくる」ことです。
プロジェクトメンバーを集めて「この設備や工法で最悪、どんな壊れ方をするか?」という観点から自由にアイデアを出し合います。

現場経験者や保守担当、設計者、さらにはバイヤーまでも巻き込むことで、多角的な視点が得られます。
具体例としては、
・部品が早期に摩耗する
・制御ソフトが想定外の暴走を起こす
・異物がラインに混入する
・調達した特殊材料のロットで品質が揃わない
など、多種多様な“ありえそうなトラブル”をできるだけ挙げることが大切です。

2. なぜ発生するのか?物理と現場の両視点で原因を深堀り

次に、それぞれの“発明された故障”ごとに「なぜ、どうやって発生しうるのか?」を徹底的に分解します。

この時、物理現象、生産プロセス、ヒューマンエラー、資材の状態など、あらゆる要因を洗い出します。
現場の作業者やベテラン技術者の「こういうときに限って起こるんだよな」という経験談も大きなヒントです。

ポイントは、「そんなのありえない」と否定せずに、とにかく徹底的に“最悪”を前提とすること。
専門的な知識も必要ですが、それ以上に現場ならではの勘や過去の失敗も活用すべきです。

3. リスク評価+どこまで防ぐかの線引き

発明したすべての故障・不具合について、「発生率」「影響度」「検出しやすさ」などのリスク評価を行います。
よく使われるのはFMEA(故障モード影響解析)やリスクマトリクスです。

また「防止策に要するコスト対効果」も現場目線で判断し、“全てに完全防止策を取る”のではなく、限定的な予防措置とすることも重要です。
ここはバイヤーやサプライヤーの視点が特に生きるポイントです。
なぜなら調達コスト・納期・品質リスクすべてのバランスを見る必要があるからです。

4. 対策立案と現場現物での検証

最後に、「本当にその故障がどのように起こるのか?」をシミュレーションや実際の現場検証で確かめ、具体的な対策を設計します。

例えば、
・設計段階で部品を二重化する
・自動検査機のプログラムを改修する
・部材調達時の受入管理を厳格化する
・作業手順を工夫して異常が見逃されない工夫を入れる

など、工程・設計・運用さまざまな角度で未然防止策を盛り込みます。
また、必ず現場現物で結果をレビューし、逆に“やりすぎて現場が混乱しないか”も確認します。

製造業の現場で役立つAFD活用の実践事例

ここからは、私が経験してきた実際の現場事例を踏まえ、AFDの有効性を具体的にご紹介します。

実例1:自動搬送ラインでの“ありえない異物混入”の未然防止

ある電子部品工場では、自動搬送設備を新設する計画がありました。
過去のトラブルから「部品への異物混入」がリスクであることは共通認識でしたが、AFDを導入することで通路下側や保守点検時の行動まで徹底的に洗い出し。

作業者がごく稀に落とすマーカーや工具、保守時のウエスの糸くずなど、“通常起きにくい異物”も「発明された故障」として対策対象に。
結果として定期的な清掃、異物検知センサーの追加、作業許可時の備品管理厳格化などを実行し、オープン後3年たっても重大な混入ゼロを実現できました。

実例2:設備老朽化現場での“予期せぬ致命的停止”の攻めの解析

連続稼働が命の重工系ラインでは、「老朽設備がいきなり動かなくなる」=損害が大きい。
ここで設計変更や部材調達の際にAFDを適用。
過去のわずかな兆候(例:異音、異臭、センサーの微妙な不安定さ)や“昔の手作業配線ならでは”のトラブルを徹底的に仮説化。
調達購買の段階で「純正部材の入手不能→代替品での性能劣化」や、現場レベルでも「作業者の世代交代で伝承抜け落ちリスク」まで分析しました。

部品の予備確保や旧規格への柔軟対応、技術伝承ツールの開発まで合わせ、実際に数回、突発停止そのものを未然防止できました。

実例3:バイヤー起点での「納入先でしか起きないクレーム」未然摘出

サプライヤー側がバイヤーの要望を満たす製品を納入したとしても、輸送や保管、現場使用時には「納入先でしか気づけない特有のトラブル」が散見されます。

ある精密部品では、「高温期の輸送中だけ」寸法が微妙に狂い、納入先で組み付け不良になる事象がありました。
バイヤーがAFDを起点に、「あえて部品に極端な温湿度や振動ストレスを与えた場合」にどのような不具合が発生しうるか、サプライヤーと合同で徹底討議。
最初は「ありえない」と思われた条件も、実は輸送中の一部ケースで発生しうることが発覚。
輸送工程の改善や梱包規格の見直しにまで展開でき、納入クレームを根絶できた事例です。

AFD導入のコツと落とし穴:現場目線でのアドバイス

AFD導入にあたっては、いくつかのポイントと“ありがちな落とし穴”を知っておくと、実効性を高めることができます。

AFD導入のコツ

・「ありえない」と決めつけず、多様な職種・担当者を巻き込む
・バイヤーや調達担当も、工程や現場の視点で議論に参加する
・机上検討と現場現物の両輪で対策を練る
・形式化・手段化せず、本質(なぜ起こるか・本当に起こりうるか)をじっくり考える
・「現場が困る」対策も、実際の運用負担をしっかり見極める

AFDの落とし穴と注意点

・“まれにしか起きない事象”にリソースをかけすぎて本来の生産性が下がる
・故障防止策を大量に並べすぎて現場が委縮、チャレンジ精神を損なう
・「AFDをやること」が目的化し、形骸的な書類作りになってしまう
・表面的な不具合原因しか掘り下げず、本当の根本要因に至らない

これらを避けるためには、現場と設計・購買部門が一体となった“実効的な議論と現物検証”が不可欠です。

まとめ:AFDは「攻めの品質管理」へのパスポート

従来のアナログな現場対応では、どうしても「後手の対応」「属人化したリスク管理」になりがちです。
しかし、AFDの発想で“故障を発明”し、多様な視点から原因を掘り下げ、未然に機能的な対策まで落とし込むことで、製造業はもっと強く・柔軟に進化できます。

現場で日々苦労している方、バイヤーやサプライヤーとして納入リスクに向き合う方、今こそ「昭和思考」から一歩踏み出して、AFDのアイディアを現場改革の武器にしてみませんか。

現場の対話と知恵からしか生まれない“本当のリスク対応力”を、AFDとともにアップデートしていきましょう。

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