投稿日:2025年6月22日

クリーンルームの効果的な維持・管理とトラブル対策・事例

クリーンルームの基礎知識と重要性

製造業の中でも、医薬品、半導体、精密機器などを扱う現場では、クリーンルームの維持管理が不可欠です。
単なる「キレイな部屋」ではなく、有害粒子や微細なチリ、バクテリア、化学的汚染などから製品や作業を守るための特別な空間として、各社で厳密な管理が求められます。

昭和の時代から、クリーンルームの考え方は徐々に進化してきましたが、依然として「人の感覚」や「現場の慣習」に頼る企業が少なくありません。
時代に取り残されないためにも、本記事では、現場の実践的な知見と最新動向の両面から、クリーンルームの維持管理やトラブル対策について解説していきます。

クリーンルーム管理の基本 ~維持・管理の柱~

クリーンルームを適切に維持するためには、「清浄度管理」「温湿度管理」「圧力管理」「人の動線と作業手順」など、多面的な視点が欠かせません。

清浄度管理の基本

クリーンルームの性能は「どれだけ異物(粒子、微生物、化学物質)を室内から除去できているか」で決まります。
主な指標として「ISOクラス」や「米国連邦規格(FED-STD-209E)」があり、粒子の数や大きさを定量的に測定します。

室内は高性能HEPAフィルターやULPAフィルターを用いて清浄化します。
しかし、フィルターの能力が万全であっても、最大の汚染源は「人そのもの」です。
そのため、作業員の入室前エアシャワーやウェアの正しい着用、粘着マットの徹底などが非常に重要です。

温湿度・圧力管理

薬品や半導体の歩留まりに直接的に影響を与えるのが、温度と湿度、そして部屋間の圧力差です。
例えば静電気対策として湿度を常に一定値に維持したり、隣接部屋より若干高い「陽圧」にすることで外部からの塵やウイルスの流入を防いだりします。

工場の規模が拡大するほど、空調・計装機器の管理が複雑化し、建屋のわずかな隙間や経年劣化による気密性低下など、見落としがちなリスクも増加します。

人の動線・作業手順の確立

どんなに設備で管理を強化しても、作業員の「うっかり」や慣れによるルール逸脱が最大の敵です。
例えば、私が新人の頃、クリーンルーム内にスマートフォンを持ち込んでしまい、後から「異物持ち込み」の大問題になった事例もありました。

ゾーニング(エリアごとに厳しさを変える)や動線制御(汚染側を通らない設計)を構築し、シンプルかつ継続的に教育することが、地道ながら最も効果的な対策です。

よくあるトラブルと実践的な対策

クリーンルーム管理の現場では、計画書やマニュアルどおりにいかない「現実」に直面することが少なくありません。
ここでは、よくあるトラブルと、その乗り越え方をまとめます。

フィルター目詰まりによる清浄度低下

定期的なフィルター交換は基本ですが、目詰まりが想定より早く起こることもあります。
粉塵発生作業の頻度が一時的に増えたり、外部工事の影響でフィルター寿命が大幅に短くなるケースです。

現場では、「実際の差圧値」を都度チェックし、計画より前倒しでメンテナンス周期を見直す「フレキシブル運用」が重要です。

気密性の低下による外部空気の流入

工場の一部分が増築された、あるいは修繕工事を行った際、細かい隙間が発生し、そこから異物が入り込むことがあります。
私の経験でも、目立たない天井の隙間からクリーンルーム内に昆虫が侵入し、大量の製品がロスになる痛い失敗がありました。

対策としては、「改修後の気密検査の実施」、定期的な「煙(スモーク)による気流試験」、「UVライトでの異物可視化」など、現場目線の確認作業が効果的です。

作業員の規則逸脱

現場作業が忙しくなると、手順を守る意識が下がります。
たとえば「エアシャワーを省略」「着衣不備」「物品の無断持ち込み」など、基本的なルール逸脱によるトラブルがあとを絶ちません。

経営者や管理職側が「なぜ手順が守られなくなるのか」を現場にヒアリングし、物理的な対策(例:入退室管理システム導入)と教育(定期トレーニング・声掛け)を根気強く続けることが、昭和型の雰囲気を脱却するために重要です。

クリーンルーム維持・管理のデジタル化と今後の動向

昔ながらの「紙管理」や「目視点検」に頼る管理現場は多いですが、近年ではIoTやAI技術の導入による変革の波が押し寄せています。

IoTセンサーによるモニタリング

最新のクリーンルームでは、微粒子計・温湿度計・差圧センサーなどがネットワーク接続され、異常値をリアルタイムでアラーム通知できます。
例えばHEPAフィルターの目詰まりを自動検知し、最適なタイミングでメンテナンスを実施することで、無駄なコストや突発トラブルを回避できます。

AIによる画像解析

天井カメラや気流可視化画像からAIが「異常気流」や「異物混入」の傾向を自動抽出する事例も増えています。
人間の目や経験だけでは気付きにくい微細な変化や兆候も、予測分析技術によって早期発見することが可能です。

属人化脱却のペーパーレス管理

「ベテランだけが知っている暗黙知」「マニュアルが現場に浸透しない」といった課題も、クラウド型の管理システムによって改善が期待できます。
作業履歴や教育ログなどをデジタルで記録し、現場のあらゆるデータを「見える化」することで、ノウハウ継承もスムーズになります。

サプライヤー・バイヤー視点でのクリーンルーム維持管理

クリーンルームの維持・管理は、工場内部だけの課題ではありません。
納入業者(サプライヤー)にとっては、バイヤー(購買・調達担当)の「何を見て、どこを重視しているのか」を理解することが、取引の信頼獲得や安定受注につながります。

バイヤーが注目する評価ポイント

・自社の管理基準(ISO認証・GMP取得など)にどこまで準拠できるのか
・トレーサビリティや異常時対応の体制がどれだけ構築されているか
・人的ミスや属人化をシステムで補う仕組みがどれだけ取り入れられているか

これらのポイントを常に意識し、現場写真・記録類・異常対応手順などを可視化して提示できるサプライヤーは、バイヤーからの信頼を得やすくなります。

サプライヤーとの協働がトラブル低減のカギ

クリーンルームは単なる購買品納入だけでなく、納入作業や据付・メンテナンス作業員の入退室管理も大きなリスクです。
バイヤーとサプライヤーが事前に「入室教育」「作業段取りのすり合わせ」を実施し、双方で改善提案やフィードバックをし合える関係性が、ライン停止リスクを未然に防ぐ支えとなります。

クリーンルーム維持管理のこれから ~未来志向の新地平~

国内の製造業、とりわけ中堅・中小工場では、まだまだ「アナログ」な運用が主流です。
しかし、人口減少による人手不足・品質要求の高度化・コンプライアンス強化など、時代の流れは否応なく「最適化・自動化」を求めています。

クリーンルームの維持管理も、単なるマニュアル遵守や部分最適ではなく、「現場と技術」「人とシステム」「サプライヤーとバイヤー」が一体となってPDCAをまわす総合力が必要です。

昭和のやり方を乗り越え、最新技術を柔軟に取り入れつつ、現場発信の改善も実直に積み上げる――。
このハイブリッドな考え方が、未来の製造現場を支える新たな地平線となるはずです。

まとめ

クリーンルーム維持・管理は、高度な専門知識と現場での実践的な知恵、そして属人的管理からの脱却を目指す工夫が求められます。
AIやIoTによる進化は大きな武器ですが、人の意識改革と現場の連携がなければ十分な成果は得られません。

サプライヤーもバイヤーも製造現場も、「現場の声」と「技術革新」を両立させ、共に成長する姿勢が、安定した品質と持続的な事業成長を支えるのです。

現場主義で培った知見と、最新のデジタル技術を融合し、次の時代のクリーンルーム管理を皆様と一緒に切り拓いていきましょう。

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