投稿日:2025年7月14日

顧客理解に不可欠な行動観察の効果的活用法ビッグデータと行動観察の活用によるデータ収集顧客モデリングと事例

製造業における「顧客理解」の重要性

製造業は、時代の流れとともに多様化・高度化した顧客ニーズに応えることが求められています。

高度成長期や昭和の大量生産・大量消費社会においては「作れば売れる」時代でしたが、今や製品寿命は短縮し、顧客の意思決定も高度に個別化しています。

このような状況下では、顧客の真のニーズを的確に捉える「顧客理解」が、競争優位を維持する要となります。

新しい製品やサービスの開発、または現行品の改良において、現場目線での実践的なアプローチが必須です。

本記事では、効果的な顧客理解のために注目されている「行動観察」に焦点を当て、ビッグデータや顧客モデリングとの連携事例を交えて解説します。

調達購買や生産管理、そしてバイヤーを目指す方にも役立つ思考法をご紹介します。

行動観察とは何か:製造業だからこそ活きる実践知

暗黙知を引き出す「観察」の力

これまでの多くの製造業では、「顧客アンケート」や「市場調査」「現場ヒアリング」が主な情報源でした。

しかし、「問われて明らかになるニーズ」と「本人も言語化できない隠れたニーズ」にはギャップがあります。

実際の購買現場や工程現場、あるいはユーザーの製品使用環境を「行動観察」することで、このギャップを埋めることが可能です。

行動観察は、「使い方」や「動作」、「ためらい箇所」「応急処置」「順応」など、現場で起こる一連の行為をありのまま捉えます。

そこから課題解決に繋がる本質的なヒントが得られることが多いのです。

調達部門の視点でも活きる行動観察

たとえば調達購買部門の場合。

サプライヤーから納入された部品を、現場作業員がどのように受け取り、検品し、工程へ流しているか――。

この「流れ」を実際に観察してみることで、「仕様は満たしているが、数量の表記が分かりにくい」「パレットから手で降ろすのが重い」「入荷伝票の分かりにくさで現場が困っている」など、顕在化しにくい改善ポイントに気づくことができます。

ビッグデータと行動観察の相互補完

データドリブンと現場知の統合

近年はIoTやセンサー技術、ERPシステムの普及によって、製造現場でも多様な「ビッグデータ」が取得可能になっています。

例えば、「設備の稼働状況ログ」「トレーサビリティデータ」「品質検査データ」「作業者の工数記録」などです。

こうしたデータを解析すれば、稼働率低下のパターンや品質不良発生の前兆も掴めるようになりました。

しかし、数字やグラフだけでは「なぜその現象が起きたのか」を深く掘り下げることはできません。

ここで「行動観察」の手法が威力を発揮します。

データで異常の“兆し”を掴み、その現場で実際にどんな行動や判断がなされていたのかを観察する。

逆に、観察で拾った現象が全社的な傾向なのか、ビッグデータで裏付けを取る――。

この二段構えが、令和の製造業改善には不可欠です。

製造現場の典型的な失敗例と打開策

たとえば「段取り工程の遅れ」がデータで浮上したとします。

現場を観察してみると、「前工程の仕掛品受け渡し表が現場で手書き、さらに内容が統一されていない」というアナログ慣習が根強く残っているケースがあります。

この場合、エクセルや紙帳票の改善だけでなく、「なぜ現場が現状維持を選び続けているのか」について観察結果から仮説を立て、対話で本音を聞き出すことが効果的です。

また、IoTセンサーで「ワークの待ち・滞留時間」が可視化された場合も、現場には「棚が遠い」「品番ごとに棚のルールが曖昧」といった非効率が潜んでいることが多くあります。

データ解析だけでは見えてこない微細な非効率や現場特有の知恵が、行動観察によって顕在化します。

顧客モデリングの進化と実践事例

顧客を「行動」でセグメント化する

従来のマーケティングでは「年齢・業種・エリア」などで顧客を分類していましたが、それだけでは現代のニーズ多様化に対応できません。

行動観察に基づいたモデリングでは、「自社製造現場を頻繁に訪問する顧客」「現場担当者の判断で即決できる顧客」「購買部と実務現場の温度差が大きい顧客」など、実際の行動や思考回路で分類します。

この行動型分析に、ビッグデータで集めた「購買頻度」「問い合わせ履歴」「納期要求パターン」などの数値情報を重ねることで、より精密な顧客モデルが構築できます。

バイヤー開拓・サプライヤー対応のリアル事例

ある精密部品メーカーの事例をご紹介します。

この企業は数年にわたり取引している顧客の納期クレームが減らず、現場ヒアリングだけでは課題の特定が困難でした。

そこで、エンジニアと購買担当が合同で顧客工場を訪問し、「受入から現場使用までのプロセス一連を観察」しました。

すると、実際は「輸送用パッケージを現場で一度開け、再度小分け作業をしている」「伝票の読み違いで一部部品の導入が遅れている」といった構造的課題を発見。

行動観察の結果をもとに「納品形態の見直し」「現場仕様に合わせた伝票フォーマットへの再設計」を実行したことで、クレームが激減しました。

これは、データと観察を組み合わせた事例です。

またある電子部品メーカーでは、高機能部品の提案営業時に、顧客現場担当者は最新製品に強い関心を持つが、購買部門は価格しか重視しないという“温度差”がありました。

行動観察を通じて、「現場作業上の課題がどれほど解消されるのか」を実演デモ付きで可視化し、そのベネフィットを購買部門にも分かりやすく提示。

「現場の困りごと解消⇒不良低減・生産性向上⇒トータルコスト低減」へのストーリー化で決裁がスムーズになった、という成功例もあります。

行動観察を徹底活用するためのポイント

“自分ごと化”で初めて見えるもの

製造業の現場には「昔からこうしてきた」「これで問題ない」という暗黙の慣習がいまだ根強く残っています。

その壁を突破するには、調達や品質管理、生産管理など部門自体が固定観念を打破し、「なぜこのやり方をしているのか?」「どんな不便があるのか?」とゼロベースで現場を観ることが大切です。

第三者的に「観察」するだけでなく、現場作業を“自分ごと化”して実際に体験することが、時に大きな洞察を生みます。

社員同士のシャドーワーク(見学)やジョブローテーションは、部門間連携にも好影響をもたらします。

アナログ現場でも活かせる「観察フィードバック」

DXが遅れている昭和的な現場でも、観察ノートや写真、動画記録によるフィードバックが可能です。

もちろんプライバシーや情報管理には配慮が必要ですが、「棚卸し作業の動画分析」「手書き伝票の改善ワークショップ」など、アナログとデジタル両面の知見を掛け合わせることができます。

また、モノづくりの現場力を高めるためには、作業現場から調達先・サプライヤーも巻き込み、「一緒に観察する」「一緒に振り返る」という共創型アクションが極めて効果的です。

まとめ:現場目線×データで未来を切り拓く

顧客理解の深化には、「机上の空論」だけでなく「現場で得た肌感覚」と「ビッグデータによる科学的裏付け」の統合が必須です。

行動観察は、現場に根差したアナログ製造業の知恵や工夫を掘り起こし、数値化されたデータでは拾えない「本質」を抽出する強力な武器となります。

さらにそれをデジタル化社会のビッグデータと組み合わせることで、従来の枠を超えた新たな価値創出が可能です。

調達、品質、生産管理、そして現場のリーダーシップを担う方は、ぜひ「観察」と「データ分析」の双方を武器に、顧客理解の最前線を切り拓いてください。

アナログとデジタルが共存・進化する製造業の明日を、私たち自身の手で創っていきましょう。

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