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投稿日:2025年7月3日

行動観察でインサイトを発掘するエスノグラフィ実践手法

はじめに:製造業におけるエスノグラフィの重要性

現場力こそが日本の製造業の強みと言われ続けてきました。
しかし、昭和の時代に築かれたアナログ文化、職人技への依存、現場暗黙知の属人化に、今多くの現場が限界を感じています。
そのような中、現場の”気づかない当たり前”の殻を破り、新たなイノベーションや効率化に直結する「インサイト=本質的な気づき」を掘り起こす手法として注目されているのが「エスノグラフィ(行動観察)」です。

調達購買、生産管理、品質管理、現場改善、自動化・DX推進——こうした業務は、現場のリアルな行動や習慣、無自覚な習わしが実に大きな影響を与えています。
この記事では、私自身20年以上の現場経験で培ったナレッジを交えつつ、製造業の現場でこそ活用したいエスノグラフィ実践手法のコツと、そこから得られる深いインサイトについて解説します。

エスノグラフィとは何か?〜「現場を見る」「人を見る」ことの意義

エスノグラフィとは、もともとは文化人類学の調査手法に端を発します。
「その集団の中に入り込み、人々のふるまいやコミュニケーション、道具の使い方、時には本音や葛藤まで、ありのまま観察して本質を掘り下げる」方法論です。
これを製造業の現場に応用した場合、普段から当たり前に行われている作業やプロセス、休憩室で交わされる会話、現場で工夫されている小道具の使い方、現場に根付いてしまっている”本音と建前”などが、強力な観察対象となります。

たとえば、調達購買の現場では、表向きの手順書どおりに発注業務がなされていても、実は「Excel台帳に2重管理」「顔なじみの業者には電話1本で発注」「正式申請前の裏付け口約束」など、公式フローに現れないアナログ運用が根強く横行しています。
こうした実態はデジタル化では見えません。
エスノグラフィ的な「行動観察」でこそ、表と裏のギャップ、潜在的なボトルネック、”なぜそうしているのか”の理由まで、初めて見えてきます。

なぜ今、アナログな製造業現場ほどエスノグラフィが効くのか

昭和の遺産と現場の「空気」

日本の大手製造業は「標準作業書」「QCサークル活動」「5S」など、全国一律の管理・改善文化から発展してきました。
しかし、現場を短中期で効率化・省人化していく中で、実は「標準書には書かれていない裏マニュアル」が膨大に蓄積され、暗黙知がベテランや現場リーダーたちの頭の中にのみ保存される傾向が強まっています。

これこそが、デジタル化、RPA、自動化、AI導入の壁なのです。
現場で分かっているつもりの”空気”が実は硬直化し、真の改善施策や新システム導入時に「現場の反発」「やらされ感」「結局手戻り発生」といった深刻な問題を呼び込んでいます。

数字だけでは本質が見えない理由

例えば生産管理のKPIで「生産性向上率」や「不良低減率」を確認しただけでは、なぜ低迷しているのか、何が現場実態とかけ離れているのかは掴めません。
「なぜその操作がいつも遅くなるのか?」「なぜ品番間違いが繰り返されるのか?」といった根本課題を発掘するには、現場で“どう人が動いているか”を見て分析するしかないのです。
これは、購買調達や外注管理でも同様です。
発注ミスや納期遅延が「バイヤー個人の管理能力不足」とされがちですが、実際には伝票処理やシステム間の不整合、口頭指示・伝承文化による“業界の空気”が根本要因となっている場合も多いのです。

エスノグラフィの実践手法:製造現場の観察でインサイトを発掘する6つのポイント

1.「現場で目に見える」ものと「無意識の習慣」の両方を観察する

現場を歩き、まず「誰が・何を・どうしているか」をありのまま観察します。
作業員やオペレーター、物流担当、生産管理者、バイヤーなど工程ごと・職種ごとに「誰が、いつ、どんな行動をしているか」「何に迷い、何を頼りに仕事しているのか」を丁寧に観ます。

ポイントは、あくまでも”観察者のフィルター”で判断しないことです。
一見無駄に見える動きにも、その現場ならではの深い合理性や「過去のトラブル対策」など文脈が隠れていることが非常に多いです。

2.「解説を鵜呑みにしない」ヒアリング

ベテラン作業員や現場スタッフに口頭で確認する際には、「なぜそうしているんですか?」「他の現場ではどうですか?」といったオープンな問いから始めてください。
彼らは自分が”なぜ”それをやっているのかを言語化できない場合が多いですが、話すうちに「昔こうなって…」「あの設備の不具合があって」など、根本的な理由や歴史的経緯がポロリと出てきます。
こうした現場の「昔話」「話の脱線」こそが最大のヒントとなり、新しい運用や改善着想の素材となります。

3.「人と道具」と「場所」に注目する

普段見逃しがちな「現場の手作りツール」「自作治具」「伝票貼り場所」「作業者の立ち居地」など、“小さな工夫”こそ狙い目です。
たとえば手書きで書き足された注意書き、机の片隅のToDoリスト、継ぎはぎの備品、使い込まれた道具などは、現場独自の非公式プロセスや改善ノウハウの塊です。

この「場に刻まれた知恵」を可視化することが、新しい管理システムや自動化設計時にも圧倒的な武器となります。

4.「観察・ヒアリング・仮説づくり」をサイクルで繰り返す

1回の訪問・数時間のウォッチングだけでは真のインサイトは得られません。
「なぜこのフローになっているのか」「なぜこの部分だけアナログなのか」「どうすればシンプルにできるか」といった仮説を立て、再度現場を回り、観察・ヒアリングを繰り返すことで、はじめて本質に近づけます。

現場の方々をパートナーと捉え、「ともに問い直す」姿勢が不可欠です。

5.行動と数値を「つなげる」:データ活用とのハイブリッド

エスノグラフィで掴んだ現場行動の「なぜ?」は、必ず生産数値・不良率・工数・コストなど数字とつなげて分析しましょう。
たとえば「1オーダー当たり発注工数」を、フォームの操作回数ややり直し回数と紐づけることで、「なぜか購買担当だけ残業が多い」「1件ずつ発注する裏事情」などが明確に見えるようになります。

現場の目とデータの両輪を使うことで、「数字で示せるインサイト」に昇華できます。

6.「質問できない」現場空気、沈黙、雑談も貴重なデータ

エスノグラフィでは「なぜ質問しづらい雰囲気なのか」「新人が堂々と発言できない」「暗黙の上下関係やNGワードが存在する」など、無自覚な”組織の空気”も観察対象です。
特に現場組織は、ローカルルールや昔からの慣習が非常に強く効いています。
こうしたサイレントな文化を認識し変えていくことが、持続的な変革や本当のDX推進を実現する大前提となります。

エスノグラフィを製造業現場に導入する効果と変化

1.現場改善やKAIZEN活動のレベルアップ

従来の「QCサークル」や「5S」では気づき得なかった、“現場の不満”や“本当にやりたい改善内容”があぶり出されます。
現場主導のプロジェクト提案や、デジタル化に対する前向きな意見も生まれやすくなり、現場×経営層の橋渡し役としての効果が絶大です。

2.調達購買の意思決定基準の明確化

バイヤー目線では、仕入先やサプライヤー選定時に「なぜこの会社/担当者を選びたがるのか」「単なる価格差以上に重視しているものは何か」といった意思決定ロジックを言語化できます。
これにより、サプライヤー側は「バイヤーの本音」を踏まえた営業・提案がしやすくなり、Win-Winな関係性強化につながります。

3.デジタル導入・DX推進の成功確率向上

新システムや自動化導入時、現場で「なぜ反発があるのか」「アナログ作業をなぜ残したがるのか」を定性的に拾い上げておくことで、リーダー層の納得感ある説明、段階的な運用設計が可能になります。
結果として、現場定着率・成功率が劇的にアップするのです。

エスノグラフィで未来を切りひらくために:今日からできるアクションプラン

1.「現場を歩く/座る」日を予定にいれる

週に1回でも担当エリアの現場を歩き、「ありのままを観察」してみてください。
その際は、批判的になったり、すぐに改善策を考えたりせず「目に映るそのまま」「聞こえたそのまま」をメモに残します。
まずは観察すること、自分の固定概念を疑うことがスタートです。

2.「ベテランと新人の両方」に話を聴く

どちらかだけでなく、両方に同じ問いを投げかけてみましょう。
意外に真逆の答えや、「そこに気づくのか!」といった新たな発見があります。

3.「小さな手作り道具」や「貼り紙」「休憩時間の会話」に注目する

これらは製造現場の暗黙知の宝庫です。
一つ一つ写真に残し、なぜ・どうして、と自分自身に問い直してみます。

4.「黙って傍観」ではなく「ともに考える」

観察者・管理者・現場リーダー全てが「例外を楽しむ」「変化そのものを味わう」姿勢を忘れないことが大切です。
現場の違和感や素朴な疑問を大事にし、些細なことこそメンバーでシェアしてください。

まとめ:製造業の未来は「現場のリアル」を観ることから始まる

製造業の真の進化、サステナブルな強みの構築には、「目に見える数字」だけでなく「現場で本当に起きていること=インサイト」に向き合う姿勢が不可欠です。
エスノグラフィ的な行動観察は、誰でも今日から始められる強力な武器です。
目の前の当たり前にとらわれず、現場の中にこそ眠っている「人・モノ・工程の知恵」を掘り起こし、自社のバリューチェーン変革や持続的競争力構築へ繋げていきましょう。

現場とともに歩み、共に問い続ける——それこそが、これからの時代の“現場力”です。

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