投稿日:2025年10月8日

電着塗装後の気泡発生を防ぐ静電分布設計とエア抜き技術

はじめに:製造現場の課題意識と背景

電着塗装は、複雑な形状や溝が多い金属製品に均一で高品質な塗膜を付与できるため、自動車部品や家電製品、機械部品など広範な分野で不可欠な技術です。

しかし現場では塗装後の「気泡(ブリスター)」発生が品質低下、歩留まり悪化の主要因となり、未だに多くの工場で顕在化しています。

なぜなら日本の多くの製造業が昭和時代から続く職人依存の生産文化から大きく抜けきれていない背景があり、「気泡が出たら現物を削って直す」「とりあえず現場の目利きに頼る」といったアナログ的な課題解決が根強いからです。

本記事では、実際の現場で起きている電着塗装後の気泡発生メカニズムに着目し、静電分布設計の最適化とエア抜き技術の向上によってどのようにトラブルを未然に防げるかを深く掘り下げていきます。

また、調達購買部門やバイヤー、さらにサプライヤー側の視点も交え、実践的な改善ポイントを考察し、これからのモノづくり現場に必要な新たな地平線を提示します。

電着塗装における気泡発生のメカニズム

気泡(ブリスター)が発生する主な原因

電着塗装では、被塗物を電解槽に浸し、直流電圧を印加することで塗料粒子を電気的に吸着・均一付着させます。

一方で以下のような原因が重なると、乾燥硬化後の塗膜内部や表面に気泡が生じてしまいます。

・被塗物内部に残留する空気や湿気
・被塗物の溶接部や合わせ面の微細な隙間
・鍍金や下地処理の際の界面残留ガス
・電着中の急激な気泡成長(電解反応によるガス発生)
・乾燥炉段階での加熱膨張

特に溶接構造物や凹部・袋状部分では、気密性や微細な段差が気泡のトリガーとなりやすいです。

職人頼みの検査やヤスリ掛けで一時しのぎする場面も見られますが、根本原因から脱却しない限り現場の負担もコストも減りません。

現場目線で見逃されやすい「静電分布」と「エア抜き」

マニュアル化された工程チェックリストでは、「事前洗浄」「下地処理」「乾燥時間」など基本項目に目が行きがちです。

しかし気泡トラブルの多くは「静電分布設計の甘さ」と「十分なエア抜き確保」から起こっています。

たとえば…

・塗装ハンガーへの吊り下げ方向による静電誘導の偏り
・通電不良による一部未塗装域の発生
・形状に合わせたエア抜き孔の不足
・工場ごとの慣習で根拠なく続く“吊り方”、 “下地組み”の工夫不足

こうした問題は昭和からの暗黙知となっていて、なかなかマニュアル改訂や現場改善に着手しにくいのが実情です。

静電分布設計の最適化:最新現場事例から学ぶ

被塗物ごとの“ハンガリング最適化”の重要性

電着塗装においては、被塗物への電流分布こそが塗膜性能の成否を左右します。

複雑形状や密閉構造物では以下の点を見直すだけで気泡削減に直結します。

・被塗物に対する最適な吊り下げ方向(電流経路が直進的になるよう調整)
・複数点からの導電、分散通電(電流の集中回避)
・製品に合わせて専用ハンガーを設計、定期的な接点クリーニング

ある自動車部品サプライヤーの事例では、吊り下げ位置の見直し・カスタムハンガー導入により気泡率を50%以上低減、年間1000万円規模の再工コストが削減できました。

こうしたノウハウは“現場の見える化”と検証の積み重ねでしか得られません。

バイヤーの皆さんも「ロットごと、型ごとの専用冶具設計があるか」「定期メンテ体制を敷いているか」など確認してみることが品質管理の新しい一歩となります。

静電シミュレーション×デジタル技術の応用

従来は勘や経験則に頼っていた電着ライン設計ですが、現在はCAE(静電解析)や3Dデザインソフトが安価かつスピーディーに導入できる時代になりました。

・3次元モデルによる通電経路の数値シミュレーション
・実際の電着ラインでの電流密度可視化
・AIによる最適吊り方向の提案

これらのツールを用いることで、「一部だけどうしても気泡が出る」などの難題箇所も科学的にアプローチでき、属人的な現場知とデジタル知を掛け合わせた大幅な効率化が可能です。

エア抜き技術の深化:現場適用法と注意点

エア抜き孔設計:ミクロ視点の設計ノウハウ

溶接構造の密閉部や細管、深い凹部など「どうしてもエアが抜けにくい…」そう感じた経験はありませんか?

実は多くの気泡トラブルはこのエア抜き設計不足が根本原因です。

・製造段階でエア抜き用微細孔(ピンホール)を追加
・治具側に吸引orエアブロー装置を付与
・塗装自動化設備によるソフトな揺動・製品反転によるエア排出

たとえば家電メーカーでは排気ファンユニットの箱物内部に、目視では分かりにくい0.5mm径のエア抜き穴を追加したところ、年間数百件レベルのクレームがほぼゼロとなった実績もあります。

「見た目には分からない」「追加工程が手間」と敬遠されがちですが、後戻り工数や顧客クレームのリスクを考えれば投資する価値は大きいです。

最新ロボット×センサ技術でエア残留“ゼロ化”へ

IoTやロボティクスの普及によって、今や塗装ロボットの動きや各部品の内部エア残留もリアルタイムで検知できる時代です。

・ロボットアームにエア残量センサ、温湿度センサを搭載
・画像AIによる塗膜のミクロ気泡自動検出
・エア抜き剤や振動台によるエア自動排出→AI解析で“改善サイクル”構築

これらの最新技術は大企業だけでなく中堅・中小の工場にも導入が急拡大しています。

安価な市販センサや市販カメラを流用し、工作ラインに現場改善の余地がないか“ラテラルシンキング”で発想転換すれば、小さな現場からでもパラダイムが変革できます。

調達購買・バイヤー目線で押さえるべきポイント

見積もり・サプライヤーチェック時の具体的着眼点

サプライヤー選択や現場査察の際、次のような観点から実際の“気泡対策”意識を確認しましょう。

・個別部品・ロットごとに静電分布最適化の工程設計ができているか
・定期的なハンガー冶具のメンテナンス履歴があるか
・気泡発生データを工程ごとにトレースし改善サイクルを確立しているか
・AIやセンサなど最新のエア抜き・検知技術を柔軟に取り入れているか

単なる「不良が出たら手直し」という古い対応に甘んじず、サプライヤーの技術革新姿勢や“現場改善風土”まで踏み込むことが、今後のグローバル競争力につながります。

サプライヤー、協力工場の底上げ・育成支援も重要

下請け・協力工場に対しても「なぜ今回この気泡が起きているのか」「吊り方やエア抜き設計のトライアル実績はあるか」など共同改善型のコミュニケーションを取ることがポイントです。

短絡的な価格競争や“検査に頼りきった現場”から脱し、マニアックな現場知識・最新技術の水平展開を意識して供給網全体の品質底上げにつなげましょう。

“昭和の現場”からの抜本脱却と、新世代現場への提言

昭和時代の「ヤスリで削って仕上げる」「目利き職人が最終検査」の文化が残存する製造現場は今なお多いです。

しかし製造業の国際競争が激化し、省人化・自動化・持続可能性(サステナビリティ)が最重要キーワードとなった現在、静電分布設計とエア抜き技術は顧客満足・コスト競争力・作業負担低減の三方良しを実現する突破口なのです。

・属人的な不良修正→工程設計段階での標準化、解析力の強化
・“目利き”の暗黙知→科学的改善サイクルとデータ連携
・「できない理由探し」→最新ツールや小さな設備投資への挑戦

こうした地道な現場改善こそが若手技術者や次世代リーダーの成長にもつながります。

まとめ:生産現場から製造業を変革する力

電着塗装後の気泡発生問題は、単なる現場の“見逃し”や“検査ミス”ではなく、静電分布設計とエア抜き技術への深い理解と実践力が根本解決のカギを握っています。

本記事で紹介した現場目線の改善ノウハウと最新技術の積極活用により、中堅・中小企業や協力工場でも世界に通用する品質管理体制を築くことができます。

製品調達に関わるバイヤー、サプライヤー、現場の皆さんが、それぞれの立場で「なぜ不良が起きているのか?」「サイエンスと現場知見をどう融合できるか?」を常に問い、現場から製造業変革のエンジンとなることを期待します。

そして、今こそ“昭和の現場”から生まれ変わる新たな工場ネットワークを構築し、これからの日本製造業をけん引していきましょう。

You cannot copy content of this page