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設計審査のファクトベース化で感覚論の過剰品質を排除

目次
はじめに:製造業に根強く残る「感覚論」とそのリスク
日本の製造業、とりわけ長年の慣習が根強く残る昭和式の現場では、「経験と勘」に依存した意思決定が今なお多く行われています。
設計審査の現場でも、「念のため」「バッファを持たせて」「先輩がそうしてきたから」といった感覚論が、しばしば仕様の厳しさや検査基準の過剰設定につながっています。
こうした過剰品質は、コスト高騰や納期遅延、無駄な品質保証活動など、多くの経営課題を引き起こします。
しかし、デジタル化やグローバル競争が進む現代において、感覚論に頼る設計審査は大きなリスクとなります。
この記事では、設計審査を「ファクトベース(事実に基づく)」へと転換する意義と具体的な手法について、20年以上製造現場に携わってきた経験値から実践的に解説します。
設計審査(DR)の現場で今、何が起きているのか
根拠なき「とりあえず規格を厳しく」の実態
多くの設計現場では、失敗やクレームへの『再発防止』として、設計仕様や検査基準をどんどん厳しくしています。
「このぐらい余裕を持たせておかないと、またトラブルになるかもしれない」といった声が聞かれます。
しかし、これらの多くは『根拠のある設計FMEA』『過去の信頼性データ』『工場の能力実績』といった客観的なファクトを基礎にしていない場合がほとんどです。
そればかりか、要求事項や図面に「ただし書き」や備考がどんどん増え、バイヤーやサプライヤー現場を困らせています。
結果として生じる「過剰品質経済」の問題
このような設計審査の感覚論は、次のような負の連鎖を生みます。
– 必要以上の性能・精度要求から部品コストが上昇
– 品質検査基準の過度な厳格化による検査コストとNG廃棄
– 現場やサプライヤーが設計要求に追従できず、納期遅延やコスト増大
– 顧客には伝わらない「こだわり」の自己満足
– 真の顧客価値とは異なる基準での設計・製造
工場全体や調達サプライヤーの視点から見ても、非合理的な設計審査基準は生産性を大きく下げます。
なぜ設計審査を「ファクトベース」で行う必要があるのか?
グローバル競争と製品価値の最適化
いま製造業は、グローバル競争の荒波に揉まれています。
「日本品質神話」だけでは顧客に選ばれない時代となりました。
大手自動車メーカーや電機メーカーの調達部門(バイヤー)は、「感覚で厳しくする」設計基準には厳しくNoを突きつけてきます。
海外サプライヤーとのコスト・納期競争に勝つためには、ファクトに基づく最適品質・最適コストでの設計審査が不可欠です。
工場やサプライヤー現場のモチベーション向上
意味のない過剰検査や再現不可能な品質基準は、工場やサプライヤー現場のやる気・生産性を大きく削ぎます。
「なぜこの要求があるのか」「この検査項目は顧客価値につながるのか」など、現場の疑問や反発につながる原因です。
根拠に基づいた明確な設計審査基準を構築すれば、現場にも納得感が生まれ、バリューチェーン全体のパフォーマンスが向上します。
感覚論を排除し、設計審査をファクトベース化する具体的ステップ
1. 設計DR(デザインレビュー)に「事実のテーブル」を持ち込む
設計審査会議では「これくらいの安全係数で」「昔こうだったから」ではなく、実際の根拠・事例・数値をベースに議論しましょう。
たとえば、
– その強度や精度は、過去何件・何年間のトラブル実績に基づくものか?
– 工場能力(CPK値やヒストグラム)に照らして、量産性にどのぐらい幅があるのか?
– 顧客品質クレーム統計から、本当に求められている品質水準はどこか?
– サプライヤー現場にとって、実現可能・復元性の高い設計・検査基準か?
全てに「なぜ?」「本当に必要か?」という“なぜなぜ分析”を実施することが重要です。
2. ビッグデータやIoTで「見える化」する
製造ラインや品質検査装置には、今や膨大な生産・品質データが集積しています。
これをIoT、MES、BIツールなどで分析し、統計的な事実を設計審査へフィードバックします。
例えば、
– 過去10万ロットの生産データから、どの精度・どの耐久性でトラブルゼロか
– IoTで常時監視すれば検査工数や全数検査基準をどこまで省略できるか
– 故障モード解析(FMEA, FTA)にAI診断を加え、ヒューマンバイアスを排除
現場データをリアルタイムかつ可視化することで、「事実に基づく最適品質」が実現します。
3. 顧客価値/トレーサビリティの徹底(VOA、VOC分析)
設計や品質基準を『本当の顧客価値(Value of Application)』や『顧客の声(Voice of Customer)』と突き合わせて棚卸しします。
– 顧客クレームやフィードバック事例から「必要十分な品質」を定義する
– 逸脱要因を「なぜなぜ」「どこで誰が」のトレースでもれなく特定する
– 合理的に減らせる検査・検証項目は徹底的に省略
バイヤーやサプライヤー現場とも連携し、現実的で再現性の高い審査基準へアップデートします。
昭和アナログ現場に強く根付く「暗黙知」との向き合い方
暗黙知の活用と、形式知化のバランスがカギ
ファクトベース化を進める一方、現場には「長年の勘」や「熟練ノウハウ」という暗黙知が多く眠っています。
これを否定的に扱うのではなく、「ナレッジマネジメント」の視点で形式知化しましょう。
– ベテランの感覚的な判断ポイントをヒアリング、QCサークル、標準化会議で文字化
– 作業映像やIoTログにベテランのコメントを組み合わせてデータ化
– ナレッジDBや社内SNS、チームレビューで継承とアップデートを図る
感覚論が「経験値に基づく知見」であれば、きちんとデータ化し、若手にも共有することで競争力の源泉となります。
バイヤー・サプライヤーの視点で「本当の品質」を再定義する
バイヤー視点:求めるのは「適正品質」
部品メーカーや下請け企業から見ると、「大手メーカーは仕様変更を受け入れてくれない」「無理難題な品質管理を押し付けられる」と感じがちです。
しかしバイヤーは「過剰品質」ではなく、「必要十分な品質・コスト・納期の最適点」を求めています。
設計審査の場で、ファクトベースの根拠を提示することで、双方にメリットのある落としどころを築く——これが理想のパートナーシップです。
サプライヤー視点:リスク説明とデータ提出で対等な関係構築を
「これ以上品質上げろ、と言われても…」と無力感に支配されていませんか。
自社の工程キャパシティや現場実績、故障率などのデータをしっかり提示し、「この範囲まではファクトに基づき保証できる」「これ以上は仕様変更/コストに跳ね返るので要議論」と交渉テーブルに着きましょう。
バイヤーもサプライヤーも、“自分都合”から“共通のファクト”に基づく協議にシフトすることが、持続的なパートナー関係の礎となります。
まとめ:ファクトベース設計審査がもたらす未来
感覚論から脱却し、設計審査をファクトベース化することは、製造業の競争力を大きく引き上げるカギです。
– 現場やサプライヤー、バイヤーの全てが納得する「最適品質・最適コスト」
– 過剰品質や無意味な検査負荷からの解放
– 顧客価値に寄与する設計・製品の提供
– 暗黙知の形式知化による技術伝承と新たなイノベーション創出
昭和のアナログ依存から抜け出し、全社一丸で「事実に基づく合理的判断・最適解」を築く。
これこそが『製造現場の新しい地平線』であり、現代の日本ものづくりが世界で選ばれるための必須条件なのです。
皆さんの現場、ぜひ一歩ずつファクトベース設計審査へ進化させていきましょう。
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