投稿日:2025年6月18日

EMC対策設計と放射妨害波の制御およびトラブル対策

はじめに:アナログ業界に根付くEMC問題

製造現場や設計現場において、EMC(Electromagnetic Compatibility/電磁両立性)の問題は昔から深く根付いています。

とくに昭和から続くアナログ志向のものづくり現場では、ノウハウや現場勘に頼った対策が中心となり、体系的な知見の共有が遅れがちです。

しかし今日の製造業は、グローバルな競争やサプライチェーンの高度化、IoTや自動化の波によってEMC対策が経営レベルの課題になっています。

本記事では、長年の現場経験から得た知見と最新の業界動向を織り交ぜながら、EMC対策設計と放射妨害波の制御およびトラブル対策について、実践的に解説します。

バイヤーを目指す方、サプライヤーの立場でバイヤー目線を知りたい方も必見です。

EMCとは何か?業界が直面する現実

EMC(電磁両立性)とは、電子機器が周囲の電磁環境に悪影響を与えず、また自機自身も外部からの電磁的な影響を受けずに所定の性能を発揮できる能力を指します。

製造業では以下の2つからEMC問題が発生します。

放射妨害波(EMI:電磁妨害)

製品が発する不要な電磁波が、近隣機器やシステムに悪影響を与えることです。

工場内の設備、基板から発せられるEMIは、通信機器や制御系など幅広い分野で問題となります。

イミュニティ(EMS:電磁感受性)

製品自身が外部からの電磁ノイズに弱く、誤動作などを引き起こすことです。

設計現場や製造ラインでは、誤動作や品質不良の原因の多くがこのEMSに起因しています。

アナログ業界の「昭和的な盲点」

EMC対策は「やっているつもり」になりがちな分野です。

現場で重宝されるベテランが長年の勘と経験で対策してきた反面、体系化がされず、「なぜこの部品が必要なのか」「本質的に解決しているのか」がブラックボックス化しがちです。

近年では海外顧客との取引拡大やIoT化による電子部品の高密度化など、EMC問題が従来以上に表面化。

求められる対策も「現場勘」だけでは通用しない時代となっています。

EMC対策設計の基本:現場目線から紐解く

どれだけ自動化やスマート化が進んでも、現場での本質的なEMC対策は「標準化された設計」と「実測による検証」に尽きます。

その基本をおさらいします。

1. 回路設計段階のノイズ対策

回路図の段階からノイズ経路を意識します。

具体的には、信号線と電源ラインの分離、オープンコレクタ出力の吸い上げ抵抗の設置、複数GNDを1点で繋ぐ(シングルポイントグラウンド)など基礎を徹底します。

また、クロック周波数やスイッチング周波数などノイズの発生源となるポイントの明確化が重要です。

IoT時代では基板密度が上がり、思わぬクロストークによるEMI増加も散見されます。

2. 部品・レイアウト設計の工夫

部品配置、配線の引き回し、シールドの配置は物理現場の「勘」と「経験」がものをいいます。

高感度回路とパワーラインを十分距離を取る、アース面積を大きく取りグランドレベルを維持する、必要に応じてコモンモードチョークやフェライトビーズを使用するなど、昔からの鉄則も今なお有効です。

3次元CADによる筐体設計も活用し、ノイズパスの可視化も行います。

3. アース(接地)の最適化

多くの現場合理化・自動化プロジェクトでも電子機器のトラブル要因は「アース不良」または「誤結線」です。

地絡ループの排除、不要な接地ポイントの整理、高周波用・低周波用で接地方式を分ける。

古い現場ほど、昔の配線がそのまま流用されているケースがあり、定期的な点検・見直しが必須です。

妨害波(放射ノイズ)の制御の具体的手法

放射ノイズを効果的に低減するには、多角的な視点が大切です。

筐体シールドとガスケットの最適配置

金属筐体やシールドルームは古典的ですが非常に有効です。

ただし、扉や接合部からノイズが漏れやすいため、ガスケットの材質や取付精度も重要なポイントとなります。

スマートファクトリーの進展で、多種多様な材料や複合素材を使う設計が増えているため、締結部での接触抵抗低減にも配慮します。

ケーブルマネジメントとオプティカルアイソレーション

ノイズ発生源からの距離と直角交差、ツイストペアケーブルやシールドケーブルの使用、不要な配線の間引きなど「ケーブルマネジメント」がトラブル未然防止の鍵です。

また、重要な信号伝送については光アイソレーション(フォトカプラ等)を使うことで、根本的にノイズ侵入を遮断できます。

実験室レベルでのEMC評価と現場検証

近年は、伝説的な現場の「金槌で叩いて調子を見る」方法から、スペアナ(スペクトラムアナライザ)や近傍界プローブを使った可視化評価に進化しつつあります。

設計段階で数値検証とシミュレーション、現場での再現検証の両輪が欠かせません。

ライン量産前には、必ず社内外のEMC試験(CISPR、VCCI等)を通じて、不合格リスクを最小化します。

現場目線で語る「よくあるトラブル」と実践的対策

昭和から続く工場やサプライヤーの現場では、「あるある」なトラブルとその場しのぎの対処が繰り返されがちです。

ここでは、典型的な事例と深堀りした実践解決法を紹介します。

事例1:生産移管後の想定外ノイズ増加

生産ラインの海外移管や設備入れ替えで「なぜかノイズが増えた」というトラブルがよく起こります。

これは配線ルート違い、アース方式の差異、現地部品のグレード差などが主な原因です。

事前に部品・工法のサンプル統一を徹底し、移管現場での再評価、仮設配線の極力抑制をルール化することで回避できます。

事例2:突然の外部装置誤動作

工場の設備増設や改修時に、突然通信機器やPCがフリーズするケースが発生します。

高周波機器と制御系が隣接設置されたことで、ノイズが信号線に乗り移ることが原因です。

防止のためには、設計基準段階でのゾーニング(エリア分け)、機器間十分な距離確保、既設と新設間の共用配線縮小等が有効です。

事例3:認証試験段階での不合格、バイヤーからの返品

海外バイヤーや大手サプライヤーとのビジネスでは、EMC認証試験のNG品による返品や契約破棄のケースも出てきます。

これを防ぐには、設計段階から「認証基準とのギャップ確認」「規格変更の早期察知」が大切です。

開発・品質・現場が垣根を越え、規格要件をPDCA化し、形式だけでなく実使用環境下でのテストを行いましょう。

バイヤー・サプライヤーが知るべきEMC動向と業界の未来

グローバル取引やIoT化で、サプライヤー側もEMCを「バイヤー目線」で考える能力が問われています。

ローカル最適からグローバル最適へ

従来の「国内法令適合」だけでなく、欧州(CE)・北米(FCC)・中国(CCC)などグローバル規格への多軸最適化が必要です。

バイヤー目線では「製品仕様書のEMC項目」や「現場レベルでの再現性」が重視され、「本当の意味での安全・安心」を提供できるサプライヤーが評価されます。

スマートファクトリー時代のEMC課題

産業用ロボットや無線センサーネットワークの普及、AI搭載した設備の連携見直しで、これまで無視されていた新種のノイズ源が出現しています。

EMC対策もデジタル技術と融合し、AIによるノイズシミュレーションや、IoT機器同士の自己診断と予防アラート化が進むでしょう。

まとめ:昭和の知恵×最先端の両立がカギ

EMC対策設計や妨害波制御は、古くからある課題でありながら、スマートファクトリー化やグローバル化の中で今なお進化を続けています。

昭和の現場で根付いた失敗談や知恵は、最新規格との融合によって新たな価値を生みます。

現場で汗を流した経験を体系化し、次世代のモノづくり現場に伝えていくことこそが、製造業の発展に欠かせません。

バイヤー、サプライヤー、エンジニア、それぞれの視点で「本質的なEMC対策」とは何かを追求していきましょう。

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