投稿日:2025年8月13日

緊急時の二次ソース立ち上げガイドで価格高騰を未然に防ぐ

はじめに:製造業が直面する調達リスクと価格高騰の現実

製造業の調達担当者であれば、一度は経験したことがあるであろう「一次サプライヤーからの供給途絶」や「突然の価格高騰」。
これらは実際に、工場の生産ライン停止や数千万単位の損失を引き起こす大きなリスクです。

多くの製造業は、「昭和」的な商慣習や既存の取引先脈に依存しており、困ってから初めて足りないものや遅れが露呈する現実があります。
「いざとなればなんとかなる」では済まない現代のサプライチェーン。
そこで重要になるのが“二次(セカンダリ)ソース”の立ち上げです。

この記事では、調達現場で20年以上蓄積したノウハウとともに、価格高騰・サプライチェーン寸断リスクを未然に防ぐための二次ソース構築術について、現場視点で徹底的に解説します。

一次サプライヤー依存のリスクを再認識する

なぜ一次サプライヤーだけに頼りがちなのか

日本の製造業は「長い付き合い」「系列」「ものづくり文化」という強みを持つ一方、どうしても特定サプライヤーへの依存傾向が強まります。

・長年の信頼関係
・仕様や製造ノウハウの共有
・既存の品質保証・監査体制

これらが「一者依存」に拍車をかける構造です。
しかし世界的な災害、原材料高騰、工場火災、国際摩擦など「非連続的な変化」が増える今、一次サプライヤーのみに頼る運用は極めて危険と言えます。

事例に学ぶ:一次ソース断絶で何が起きたか

実際、2011年の東日本大震災や近年の半導体供給不足では、巨大メーカーの生産ラインがストップし、社会的にも大きなニュースとなりました。

下記は筆者が実際に経験したケースです。

・メイン材料メーカーが火災により一ヶ月出荷停止
・世界的な原料高騰で、買い負けが発生し納期2ヶ月遅延
・中国からの部品供給がロックダウンで滞る

このようなとき、価格は一気に高騰し、代替先を“今から探す”のでは間に合いません。
また「とりあえず確保できればOK」と品質や納期を妥協し、長い目でみてダメージを受けることも少なくありません。

そもそも二次ソースとは何か?

二次ソース(セカンダリソース)の定義

二次ソースとは、一次サプライヤー以外の“本稼働可能な調達先”を指します。
ただの見積もり先や候補リストとは異なり、

・実際に品質や納期評価を済ませている
・前もって契約や価格合意の確認ができている
・緊急時も実稼働できる物流・伝票・与信枠を整えている

といった、「すぐに使える状態」にある点がポイントです。

二次ソースが持つ3つのメリット

1. 供給リスクのヘッジ(BCP:事業継続計画)
2. 価格交渉力の強化(相見積もりでの価格競争促進)
3. 工場・生産工程の安定(納期・品質の平準化)

このように、“備え”があることで初めて、リーダーシップある調達・購買が実現できます。

価格高騰を未然に防ぐ! 二次ソース立ち上げのロードマップ

1. 二次ソース構築の「5つのステップ」

1. 基準となる一次サプライヤー製品・サービスを棚卸し
2. 市場調査&候補リストアップ(新規サプライヤー開拓)
3. 技術評価・工場監査・品質監査による絞り込み
4. 契約・見積もり条件協議、サンプルやトライ生産テスト
5. 緊急時の切替フロー策定(社内手順・発注マニュアル化)

単なるカタログ請求・資料取り寄せだけでなく、現物サンプルや現場視察、システム連携まで落とし込むことで、やっと「本物の」二次ソースとなります。

2. 二次ソース探しで陥りがちな落とし穴

・“つい安いだけ”で焦って選定
・品質評価を省略する
・社内システム上の発注準備を怠る
・最初のサンプルOKで慢心し、追加評価しない

実は、最後の「社内発注システムの登録漏れ」や「物流伝票ルート・与信枠」の確認ミスなど、現場でよくある失敗こそが肝です。
地味ですが、“しつこく”詰めることが全社利益につながります。

3. コストアップ抑制のための戦略的な仕組み化

・二次ソースにも継続した受注機会を与え、一定量を発注する
・年1回以上、技術連絡会・品質会議に参加してもらう
・相見積を定期的に取り、市場価格にキャッチアップする体制

単なる「緊急時の保険」ではなく、意図的に二次ソースも活用し「価格バランス」が乱れないよう工夫するとよいでしょう。

バイヤー視点:調達現場力を最大化する着眼点

“目利き”バイヤーに必要なラテラルシンキング

二次ソース構築で問われるのは、「目先の価格」や「既存ルート」だけに囚われない視野です。
こんな視点を持つことで、一歩先の調達戦略を描くことができます。

・“異業種からの仕入れ”はできないか?
・“海外サプライヤー直取引”でオプション拡大
・撤退メーカーの余剰品や中古設備の活用
・地場の中小サプライヤーの隠れた技術発掘

常に自社の「どうしても守りたい工程」や「コア部材」を俯瞰し、どこにリスクが集中しているかマップ化する癖をつけましょう。

デジタル化を味方にする:アナログ現場こそ“見える化”

いまだにファックス注文や手書き台帳が残る工場現場ですが、二次ソースの管理や臨時発注は“デジタル化”が強力な武器となります。

・在庫量、納期、価格履歴などをクラウドで共有
・二次ソースへの発注・納品フローも標準化してマニュアル化
・過去トラブル事例・交渉履歴をナレッジ化

二次ソースを「ただ作るだけ」で終わらず、現場情報と連動させることで、“第二戦力”が生きたものとなります。

サプライヤー視点:バイヤーが何を気にしているか?

緊急時に頼りになるサプライヤーとは

バイヤーは、単に「安い」「早い」だけでなく、次の関心を持っています。

・大量生産に耐えうる生産キャパシティ
・仕様変更やイレギュラーな要求への柔軟性
・過去の納品トラブル時の対応力

「うちは今はサブ扱いだから…」という姿勢ではなく、企業体制や品質保証体制のアップデート、そして“小回りの利く提案力”が緊急時に本命となるポイントです。

バイヤーとの信頼構築のためにできること

・定期的な報告や“開発情報”の提供
・品質監査・工場視察への積極対応
・コストダウン策・QCD(品質・コスト・納期)の改善提案

また、従来の「やり取り止まり」だけでなく、デジタルツールを活用した納期・在庫情報交換、自社開発の進捗共有などが新しい「選ばれるサプライヤー像」です。

まとめ:レガシー業界をアップデートする二次ソース思考

かつては「一社専属」「長期安定調達」が製造業の鉄則でした。
しかし、グローバル化や災害・市況変動が頻発する現代では、二次ソースを本気で構築することこそ競争力を守るカギです。

「緊急時の保険」ではなく、「コスト最適化とBCPの両立」「サプライチェーン全体のレジリエンス強化」という攻めの視点で取り組んでください。

この記事のノウハウが、あなたの現場、そしてこれから製造業のバイヤーを目指す方々、またはサプライヤーとして選ばれる存在を目指す方々にとって、新しい突破口になれば幸いです。

時代の変化に敏感に、かつ昭和的な“現場力”も大切に。
私たちと共に、より強いものづくり現場を築いていきましょう。

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