投稿日:2025年7月11日

WinWinを実現する英語交渉戦略とフェーズ別フレーズ活用術

はじめに:製造業における英語交渉の重要性

日本の製造業はグローバル展開が当たり前となりました。
今やアジアやヨーロッパ、北米などさまざまな国との取引が日常的です。
調達購買部門や生産管理、サプライヤーとの折衝現場に立つ人にとって、「英語交渉力」は必須スキルの一つです。
英語でのやり取りが増える一方、昭和から続く日本独特の“内向き文化”やアナログ的な進め方も根強く残っています。
このギャップを埋め、取引先ともWin-Winな関係を築くために、それぞれのフェーズで使える実践的な英語フレーズと交渉戦略をまとめました。

なぜ日本の製造業で英語交渉がカギとなるのか

グローバル調達とサプライチェーンの多様化

原材料調達・部品供給・生産委託など、サプライチェーンは急速に国際化しています。
日本語だけで通じた時代は終わり、英語なしでは、品質問題や納期遅延を未然に防ぐことも、価格交渉で有利に進めることも難しくなっています。

自社だけでなく相手企業・サプライヤーの立場も考える必要性

調達バイヤーの仕事は、「安く買うこと」だけではありません。
サプライヤーにも継続的な利益がなければ質の高い供給は維持できません。
英語交渉を通じ、両社にメリットがある着地点で合意形成をする必要があります。

昭和的な根回し文化からの脱却と透明性の確保

かつての日本流の“空気を読む”交渉スタイル。
しかしグローバルビジネスでは「透明性」と「明文化」がより重視されます。
明確な合意文言を、英語で互いに理解しあうことが不可欠です。

英語で交渉を進めるときに意識すべき3つのポイント

1. 論理的かつオープンなコミュニケーション

結論や要求は明確に伝えること。
「暗黙の了解」に頼らず、背景や根拠もロジカルに説明します。

2. 相手の立場へのリスペクトと共感

一方的に要求を押し付けず、相手の困難や事情もヒアリングし理解を示します。
これがWinWin交渉の出発点です。

3. 誤解を生まない言葉の選択と確認

曖昧な表現や、イエス・ノーが伝わりにくい日本語的な婉曲表現は控えます。
最終合意事項は念入りに“再確認”して証跡を残しましょう。

実践!フェーズ別・英語交渉フレーズ活用術

交渉の流れは大きく「事前準備」「オープニング(開始)」「提案・要望提示」「調整・妥協案の創出」「クロージング(合意)」の5フェーズに分けられます。
それぞれの段階で、現場で役立つフレーズと戦略を紹介します。

フェーズ1:事前準備 – 戦略とポジションの明確化

英語交渉では、自己の立場整理が何より重要です。
何を優先し、どこまで妥協できるか。
自分のBATNA(Best Alternative To a Negotiated Agreement=代替案)も頭に入れておきます。

– Our primary goal for this negotiation is to secure a reliable supply chain while maintaining quality and cost-efficiency.
(今回の交渉の主な目標は、品質とコスト効率を保ちつつ、信頼できるサプライチェーンを確保することです。)

– We believe that building a long-term partnership is crucial for both sides.
(長期的なパートナーシップ構築が双方にとって重要だと考えています。)

– Please let us know in advance if there are any constraints on your side.
(御社側のご事情や制約があれば事前にご共有ください。)

フェーズ2:オープニング – 共通のゴールを強調する

まずは“WinWinのゴール”を再確認し、信頼関係構築に注力しましょう。
自己紹介や感謝を一言添えると交渉の雰囲気が和らぎます。

– Thank you very much for joining this meeting. We appreciate your time.
(本日はご出席いただきありがとうございます。お時間に感謝いたします。)

– We are looking forward to working together to create value for both companies.
(両社にとって価値ある協業を目指してご一緒できることを楽しみにしています。)

– Let’s start by confirming our mutual objectives for this discussion.
(本日の議論の共通目標をまず確認しましょう。)

フェーズ3:提案・要望提示 – 明確な要求と根拠を示す

要求や修正点は、感情的ではなく論理的に説明します。
業界動向や過去の実績、第三者データなどで裏付けすると説得力が増します。

– We would like to request a price reduction of 5% due to changes in market conditions.
(市場動向の変化により、5%の値下げを御願いしたいと思います。)

– According to our analysis, the current defect rate exceeds acceptable quality standards.
(我々の分析によれば、現状の不良率は許容品質基準を超えています。)

– Based on the production schedule, timely delivery is critical for our operation continuity.
(生産スケジュール上、納期遵守は我々の事業継続に不可欠です。)

フェーズ4:調整・妥協案の創出 – 柔軟性と合意形成

相手事情も尊重しつつ、自社の妥協点を探っていきます。
双方の利益に寄与する“WinWin案”が見いだせれば理想的です。

– We understand your position and would like to propose an alternative solution.
(御社のご事情も理解していますので、代替案を提案させていただきます。)

– Is there any flexibility in delivery lead time on your side?
(御社側で納期リードタイムに柔軟性はありますか?)

– If we can commit to a larger volume, would you consider a better pricing condition?
(発注数量を増やすことで、より良い価格条件のご提案は可能でしょうか?)

フェーズ5:クロージング – 最終合意と明文化

合意内容を明確にドキュメント化することで後々のトラブルを防止します。
“念押しの確認”も忘れずに。

– To recap, we have agreed on the following terms.
(念のため、合意内容を再確認します。)

– We look forward to receiving your draft contract reflecting today’s agreement.
(本日の合意内容を反映したドラフト契約書をお待ちしております。)

– Thank you for your cooperation. Let’s continue to build our partnership.
(ご協力に感謝します。今後もパートナーシップを築いてまいりましょう。)

現場目線で考える、日本人が陥りやすい英語交渉の落とし穴

曖昧な返答・形だけの“Yes”による誤解

“曖昧なYes”や、「できれば」などの遠回し表現は海外パートナーに伝わりません。
NOのときは理由と併せてはっきり断る。
また、未確認事項は“Let me get back to you after checking internally.”(社内確認後に連絡します)など、きちんと持ち帰る姿勢も誠実さの証です。

根回し文化・合意なき進行

交渉プロセスそのものが「書面で明文化される」ことを前提に進めるのがグローバルスタンダードです。
トップダウンの合意や口約束は誤解やトラブルの原因となります。

感情的な反発・断定的な主張

強いノーや価格の押し付けではなく、必ず根拠・理由を併せて提案する。
「私たちのためだけにこれをしてほしい」という姿勢はWin-Winを実現しません。

最新動向:デジタル化とAI翻訳、ただし“現場力”は不滅

AI同時翻訳やチャットツール、オンライン会議の普及で英語のハードルは下がりつつあります。
ただし、「自社の業界用語、独自事情への適用力」や「現場独自の肌感覚」はツールでは補えません。
人間同士の信頼感、真摯な意思疎通こそが、今後も製造業の調達交渉の本質として大切にされ続けるでしょう。

まとめ:英語交渉は“現場の知恵”+“覚悟”+“戦略”で勝ち抜く

WinWinの英語交渉は、単なる「英語表現」の暗記ではなく、相手と率直に向き合う覚悟、全体最適視点、そして現場で感じた違和感や課題を論理的に伝える力が求められます。
交渉フレーズの“型”は便利ですが、そこに「あなた自身の経験値」や「自社ならではの知恵」を掛け合わせて臨むことが、現場目線の“本当に強い”バイヤー・サプライヤーの姿です。
昭和的な伝統も活かしつつ、ラテラルシンキングで新しい交渉地平線を切り拓きましょう。

製造業の現場で働くすべてのみなさんに、グローバル時代の英語交渉力が大きな武器となることを願っています。

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