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購買と設計の共通語彙集を整備し仕様誤解の高コストループを断つ

目次
はじめに:設計・購買間の誤解がもたらす深刻なコスト問題
製造業の現場では、設計部門と購買部門の間で交わされる仕様の解釈違いが大きな問題となっています。
特に昭和から続くアナログな慣習が根強く残る日本の製造業では、共通語彙の不在が小さな“すれ違い”を生み、それが手戻りや追加費用、納期遅延などの高コストな悪循環につながりやすいです。
本記事では、20年以上現場で問題と向き合った経験をもとに、設計と購買、それぞれの立場を理解しながら「共通語彙集」整備の重要性や、実際の現場で活用する方法について深掘りします。
設計と購買、業務観点のすれ違いが発生する理由
組織ごとに異なる価値観と優先順位
設計と購買は、目標や評価指標が根本から違います。
設計は“最適な性能・品質をいかに実現するか”に全神経を注いでいます。
一方、購買は“コスト・納期・安定調達”に重きを置きます。
このため、設計図面の『推奨部材』や『許容差』表現の曖昧さが、そのまま調達判断の曖昧さに直結しがちです。
結果的に、「設計意図が伝わっていない」「それを理解せず別のものを手配した」といった“仕様誤解”が頻発します。
用語や単位に潜む“暗黙の了解”のワナ
例えば、「仕上げ面粗度」や「材質記号」、あるいは「納入形態」などにおいて、同じ言葉を使っていても実務での解釈が設計部門と購買・サプライヤー側で異なるケースが後を絶たちません。
それぞれが業界標準や自社ローカルの『暗黙知』で物事を判断してしまうため、納入後の「こんなはずではなかった」「図面通り作ったのにクレームが来た」といった問題が生まれます。
仕様誤解が生み出す高コストループの実態
コストインパクトは見えにくいが甚大
仕様誤解による再手配や再加工、納期遅延のコストは決して小さくありません。
例えば部品単価1000円の部品でも、図面の解釈違いや認識ミスによってやり直しになれば、運送費、再発注の工数、時間的ロス、最悪の場合は生産ライン停止につながる事案もあります。
加えて「再発防止検討会」の開催、「関係先への説明・交渉」など本来不要な間接コストが多発します。
現場現実と“品質パトロール”的な動きの限界
こうした誤解・ミスを都度指摘修正するだけの“品質パトロール”では根本解決にならないことを現場で痛感しました。
品質保証部門が「図面通りか?」を毎度細かく確認しても、担当者が代わるたびに同じ誤解が繰り返される事例が多いのです。
属人的対応には限界があるため、上述した“共通語彙の設計”が不可欠だと考えます。
現場に必要な「設計・購買共通語彙集」整備とは
共通語彙集=“全社共通の仕様書き言語”をつくる意義
共通語彙集とは、その名の通り「設計部門・購買部門・サプライヤー、その誰もが同じ意味・解釈で活用できる業務用語集=仕様辞書」です。
全社で共通認識を取り、曖昧さを排除した“言葉(記号/略語/数値の許容/作業手順)”を文書化・共有することで、手戻りやミスの温床を遮断できます。
よくある“語彙集”の具体例
– 表面仕上げ:Ra1.6、バフ#400などの解釈定義
– 材質名・規格:SUS304(JIS G4305)=海外規格対応含め明記
– 図面記号:特殊ネジ部や塗装範囲の範囲記載ルール
– 検査方法:サンプル抜き取り条件や合否の基準
– 納入形態:バラ納入、ケース詰めの違いの明文化
– 品名/部品番号の命名規則
これらの内容を、「設計⇔購買⇔品質⇔サプライヤー」全員が使い回せる“ルールブック”とすることが重要です。
データベース化と使い方の工夫
単なる一覧表や紙媒体の語彙集ではすぐに更新が滞り陳腐化しがちです。
そこで筆者は、社内ネットワークを利用したWebデータベース化と検索機能の拡張を推奨します。
例えば「この記号はどう読むのか」「この仕様を書き換えたい」という問い合わせをFAQ化し、語彙の追加・更新を随時可能とする運用が望ましいです。
導入効果:仕様誤解なき調達の未来
ミス・手戻りコストの劇的削減
共通語彙集導入以前には、ミス発覚まで最短でも2~3日、社内調整や再発注でさらに10日以上ロスする事例が少なくありませんでした。
共通語彙集により誤解が激減すれば、「即時回答」「ミス撲滅」→トータルコスト大幅減につながります。
属人的対応から“組織知へ”昇華する
熟練者の暗黙知や個人の判断に依存しなくても、新任担当者がすぐ戦力化でき、引継ぎ・教育負担が激減します。
また、設計思考のベテランと若手購買担当者、サプライヤーとの水平連携が飛躍的に強化されます。
サプライヤー・社外協力先との信頼関係醸成
要求仕様が明確であることは、サプライヤー側の“納入仕様理解難”や“余計な仕様追加コスト”発生の抑止にもなります。
これにより納入品質・納期の安定化だけでなく、コスト競争力自体の強化にも寄与します。
導入ステップと現場での実践ノウハウ
現場巻き込み型ワーキングチーム設置
語彙集の項目設計には、設計・購買・製造・サプライヤー実務者を必ず巻き込むのが肝要です。
各部門代表によるワーキングチームを組織し、現場で「この用語が曖昧すぎる」「いつも誤解が発生する」部分を出し合い、優先順位を決めましょう。
段階的展開が成功の鍵
最初から全仕様を網羅しようとせず、多発ミス領域・高コスト事象に焦点を絞り、パイロットライン(主力工程限定)で展開しましょう。
効果測定後、フィードバックを反映したうえで全社・グローバル拠点に展開していきます。
教育・OJTシステムとの連携
語彙集を単なる「ファイル」とせず、実務教育、OJTツール、eラーニング教材として必ず活用することで定着促進が強まります。
品質月間・購買部勉強会等で積極的にケーススタディを行いましょう。
未来志向:デジタル化と共通語彙の次なる地平
AI・自動化技術との連動
近年は設計図面から自動で部品発注、進捗管理を行うシステム構築が進みつつあります。
これらの精度を高めるうえでも、暗黙知だった仕様・解釈を“機械が判読できる共通語彙”に整理する流れはますます不可欠になっていきます。
組織横断・サプライチェーン全体の標準化へ
製造業のバイヤー志望者や、サプライヤーの現場担当者には、この「共通語彙整備」が現場力強化・商談失敗減少の未来技術だと知っていただきたいです。
単なる社内管理工程の効率化にとどまらず、川上から川下までのサプライチェーン価値最大化に直結するのです。
まとめ:現場目線の言葉こそが、製造業の突破口となる
設計・購買間の共通語彙整備は、単なる“現場の便利ツール”ではありません。
昭和から続くアナログな壁、業界固有の慣習から一歩抜け出し、「仕様誤解」という名の高コストループを断ち切る経営改革の起点です。
大量生産から多品種・変量生産へ、デジタル対応力が問われる時代。
現場の知恵から生まれる共通語彙の整備は、全ての製造業従事者―設計、購買、バイヤー、サプライヤー―にとって、今この瞬間も進化し続ける強力な武器となるでしょう。
ぜひ、明日から小さくとも始めてみてください。現場の言葉が、ものづくりの未来を変えます。
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