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スタートアップの意思決定スピードを活かす大企業側の体制作り

目次
はじめに:製造業におけるスピードの重要性
日本の製造業は長い歴史の中で、綿密な計画と緻密なプロセスを強みとしてきました。
しかし、今やグローバル化やデジタル化、社会のニーズ変化が加速度的に進行する中、伝統的なスタイルだけでは生き残りが難しい時代となっています。
そんな中、注目されているのがベンチャーやスタートアップの持つ「意思決定のスピード」です。
スタートアップの機動力とスピードを大企業でどう活かすか。
これは今、多くの製造業で課題とされているテーマです。
私自身、20年以上現場で培った経験を通じ、スタートアップとの協業やアライアンス推進をやってきた立場から、その体制作りのポイントを現場目線で伝えます。
スタートアップの意思決定スピードとは何か
スタートアップ企業と大企業の最大の違いは「組織のしなやかさ」と「実行までのスピード」です。
特に、スタートアップは
– 小規模なため意思決定権が経営層に集中し、指示が即座に現場へ伝わる
– トライ&エラーの繰り返しを良しとする文化
– プロジェクト単位でフラットに人が動く
といった特徴があります。
一方、大企業は
– 階層的な組織構造
– 根回しや事前調整、稟議などのプロセスが多い
– “失敗しない”ことを最優先
こうした文化が根強く、事業推進のスピード感がどうしても落ちてしまいがちです。
なぜ今、大企業でもスピードが必要なのか
昭和から続く「熟考・承認重視」の社風は、確かに失敗リスクを減らせます。
ですが、今は顧客のニーズも、サプライチェーンも「数ヶ月ごと」に大きく状況が変わります。
調達購買の現場で言えば、半導体・電子部品の突発的な供給ショック、原材料価格の乱高下など、想定外の事態が次々発生しています。
生産計画・SCMでは、変化に対応したリスケや新たな協力先の素早い開拓が求められます。
この“変化対応力=スピード”は、大企業でも避けて通れないサバイバルのカギです。
スタートアップ的なスピードが求められる局面
スタートアップの意思決定スピードを生かせる局面は数多くあります。
例えば…
新製品・新事業開発
グローバル競争が激化する市場で、先んじて“新しい価値”を訴求するには、情報収集〜試作〜立ち上げまでを最速で回さなければなりません。
スタートアップでは「即断即決→修正→また実行」の繰り返しで最適解を最短距離で見つけていきます。
調達・購買
部品供給のひっ迫、サプライヤーの廃業リスクや自然災害など、有事対応が日常化しています。
代替先選定や新規サプライヤー探索、臨時発注対応など、多くの判断が“数日”で求められるシーンが増えています。
生産管理・ライン改革
不良率の低減や自動化、IoT化推進でも、問題発見→対策→評価→再実装のPDCAを高速化し続けなければ国際競争に負けてしまいます。
大企業でスピードを出すための体制作りのポイント
では、実際に大企業の組織で“スタートアップのスピード”を生み出すには、何が必要でしょうか?
1.意思決定プロセスの可視化・簡素化
多くの大企業で頻繁に見られるのが、「どこで意思決定しているのか分かりにくい」「決裁ルートが不透明」といった問題です。
まずは既存の稟議フローや承認権限を徹底的に棚卸しし、「現場判断で決めていいこと」と「経営判断がいること」を整理しましょう。
現場に“任せる範囲”を決めた上で、周知・教育を徹底することが重要です。
2.小規模・分散型(アジャイル)プロジェクト推進
従来型の“大人数・縦割り”のやり方ではスピードが出ません。
「新製品開発」「新規調達先開拓」などでは、部門横断で少人数のチームを作り、その場で方向性を素早く決めて実行できる組織体を構築します。
いわば社内スタートアップ、あるいは“選抜特命チーム”のイメージです。
3.現場間・部門間の壁を取っ払う仕掛け作り
大企業でスピードが出ない大きな障害は、“部門エゴ”および情報の縦割りです。
「ここは営業の仕事」「調達は購買が判断」などのセクショナリズムを廃し、プロジェクト型で全体最適の判断をできるコミュニケーションを設計しましょう。
具体的には、定期的なクロスファンクショナル会議、情報共有ツールの導入・活用(Slack, Teamsなど)、現場主導のタスクフォース設立などが挙げられます。
4.経営層のトップダウン型コミットメント
結局、現場がどれだけ頑張っても“組織全体として早く動く”には経営トップの本気度が問われます。
リスクを取る・失敗を許容する・現場の判断を信じて任せる―
トップが自ら旗を振り、「ガード下げていいよ」と発信することが現場の背中を押します。
実践現場での具体的対策例
私が関わった大手製造業の事例を交え、具体的施策を紹介します。
サプライヤー連携の加速
従来は新規サプライヤー選定に半年〜1年以上かかっていたプロセスを、選抜プロジェクトとして短縮しました。
– 必要な案件のみ稟議審査の簡略化
– トライアル発注の金額上限を100万円まで現場判断で即決できる仕組み化
– サプライヤー監査の一次評価を購買・品質管理の混成チームでスピーディに実施
これにより、突発的な部材リスクにも柔軟に対応できました。
DX推進による生産管理改革
データを手作業で回していた部門に、現場主導で簡易なダッシュボードを導入。
「現場で考え・現場で作る」「初めから完成品を目指さず、少しずつ改善する」スタートアップ流のアプローチが現場内に根付き、今では“当たり前の改善文化”となっています。
新製品立ち上げ時のアジャイル開発
新製品の立ち上げで関係部門が多くなると、情報伝達の遅滞や責任の所在が曖昧になりがちです。
そこで開発・調達・品質・生産管理が一斉に集まり、朝会・夕会を徹底。
「その場で決め、その場で動く」「部門を越えて議論し、役職に関わらず意見を出し合う」カルチャーによって、リードタイムを半減できた実績があります。
アナログな文化を持つ現場へのアプローチ
昭和的な手法や意識が根強く残る大手工場では、「スピード化」と言っても簡単に変えることはできません。
まずは“成功体験”を小さく積み重ねることが重要です。
手作業中心の現場こそ、「一つの改善でどれだけ変わるか」を実際に目の前で見せ、「やってみる文化」を醸成することが肝要です。
また、失敗事例の共有もプラスに活かす視点が必要です。
失敗自体が“許される”環境を作り、その検証からさらに良い仕組みを生み出すような対話の場を設けましょう。
バイヤー・サプライヤー双方の視点で考えるスピードの価値
調達購買のバイヤーにとって、業界動向や材料市況の変化を察知し、社内外で迅速な意思決定をすることは重要性を増しています。
バイヤー志望者は、自分の判断力をいかに組織の中で生かし、突破していけるかがカギとなります。
一方サプライヤー側も、変化に応じて素早く顧客にアプローチや提案ができるかで“選ばれる側”になれます。
バイヤーの求めるスピードと柔軟さを理解し、自社の体制もスピーディなものへ進化させていくことが、中長期の関係強化につながります。
まとめ:製造業の未来は「スピード×信頼性」が握る
多くの日本の製造業現場は、“最適化・無駄の削減・高い品質”という伝統的な強みは引き続き重要です。
そこに“スタートアップ流のスピード感”を組み合わせることで、ますます変化が激しくなる世界で勝ち残る力を養えます。
現場の知恵と機動力、経営層の意思決定力、サプライヤーやバイヤーの協働力―
それぞれが一体となり、「決断し、即座に動ける体制」を作り上げることこそ、業界全体の進化につながるのです。
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