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信用調査を怠った場合に発生する代金回収リスクの実例

目次
はじめに:信用調査の重要性とは
製造業において「信用調査」は、購買活動や取引先選定の根本とも言えるプロセスです。
特に調達や購買部門、バイヤーは、サプライヤーと長期的に安定した取引関係を築くことが求められています。
しかし、昭和から続くアナログな慣習や「長年の付き合いだから大丈夫」といった思い込みにより、信用調査が形式的になっていたり、怠られていたりする現場も珍しくありません。
今回は、信用調査を怠った場合に発生する「代金回収リスク」の実際の現場事例を交えながら、現代の製造業における現実的なリスクと、その根底にある業界動向、さらに今求められる対策について解説します。
信用調査を怠る現場の実情とその背景
属人的な判断・慣習に頼るリスク
多くの製造業現場では、与信調査や取引先の健康診断は「経理や総務がやってくれている」と思い込んでいることが少なくありません。
また、ベテラン担当者の「昔からの付き合い」「知っている企業だから大丈夫」という属人的な判断が優先され、新規サプライヤーや下請け先の選定基準が曖昧になりがちです。
実際、私自身も管理職時代、「あの工場長が言うなら大丈夫」という雰囲気だけで新たな取引を開始し、後々大きな痛手を負ったことがあります。
このようなアナログな体質は、未だに多くの製造業に根強く残っています。
現場の忙しさゆえの優先順位の低下
製造業界は納期・コスト・品質が最重視されるため、日々の現場業務に忙殺されて「与信調査や定期的な見直し」は習慣化されていないケースが大半です。
特に、中小・下請けの現場では、「信用調査は時間とコストがかかる割にリターンが見えにくい」と認識され、後回しにされがちです。
「信用調査=事務作業」と軽視されやすい
信用調査は、営業や現場部門にとって「事務的・受動的な作業」として受け取られがちで、積極的な経営戦略の一部として捉える企業はまだ少数派です。
しかし現実には、信用調査を怠ることが企業経営に大きなダメージを与える場面が後を絶たないのです。
信用調査を怠ったことで発生した代金回収リスクの実例
実例1:突発倒産による代金未回収 製造業A社のケース
某大手部品メーカーA社では、包材供給業者B社と長年取り引きがあり、十分な信用があるとみなしていました。
しかし景気の後退期、B社は他社への過剰投資や人件費増大の影響で、ひそかに資金繰りが悪化。
A社は、数千万円単位で包材の納品を受け入れたものの、B社から何の前触れもなく「民事再生法申請」が通告され、倒産。
A社は、納品済みで未払いだった1,500万円分の包材費を回収できませんでした。
このときA社には、B社の直近の決算内容・支払い遅延など、警戒すべきサインが事前に届いていましたが、「長年の付き合い」にあぐらをかき、信用調査を棚上げしていたのです。
実例2:系列企業と言えど油断は禁物 BtoB商取引C社の事例
C社は大手の自動車部品メーカーで、系列のグループ会社を含め複数サプライヤーと安定的な取引を行っていました。
系列グループとはいえ、中には業績が急激に悪化している企業もありました。
ある中堅サプライヤーD社は、表向きは順調を装っていましたが、実は大型案件での赤字や与信枠超過で資金が底をつきかけていたのです。
C社は「系列会社だから大丈夫」の思い込みで与信枠の見直しを怠り、最終的にD社が取引停止、その後債務整理に陥り、C社には1,000万円超の売掛金が焦げ付きました。
信用調査を定期的に行い、警告サインに早期対応できていれば、被害は最小限で済んだと後から検証されています。
実例3:リスキーな新規参入先 E社のサプライヤーミス
E社はIT化遅れの地方の機械加工メーカーで、人手不足および生産能力の維持が課題となっていました。
新規開拓のため急ぎ仕事を出せる先を見つける必要があり、地方の新興業者F社に発注。
F社は企業規模が小さく、公式情報・与信資料もほとんどなく、不明点だらけでした。
にもかかわらず、見積依頼・受注・納品・請求までを即断で進めてしまい、約700万円分の製品を納品済みにしました。
しかしその翌月、F社の資金繰りが実は火の車で、従業員への未払い給与問題も発覚。
最終的にF社は法的整理に突入し、E社の売掛債権は全て回収不能になりました。
「信用調査に数日でもかけていれば…」と担当者が悔いた典型事例です。
昭和的アナログ業界の根強い慣習とその弊害
「取引履歴があるから大丈夫」の思い込み
2024年現在でも、下請け多層構造や長期取引を重んじる製造業界では「昔からの付き合い」を最重視する傾向が強いです。
一方で、日本国内でも2020年代以降、突発的な倒産や事業再生、M&Aなど中小を中心とした業界構造の急変が起きています。
インボイス関連改正や働き方改革で資金繰り・キャッシュフローにも大きな影響が及ぶ中、今まで通用した感覚・直感は通用しなくなっています。
「人脈」や「よしみ」がリスク要因になり得る
後継者不足や世代交代の波もあり、人脈頼み・義理人情重視の判断が、実は大きな未回収リスクにつながっています。
サプライヤー側からみれば、不明瞭な取引先審査や形式だけの信用調査を利用して、実態を隠すことも可能となる現状です。
IT化・情報収集の遅れが、事態をさらに悪化
電子帳簿やクラウド化が叫ばれる一方、未だFAXや紙伝票中心で「情報が共有されていない」企業は多く、新規サプライヤーの信用情報も十分につかめていません。
経理部門と現場部門・購買部門の連携も十分でない場合、せっかく信用リスクシグナルが出ていても現場が気づかず、回収不能に陥るリスクが増大しています。
バイヤーが知るべき、信用調査のポイントと最新動向
与信枠の設定と見直し
新規取引開始時はもちろん、既存取引先でも年1回の定期見直しと与信枠の再評価が鉄則です。
ひとつの案件で取引が拡大した場合は、都度再調査・検討を行う体制が求められます。
日々の支払い状況や世間の評判把握
請求書の支払い遅延、取引銀行の変更、代表者変更、ニュース記事での悪評など、”ちょっとした変化”も見逃さない仕組みづくりが重要です。
自社だけの調査ではなく、取引先同士の情報交換、業界ネットワークからの噂も重要なヒントになります。
利用できる外部サービス
帝国データバンクや東京商工リサーチ、与信管理サービス(与信ナビなど)が提供する調査レポートを活用することで、短期間かつ低コストで「現状の信用リスク」を把握できます。
最近は、サプライヤーのSDGsやESG評価、反社チェックなども含め一元的に管理するサービスも増えてきています。
契約条件の工夫によるリスク低減
支払条件(前金・分割・納品後払いなど)の再調整、担保設定や保証人取り付けといった契約面の工夫も、リスクコントロールの実践例です。
取引開始時点でブラックリストチェックや業界団体へのヒアリングも有効です。
サプライヤーの立場で知っておきたいバイヤー目線
サプライヤーから見ると、バイヤーの信用調査や与信審査の目的・基準がブラックボックスになりがちです。
しかし、バイヤーが信用調査を厳格に行う背景には、以下のような事情があります。
- 納期や品質トラブルの発生確率が、資金繰り悪化で急上昇する
- 社内の監査・コンプライアンス強化で、与信未回収は大きな減点・責任問題となる
- 近年のサプライチェーン高度化で、1社の倒産が全体に多大な波及をもたらす
サプライヤー側も、「なぜ厳格な信用調査=自分たちのためでもある」と認識し、常日頃から情報開示や企業努力をアピールすることが、長期安定取引への近道となります。
まとめ:アナログ業界こそリスク管理を見直す時代
信用調査は、”万全で当たり前”だからこそ、つい形式化・形骸化しがちです。
しかし、一度回収不能案件を経験すれば、その損失やリスクは計り知れません。
昭和型の属人的・アナログ体質を改めるには、現場実態や危険事例をよく理解し、「自分ごと」として定期的な見直し・チェック体制を構築することが第一歩です。
また、バイヤー・サプライヤー双方で「信頼を数字で可視化し、情報をオープンにする」時代への変化が求められています。
信用調査を経営戦略の一部と捉え、未回収リスクゼロを目指した地道な積み重ねこそが、製造業全体の発展と健全なサプライチェーンの維持に直結していきます。
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