受発注システムを導入して属人化から脱却した中小製造業の改善例

はじめに：中小製造業を悩ませる属人化の壁

製造業の現場では、長年にわたる慣習や個々人のスキルに頼った業務がまだ色濃く残っています。
特に中小企業では、ベテラン担当者が持つ「暗黙知」や、手書きやエクセルによる管理が当たり前。
「この業務は〇〇さんしかできない」「受注や購買の流れが人に依存している」といった、俗に言う“属人化”が至る所に存在します。

実際の現場で問合せやミスが発生すると、担当者不在時に仕事が止まり、残業や休日出勤、情報の行き違いによる納期遅延などのリスクが高まることは珍しくありません。
また、引き継ぎがうまくいかずに新任担当者が苦労した、という話もよく耳にします。
この“昭和のやり方”から脱却し、着実かつ持続的な成長を続けていくためには、業務の標準化・効率化が喫緊の課題です。

本記事では、実際に受発注システムを導入し、属人化の壁を乗り越えた中小製造業の改善例を、現場目線で掘り下げて紹介します。

受発注システム導入のきっかけ：属人化が生んだ非効率との決別

ベテラン依存が招く“情報のブラックボックス化”

ある鉄鋼部品メーカーでは、取引先100社超を相手に、見積・受注・発注・納品・請求までを一人の購買担当者が管理していました。
「A商事さんはFAXが必須」「B工業さんの単価は価格表にない特別ルール」といった情報が頭の中やメモだけに蓄積され、本人しかよく分からない状態になっていました。
ベテラン社員が休暇や退職となれば、現場は混乱必至です。

アナログ業務の非効率とミス多発

現場の業務フローはほぼ手書き伝票とエクセル。
発注漏れやダブルブッキング、伝票記載ミスによる納期遅延など、ミスやトラブルが月に数件も起きていました。
現場作業員からは「いつどこからパーツが届くのか分からない」「伝票と実際の品物が違う」と不満も噴出。
このままでは事業継続さえ危うい、という危機感が会社を動かしました。

導入プロセス：現場目線で進めた受発注システム

システム化に向けた障壁と現実的な解決アプローチ

中小製造業でIT化を進めようとすると、最大の壁は「現場がシステムに拒否感を持つ」ことです。
「これまで何十年もこのやり方でやってきた」「入力が面倒になるだけ」と反発の声が必ず出てきます。

そこで、導入に当たっては現場メンバーを巻き込んだプロジェクトチームを編成し、「誰が・どのタイミングで・どんな情報を使っているか」を徹底的に棚卸し。
現場で本当に困っているポイント（例えば、手配ミスや情報の伝達遅れ）が明確になったことで、「オレたちの悩みを解決するものだ」という実感が醸成されました。

システム選定のポイント：最小限から始めてカスタマイズ発展

「社内のITリテラシーが低い」「導入コストも抑えたい」―― そんな状況でもスモールスタートのクラウド型受発注システム（例：freee受発注、MakeLeapsなど）を選択。
マニュアルが分かりやすく、既存のエクセルデータを使ってそのまま移行できる機能があることや、受注・発注・納品状況を誰でも一覧で見られる画面設計など、使いやすさを最重視しました。

将来的には生産管理や在庫管理システムとも連携可能なプラットフォームであることも重要視。
「今すぐ全部を変えるのではなく、徐々に範囲拡大できる」ことが現場の安心感・信頼感につながりました。

システム導入で実現した業務改善効果

属人化の解消：情報が組織の資産に

システムにはすべてのやり取り（受注日、発注先、単価、納期など）が記録され、「あの人しか知らない」情報は消え去りました。
誰が見ても「どこの、何を、いくつ手配したか」「納期や伝票状態」が一目で分かる。
例えば、担当者が急に休んでも状況が可視化されており、別のメンバーが即座にフォローできるようになります。
この“仕事の見える化”により、業務の引き継ぎや担当変更もスムーズになりました。

ミスや手戻りの大幅減少

手書き伝票時代に散見された「転記ミス」「伝票紛失」「注文書と納品物の不一致」といった人為的ミスが激減。
システム化によって、発注先・数量・単価などを一元管理でき、エラー時にはアラートや履歴が残ります。
実際に納期遅延や手配漏れが従来の1/5未満に減少した、という具体的な数値目標も達成できました。

現場作業の無駄削減と生産性向上

システム上で受発注・納品情報をリアルタイム共有できるため、現場での「どこに何がある？」「入荷はいつ？」という無駄な確認作業がなくなりました。
ピッキングリストや在庫状況も即座に出力できるため、棚卸や資材手配の効率も大幅アップ。
部品の追跡性も担保され、トレーサビリティ対応や新規取引先監査の場でも「すべて記録が残っています」と自信を持って答えられます。

取引先との関係強化と信頼アップ

受発注データをデジタルでやり取りすることで、納期回答や仕様確認が素早くなり、クレーム・誤出荷が減少。
決済や請求もスムーズになり、「あの会社は対応が早くて安心できる」と取引先からの信頼度アップにつながりました。

アナログ文化が根強い製造業での「人間力」の活かし方

現場目線での合意形成と“納得解”の追求

システムは“道具”であり、最終的には「現場の納得と自発的な運用」が鍵です。
チーム内で不安や疑問が出た際には一度立ち止まり、「なぜこのステップが必要か」「何のためのシステム化か」を丁寧に説明し、意見交換しながら、現場にあった最適解を粘り強く探しました。

例えば「手書き伝票は現場に紙コピーだけ残したい」という要望には、システムから簡易伝票出力機能を追加することで折り合いを付けました。
このような現場の声を吸い上げてカスタマイズする姿勢が、導入効果の最大化につながります。

“人”が変化を推進する中小企業ならではの強み

属人化からの脱却は「人の個性や技能を否定する」ことではありません。
システムによって“担当者しかできない”煩雑な業務を無くし、「本来の企画力や交渉力など人間ならではの付加価値」に時間を割ける。
特にリーダーやベテランの方々には、“現場のノウハウを全体最適へ紐解く役割”を担ってもらい、後進育成や業務改善のエンジンになってもらいました。