投稿日:2025年10月5日

経営層が納得しないのは資料のデザインが弱いからという事例

はじめに:なぜ経営層の納得を得られないのか?

製造業の現場では、調達購買担当者や生産管理担当者が、自分たちの意思決定や提案を経営層に通そうとするときに、多くの壁に直面します。
優れたコストダウン策や画期的な改善案が、経営層の承認を得られない――。
蓋を開けてみれば、その多くが「資料のデザインが弱い」ことに起因していることをご存じでしょうか。

特に昭和から続くアナログ体質が根強い製造業では、「中身が良ければ伝わるはず」という“精神論”が未だ主流となっています。
ですが、現場と経営層は、見ている景色も、求める情報も異なります。
思考のギャップ、情報粒度の違い、判断基準のミスマッチ――。
これらが絡み合うなかで、現場から提出された資料の“見せ方”が軽視されていると、いかに中身が優れていても、経営層の「Yes!」にたどり着けないのです。

この記事では、20年以上製造業で働き、バイヤー、工場長、調達戦略担当などあらゆる現場を経験した私が、実際の失敗事例や最新の業界動向も踏まえながら、「資料デザインの重要性」とその改善ポイントについて、実践的な視点で深掘りします。

製造業現場の“資料デザイン軽視”問題の正体

「資料は中身が命」は本当か?

多くの製造業現場で、「資料なんて、結局は中身。内容がしっかりしていればわかってもらえるさ」という声をよく耳にします。
確かに、ロジックやファクト(事実)の詰まった資料は大切です。
しかし、経営層には限られた時間内で多くの案件を判断しなければならない現実があります。
よく練られた提案内容であっても、資料デザインが整理されていなかったり、パッと見て重要ポイントが伝わらなかったりすれば、十分に理解してもらえません。

  1. 理解しにくい:情報が散在していて、要点がつかめない。
  2. 時間がかかる:結論までの道筋が長く、忙しい経営層には負担。
  3. 真剣さ・信頼感が伝わらない:アナログな資料や誤字脱字、色使いが雑だと「この程度のものか」と軽視される可能性がある。

このような“見せ方の失敗”で、せっかくの現場の熱意がすくい上げられない。
これは、製造業で長らく根強く残る「現場至上主義」や「紙文化」などが遠因となっているのです。

現場の思考:なぜ資料作成に時間をかけないのか

製造業の現場は、とにかく業務が多忙です。
日々の調達先交渉、品質トラブル対応、生産計画の調整、突発対応――。
そのため、「資料作りはパワーポイントにちょっとまとめて提出すればいい」と考えてしまう現場担当者が多いのも事実です。
また、「資料の見た目にこだわるのは、見せかけ重視だ」という考え方も一部に残っています。

しかし、経営層への提案は“ただ伝えるだけ”でなく“納得してもらう”ことが目的です。
限られた時間、限られた情報量の中で意思決定を迫られる立場であることを考慮すべきです。

経営層はここを見ている!プレゼン資料の評価ポイント

経営層と現場の「情報リテラシーの壁」

経営層は現場業務にどっぷり浸かっているわけではありません。
現場のリアルな課題や制約を100%体感できていないことも多く、「現場目線で当たり前だろう」と思う情報が伝わっていない場合も。
だからこそ、以下のような観点で「資料の見やすさ・紐解きやすさ」が重視されます。

  • 一目で全体像が把握できる構成:プレゼン資料の最初の数ページで要旨や背景、期待する効果が分かるか?
  • 論理の流れ・情報の整理度:データ・ファクト・示唆(so what)の三段構成がしっかりしているか?
  • グラフや図表の活用:定量情報(コスト、納期、品質KPIなど)や比較情報が視覚的に一発で伝わるか?
  • ビジュアル・色分けのセンス:資料を通して一貫したデザイン思想を持ち、重要箇所が分かりやすく強調されているか?

これらができていないと「伝達コストが高い」と見なされ、真意にたどり着く前に判断が下されてしまいます。

経営層提案でよくある“NG”資料事例

  1. タイトルや構成が曖昧で、「何を決めてほしいのか」が最後まで伝わらない
  2. 根拠データが表のみ・文章のみで、インパクトが弱い
  3. 色使いがバラバラで、重点箇所が見えにくい
  4. 用語の説明不足、略語や社内用語が多く、外部者視点で分かりづらい
  5. PDF化で文字つぶれ、ギリギリのレイアウトで視認性が悪い

こうした失敗は、実際に昭和型の企業文化ではまだまだ頻発しています。
若手のチャレンジャーがよい提案をしても、「経営層には分かりづらいから却下」となってしまうのは、非常にもったいないことです。

事例:デザインを改善しただけで提案が一発採用された話

バイヤー提案の“Before”と“After”

ある部品メーカーの調達担当者が、「新規サプライヤーの採用によるコストダウン」を経営層に提案した事例をご紹介します。
最初は、調達部門でいつも使用している“定型テンプレート”でA4数枚、文章中心の資料を提出。
調達コスト削減率や納期短縮効果、生産工程上のリスク低減など、ファクトはしっかり盛り込まれていました。

ところが
– どこが新しさなのか
– 経営層が特に気にするリスク対策の説明が一目で分からない
– ボリュームはあるが締めくくりが弱い

といった理由で「再検討」となってしまいました。

そこで、“デザイナー発想”を取り入れて資料を再構成。

  • 1枚目に「提案概要・決裁してほしい点」を大きく明記
  • 現状との比較グラフ(コスト/納期/品質KPI)を2枚目でビジュアル化
  • 新規サプライヤーの選定理由とリスク対策を、チェックリスト+色分けで明確化
  • データ・進捗ステータスを“信号色”で表示
  • エグゼクティブサマリーを最後に1枚付録

たったこれだけで、同じ内容の提案が一発で承認され、プロジェクトはスムーズに進みました。
経営層からのコメントも「結論が一目で分かる」「全体像とリスクが明快」と高評価。
結果、経営層と現場の距離が縮まるきっかけとなったのです。

製造業で資料デザインをアップデートするためのTips

現場起点でも実践しやすい3つの工夫

①全体構成を「PREP法」で組み直す
結論 → 理由 → 具体例 → 再結論、というシンプルな流れで情報を再整理。
これだけで「要するに何が言いたいか」が伝わりやすくなります。

②マイルストーンとKPI・コスト比較は必ず“図示”する
表やグラフを積極的に使い、経営層が重要視する「コスト・納期・品質」などの数値を一発で見せる意識を持ちましょう。

③一目で目立つ「最重要ページ」を作る
1枚目で「自分はどんな決裁を希望しているのか」「それにより会社にどんなメリットがあるのか」が伝わり、判断材料を集約したスライドや紙1ページを用意すると抜群の効果があります。

ツール導入のすゝめ

最近では、パワーポイントのテンプレートや図解作成ツール(Canva、Visioなど)が充実しています。
「忙しい現場で資料デザインにまで手が回らない」という悩みも、テンプレ活用や分かりやすいアイコンセットを使えばかなり軽減されます。

また、社内イントラやGoogle Workspace・Microsoft Teamsなどクラウド型のファイル共有で、「全社プレゼン事例集」を置き、よくできた資料テンプレをすぐ使えるようにすると、部門横断でバラツキがなくなり効率がアップします。

時代は“現場力×デザイン”の融合へ:アナログ志向からの脱却が成長の鍵

昭和型製造業の変革のヒント

資料デザインに手間をかけるのは「形だけ」と思われがちですが、今や経営層の属性も大きく変わってきています。
デジタルネイティブが増え、各部門横断的にロジカルかつ視覚的な意思決定が必要とされる時代です。

現場力(泥臭い実務・経験値)とデザイン力(可視化・論理整理・意思疎通力)がセットになることで、「現場発イノベーション」が本当の意味で認められ組織全体の生産性も向上します。

「デザイン思考」はバイヤーにもサプライヤーにも不可欠

調達購買で成功したい方、あるいはサプライヤーとしてバイヤーの懐に入り込みたい場合でも、「どう見せれば相手が判断しやすく、相談しやすいか」を徹底的に考えることが大切です。

最新の業界動向を見ても、単価・品質・納期だけでなく、「見せ方」「伝え方」を磨く営業・調達担当が成果を出しています。
逆に言えば、資料のデザイン改善はノーコストで即・組織改革につながる一番手軽なイノベーションなのです。

まとめ:現場の“熱意”を経営層の“決裁”に変えるために

製造業の現場で優れた提案が見過ごされる最大の理由は、内容そのものではなく「わかりやすく、伝わりやすく」整理された資料デザインの不備です。

現場で培った知識や経験を、経営層にしっかり届け、会社や業界全体を一歩前に進めるためにも「デザイン=伝達力の最適化」を意識した資料作成を習慣化しましょう。

最後に、私の経験則から一つ。
「現場が動けば会社が変わる。しかし、動かすには“経営層の目線”に立った伝え方が不可欠」です。
明日からできる小さな工夫――それが未来の大きな成果につながることを、ぜひご自身で体感してください。

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