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使用環境の想定が甘く実験データが無意味になる失敗談

目次
はじめに:現場を知る者だから語れる“想定外”の落とし穴
製造業に身を置く方なら、一度は「想定が甘かった」「現場とズレていた」と感じた経験があるのではないでしょうか。
特に調達購買や品質管理、生産管理の分野では、製品や部材の“使用環境”が現実と異なり、せっかく集めた実験データや評価が無意味に終わるケースが後を絶ちません。
今回は、工場の現場を長年見てきた立場から、なぜ「使用環境の想定」が誤るのか、どんな失敗が起きるのかを実体験やエピソードを交えつつ、失敗を避けるための具体策を解説します。
また、昭和のアナログ的発想が根強く残る業界動向や、“ラテラルシンキング”で新たな視点を得る重要性についても掘り下げます。
バイヤー・サプライヤー双方にとって有益な“現場目線のリアル”をお届けします。
なぜ「使用環境」を見誤るのか
製造業を支配する“机上の論理”の限界
部品や材料、装置などの調達段階や開発段階で必ず議論されるのが「どの環境で使われるか」という点です。
カタログスペックや社内規格、信頼性試験で「十分だ」と判断したにもかかわらず、現場で使い始めた瞬間にトラブルが噴出する。
これはなぜでしょうか。
現実には、現場での使われ方や“ちょっとした不注意”、作業者流のやりくりなど、紙の上だけでは分からない「想定外の条件」が無数に潜んでいるのです。
“お役所的”進行の罠
大手の製造業になるほど「標準化」「手順化」「承認フロー」の徹底により、一つひとつの判断が形式的になりやすい傾向があります。
たとえば、上層部から「海外工場にも適用できる共通仕様で」と指示が下った場合、日本国内の現場特有のホコリっぽさや温度変化、作業者個人の癖など“現場特有の現象”全てが無視されてしまうのです。
「あれ?ここのラインだけなぜかNG率が高い」「なぜか動作不良が止まらない…」といった事態に陥るのは珍しくありません。
「一発試験」の思考停止
「この実験でOKだったから大丈夫」という“一発試験”のまやかしも、想定外トラブルの温床です。
実機設置場所や現場作業の流れが省略されている評価計画では、現場でのストレスとなる要素(粉塵、振動、清掃薬品の飛散、床面への落下など)が全くカバーできません。
現場経験の浅い設計者や開発部門が理論上問題ないとGOサインを出し、現場で苦汁を舐める事例は非常に多いです。
使用環境を甘く見た“痛恨の失敗談”
事例1:防水コネクタの信頼性試験…まさかの「水滴症」
ある電気制御装置で、「防水仕様」と謳われるコネクタを海外製に切り替える調達購買プロジェクトがありました。
カタログや信頼性試験で「水の浸入なし」と確認できたため切り替えを決定。
しかし、現場での据付後に突然、不良率が急増したのです。
原因を調査すると、現場には温度差で発生した「結露」が水滴となり、コネクタ内部へじわじわと侵入していました。
環境試験時の「流水」「噴霧」では問題ありませんでしたが、結露による長期間の水滴付着という想定をしていなかったのです。
まさに「使い方・現場環境を読む力」の差が生んだ失敗でした。
事例2:熱可塑性樹脂製治具の「日焼け」と機能低下
品質向上のため、熱可塑性樹脂製の治具をラインに導入した例です。
「耐薬品性」「高耐久」を謳った仕様で試験し、合格基準をクリア。
しかし、夏場になると治具の一部が変色し、寸法も微妙に狂い始めたことが発覚しました。
実際のライン設置場所は南向きの窓際で、日射と高温の“想定外複合ストレス”に晒されていたのです。
カタログにも試験計画書にも「直射日光」や「連日高温」の記載はなく、机上検討の盲点が露呈しました。
事例3:海外納入品の油脂劣化問題
海外工場向けに納品された製品で、油脂(グリース)が想定以上の速さで劣化。
日本国内での試験では何ら問題ありませんでした。
後の調査で、現地作業員の手袋や現地油脂とのクロスコンタミが発生し、さらに現地特有の高温多湿が重なって早期劣化したことが分かりました。
現地環境をリアルに想定し、異文化・異習慣まで踏み込めていなかった典型的な失敗例です。
「昭和的思考」が残す影
“丸投げ文化”の弊害
今も製造業の数多くの現場には、上司から部下へ、購買からサプライヤーへ「とにかく同じモノを用意してくれ」という“丸投げ”が存在します。
「規格通り・カタログ通り」の基準値信仰は強く、細かな使われ方や現場で起こるノイズへ目が向けられません。
これは昭和時代に確立した大量生産・大量消費の「現場>管理」文化が形骸化したものと言えるでしょう。
現場と開発、調達・営業、サプライヤーの距離が遠いままでは、いつまで経っても「使用環境の想定ミス」は繰り返されます。
“実地検証”を軽視する風潮
書類主義、手順主義、検査工程の分業化が進むほど「実地で観て・感じて・咀嚼する」機会が減っています。
トラブルが発生しない限り現場に足を運ばない、現地現物での確認がおろそかになるケースが多いのも、アナログ文化の悪い名残です。
IT化や自動化が進む現在でも、人の動きや現場のリアルを知る姿勢は不可欠です。
バイヤー・サプライヤー双方が意識したい“リスク想定力”
バイヤー側の心得
購買担当や生産管理などバイヤーの立場では、「モノを買う」だけでは本当に価値は生まれません。
- 現場での使われ方、作業者の癖、環境ストレスまで想定し、発注先・サプライヤーに“使い方”を具体的に伝える。
- 現場のトライアルや実地検証をサプライヤーと一緒に実施し、「実際にどう違うか」を体感・共有する。
- 自社の現場特有の事情(温湿度変化、特殊な洗浄工程、搬送方法など)を、案件ごとに洗い出して明示する。
バイヤーこそ現場を知り、現場の“生きた知恵”を反映させるべき役割を担っているのです。
サプライヤー側のアプローチ
サプライヤーも「指定通り納品すればよい」と考えず、以下を徹底することで、高付加価値な提案型パートナーとして差別化できます。
- 実際の使用現場や作業条件を必ず事前ヒアリングし、潜在リスクや懸念点を顧客と共有する。
- 自社製品の「想定外使用」に対する注意喚起や、使用上のアドバイスを積極的に行う。
- 現場改善や不具合が起きた際には、現地現物での原因究明や改善提案まで責任を持って対応する。
「できる営業」「選ばれるサプライヤー」の共通点は、現場起点のコミュニケーションに長け、現場ニーズを的確に汲み取る点にあります。
ラテラルシンキングで新たな地平線を切り拓く
常識破りの“視点”を持てるか
多くの使用環境想定ミスは、「前年踏襲」「前例主義」「カタログ頼み」の縛りから生まれます。
これを打破するには「なぜこのやり方なのか?」「これ以外の要因は本当にないのか?」と、根本から見直す“ラテラルシンキング(水平思考)”が重要です。
たとえば、新しい部品・素材の採用時に
「現場に行って五感でどう感じるか」
「他業界の常識はどうか?海外の事例は?」
「作業者が10人いれば10通りの工夫・クセがあるのでは?」
「品質問題が出た場合、どんな場面が浮かぶか、危険予知を図解してみる」
こうした「枠を超えた多角的視点」が想定外リスクを最小化する最短ルートです。
本質を見極める“実践的ノウハウ”
現場観察とヒアリングこそ最大の武器
30分の会議よりも、5分の現場観察のほうが“問題の本質”を理解できる場面は非常に多いです。
生産現場や出荷エリア、納入先のラインを観察し、実際に現場作業者から「使い勝手は?どこで困った?」「勝手に工夫している部分は?」「異常時にどう対処している?」など事情を聴取しましょう。
小さなサインを見逃さず、早期発見・早期改善のPDCAサイクルに根気強く取り組むことが、想定外リスクを低減します。
多様な失敗体験こそ財産
現場での失敗体験やヒヤリ・ハット事例、微妙なNG品のデータ蓄積は、次の業務改善や技術提案の源泉です。
成功体験ばかりを重視するのではなく、「なぜダメだったのか?」「どんな環境が想定と違ったのか?」という課題を徹底的に深堀りする姿勢が大切です。
製造業は現場の”失敗”からしか集合知を築けません。
まとめ:現場へのリスペクトと進化する想像力を
実験データが無意味になる最大の原因は、“現場への理解不足”と“枠にはまった思考”です。
製造業におけるバイヤー、サプライヤー、設計開発者が共に、現場起点で使用環境を多角的に捉え直し、昭和的アナログ文化を進化させるためにラテラルシンキングを実践する。
その積み重ねこそが、生きた実験データと本物の品質・業務改善・コストメリットを実現する道です。
一人の現場経験者として、現場と管理部門、バイヤーとサプライヤーそれぞれへの“実践的提言”を胸に刻み、これからの製造業革新へ貢献していきましょう。
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