インフラ整備を後回しにしてシステムが安定稼働しなかった失敗談

インフラ整備の遅れがシステム安定稼働を阻んだ理由

生産現場のデジタル化や工場の自動化が急速に求められている昨今、製造業メーカーはさまざまな新しいITシステムを導入し、効率化や省人化を競っています。

しかし、どれほど優れた生産管理システム、調達購買システム、品質管理システムを導入したとしても「インフラ整備」が後回しにされていることで、本来得られるはずの恩恵がまるで活かせない…という場面が意外と多く存在します。

私自身も、現場責任者や工場長として、インフラ整備の優先順位を下げてしまい、後悔する経験を何度もしてきました。

この記事では、製造業で頻発する「インフラ整備後回し失敗談」をリアルな現場目線で解説しつつ、失敗から何を学ぶべきかを深堀します。

なぜインフラ整備が後回しになるのか

ROI重視で「見えにくい投資」扱いされやすい

多くの製造業では、ROI（投資対効果）が重視されます。

システムや機械そのものは、投資後すぐに「稼働」「生産量」「納期短縮」といった数値で効果が現れやすい。

一方、ネットワークや電源、サーバールーム整備などのITインフラへの投資は、目に見えるアウトプットがすぐに現れません。

そのため経営陣や現場の判断で「予算も限られているし、インフラは最低限で。システムを先行導入しよう」となりがちです。

現場の「なんとかなる」精神

日本の製造業では「現場でなんとかする」「今あるリソースで工夫する」という風土が長年根付いてきました。

これは素晴らしい強みでもありますが、ことインフラとなるとなかなか通用しません。

「細い回線で何とか凌ぐ」「サーバー容量もとりあえず古いPCを転用しよう」「配線は仮設であとから本格的にやれば大丈夫」といった即席な対応では、規模が大きくなるほどトラブルへとつながりやすくなります。

アナログ文化によるデジタル軽視

昭和から続くアナログ文化が根強い工場では、インフラ整備自体が「なんだかよく分からない」「目に見えないからイメージしにくい」と軽視されがちです。

「FAX独立回線の方が安心」「PCは最小限でいい」「設備の現物さえあればOK」といった考えが、インフラの重要性を後退させている一因です。

現場で起きたインフラ軽視による失敗談

導入直後からシステムレスポンスが遅い

ある年、全社的に生産管理システムを導入。

各工程でデータを打ち込み、トレーサビリティを徹底し、進捗共有や在庫管理もリアルタイム化…そんな青写真を描いて意気揚々と運用を開始しました。

しかし、実際にはシステムへのアクセス集中のたびに「ネットワークが重い」「画面が固まる」という声が現場から続出。

現場の担当者から「これでは生産速度が落ちる」「紙で運用した方が早い！」と厳しい指摘を受けてしまいました。

原因を探ると、工場棟のネットワークハブが共用の古い機種で帯域も細く、サーバーパソコン自体もスペック不足。

一気に大量データを処理・通信しきれず、システムは頻繁にダウンすることもしばしば。

結果、十分に活用されることもなく「使えないシステム」として烙印を押され、現場では運用を諦めた部署まで出てしまったのです。

クラウド化とセキュリティリスク

近年、製造現場のDX推進の流れで、クラウド利用が増えています。

ある現場で、業務システムを一部クラウド型へ移行しましたが、想定以上のトラフィックが発生。

しかもインフラ整備を怠り、ファイアウォールやルーターも旧来のまま。

頻繁な接続エラー、アクセス遅延に加え、セキュリティパッチも適用できておらずサイバー攻撃リスクが高まる事態に。

IT部門へ緊急対応を何度も依頼しましたが「インフラの抜本的な更新が必要」と突き返される始末でした。

現場の「使いたいシステム」への信頼は低下し、結果的にクラウド化は見送りとなりました。

設備トラブル時の「情報共有断絶」

製造現場では「設備からのデータ自動収集」を目指し、センサーデータやロット情報をネットワーク経由で一元管理する構想を進めていました。

ところが、現場棟のルータ故障が発生。

その週は生産工程の見える化やトラブル情報共有が完全にストップ。

「紙＋口頭」に逆戻りし、蓄積していたデータも途切れてしまいました。

一つのネットワーク機器の至極単純な障害でしたが、複数のシステムと人がそのインフラに依存していることを痛感した出来事でした。

インフラ整備の軽視と製造業の企業体質

本質的な原因は経営と現場の「温度差」

実はインフラ整備が軽視される根本には、経営層と現場の両方にある「温度差」が影響しています。

経営層は「システム投資＝生産効率UP」「他社との差別化」という効果ばかりに目が行き、仕組みを安定して支える土台、すなわちインフラには関心が薄くなりがちです。

一方で現場は「目に見えて不便」「すぐ作業が止まる」ことが起こって初めて、その重要性を痛感するパターンが多いように思います。

本来、インフラこそ「止まって困るもの」「空気のように使われていて当たり前のもの」です。

空気の有難みはなくなった時にわかるものですが、現場にはこのリスク感度が不足しています。

昭和型現場文化の「現物主義」と「ICT苦手意識」

未だに「手元に紙帳票が無いと不安」「システムを触るのが怖い」「ネットが遅いのは仕方ない」そんな現場の声が多く聞かれます。

こうした文化は、安定したインフラ投資への理解を妨げる一因となっています。

反面、システム稼働や品質情報のトレーサビリティが要求されても、現場では「なくても何とかなる」と錯覚してしまうのです。

どんなインフラ整備が本当に必要か

「現場視点の業務フロー」をまず整理

システム導入やデジタル化を進める場合、まず現場の業務フローを可視化し、「どのタイミングで、だれが、どの端末から、どんな情報を、どう扱うか」を明確にします。

この業務フローの流れごとに、通信帯域・サーバー性能・デバイスの台数・ネットワークの冗長性まで具体的に見積もる癖が重要です。

「3年先」を見据えたインフラ計画を立てる

トラフィックやアクセス数、システム稼働負荷は毎年増えていきます。

現時点でギリギリのインフラだと、即座に「安定稼働」の壁にぶつかります。

少なくとも3年先を見据えて「拡張できる余力」を持つ投資を最初から計画しましょう。

「現場が困らないインフラ」を合言葉に

「ネットが繋がらない」「システムが固まる」といったトラブルが生じると、現場はすぐにアナログ（手作業）に戻ってしまいます。

現場の運用を止めず、ストレスフリーに使い続けられるインフラの設計・導入が、上位システムや生産DX推進の前提条件だと認識しましょう。

現場目線で語るインフラ選定のポイント

ネットワーク冗長化（バックアップ回線は必須）

通信経路が一つだけでは、障害時のリスクが大きすぎます。

ルーターやスイッチの2重化、バックアップ用のネット回線準備、無線ネットワークの設計など、万一の「逃げ道」を必ず用意しましょう。

現場で管理しやすい物理インフラ設計

高価なIT設備よりも、日々現場スタッフが自ら目視点検・掃除できる機器配置や、ケーブル管理の工夫が結果的に障害予防につながります。

「ITの専門家じゃなくとも管理できる」インフラ設計を現場と一緒に考えることが大切です。

定期的レビュー、現場とのコミュニケーション

インフラは「導入したら終わり」ではありません。

トラフィックや負荷、現場での使いづらさの声をIT担当と現場が定期的にレビューし、逐次アップデートしていく「共創姿勢」が最終的な安定運用には欠かせません。

まとめ：インフラを“後回し”にしない製造現場の新しい常識へ

インフラ整備の後回しは、現場を不幸にします。

どれほど優れたシステムや機器を導入しても、根っこ（インフラ）が脆弱だと安定稼働は夢のまた夢です。

現場で工夫・努力をするのは大切ですが、それを活かすためにも「空気のように使えるインフラ整備」はDX時代の必須条件です。

今後製造現場で働く方、バイヤーやサプライヤーとして新たな立場になる方は、「インフラの有無＝現場運用・システム定着の成否を握る」ことを意識してください。

後回しにせず、今一度現場を支える基礎体力（インフラ）の整備に投資されることを、長年の現場経験を持つ者として心からおすすめします。