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*2025年5月31日現在のGoogle Analyticsのデータより

投稿日:2025年6月3日

技術ベンチマーキングの進め方と活用事例およびその実践演習

はじめに:製造業における技術ベンチマーキングとは

技術ベンチマーキングとは、他社や異業種の優れた技術、プロセス、システムを比較・分析し、自社の課題の発見や改善への糸口とする手法です。

いまだに昭和的な“現場主義”や“俺の経験論”が根強い製造業界ですが、変革の波は確実に訪れています。

令和の時代、グローバルサプライチェーンやデジタル技術の進化を受け、他社の強みをリアルタイムかつ客観的に学び、独自価値を生み出すベンチマーキングは必須の経営戦略となっています。

本記事では、20年以上の現場経験に基づいた技術ベンチマーキングの実践的な進め方や、実際の活用事例、そして現場の方々が明日からでも使える具体的な演習方法まで詳しく解説します。

バイヤーの方はもとより、これからバイヤーを目指す方、サプライヤーとして自社技術の磨き方を考える方にも有益な内容です。

なぜ今、技術ベンチマーキングが重要なのか

業界の常識を疑い、価値を再定義する時代

かつての日本の製造現場といえば、熟練工による匠の技や長年のカン・コツに依存し、外からの情報にはどこか閉鎖的な空気が漂っていました。

しかし、海外勢の台頭や顧客ニーズの多様化、デジタル化の遅れが明るみになるにつれ、「自前主義」や「ガラパゴス化」では生き残れない現実が突き付けられています。

現場第一線の立場としても、「うちはこの方法で成功してきたから」「昔からこれでやってきた」といった論理は通用しなくなっています。

他社や異業種の革新事例を積極的に調査・分析し、自社独自の強みに融合するベンチマーキングこそが、組織の成長を加速させるのです。

グローバルサプライチェーンと調達購買の高度化

バイヤーや調達担当者の立場では、世界中のサプライヤーを比較検討し、最適な技術やコスト、リスク管理を追求することが求められます。

単なるコスト比較ではなく、工程能力、品質安定性、環境対応力といった付加価値を評価し、自社にとってベストな選択となる――そのためにもベンチマーキングの“目”が不可欠です。

サプライヤー側も、バイヤーがどんな目線で自社を評価しているのかを知るために、ベンチマーキングの視点を持つことが重要です。

技術ベンチマーキングの基本的な進め方

1.目的設定とベンチマーキング先の選定

まず最初に、「何のために調査・比較するのか」「どんなテーマ・技術分野に焦点を絞るのか」を明確にします。

たとえば
– 生産効率の向上
– 不良率の低減
– 自働化・省人化
– 原価低減
– ESG・カーボンニュートラルへの対応
など、現場や組織の目標に直結したテーマを絞り込むことで、具体的な行動計画につながります。

そのうえで、同業他社だけでなく、異業種や海外事例、顧客やサプライヤーの現場にも視野を広げ、比較対象となる先を幅広く選定します。

2.データ収集と可視化

ベンチマーキングの本質は、定量的・客観的なデータをもとに比較分析することにあります。

製造現場でありがちなのは、「あの会社はすごいらしい」「うちは負けてない」といった感覚や噂レベルの判断です。

ここは一歩踏み込み、各種工程データ(スループット、不良率、設備稼働率、生産リードタイムなど)を数値化し、可視化することが肝要です。

また、生産方式(例:セル生産ライン、コンベア方式、JIT)の違い、ICT/IoT活用状況、作業標準化率なども指標として活用できます。

自社工場の「見える化」の仕組みが未整備なら、まずは手作業・観察記録からでもスタートしましょう。

3.ギャップ分析と要因探索

データが集まったら、自社とベンチマーキング先の比較を行い、「どこに、どれだけの差があるのか」を明確にします。

仮に不良率なら「A社は不良率0.02%、自社は0.08%」といった具合です。

次に、「差の要因は何か?」というWHY分析に進みます。

– 標準作業の徹底度
– 設備の老朽化/最新化
– 検査自動化の進度
– 現場の改善活動頻度
など、現場をよく知るからこそ見抜ける“深堀り”がポイントです。

4.改善施策の立案・実践

ギャップの要因が見えたら、解決につながる施策を立案します。

このとき注意すべきなのは、単なる「優れた部分のコピー」に終わらせないことです。

現場には、社風や従業員のスキル、設備規模、受注の特性など、ベンチマーキング先とは異なる現実が存在します。

自社の“らしさ”と現実的な制約を踏まえ、部分的な導入や自社流のアレンジを加えて実施計画を練るのが成功のカギとなります。

現場発・技術ベンチマーキングの活用事例

事例1: 生産ラインの自動化ノウハウを異業種から導入

ある中堅完成品メーカーでは、長年サブアッセンブリ工程を手作業に頼ってきました。

しかし新興アジア企業とのコスト競争に危機感を覚え、全く異業種の食品工場で導入されていた「多関節ロボットによるパーツ供給自動化」をベンチマーキング対象としました。

ノウハウ習得・ヒアリングを重ねた結果、各種部品の供給パターンを徹底的に標準化、設備メーカーと協業して自社向けにロボットシステムを開発。

半年間の試行運転を経て、人的ミス削減・段取り時間半減など具体的成果を上げたのです。

事例2: 品質管理手法をグローバル企業から転用

自動車部品メーカーH社では、シリーズ製品の工程能力差から不良が頻発していました。

その原因は、ラインごとの管理手法や品質基準・データ記録方式がバラバラだったためです。

そこで、多品種少ロット生産で世界一品質のIT企業の品質管理マニュアルを徹底研究。

従来のアナログ帳票をタブレット入力とオンライン共有に変更し、社内標準化とリアルタイムフィードバックを定着させました。

結果として不良率3割削減。現場の“紙文化”からの脱却に成功しました。

事例3: バイヤーの選定基準をベンチマーキングで刷新

購買部門で重要なのは、コストだけでなくサプライヤーの技術力・開発力をどう評価するかです。

ある大手メーカーでは、バイヤー育成のため、欧米企業の調達プロセスをベンチマーキング。

– 価格以外の評価指標(工程改善提案数、トラブル発生時の対応速度、開発プロジェクト参加実績)を明示化
– 半期ごとにサプライヤーレビューミーティングを標準化
– サプライヤー自身にも「なぜ落選したのか」「どう評価されているか」をフィードバック

これにより、競争力あるサプライヤーがより成長し、業界全体の技術力向上につながったのです。

技術ベンチマーキングの実践演習【現場で使えるステップ】

ここでは、工場現場や調達部門の方が“自走”できる実践的なベンチマーキング演習例を紹介します。

ステップ1. テーマ設定~仮説構築のワークショップ

関係部門・現場リーダーを集め、以下のワークを行います。

1. 今期最重要課題を明確化(例:ラインの生産性20%アップ)
2. 「達成している会社」を3社想定し、できれば具体名も挙げる
3. 各社の強みや自社との違いを出来る範囲で列挙し、原因仮説を立てる
4. 「なぜそれが実現できるのか」WHY分析を3回以上繰り返し、一次情報や裏付けが必要な項目を洗い出す

このプロセスで、「何を調査すべきか」「どんな比較指標を設けるか」が見えてきます。

ステップ2. 自社・ベンチマーキング先の現場ヒアリング/観察

最近ではリモート工場見学や動画共有が増えてきており、現場に足を運べなくとも一定の情報が収集可能です。

– 現場写真や動画分析
– 作業標準書やチェックリストの比較
– 担当者インタビュー

これらを通して、“現場のリアル”を数値とエピソードの両面から掘り下げます。

ステップ3. マッピングとギャップ要因の議論

ExcelやBIツールなどで指標項目ごとに自社とベンチマーキング先の数値を可視化します。

– 棒グラフ、レーダーチャート
– タイムライン型のフロー図

ギャップの大きいポイントに絞って、改善余地や自社での障壁を議論します。

例えば「段取り替え時間」が2倍かかっている場合、要因を「作業者のスキル差」「治具の設計」「標準化有無」と分解して考えます。

ステップ4. 改善アイデアの具体化と実践計画

改善アイデアの実現性や効果、コスト・人員などのリソースを現場担当者・管理者と検討。

– まずは“ミニパイロット”で一部工程に導入
– 検証結果を随時共有し、段階的に全社展開

この一連のPDCAを回すことで、机上の空論で終わらず、現実的かつ働きやすい改革が実現できます。

ベンチマーキング活動を定着させるカギ:組織文化とデジタル化

せっかく始めたベンチマーキングも、単発のイベントや形式的な視察、レポート作成止まりでは意味がありません。

継続的な風土とするには
– データが蓄積しやすいデジタル基盤の整備
– 社外・社内の“良いところ取り”を評価する文化
– 成果を全員が実感できるコミュニケーション
– 若手~現場社員を巻き込んだ業務改善提案制度
の4つが不可欠です。

特に最近のIoTやAI活用は、生産データの即時分析や他工場とのリアルタイム比較を飛躍的に簡単にしています。

“ベンチマーキング=先進企業だけの手法”という思い込みを捨て、どんな規模や業種の現場でも「今できること」から始めていくことが肝要です。

まとめ:技術ベンチマーキングで現場を進化させる

昭和の常識から令和の現場へ――。
技術ベンチマーキングは、単なる他社の模倣ではなく、自社の未来を自分たちの手で切り拓くための強力な武器です。

それは経営層や企画部門だけでなく、現場社員一人ひとりが持つ“ラテラルシンキング”の延長線上にあります。

「なぜあの会社はあんなにうまくいっているのか?」「自分の現場も、もっと良くできるのでは?」という素朴な問いを出発点に、今日からベンチマーキングを始めてみてはいかがでしょうか。

現場目線のしなやかな発想×科学的アプローチが、日本のものづくり、調達、バイヤー・サプライヤー関係の新たな成長を切り拓くと、私は確信しています。

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