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経営層への説明が数字中心で未来像が描けない失敗

目次
はじめに:数字だけでは動かない経営層
製造業において、現場からの改善提案や新規投資の意思決定は、しばしば「数字」の力に頼っています。
ROI(投資対効果)、コスト削減額、生産性向上率などの定量データが説明資料を埋め尽くします。
しかし、数字が正しいからといって必ずしも経営層の心に響くとは限りません。
特に、現場経験が乏しい経営層や、業界特有のアナログ的な価値観が根強い組織では、「なぜ今、これをやるのか」「将来どうなるのか」といった未来像の共有が欠けていると、せっかくの提案も却下されるリスクがあります。
今回は「経営層への説明が数字中心で未来像が描けない失敗」について、私の現場経験とラテラルシンキング的視点も交え、バイヤーやサプライヤーの立場にも役立つノウハウを解説します。
昭和式経営の「数字至上主義」とその限界
背景:数字なら納得する?そんな時代は終わった
日本の製造業では、長きにわたり「数値目標管理」が重要視されてきました。
昭和・平成の高度成長期には、月次の生産高や不良率、納期遵守率など、目に見える数字が経営判断の基準になっていました。
数字を並べることで、曖昧さや主観性を排除し、誰もが納得しやすい仕組みを作ってきたのです。
しかし、令和の今、「数字ならOK」とは限りません。
市場や技術の変化が激しく、「今ある数字」では測れない未来の価値こそが、経営判断の本質になっています。
現場で起きる「数字中心の説明」の罠
例えば、生産現場では「この設備を導入すれば5%のコストダウンになります」「歩留まりが1ポイント改善できます」といった説明がなされます。
調達やバイヤーの現場でも、「このサプライヤーに切り替えれば年額で500万円の削減が見込めます」といった数字が強調されます。
確かに、経営層は数字に敏感ですが、最近は「その先に何があるのか?」を求められる時代になっています。
数字を並べるだけでは「どんな未来を目指すのか」というビジョンや意義が見えてこず、単なる目先の利益比較にしか映らなくなります。
なぜ「未来像」の共有が不可欠なのか
サステナビリティ経営と未来志向
世界的にサステナビリティ(持続可能性)経営が重視されるいま、単年度や数値目標だけでなく、会社や工場がどんな姿を目指すのかが問われています。
調達・購買の現場でも、「価格だけ」ではないESG調達、顧客価値の創造といった観点が重要になっています。
経営層は「今と同じやり方の延長線で生き残れるのか?」という長期的リスクを常に意識しています。
だからこそ、現場からの提案でも「数字+未来ビジョン」が不可欠なのです。
「どうして今、この投資が必要なのか」を語る
経営層は「今じゃなきゃだめなのか?」「もっと良い選択肢はないのか?」など、将来の選択肢を見極めようとします。
例えば、自動化投資の提案なら、「5年後には他社と大きな差が生まれる」「取引先がカーボンニュートラルを求めている」「人手不足が拡大する」という、未来のリスクや社会的要請とセットで語る必要があります。
この“Why Now?”、未来への必然性が語られないまま数字だけ並べても、重い判断はおりません。
現場目線で「未来像」をどう描き伝えるか
現場起点のストーリーテリングが説得力を生む
「現場の課題」を数字で示すのは当然ですが、その数字の意味や裏側にあるリアルなエピソードをセットで語ることが大切です。
たとえば、「ある熟練者が怪我をして戦線離脱した影響で、工程全体がストップした。現行の設備では代替要員の教育にも半年以上かかっている」といった現場のストーリーは、経営層に“明日は我が身”の危機感を伝えます。
そのうえで、「設備投資によって現場力を分散できる=事業の継続性を高められる」といった未来像を具体的に描いていくことがポイントです。
シナリオ思考で複数の未来を示す
工場や調達部門の持続可能性には、複数の「未来シナリオ」を描き出す力も求められます。
たとえば、「自動化投資を今やる場合」と「5年後にやる場合」、さらには「やらずに現状維持を続けた場合」など、複数のシナリオを比較し、それぞれにどんなメリット・リスクがあるのか、なるべく定量・定性の両面で説明すると説得力が増します。
この時、「現状維持もひとつの選択」としてきちんと理由づけすることが、経営層にとっては安心材料となります。
調達・バイヤーの観点から未来像を描くポイント
サプライヤー開拓を単なるコスト競争で終わらせない
バイヤーがサプライヤー候補をリストアップして社内説明する際にも、「単なる安さ」だけではなく、「将来どんな競争力を得られるか」を説明材料に加えることが大切です。
たとえば、「この海外サプライヤーを加えることで、今後中国がロックダウンしたときのリスクを分散できます」や、「環境対応型の原材料へのシフトで、顧客からの発注拡大や新市場参入につなげられます」といった“未来の価値”を含めて議論しましょう。
経営層や他部門の判断者は、現場の数字だけでは動きません。
その数字が将来どういう価値や機会をもたらすのかを、丁寧にストーリー化して伝えることが成功の鍵です。
社内外の「期待値」を整えるコミュニケーション
バイヤーの中には、「説明通りにコストが削減できなかった」「サプライヤー切替後に品質トラブルが頻発した」といった過去の失敗から、数字を盛りすぎたり、リスクを矮小化したプレゼンをしがちな傾向があります。
しかし、経営層もサプライヤーも、自社にどういう価値が残るのか、失敗した場合の対処シナリオまで見たいと考えています。
「最悪シナリオ」を同時に示すことで、未来像の信頼性を高めるとともに、社内外の期待値を調整できます。
これがバイヤーに求められる「プロの説明力」です。
サプライヤー側から経営層の本音を読むコツ
単なるスペック説明でなく顧客の事業課題に直結する未来像を
サプライヤーの営業担当者も、「価格は頑張ります」「納期も遵守します」と数字でアピールしがちです。
しかし本当のキーマン、経営層はその先に「なぜ今、これを導入するのか」「御社の未来とどう整合するのか」という、事業開発・競争力アップという未来像を見ています。
相手の経営計画やKPI、業界の動向に目を通し、「こうすれば10年後も供給網が維持できます」「カーボンニュートラル認定を取れば御社ブランド価値が増します」といったストーリーで提案することが重要です。
現場部門の「困りごと」を先回りしてフォローアップ
多くのサプライヤーの失敗事例として、「現場担当者と仲良くなっても、最終意思決定権者のニーズまで伝えきれなかった」というものがあります。
現場でヒアリングした「困りごと」を具体的な数字+“どうすれば中長期で現場負担が減るか”という未来像に落とし込み、事前に経営層向けの資料化までフォローすると、一気に受注率・信頼度が上がります。
これこそ、“昭和式アナログ”の価値観にも対応した「現場を起点にした未来志向」の必須スキルです。
まとめ:数字+未来像を描く説明力こそ、ものづくり現場の生存戦略
経営層への説明が「数字中心」で終わってしまうと、どんなに正しい提案も「単なるコストダウン競争」に埋もれ、競合との差別化や真の意義が伝わりません。
今や求められているのは、現場で見えている課題や、数字で示した改善効果の「その先」に、会社・顧客・社会の未来価値がどのように生まれるかを描くラテラルな説明力です。
バイヤーもサプライヤーも現場担当も、「その数字の先に見える未来」をセットで説明できるかどうかが、意思決定と競争力の分かれ道になっています。
昭和・平成時代の成功体験だけに頼らず、現場のリアリティを活かしつつ、未来志向の説明力で新しい現場の地平線を開拓していきましょう。
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