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“物流事故ゼロ”を目指すほど報告が減る逆効果の構造

目次
物流事故ゼロを目指すほど報告が減る逆効果の構造とは
製造業で働く皆さんであれば、一度は「物流事故ゼロ活動」「無事故無災害」といったスローガンを掲げたことがあるのではないでしょうか。
私自身、現場の管理職時代にこの「ゼロ目標」を掲げ、現場全体を巻き込んで啓発運動に取り組んだ経験があります。
一方で、皮肉なことに「ゼロ目標」を強く打ち出せば打ち出すほど、現場からの報告が減少するという逆効果が生じる現実に直面してきました。
今回の記事では、昭和から続くアナログな現場体質も交えて、「物流事故ゼロ活動の本当の意味」「なぜ報告が減るのか」「組織としてあるべき姿」について、現場視点で深掘りしていきます。
物流事故ゼロ活動の目的とは
本来目指すべきは“事故撲滅”ではなく“リスク可視化”
そもそも「物流事故ゼロ」を目指す理由は何でしょうか。
お客様への納品物破損や誤出荷、遅延などは企業信用を大きく損なうため、「二度と起こしてはならない」とする意識からこの取り組みが始まっています。
しかし、現場管理職として痛感するのは、現実的に“ゼロ”を永続的に続けるのは限りなく難しいという事実です。
絶対に事故は起きてはいけないわけですが、人の作業とシステムの限界、外部要因などを鑑みると、どこかで“想定外”が発生します。
このため、本来の活動の目的は事故を撲滅することではなく、“現場で日々発生するリスク情報やヒヤリハットを正直に可視化し、根本原因を潰し続けること”にこそあるのです。
“ゼロ目標”が現場に与えるプレッシャー
「今月も物流事故ゼロを継続しよう!」
「年間ゼロではじめて表彰!」
こうした目標は現場に緊張感を持たせ、良い意味での安全文化を醸成する側面は確かにあります。
一方、「万が一でも事故を報告したら、評価が…」「雰囲気が台無しになる…」というプレッシャーが強すぎると、自主的な報告(アクシデントやニアミス、未然防止策の提案など)が激減してしまうのです。
“ゼロ目標”がもたらす逆効果の実態
現場で何が起きているのか?
私は現場の若手からベテランまで多数のヒアリングをしてきました。
物流事故ゼロのプレッシャーが強い時期になると、
「これくらい報告しなくてもいいだろう」
「指摘されたら困るから、黙って元に戻してしまおう」
「現場の空気が悪くなるから、上司にも伝えない」
という“自然な自己防衛”が働いてしまうという声が上がりました。
こうした心理的障壁が報告件数の減少や、表面化しないリスク(隠れた問題)を助長していくのです。
“報告件数イコールリスク顕在数”ではない事実
大手メーカーですらありがちな誤認識があります。
「報告件数が減れば減るほど現場は安全になっている」
という考え方です。
実は真逆です。
むしろ、ある程度の報告件数が継続的に出ている現場のほうが、問題の早期発見・対策のサイクルがきちんと回っています。
逆に“ゼロ”を数ヶ月・数年続けている工場ほど、現場で声を上げづらい雰囲気や、不正・隠蔽の温床となっている可能性すらあります。
昭和体質の“減点主義”と現場の萎縮
日本の製造業の多くは、未だになかなか昭和型の減点主義を抜け出せていません。
「事故を起こしたら減点・叱責」
「完璧でなければ褒められない」
といった文化が、現場社員の本音や失敗の共有を封じ込めてしまうのです。
特に、一度“ゼロ”継続で表彰などされた後は、なおさら「自分が“ゼロ”を崩した張本人になるのは嫌だ」という思いが隠れてしまいます。
現場が自発的に報告できる組織づくりを進めるには?
“プラス評価”による報告奨励がカギ
ログ事故報告や危険予知(KY)、ヒヤリハット活動などで特に重要なのは、“上げてくれた報告者をきちんと評価・感謝する”風土を全社で根付かせることです。
「良くぞ早い段階で気付いてくれた」
「これが大事故になっていたら大変なことだった。皆で共有しよう」
と、報告=減点ではなく、報告=貢献と見なす評価軸への転換が求められます。
また、ヒヤリハットやミスの報告件数が多い職場ほど、むしろ“現場の感度が高い現場”としてプラス評価する仕組みに変えることが肝要です。
現場全体を巻き込んだ「オープンな情報交換」
現場から報告が消える最大の要因は「余計なことで上司やほかの部署に迷惑がかかる」という思い込みです。
私が工場長のときは、毎朝のミーティングで
「今日の小さな変化、ヒヤリハットを自由に共有しよう」
「誰も責めない。全体で解決策を考えよう」
という雰囲気作りに注力しました。
結果、自然と「こんな小さなことでも報告していいのか」という安心感が生まれ、報告件数が増加。
前向きなアイデアも共有されやすくなり、生産性も上がりました。
デジタル化の活用で“見える化”を加速
昭和体質に根ざしたアナログ業務がいまだに多い製造業ですが、近年、タブレットやスマートフォンを活用した“現場リアルタイム報告”が可能になりつつあります。
報告内容をデジタル化して匿名で投稿できる仕組みや、クラウドで全体共有する仕組みを導入すれば、“誰が言ったかわからないから気軽に投稿できる”“他部門の事例も簡単に参考にできる”といったメリットが生まれます。
このような手段を使って報告しやすいインフラを整えることも、組織全体の安全意識向上に大きく貢献します。
バイヤー・サプライヤーの観点から考える“事故ゼロ活動”の本当の狙い
“完璧を求める”ことのリスク
調達購買担当者やサプライヤーにとって、「事故ゼロ要件」を求められると「どうやっても無理だ」と感じることが多いのではないでしょうか。
評価点の加点理由が「事故ゼロ継続」だけになってしまうと、本来得るべき現場の課題情報や改善活動が一切見えなくなるリスクがあります。
むしろ、バイヤーとしては
「なぜ事故が起きたのか」「どう再発防止策を講じたか?」「同じ失敗をどう波及防止できているか?」
ここまでをしっかり把握・評価し、共創型の改善パートナーシップを構築するのが、本来のあるべき姿なのです。
サプライヤーとしての“信頼される報告”とは
サプライヤーの現場から
「これまでヒヤリハットがあったが、初めてバイヤーに正直に報告したら、むしろ評価された」
「地道な改善活動を成果として定期的に報告することで、逆に信頼が増した」
という実例が多数あります。
単なる“事故件数”や“ゼロ活動”の数値に囚われるのではなく、“いかに本音を継続的に共有できるか”が、今後の企業競争力のカギとなるでしょう。
さいごに:ゼロ目標を“安全文化への一歩”に変える
物流事故ゼロ活動は、単なる「減点型のスローガン活動」では、その効果が限定的どころか、逆に“隠蔽文化”や“組織衰退”のきっかけになる危うさを孕んでいます。
「ゼロを目指し、しかし報告を責めない。むしろ、リスクを見つけた人・現場こそ会社の宝物」
この本質を、現場・購買・サプライヤーの全員が実感するために。
業界の常識や昭和的体質を一歩踏み越え、現場のリアルな声・データを共有し合えるオープンな環境を創り出すことが、これからの製造業の発展に繋がるはずです。
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