投稿日:2025年10月19日

毛羽立ち・ピリング不良を抑える繊維選定と仕上げ加工条件

毛羽立ち・ピリング不良とは何か

繊維製品に携わる現場やバイヤーの方々にとって、「毛羽立ち(けばだち)」や「ピリング不良」は日常的に遭遇する品質トラブルの代表例です。

毛羽立ちは、布や糸の表面に微細な繊維が浮き上がり、表面がザラついて見える現象です。一方、ピリングは、着用や摩擦を繰り返す中でこれらの毛羽が絡まり合い、小さな繊維の玉(ピル)が生じる現象を指します。

この二つの不良は消費者クレームの主要原因であり、製品寿命や見栄えにも直結します。日々工程改善を重ねてもゼロにはできず、繊維メーカーから最終製品メーカー、最終的にはエンドユーザーまで強く影響を与えます。

毛羽立ち・ピリングの発生メカニズム

繊維の種類による差異

原料繊維の種類は、毛羽立ちやすさ・ピリング発生頻度を大きく左右します。

天然繊維(特に綿・ウール)は、繊維の端が表面に露出しやすく、更に繊維一本一本の強度もばらつきがあるため、毛羽立ちやピリングが発生しやすい傾向があります。

一方、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維は、強度が高く摩耗による断裂が少ない半面、摩擦後にできた繊維くずが絡まりやすく、ピリングになると繊維が擦り切れずに“玉”としてとどまりやすい特性を持ちます。

糸構造・生地組織の影響

糸の撚りが甘かったり、短繊維糸を使用した場合、表面に繊維端が多く露出します。これが毛羽立ちやすさに直結します。

また、布帛(織物)・編物で見ると、一般に編物は表面が柔らかく摩擦を受けやすいため、ピリング・毛羽立ちが目立ちやすいです。織物の場合でも、糸密度や組織設計(例:サテン系やループヤーン)は、リスクを高めます。

工程における要因

工程中の摩擦(糸の引き込み、機械接触、仕上げ工程など)が増えるにつれて毛羽やピリングのリスクは増します。これは、昭和から受け継がれてきた機械保全・メンテナンスの甘さからも発生します。

工場内の清掃や微細な異物管理、または機械の古さといった“昭和体質”の残る現場では、毛羽付着や生地ダメージが見逃されがちです。現代でもこの根本的な要因を見逃している事例は多く見受けられます。

繊維選定で押さえるべきポイント

繊維長・繊維強度への着目

原料段階で繊維長のばらつきが小さく、平均繊維長が長い(長繊維、ストレートファイバーなど)原料を選ぶことで、毛羽立ちは大きく抑えられます。

また、繊維の破断強度が高いものや、表面平滑性に優れた改質繊維(マイクロファイバー、特殊断面糸、スリック加工糸など)を選定することで、摩擦やこすれに対する耐久性が飛躍的に向上します。

ミックス素材・複合糸の活用

ピュアウールやピュアコットンは風合いの良さが特徴ですが、どうしても毛羽立ちやすいという課題があります。

ポリエステルやナイロンとの混紡糸を取り入れることで、強度アップと毛羽発生の抑制が両立可能です。また、芯鞘構造糸やカバーリング糸など、糸の設計を工夫することで、毛羽が生地表面に露出することを物理的に防ぐこともできます。

撚糸・加工の工夫

必要以上に甘撚りになっている糸は、繊維がほどけやすくなります。撚り回数を適切に管理すること、強撚糸やコンパクトスピンニング(糸端の露出が少ない糸)など、最新紡績技術を積極的に取り入れることが有効です。

これらの工夫により、“素材選定の時点”で後工程負荷や潜在的品質トラブルを大きく低減できます。

仕上げ加工条件の最適化

シンプレッサー・サイジングの最適化

仕上げ工程でのサイジング(糊付け処理)は、糸表面の毛羽の浮きを抑え織り工程中の摩耗や毛羽立ちを軽減します。ただし、糊剤や処理温度・テンション・回収条件が最適でなければ、逆に固すぎる風合いや不均一な仕上がりを招くリスクもあります。

また、糸の種類や混用割合によって適した糊剤・プロセス制御が異なるため、工程ごと、素材ごとの条件最適化が必須です。

カレンダー加工やガス焼き(バーナリング)の活用

合繊繊維の仕上げには、表面を平滑にするカレンダー圧縮や、余分な毛羽を焼き落とすガス焼き加工(バーナリング)が一般的です。

特にバーナリングは、外観を大幅に改善しますが、焼き過ぎによる強度低下、風合い硬化といった新たな問題も潜在します。最新機器の導入だけでなく、ベテラン職人による温度・スピード管理や、微細な変化を見抜ける“現場力”が必要です。

染色・柔軟加工での工夫

染色工程では、染料残留や織物表面のストレスによって生地の毛羽立ちが顕在化しやすいです。あえて染色テンションを下げ柔軟仕上げを加えることで、摩擦耐性・ピリング耐性の向上が期待できます。

また、近年ではシリコンオイルや特殊樹脂による滑脱制御、撥水・撥油加工による表面改質など、新規仕上げ剤も登場しつつあります。

アナログ現場での改善策、デジタル活用のポイント

現場チェック体制の強化

どうしても現場の“目視”や職人の“手触り”に頼る部分が残るのが繊維産業の実情です。こまめな毛羽測定・ピル評価(Martindale摩耗試験など)を交えながら、繰り返し現物サンプルをチェックし続ける文化は、昭和から変わらず根強くあります。

特に、ベテラン・若手の勘を融合させた“チームテイスティング活動”を根付かせることで、客観的・多面的な品質評価が可能です。

IoT・画像認識技術の導入

一方で近年は、高精細カメラやAIによる画像認識技術を組み込む工場も増えています。これにより、微細な毛羽や初期ピルの出現をライン上で即座に検出し、品質トラブルをダウンラインで食い止めることができます。

但し、最新機器は高額投資が前提です。ROI算出や段階投資、ベテラン目利きとのハイブリッド運用がカギとなります。

バイヤー・サプライヤー目線のリスク管理とコミュニケーション

規格・品質基準の明確化

バイヤーの皆さんは、納入先や自社ブランドに求められるピリンググレード、毛羽立ち規格(例:JIS規格、自社基準など)を必ず明示し、サプライヤーと十分に技術擦り合わせを行いましょう。

たった小さな基準の“読み合わせ”不足から、大規模なロット不良や納期遅延、ブランド失墜に直結するため、事前のコンセンサス取得は不可欠です。

初期サンプル・小ロットトライアルの徹底

開発初期の段階で、小ロットの試作・評価を必ず実施しましょう。本番ロットに進む前に繰り返し摩耗試験や洗濯試験、最終アッセンブリーでの追従試験を通じて、長期的な品質保証の裏付けを取ることが肝要です。

“現物の目利き力”と“試験データ”を両輪でとらえ、感覚的な判断に頼らないことが、これからの時代の調達・品質管理の在り方です。

まとめ:新しい技術×現場力で毛羽立ち・ピリングを克服する

毛羽立ち・ピリング不良の抑制は、原料選択・糸設計・工程・仕上げ加工・現場管理・試験評価…多くの因子が複雑に絡み合っています。

昭和時代から続く“アナログ現場力”、熟練者の手触りや現物主義もまだまだ重要な価値を持ちます。

同時に、これからはIoTや画像認識技術、撚糸や加工の新技術など、先端要素も積極的に取り入れること。バイヤーとサプライヤーがリスクとメリットを正しく共有し、互いに歩み寄ることが、安定供給と高品質維持の一番の近道です。

最後に、製造業の現場で繰り返された失敗や成功体験が、これから業界を志す方や若手バイヤーの成長の一助となり、ひいては繊維業界の発展に繋がれば、現場一筋で歩んできた筆者として何よりの喜びです。

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