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投稿日:2025年7月7日

プラスチック加工解析精度を上げる有限要素法モデル設定術

はじめに:プラスチック加工における有限要素法(FEM)の重要性

プラスチックは、その加工のしやすさ、軽量性、成形の自由度から、現代の製造業に欠かせない素材です。
自動車、家電、医療、半導体など、あらゆる産業で利用されていますが、プラスチック材料特有の粘弾性や非線形性は、「解析の難しさ」と常に表裏一体となります。

この難しさをクリアし、「狙い通りの形状」、「歩留まりの向上」、「不良率の低減」など、QCD(品質・コスト・納期)の競争力を確保するために、多くの現場では有限要素法(FEM)によるシミュレーションが活用されています。
特に金型設計や射出成形、プレス成形、溶接、接着といった成形プロセスは、多数のパラメータや境界条件が複雑に絡み合い、現物評価や職人の勘に頼りきりだった「昭和のものづくり」からのゲームチェンジが強く求められています。

本記事では、プラスチック加工において解析精度を大きく左右するFEMモデルの「設定術」にフォーカスし、現場目線のノウハウや陥りがちな落とし穴、トレンドも交えて解説します。

FEM解析の基礎とプラスチック加工における留意点

有限要素法(FEM)とは何か

有限要素法とは、連続体(構造体や流体、熱伝導体など)を細かな要素(メッシュ)に分割し、各要素ごとに現象を近似計算することで、「全体挙動」を解析する数学的手法です。
プラスチック加工では、熱応力、流動、樹脂圧縮、充填、収縮、変形など、多岐にわたる現象をモデル化する必要があります。

プラスチックならではの「非線形現象」

プラスチックは金属やセラミックと比較すると、以下のような要因でFEM解析が難しくなります。

・材料モデルが非線形(ひずみ依存、ひずみ速度依存、温度依存など)
・粘弾性やクリープを考慮
・大きな熱膨張や収縮
・成形時にレオロジー挙動(流動性)が変化
・充填不良、ウエルドライン、気泡、樹脂の繊維配向など、品質への影響因子が多い

FEMソフトウェアの表面上の操作や、過去の型にはまった経験だけで設定を組むと、肝心な部分を見落としやすくなります。

FEMモデルの設定術:重要ポイントと現場感覚のギャップ

CADデータの前処理は「妥協」が肝

多くの現場では、3D CADからFEM用のメッシュを自動生成し、そのまま解析に流すことが一般的です。
しかし、メッシュサイズ、表面のフィレットや微細形状、金型冷却配管など、どこまで再現すべきか迷う場面が多いのも事実です。

最重要なのは、「影響が大きい現象だけを残して、その他は簡略化する」バランス感覚です。
例えば、
・部分的なR形状が充填性や応力集中に効く箇所のみ詳細化する
・コア・インサート・ガイドピンなど金型部品の熱伝導モデルは、冷却効率に支配的であれば忠実に、さもなくば一体化モデルで簡略化
・薄肉部の肉厚分布は、そのまま細分化し、寸法公差には目をつぶる

過度な忠実さや最細部の再現にこだわると、計算時間が爆発的に増える一方で、現場ニーズから外れてしまいます。

材料定数の設定:データバンクだけでは足りない理由

大手ソフトベンダーや材料メーカーのデータベースには、汎用グレードのプラスチック材料定数が蓄えられています。
しかし、実際の現場で使われている「アロイ用グレード」「特殊用途グレード」「着色・添加剤入り」などでは、データバンクの値と大きな差が出ることが多いです。

また、同じグレード名でもロット差や成形条件の微妙な違いで、弾性率・熱膨張係数・粘度などが変動する場合があり、現場測定値のフィードバックが不可欠です。

材料定数は
・ロット識別管理
・射出成形品の試験片による実測
・樹脂メーカーとの協働
この三位一体で作り込むことが、解析精度アップの最大の近道です。

境界条件の落とし穴:昭和アナログの“思い込み”脱却

FEM解析の「境界条件設定」は、最大の地雷ポイントです。
例えば、
・金型温度=冷却水設定温度(実際は冷却帯や空洞部があってムラが生じる)
・摩擦係数をカタログ指定値で一律設定(表面粗度、潤滑油有無、成形圧力で変動)
・樹脂流入速度を固定(実射出は速度・加圧プロファイルで可変)

「これぐらいで良いだろう」「だいたい毎回同じ設定で問題ない」というのが昭和型の現場ノウハウでしたが、FEMで誤った条件を入力すると、工程最適化には全く役立ちません。

現場実測やIoTセンサのログデータ、トライ品の温度分布・圧力測定値と逐次照合しながら、FEM結果の妥当性を常に見ていく癖を付けることが重要です。

事例:FEMモデル設定の最適化による工程改革

射出成形におけるエアトラップ予測精度の向上

従来の射出成形では、エアトラップ位置の予測が「ベテラン作業員の経験」、または「樹脂流動パスの感覚的な推測」によるケースが多く、不良発生時には複数回のトライ&エラーが発生していました。

FEMモデルを下記のように再設計した事例を紹介します。

・メッシュ数を従来の2倍にして、ゲート・ランナー近傍の流動状況を精細化
・金型内の肉厚分布を実際の測定値ベースで修正
・材料のレオロジー特性を、実稼働設備の射出速度で再測定

このようにシンプルな現場連動型のモデル改善によって、エアトラップ発生確率を事前に80%以上的中させ、金型修正の工数・費用を大幅に削減することができました。

プレス成形品の異常変形解決への活用

プラスチックや複合材のプレス成形でも、FEMモデルの誤設定が大きなトラブル要因となります。
とくに、材料のプレス履歴に依存する強度低下や、ヒートサイクルを伴う工程では、
・初期温度分布の正確な測定
・積層構造の場合は各層ごとの物性値入力
が不可欠です。

例えば、高剛性が要求される自動車部品で、従来と同じFEM設定では「熱歪み挙動が合わない」「割れ発生ポイントがずれる」ケースが頻発していました。

そこで、赤外線サーモグラフィやバーコード温度センサーを組み合わせて、材料加熱→金型投入直後→脱型までの接触・伝熱モデルを詳細化したところ、成形不良が大幅に減少しました。

アナログ業界でも始まったDX:FEMを支える現場デジタル化

昔ながらの「職人技と現物トライ」の比重が大きかったプラスチック成形ですが、近年はDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が確実に押し寄せています。

例えば、
・センサー内蔵金型によるリアルタイム温度・圧力測定とFEMの連携
・AI解析によるパラメータ自動最適化
・トライ品サンプル画像と解析モデルの差異学習(機械学習による品質予測)

といったアプローチが、少しずつ、しかし着実に導入され始めています。

FEMモデルは「現場データと密に連携してこそ真価を発揮する」ものであり、アナログの良さとデジタルの強みを活かすハイブリッド化が、これからの生き残り戦略となるでしょう。

バイヤー・サプライヤー視点:解析精度向上がもたらす新しい価値

コストと生産リードタイムの大幅短縮

従来、金型試作や修正には多くの時間・費用がかかっていました。
FEM解析精度の向上による
・一回で決まる金型設計(First time right)
・充填不良や変形予測の的中率UP
・トラブルシューティングの迅速化
は、サプライチェーン全体のQCD革命につながります。

バイヤーの立場に立つと、
・「FEM解析に基づく要件定義」ができるサプライヤーとの取引はリスク低減になる
・逆に「勘と経験だのみ」「分析手法を開示しないサプライヤー」には慎重になるべき
です。

サプライヤー側も、解析モデルの精度や再現性を可視化し、バイヤーに提示することが大きな差別化ポイントになります。

技術者教育・ノウハウ継承にもFEM活用を

従来は属人的な「職人技」で技能継承されてきた現場ですが、これからは「FEMタグ付きのトライ&エラー履歴」が教育コンテンツになります。
新人技術者にも
・どのパラメータがどの現象に効くか
・現物とのズレがなぜ生じるのか
・課題発見から改善までの“論理の見える化”
を伝えるため、FEMモデルを教材とした内製教育が進んできています。

まとめ:深化するFEMモデル活用で製造業の競争力を高める

プラスチック加工におけるFEMモデルの「設定術」は、単なるシミュレーションソフト操作ノウハウにとどまりません。

現場のアナログな泥臭い観察力と、デジタルな解析モデル構築スキル。
昭和時代に根付いた古き良き“現場主義”と、現代の高精度・高速化のための科学的手法。

この両者をつなぎ、バイヤー・サプライヤー双方に「信頼性・透明性・効率性」という新たな価値を生み出すためのカギとして、FEMモデル精度向上へのチャレンジがますます重要になっています。

ぜひ、ご自身の現場やサプライチェーンで、FEMを「使い倒す」スタンスで業務を見直してみてください。
小さな改善の積み重ねが、「ものづくり大国・日本」の新しい地平線を切り開く原動力になるはずです。

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