パジャマの縫い代が肌に当たらないためのフラットシーム設計

パジャマの縫い代が肌に当たらないためのフラットシーム設計

快適な睡眠は、現代人にとって非常に重要なテーマです。
パジャマを着てから寝るまでの時間、その「着心地」に大きく影響しているのが、実は縫い代の処理方法です。
特に敏感肌やお子様、高齢者には気になる「縫い代が肌に当たる違和感」を解決しようという動きが、パジャマ製造現場でも着実に進んでいます。
今回は、長年製造業に従事し、工場現場で現実と理想のギャップを体感してきた私が、パジャマのフラットシーム設計について、業界動向と現状、今後の展望までを深く掘り下げて解説します。

そもそも縫い代とは何か？

縫い代の役割とは

パジャマや衣類には「縫い代」という部分があります。
これは、生地同士を縫い合わせる際に、余裕を持たせて重ねる生地の幅を指します。
縫い目の強度を確保したり、生地のほつれを防ぐ役割があります。

縫い代が肌トラブルの原因に？

従来、縫い代は内側にたおす（折り倒す）ことで、肌への影響をある程度やわらげていました。
しかし、パジャマのような直接肌に触れる衣類では、縫い代が盛り上がったり、摩擦を起こしたりして、赤み・かゆみ・違和感などの原因になることが多いです。
特に長時間着用するパジャマは、就寝中の繰り返しの接触や寝返りでダメージが蓄積されやすい傾向があります。

フラットシームとは何か、そのメリットとは

フラットシームの定義と特徴

フラットシーム（flat seam）は、縫い目をできる限り平らにし、肌側の凸凹や縫い代の“段差”が出ないように設計する縫製技術のことです。
縫い代分を“二つ折り”や“重ね縫い”でなく、「突き合わせる」ことで、生地と生地の境界を滑らかに処理します。

フラットシームの主なメリット

• 縫い目のゴロつき、縫い代の“段差”が肌に当たらない
• 肌への摩擦が著しく低くなる（敏感肌対応）
• 見た目もフラット＆すっきり、上質さを感じる
• 長期間の着用でも型崩れしにくい
• 寝返りなどの動きに追従しやすい（快適な可動域）

特に新生児用・キッズ用・介護用パジャマ市場、そして高付加価値狙いの大人用高級パジャマブランドで積極的に採用が進んでいます。

フラットシームの実現に必要な設備と技術

特殊ミシン・縫製機械の導入

フラットシーム専用の「フラットシーマー」や、4本針6本糸オーバーロックミシンといった特殊なミシンが必須です。
従来の1本針、2本糸のロックミシン、また直線ミシンでは縫い代を突き合わせる加工は難しいです。

縫製オペレーターの熟練技術

均一な張力で生地同士を寄せ、縫い合わせるためには、熟練したオペレーターの〈正確な手さばき〉〈段取り〉が不可欠です。
特に薄手や伸縮性の高いパジャマ用ニット生地では、生地の伸び戻りや型崩れを想定した調整が求められます。

品質管理の新しい観点

フラットシームの最大の特徴は「縫い代が無い」ことで、糸切れや縫いズレが即座に強度問題に直結します。
したがって、通常の縫製以上に、完成品の耐久テスト・ストレッチテスト・摩耗試験が徹底される傾向にあります。
また、肌あたりチェック（実際に着用してヒアリングする官能評価）も重要な品質管理項目のひとつです。

アナログ主流の衣料業界が抱える課題

コストと生産効率の壁

長い間「大量一括生産」「低コスト化」が命題だった日本の縫製業界では、専用設備の導入や、熟練縫製工の訓練コストがネックとなり、フラットシームはコスト高・生産効率の低下要因と見なされてきました。
「縫い目なんて気にしない」「とにかく安く早く仕上げたい」という昭和的な意識が残る工場も今なお存在します。

顧客価値の転換がカギ

ただし、近年では「健康志向」「良質な眠り」への需要増や、「パジャマはプレゼント商品」としての位置づけ強化など、価格に加えて『付加価値』を求める声が増しています。
競争力強化のため、単なる縫製技術者任せから、設計段階で「ユーザビリティ（着心地）」を最優先に設計する取り組みがポイントになってきました。

現場目線で見たフラットシームの最適化アプローチ

〈設計〉から始めるフラットシーム

現場では「縫いやすさ」だけが重視されがちです。
しかし、実際は生産設計担当者が「どの部位にフラットシームを採用するか」を戦略的に選定し、設計図面を描く段階から工夫を凝らす必要があります。
重要なのは“全面フラット”にしよう！と無理をするのではなく、「肌に一番当たる脇線や肩線、後ろ首下部分」など、効果が大きいピンポイント採用がコスト・品質両面で重要です。
加えて、工程設計では「どの段階でフラットシームにするか」（流れ作業の効率UPの工夫）を現場目線で最適化することが生産性維持のコツです。

サプライヤーとバイヤーの協業が重要

サプライヤー側（縫製工場）は自社の強み弱みを把握し、設備・人材面から可能な範囲で最適な縫製仕様を提案します。
バイヤー側（発注者、ブランド担当）は「ユーザー体験」「コスト」「ロット数」など現実的な要求を示しながらも、実際のサンプル品・プロトタイプを見て手直しを繰り返す、密接なやりとりが重要です。

バイヤーがサプライヤーに求める視点

「肌なじみ評価」を徹底しよう

バイヤーにとっては、単に「フラットシームです」という説明だけでなく、
どの程度摩擦が軽減されるのか？
何人のテスターが違和感なしと回答したのか？
など、定量的・定性的なデータの提示が望まれます。

素材と縫製法の最適マッチング

同じフラットシームでも、素材（綿、テンセル、ウール、化繊など）によって最適な糸や縫製手法が異なります。
バイヤーは「ターゲットユーザー」と「着るシーン」を明確化し、最適な組み合わせをサプライヤーとともに追求できるかが大切です。

これからのフラットシーム：業界動向と将来展望

自動化・デジタル化の波

衣料縫製分野でも「AIミシン」「画像認識による縫製品質保証」「縫製ラインの自動追従化」など、省人化・高精度化が着々と進行しています。
とはいえ完全自動化はまだ時間がかかりますが、熟練オペレーターのノウハウをデジタルで学習させる事例も登場しており、新旧の融合も期待されています。

健康・高付加価値市場の拡大

子供・高齢者向けだけでなく、スポーツウェアや医療ウェアまでフラットシームの展開が広がっています。
パジャマ業界でも「寝具と一体化した肌ケアパジャマ」「機能性付与（抗菌・保湿）」＋「快適縫製」の両輪で差別化を図る動きが加速するでしょう。

まとめ：快適な着心地は“縫い”が支える

寝具メーカーやアパレルブランドがしのぎを削る中で、「肌触りの良さ」は今や当たり前の要求事項です。
その最前線で活躍するサプライヤーや工場の技術力、そしてバイヤーの現場観察力が、今後の差別化の命運を握ります。
「着心地なんて“表面”が良ければ十分」と考えていませんか。
本当の快適は“縫いの奥”から生まれます。
昭和のやり方から一歩抜け出し、日本の縫製技術の地平線を切り開くフラットシーム設計を、ぜひあなたの現場でも導入してみてください。