投稿日:2025年9月3日

JPY決済とローカル通貨の二本立てで見積の柔軟性を高める支払設計

はじめに:変化の荒波に立ち向かう製造業の支払設計

近年、グローバル化の波が押し寄せる中、日本の製造業が直面している大きな課題の一つが「決済手段の多様化」です。

特に調達・購買部門、またはサプライヤーとの取引において、支払通貨の選択と運用は、企業競争力や安定経営に直結する重要テーマとなっています。

昭和から令和へと時代が移る中、それでも未だに日本国内の多くの”現場”では、見積や契約の支払設計が「JPY(日本円)一択」というアナログな運用が根強く残っています。

しかし、為替変動リスクの高まりや海外サプライヤーとの取引拡大を背景に「JPY決済」と「ローカル通貨(現地通貨)決済」を二本立てで活用し、見積や支払の柔軟性を高めるアプローチが注目されています。

本記事では、現場目線からこのテーマを深掘りするとともに、バイヤー・サプライヤー双方が抱えるリアルな課題や最適な運用のヒント、そして今後の業界動向についてもラテラルシンキングで考察を広げて解説します。

今なぜ「二本立ての支払設計」が必要なのか

国内外の取引環境変化を捉える

従来、日本の製造業はサプライチェーンの多くを国内で完結してきました。

しかし、コスト削減や技術革新、原材料の調達多様化により、多くの企業が海外取引先とのパートナーシップを積極的に推進しています。

ここで問題となるのが「為替変動リスク」です。

日本円(JPY)で見積・決済を強要することで、ときに海外サプライヤーは予期せぬ損失リスクを負う可能性があります。

一方で、ローカル通貨での見積ができれば、調達先・買い手のいずれにとっても価格の公平性・透明性を保てます。

昨今の円安・円高局面の振れ幅の大きさは、現場の原価管理や資金計画にも大きな影響を及ぼしており、「一つの通貨に縛られない」支払設計こそが、今求められる”地に足のついた”解決策と言えるでしょう。

見積・価格交渉で感じる現場のジレンマ

バイヤーとしては為替ヘッジやリスク回避の観点から、日本円での見積・決済を望みます。

しかし、サプライヤー側からすると、円建ては為替変動による余分な保険料の乗せや、レート計算の負担になることが往々にしてあります。

これにより、せっかくのコストダウン余地が為替マージンとして飲み込まれてしまい、結局バイヤー・サプライヤー双方に不利益を生じさせます。

このような実情からも、「JPY/ローカル通貨二本立て」の支払設計が合理的なオプションとして検討されはじめているのです。

実践で役立つ!二本立て支払設計の基本パターン

パターン1:見積はローカル通貨、決済はJPY

海外サプライヤーからは各国の現地通貨で見積を取得し、実際の支払時には締結時の現地通貨とJPYの為替レートで換算し、日本円で支払うパターンです。

この場合、サプライヤーは現地通貨基準での価格設定ができ、市場変動のなかで適正利益を確保しやすくなります。

一方でバイヤーも、見積時点でのレートを基に円建てコストを可視化でき、原価管理や予算コントロールもしやすくなります。

パターン2:JPY・ローカル通貨双方見積の併用提示

最も柔軟かつ透明性に富む運用と言えます。

見積段階でJPYとローカル通貨それぞれで価格を提示してもらい、どちらの決済方法も選べる形です。

バイヤーは市況・為替動向を見極めて、決裁のタイミングやコスト比較が可能となり、取引双方にとってベストな価格での合意形成が図れます。

また、為替予約やヘッジ取引など金融手段との組み合わせで、リスクの平準化も期待できます。

パターン3:契約通貨・支払通貨の分離

ここで一歩ラテラルに考えると、見積や契約書上はあえて両通貨での記載を行い、市況や引渡し条件、長期契約の場合のレート調整ルールなどを織り込みます。

これにより、価格の公平性だけでなく、将来の市況変動にも柔軟に対応できるため、長期プロジェクトや大口・複数年契約でもストレスの少ない運用が可能となります。

業界アナログ文化からの脱却 ~「現場の声」と失敗事例に学ぶ~

管理部門の抵抗感とその本音

率直に言えば、日本の多くの工場や管理部門には「為替リスクを取りたくない」「本社経理が反対するから」など現場からの声が根強いのも事実です。

実際に:

– 海外との通貨トラブルで想定外の損を被った
– 本社決裁や社内稟議プロセスが多通貨運用を受け入れられない
– 会計システムがJPY決済を前提に設計されており、現場の意見が反映されにくい

― こういった現場のリアルな課題も切り離せません。

昭和型アナログ運用から進化するための打ち手

業界アナログ文化の壁を越えるには、以下のような具体的アクションが有効です。

・バイヤー/購買担当者が社内の経理・財務部門と密に連携し、為替リスクの許容範囲や見積の妥当性基準を”見える化”する

・複数通貨管理に対応した会計システム導入や、ERP・SCMシステムのシームレス連携を推進する

・見積依頼書(RFQ)や契約書にも、二通貨記載・為替調整条項を標準化する

・小さな案件からトライアル運用し、成功・失敗データを蓄積して組織ノウハウ化する

こうした積み重ねが、現場力としての「支払設計力」を育てていくのです。

サプライヤーの立場から考える:バイヤーに期待する支払設計

ローカル通貨提示のメリットと顧客関係への影響

サプライヤーにとって、ローカル通貨での見積が常にベストとは限りません。

現地銀行口座を持たない場合や、為替取引の煩雑さ、送金コストの増大といった懸念も現実にはあります。

しかし、バイヤーが「ローカル通貨見積を歓迎する姿勢」を見せることで、サプライヤー側の信頼・モチベーションが向上し、より安定的なパートナーシップ強化につながります。

また、為替マージンの上乗せを防げるため、コストトータルメリットも享受可能です。

ここで重要なのは、サプライヤーとバイヤーが互いの立場・事情をオープンに話し合い、現場同士が”共通の言語”で合意形成できる土壌をつくることです。

「バイヤーの本音」を知る:サプライヤー自身の提案力強化

サプライヤーが、「この条件ならJPY/この条件ならローカル通貨の方がお互いにとって良い」など、能動的に提案できれば取引はより円滑・公正になります。

そのためにも、為替動向や支払ルール、取引先の社内決裁事情など、相手の考えや内部プロセスをしっかり理解し、”歩み寄り”を図る姿勢がこれまで以上に重要となっています。

ビジネスパートナーとしての「相互理解」が、競争激化するサプライチェーン業界において、消耗戦を回避する最大の武器となるからです。

まとめ:二本立て支払設計が生み出す新たな価値

安定したサプライチェーン体制の実現と、真のモノづくり競争力を高めていくためには、これまでの慣習にとらわれない柔軟な見積・支払設計が不可欠です。

「JPY決済」と「ローカル通貨決済」の二本立て活用を推進することは、

・為替リスクの適正分担
・パートナー間の信頼増進
・原価低減・価格競争力強化
・経理・財務プロセスの透明化

など多くの新たな価値を現場にもたらします。

これからの製造業に求められるのは、「業界アナログ文化」を否定するのではなく、その上に立って現場の知恵とデジタル活用を重ね合わせ、現実的な最善手を模索し続ける”ラテラルシンキング”の発想です。

今この記事を読んでくださっている、すべての製造業関係者・バイヤー志望の方・優良サプライヤーの皆様に、現場での実践と新たな挑戦を強くお勧めします。

その一歩が、製造業の未来を切り拓く大きな力になるでしょう。

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