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投稿日:2026年10月2日

IATF 16949 の顧客固有要求を二次以下の仕入先に流す——仕分け方と渡し方

この記事のポイント(結論先出し)

IATF 16949 の顧客固有要求事項(CSR)は、直接の顧客から届く。IATF の公式の質問回答は、二次の仕入先は自社の全ての顧客の要求(顧客固有要求事項を含む)を考慮しなければならないが、自動車メーカーが直接の顧客でなければ、そのメーカーの要求を考慮する必要はない、としている[1]。つまり一次の仕入先が流さなければ、要求は二次以下に届かない。流すときは CSR の文書をそのまま転送せず、部品と工程ごとにどの要求が当たるかを仕分け、発注書・図面・品質の取決めの言葉に直して渡す。仕入先の品質マネジメントシステムは ISO 9001 の認証を出発点に段階的に育てることが求められ[2]、そのための最低限の要求をまとめた IATF の文書もある[3]。要求は発注の時点で示し、後から厳しくして受入を拒まない[4]。

顧客の要求は、誰かが流さなければ二次以下に届かない

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自動車部品の一次仕入先(Tier 1)として IATF 16949 の認証を受けている会社が、その部品に使う加工品や材料を二次以下の仕入先に発注する。顧客である自動車メーカーや上位の部品メーカーからは、IATF 16949 に上乗せする固有の要求(顧客固有要求事項、CSR)が示されている。このとき、二次の仕入先はその要求を知っているだろうか。

IATF(国際自動車産業特別委員会)が公表している IATF 16949 の質問回答(FAQ)は、組織は顧客固有要求事項を含む顧客要求事項を評価し、品質マネジメントシステムの適用範囲に含める責任があるとし、品質マニュアルの一部として、全ての直接の顧客(IATF の自動車メーカー、IATF に属さない自動車メーカー、一次・二次などの自動車関係の顧客)を含む文書(表、一覧、マトリックスでもよい)が要る、と説明している[1]。そのうえで、例として、二次の組織は全ての顧客の顧客要求事項を考慮しなければならないが、自動車メーカーが直接の顧客でなければ、その自動車メーカーの顧客要求事項を考慮する必要はない、と書いている[1]。

この回答を発注する側から読むと、意味ははっきりしている。自動車メーカーの要求のうち、二次の仕入先に守ってもらう必要があるものは、一次の仕入先が自分の要求として流さなければならない。流さなければ、二次の仕入先にとってその要求は存在しないのと同じである。

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顧客固有要求事項は、どこにあるか

IATF のサイトには、IATF に参加する自動車メーカーが公表した顧客固有要求事項が掲載されている。2026 年 10 月 2 日時点で、BMW グループ、フォード、吉利(Geely)グループ、ゼネラルモーターズ(GM)、IVECO グループ、メルセデス・ベンツ、ルノー・グループ、ステランティス、フォルクスワーゲン・グループ、ボルボ・グループの文書が掲載されており、BYD グループとジャガー・ランドローバーは作成中とされている[5]。

この一覧に日本の自動車メーカーは載っていない。前出の FAQ は、IATF に属さない自動車メーカーやその他の自動車関係の顧客は、供給者向けの品質マニュアルのような社内文書を仕入先と共有する形や、インターネットで公開する形で顧客要求事項を持っている場合がある、としている[1]。また、こうした顧客の文書は IATF 16949 の条項と明確に結び付けられていないことがあるとして、IATF 16949 の中で「顧客から要求される場合」という文言がある箇所を拾い、顧客の文書にそれに関する要求があるかを確かめる方法を示している[1]。

二次以下に流す前に、まず自社が受け取っている要求を、この方法で一覧にしておく。一覧がなければ、何を流すべきかも決められない。

流し方——文書を転送せず、言葉を直して渡す

以下は規格の要求ではなく、二次以下の仕入先に要求を流すときの実務の提案である。顧客固有要求事項の文書は英語で数十ページに及ぶことが多く、自社の品質マネジメントシステム全体に向けて書かれている。これを二次の仕入先にそのまま転送しても、どこが自分に関係するのかは分からない。前出の FAQ も、組織は顧客の要求を IATF の自動車メーカーが公表しているような CSR の形式に置き換えることまでは求められていない、としている[1]。

そこで、要求を一つずつ、次のような表に仕分けてから流す。

顧客の要求(例) 流す先 渡す形 確かめる証拠
量産部品の承認の手順 承認の対象になる部品の仕入先 提出物と提出の時期を発注書・品質の取決めに書く 提出物と承認の記録
特殊特性(安全や法規に関わる特性)の管理 その特性を作り込む工程を持つ仕入先 図面の記号と、求める管理(工程能力、全数検査など)を書く 管理の計画と実測データ
変更の事前通知と承認 全ての仕入先 対象になる変更の種類と、通知の期限を取決めに書く 変更の申請と承認の記録
法令・規制への適合の証拠 材料・部品の仕入先 対象の国と、出してもらう証拠の形を書く ロットに対応した適合の証拠
測定機器の管理・測定システム解析 検査を任せる仕入先 対象の測定と、求める解析の方法を書く 解析の結果と校正の記録

表の左の列は、流す要求の種類を示すための例である。実際に何が要求されているかは、それぞれの顧客の文書で確かめる。量産部品の承認で何を出させるかは、同じシリーズの量産開始前の承認で仕入先に出させるもの、測定システム解析の求め方は測定システム解析を仕入先に求めるで扱う。

「素通り」させた特性も、作るところで管理されていなければならない

IATF の公式解釈(SI)は、管理の方式と程度を定める条項(8.4.2.1)について、特性や部品が組織の品質マネジメントシステムを妥当性の確認や管理なしで「パススルー」する場合、組織は製造の時点で適切な管理が行われることを確実にしなければならない、と追加している[2]。変更の理由として、パススルー特性に対する組織の責任を明確にするため、と書かれている[2]。

二次の仕入先から受け取った部品をそのまま組み込み、自社では検査しない特性がある場合、その特性の管理は二次の仕入先の工程で行われている必要がある。そうであれば、その特性について何をどう管理してほしいかを、二次の仕入先に伝えておかなければならない。自社で確かめない特性ほど、流しておく必要があるということになる。

法令・規制への適合は、ロットに対応した証拠で確かめる

前出の FAQ は、法令・規制の要求について、組織が製品開発と仕入先管理の仕組みの中に、仕入先が供給する製品やサービスが、仕入先が製造する国、組織が使う国、(顧客から示された場合は)出荷先の国の法令・規制に適合していることの確認と証拠を仕入先から得る方法を組み込むことを意図している、と説明している[1]。さらに、仕入先から受け取った適合の記録が、受け取った製品のロットやバッチをカバーしていることを確かめるのは、受入時でも在庫中でもよいが、製品を自社の生産に払い出す前に行わなければならない、としている[1]。

二次の仕入先に流すときは、どの国の法令についての証拠か、どのロットに対応させるか、を発注の条件に書く。化学物質の含有の調査の依頼の仕方は、同じシリーズのREACH・chemSHERPA による含有化学物質の調査の依頼で扱った。

二次以下の仕入先に、どこまでの品質マネジメントシステムを求めるか

二次以下の仕入先は、IATF 16949 の認証を持っていないことが多い。IATF の公式解釈は、仕入先の品質マネジメントシステムの開発の条項(8.4.2.3)について、組織は、顧客による別の承認がない限り、自動車製品とサービスの仕入先に対し、適格であれば IATF 16949 の認証取得を到達目標として、ISO 9001 の認証を受けた品質マネジメントシステムを開発し、実施し、改善するよう求めなければならない、としている[2]。そして、リスクに基づいて、受け入れられる最低限の開発レベルと、仕入先ごとの目標レベルを決めるとし、段階として、第二者監査による ISO 9001 への適合、第三者審査による ISO 9001 の認証、ISO 9001 の認証に加えて第二者監査による他の顧客が定めた要求への適合(最低限の自動車品質マネジメントシステム要求事項など)、ISO 9001 の認証に加えて第二者監査による IATF 16949 への適合の確認、IATF 16949 の第三者認証、を順に挙げている[2]。注記には、最低限の開発レベルは、顧客が正式に承認すれば第二者監査による ISO 9001 への適合となりうる、とある[2]。

ISO 9001 そのものも、外部から提供されるプロセス・製品・サービスの管理を一つの箇条(8.4)として扱っている[6]。二次の仕入先に ISO 9001 の認証があれば、少なくともこの箇条に沿った仕組みを持っている前提で話を始められる。

小規模な仕入先向けの最低限の要求

IATF は、二次以下の仕入先の品質マネジメントシステムを育てるために、IATF 16949 から選んだ要求をまとめた「Minimum Automotive Quality Management System Requirements for Sub-Tier Suppliers」(MAQMSR、第 2 版、2017 年 9 月)を公表している[3]。この文書の著作権表示は、IATF 16949 などの認証を受けた組織が、仕入先の品質マネジメントシステムの開発を助ける目的に限り、この文書を全文のまま複製して仕入先に配布することを認めている[3]。中身は、管理計画、工程のアプローチ、パフォーマンス、内部監査、不適合製品の管理、部品の承認、経営者の責任、リスク管理、安全、の項目ごとに、対応する IATF 16949 の条項を一覧にしたもので、部品の承認の項目には測定システム解析や変更の管理と変更の通知が含まれている[3]。

顧客によっては、小規模な仕入先への扱いを自社の CSR で定めている。たとえば GM の顧客固有要求事項(2025 年 10 月)は、組織の仕入先が小さすぎて IATF 16949 や ISO 9001 に沿った仕組みを作る十分な資源がない場合、組織は特定の要素を免除してよいとし、その代わり、「特別に指定された小規模仕入先」を決める判断基準を文書にし、一貫して適用することを求めている[7]。どこまで免除できるかは顧客ごとに違うので、免除を考えるときは自社の顧客の CSR で確かめる。

第二者監査は、リスクで決める

前出の FAQ は、リスクの低い仕入先にも第二者監査(自社が仕入先を監査すること)が要るかという問いに対し、リスク分析の結果によっては不要になりうるとし、判断の基準として、仕入先の認証の状況、品目の複雑さ、新製品の立ち上げ、人の大幅な入れ替わり、品質や納入の問題、顧客固有要求事項などを挙げている[1]。顧客固有要求事項が厳しい部品を作る仕入先ほど、監査で流した要求が守られているかを確かめる理由がある。仕入先の工程監査の進め方は、VDA 6.3 プロセス監査の実務ポイントの記事も参考になる。

変更の通知を、二次以下まで流す

二次以下の仕入先の変更は、一次の仕入先が気づかないまま製品に入り込みやすい。製品評価技術基盤機構(NITE)の資料は、サプライチェーンのどこかで無断の変更(サイレントチェンジ)が行われれば最終製品に影響が生じて事故に至る可能性があるとし、材料(主成分だけでなく添加成分も含む)や製造工程を変えるときは事前に承諾を得る旨を契約書に書くこと、仕入先から出される品質データを鵜呑みにせず自社でも検査することを、対策として挙げている[8]。

自動車の顧客は、一次の仕入先に変更の事前通知と承認を求めていることが多い。その義務を果たすには、二次以下の仕入先にも同じ義務を課しておく必要がある。二次の仕入先が三次に出す工程(めっき、熱処理など)の変更も通知の対象に含めるよう書いておく。図面の版の変更を発注書でどう扱うかは、同じシリーズの図面の版を発注書で指定するで扱う。

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要求は発注のときに示す

二次以下の仕入先には中小の事業者が多く、取適法が適用される取引も多い。同法のテキストによれば、委託の内容がそもそも明示されていない、あるいは検査の基準があいまいで、納入品が委託の内容と違うと言い切れないときは、それを理由に受け取りを拒めない。発注後に基準を恣意的に厳しくし、以前の基準なら合格していた品を不合格とする場合も同じ扱いである[4]。

顧客から新しい CSR が届いたからといって、すでに発注済みの部品に新しい要求を当てはめて不合格にすることは避ける。新しい要求を流すときは、品質の取決めや図面を改訂し、合意のうえで次の発注から適用する。要求の追加で仕入先の作業が増えるなら、単価についても協議する。受領拒否と返品の範囲は受領拒否・返品・やり直しはどこまで許されるかで扱っている。

よくある質問

二次の仕入先が IATF 16949 も ISO 9001 も持っていない

前出の公式解釈は、顧客が正式に承認すれば、第二者監査による ISO 9001 への適合を最低限の開発レベルとしうるとしている[2]。自社の顧客の CSR で何が認められているかを確かめ、前出の MAQMSR を手がかりに、仕入先と開発の段階と時期を決める。

顧客の CSR の文書を、二次の仕入先に渡してよいか

顧客の文書の扱い(社外への開示の可否)は、顧客との取決めによる。IATF のサイトで公開されている文書であっても、全文を渡すより、関係する要求を仕分けて自社の言葉で渡すほうが伝わる。MAQMSR は、前出のとおり全文のまま仕入先に配布することが認められている[3]。

日本の自動車メーカーの要求は、どこで確かめるか

IATF のサイトには掲載されていないので、各社の供給者向けの品質マニュアルや取引の基本契約、個別の仕様書で確かめる。前出の FAQ のとおり、「顧客から要求される場合」という文言のある IATF 16949 の条項と突き合わせて一覧にすると、漏れを見つけやすい[1]。

まとめ

IATF 16949 の顧客固有要求事項は直接の顧客から届くもので、一次の仕入先が流さなければ二次以下には届かない。まず自社が受け取っている要求を一覧にし、部品と工程ごとにどの要求が当たるかを仕分け、発注書・図面・品質の取決めの言葉に直して渡す。自社で確かめない特性ほど、作るところでの管理を求めておく必要がある。仕入先の品質マネジメントシステムは ISO 9001 の認証を出発点に段階的に育て、変更の通知は二次以下まで流す。要求は発注の時点で示し、後から厳しくして受入を拒まない。

出典・参考資料

  1. IATF 16949:2016 Frequently Asked Questions (FAQs)(International Automotive Task Force/2026 年 6 月版)
  2. IATF 16949:2016 公式解釈集(Sanctioned Interpretations)日本語版(International Automotive Task Force/2025 年 11 月版)
  3. Minimum Automotive Quality Management System Requirements for Sub-Tier Suppliers(MAQMSR)Second Edition(International Automotive Task Force/2017 年 9 月)
  4. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
  5. Customer Specific Requirements(International Automotive Task Force/2026 年 10 月 2 日閲覧)
  6. JIS Q 9001:2015 品質マネジメントシステム―要求事項(無料プレビュー)(日本規格協会/2015 年 11 月 20 日改正。追補 JIS Q 9001:2015/AMENDMENT 1:2025 が 2025 年 3 月 21 日に発行されている)
  7. General Motors Customer Specific Requirements for IATF 16949(General Motors/2025 年 10 月)
  8. 身近に潜むサイレントチェンジ問題について(独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)製品安全センター)

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