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異物の種類原因物質の測定IR分析のデータ処理および同定のノウハウ

目次
はじめに:製造現場における異物トラブルと解析の重要性
製造業の現場で避けて通れないトラブルのひとつが「異物混入」です。
特に自動車や電子部品、食品、医薬品など高い品質が求められる分野では、わずかな異物でも大きな信用問題に直結します。
実際、現場で発見される異物の種類や量は年々多様化し、その追及・再発防止は現場の人々にとって永遠のテーマになっています。
その中でも、赤外分光分析(IR分析)は、異物トラブル対応の現場で強力な武器となります。
しかし、「IR分析の結果をどう読み解くべきか」「データ処理のコツとは何か」「同定の精度を上げるためにはどんな工夫がいるのか」など、リアルなノウハウはなかなか表に出ません。
本記事では、20年以上製造業の現場で異物解析に携わってきた経験から、IR分析・データ処理・物質同定の実践的なノウハウを、業界の実態や課題も交えて徹底解説します。
異物の種類と発生原因の実態
異物の正体:有機系・無機系・複合系
異物トラブルの初動対応でまず重要なのは、「異物の種類」を分類することです。
– 有機系異物:樹脂、ゴム、油、紙片、繊維くず、塗料など
– 無機系異物:金属粉、ガラス片、鉱物、酸化物など
– 複合系異物:有機物と無機物の混在(例:ガラスに油が付着)
昭和時代から続くアナログな工場では、とりあえずルーペや顕微鏡で観察し「何となくゴミ」と片づけがちです。
しかし現代では異物が「どこから」「なぜ」混入したのか根拠を伴った説明が求められるため、正確な分類と測定が必須です。
異物の発生原因パターン
異物が混入・発生する典型的な原因パターンには以下があります。
– 原材料起因:調達先のロット不良、原料の保存・運搬過程の管理不備
– 製造工程起因:部品同士の摩耗、装置のグリスやオイル、作業者の衣服・毛髪
– 外部起因:搬送・保管の際の外部からの飛び込み、環境塵
– 社内外混入:リワーク品、返却部品に紛れた異物
こうした原因の特定には、単なる異物の観察だけでなく、「現場で実際に起きうるシナリオ」を深く知ることが必要です。
現場経験がものをいうポイントと言えるでしょう。
IR分析(赤外分光分析)の基礎と現場流データ処理の実際
なぜIR分析が異物解析に有効なのか
IR分析は、その名の通り”赤外線”を試料に照射し、各種化学結合が異なる波長で光を吸収することを利用します。
この吸収特性(スペクトル)は物質ごとに固有のパターンを持つため、「各物質の指紋」という例えが成立します。
異物分析の代表格たる理由は、
– 前処理が比較的簡単(特に有機物)
– ごく微量でも測定が可能(数10μgでも対応可能)
– 複数成分の存在も視覚的にわかる
といった扱いやすさにあります。
特に、現場で迅速に一次的な同定を行いたい場面では、他の分析手法(SEM-EDXやGC-MS)よりもIRが優先されることが多々あります。
IRスペクトル測定法の実践的ポイント
IR分析には主に「透過法」「ATR法」などがあります。
現場で扱う異物では、ほとんどの場合微粒子・固体断片・薄片など形状は一様ではありません。
そのため、最近は装置に付属するATR(全反射)ユニットを使い、異物をそのままクリスタルに押し付けて測定するパターンが主流です。
この際のポイントは
– サンプルをクリスタルにしっかり密着させる(密着不足だとスペクトルが乱れる)
– 測定部位をしっかり観察し、「本当に異物部分だけ」を拾う
– 混ざりもの(コンタミ)が多い場合、できる限り除去するか複数箇所を測定
特に微小な異物の場合、「異物部分」と「周辺基材」の区別が難しいケースも多いため、拡大鏡下で慎重に操作することが肝要です。
IRスペクトルのデータ処理と同定の現場ノウハウ
スペクトルライブラリ検索の落とし穴
IR分析装置には、解析ソフトとともに数千~数万のスペクトルが収められたライブラリが搭載されています。
異物のスペクトルデータを測定した後は、このライブラリ検索によって「最も近い物質」を一発推定するのが一般的です。
しかし現場で多い誤解が、「ライブラリ一致=完全同定」だと思い込んでしまうことです。
現実には、
– 異物が既存ライブラリに含まれていない場合は一致率が下がる
– 類似物質(たとえばエチレン/プロピレン樹脂など)はスペクトルが非常に似ている
– 複数成分が共存する場合(混合ゴム、フィルムなど)は特徴ピークが埋もれてしまう
などがあり、最終的な同定には「人間の目」と「化学の知見」が必要です。
ピーク解析のコツと経験値
プロが現場で実際に行っているスペクトル解析のコツは次の通りです。
– まず全体の形状(指紋領域:700–1500cm-1)と高波数領域(2500–4000cm-1)を見る
– 特徴的なピーク(カルボニル基:1700cm-1付近、アミド基:1650cm-1周辺など)の有無を確認
– ライブラリ検索で上位に揃ったパターン(例えばPE系、PET系)か、ばらつきが多いかでヒントを探る
– 混合物の場合は複数ピークの重なりを分離して考える(時にはマルチコンポーネント解析も必要)
また、異物の履歴(サプライヤーからの情報、製造年月日、発生ライン)を合わせて読み解くことで、分析結果を「根拠のある推定」へと昇華できます。
社内共有のためのノウハウドキュメント化
IR解析は、分析者ごとにどうしても解釈のブレが出やすい分野です。
したがって、社内で「ノウハウ蓄積」を進めるためには、
– 解析手順を細かくマニュアル化する
– 代表的な異物(PE袋破片、手袋繊維、グリス、フラックス残渣など)は実際のスペクトル付きで”異物カタログ”を作る
– 「どこまで同定できたら原因究明OKとするか」の社内基準を明文化する
などを進めることが重要です。
昭和の時代には「ベテラン分析者の勘」だけで回していた異物対応も、今では属人化脱却が必須となっています。
これが現場力の底上げ、再発防止スピードアップに直結します。
異物分析と業界進化:昭和的マインドセットからの脱却
変わる業界、変えられない現場。バイヤー・サプライヤーで何が求められるか
調達購買プロセスでも、「異物トラブルをいかに少なくするか」はバイヤー・サプライヤー双方の共通課題です。
しかし、実際にはサプライヤー側が「うちには関係ない」、バイヤー側が「検査を増やせばなんとかなる」といった昭和的な思考が依然根強く残っています。
今、製造業に求められているのは以下です。
– 単なる検査結果報告ではなく、「なぜ混入したか」まで突っ込む科学的根拠と現場検証
– サプライヤーも巻き込んだ原因シナリオの共有と是正活動
– 解析結果を踏まえたサプライチェーン全体での「未然防止」の取り組み
IR分析による異物同定は、こうした取り組みの出発点となります。
バイヤーを目指す方には、「スペクトル波形」を読む力もさることながら、「異物発生後、社内外の現場関係者とどう合意形成していくか」のスキルも大切です。
現場はアナログだが、理論武装が未来を拓く
製造業の現場は、依然として人海戦術・手作業の部分が大きく、完璧な自動化にはまだまだ時間がかかります。
しかし、異物解析の分野では、「科学的裏付け」+「現場目線」のハイブリッドで進めることが業界全体の競争力強化につながります。
IR分析という「定量評価」を軸としつつ、現場の泥臭い観察力や聞き取り、異物履歴分析を合わせて進めれば、昭和から続くアナログな壁も着実に突破できます。
まとめ:異物分析力=製造業の未来を支える現場力
異物トラブルは、異物そのものを特定しただけでは解決しません。
「分析機器の知識」「現場のストーリーを想像する力」「社内外を巻き込むノウハウ」の三位一体が大切です。
IR分析をどう現場力に生かすか——。
バイヤー、サプライヤー、現場管理者それぞれの立場で、「知識」と「現場行動」を連携できる組織は、激しい業界環境の中でも強く生き残ることができるでしょう。
今後も現場経験に基づいた異物分析ノウハウを惜しみなく共有し、製造業界全体の進化を共に推し進めていきたいと強く願っています。
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