研究開発テーマを発掘し利益を生む商品開発へ繋げる評価選択フレームワーク

はじめに：研究開発テーマの発掘が製造業にもたらす未来

製造業に20年以上携わってきた私が、このテーマを強く推したい理由があります。
市場の変化が激しい今、従来の「言われたものを作る」だけでは顧客ニーズに応えきれません。
利益を生み続けるためには、自社独自の視点で研究開発テーマを発掘し、魅力ある商品開発に結びつける必要があります。

ところが日本の製造業、特に昭和の時代から続くアナログな体質が根強く残る現場では、「テーマ選定」が経営者のカンや過去の成功体験に頼りがちです。
結果として、現場の潜在知見や時代変化への敏感なキャッチアップができず、せっかくのシーズが埋もれてしまうケースが少なくありません。
この記事では、現場視点を大切にしつつ、変化の激しい時代でも持続的に利益を生む商品開発へとつなげる「評価選択フレームワーク」を軸に、具体的な実践ノウハウをお伝えします。

なぜ今、評価選択フレームワークが求められるのか

従来型商品開発の限界

従来の製造業では、「営業が取ってきた案件を作る」「取引先の要望に沿う」という受け身の姿勢が一般的でした。
一方で、グローバル競争やデジタルトランスフォーメーションを背景に「お客様も気づいていない価値」を生み出す企業が注目されています。

私の経験上、やみくもなテーマ乱立や、場当たり的な開発投資では、開発コストがかさむ一方で、商品ポートフォリオの最適化は進みません。
そこで、「現場の知見と経営戦略」をつなぎ、再現性のある形でテーマを評価・選抜するフレームワークが不可欠となってきます。

アナログ現場に根付いた課題意識

いまだに「昔ながらの技術を賛美」「強い上司の発想が優先」といった文化も残ります。
しかし現場には「ちょっとした不便」や「顧客の使い方の変化」など、価値あるヒントがたくさん眠っています。
この“現場インサイト”を定量的に整理して評価し、選択基準として活用する手法が求められます。

現場と経営をつなぐテーマ評価選択フレームワーク

1．多面的にテーマを洗い出す

最初に大切なのは「思い込みや過去の延長線」を乗り越え、できるだけ多面的にアイデアや課題を洗い出すことです。
以下のチャネルから情報収集しましょう。

– 営業やサービス部門からの市場情報
– 生産現場従業員からの「困りごと」「要望」
– サプライヤーパートナーとの共同検討
– 顧客の使い方やトラブル情報
– 競合動向・法規制・サステナビリティ要求

ここで重要なのは、現場の小さな提案も丁寧に拾い上げ「なぜ？」を深堀りすること。
現場視点だからこそのヒントが、後々大きなビジネステーマへつながる場合が多いです。

2．評価指標によるスクリーニング

洗い出されたテーマを闇雲に進めても、リソースが分散し、どれも中途半端になりがちです。
ここで「評価選択フレームワーク」を活用します。

評価指標は主に以下５つ。
会社ごとの経営戦略に合わせて重み付けを行うことがポイントです。

1．市場性：市場規模、成長性、新規性、収益性予想
2．自社の強みとの親和性：技術力、生産性、既存資産活用
3．実現性：必要技術、人材、外部協力、規制クリア
4．差別化要素：競合優位性、唯一性、知財化
5．社会的意義：脱炭素や少子高齢化への貢献、ESG評価

これらを「定量化（点数）」＋「定性的コメント」の両面で評価することで、次のフェーズに進めるテーマをフェアに絞り込めます。

3．ピラミッド型審査体制で意思決定

多くの製造業では「評価指標を設けても、最後は部門長の一存」という事例が後を絶ちません。
ですが、現場知見と経営方針の両方を活かすには以下のようなピラミッド型審査体制が有効です。

– 一次審査：現場横断での現実的な可能性評価
– 二次審査：技術部門・営業・品質など複数視点での詳細評価
– 最終審査：経営層が最終判断を下す

これにより、バイアスがかからず、多様な視点と現場ファーストの目でテーマを厳選できます。

事例でみる評価選択フレームワーク活用のリアリティ

生産現場の知恵が、大ヒット商品開発に貢献した例

私が工場長時代、溶接工程で「微細なスパッタ（金属飛沫）による不良」が現場で頻発していました。
通常なら「ちょっとした現場の不便」で終わります。
しかし、現場スタッフの声を丁寧に吸い上げ、部品・材料・設備メーカーとも連携して原因を定量分析。
このアプローチで、既存製品ラインの技術を転用した「スパッタ抑制新素材」の商品開発に成功しました。

評価フレームによる審査では、
– 毎年の不良コスト削減効果
– 海外市場での採用期待
– 既存製品技術との親和性
– 環境規制対応（有害物質低減）
これらが総合的に評価され、トップの承認を得てプロジェクトが発足。
結果として、３年で売上10億円規模の商品開発へとつながりました。

バイヤー目線とサプライヤー提案力の強化

逆に購買側（バイヤー）の立場で言えば、サプライヤーから受ける提案も、評価フレームに乗っ取り、「どんな価値基準で優先順位を付けるか」が明確になれば、タスク管理やコミュニケーションの無駄が大幅に削減できます。
この考え方は、サプライヤーにとっても「バイヤーがなぜこのテーマを優先するのか」が理解しやすくなります。
結果として、開発パートナーシップの信頼関係強化につながります。

昭和的カルチャーの壁を突破するラテラルシンキング

現場ベースの「発想の転換」こそ成功のカギ

フレームワークも“形だけ”だと、かつての稟議書文化同様、形骸化する恐れがあります。
大切なのは、「なぜ・なぜ・なぜ（5回）」を粘り強く繰り返すラテラルシンキングです。

例えば「コストダウン」のオーダー一つ取っても、
– 既存材料の流用だけを考える（垂直型思考）ではなく
– 他業界のプロセスやIoTの活用、協働ロボットによる自動化、データ分析での歩留改善
など、「本質的な価値」「隣接領域の応用」といった視点も組み合わせることで、次代のテーマが見えてきます。

昭和型の上意下達文化を柔らかく突破するには、
現場の“つぶやき”を吸い上げ、
– ワークショップ型のテーマ発掘会
– 他部署人材を交えたクロスファンクショナル検討
– フレームワークを使った評価に納得性を持たせる
こうした組織風土改革も一つのカギとなります。

現場主導のテーマ発掘をルーチン化するために

仕組み作りと人材育成の両輪

– テーマ発掘のための定期的なアイデアコンテストや提案会
– 社外・他部署参加も含めた「オープンイノベーション」
– 評価会・レビュー会の見える化（開発テーマの進捗・評価指標公表）

こうした仕組みを継続し、評価方法を定着させることが、持続的な商品開発力につながります。
そのためには、「実践型ワークショップ」やeラーニングなど、人材育成にも投資していきましょう。

まとめ：未来へ続く、評価選択フレームワークの実践

製造業の本質は「現場の知見とお客様の価値」を見極め、再現性高くヒット商品につなげることです。
そのためには、過去のカンや文化から脱皮した「評価選択フレームワーク」を、一過性でなく組織カルチャーとして根付かせることが求められます。

自社の強み、現場の生の声、市場トレンド、社会課題を結集したテーマ評価で、あなたの会社も「利益を生む新商品開発」の新たな地平線を切り開いてみてはいかがでしょうか。
発想の転換と現場ファーストの精神が、次世代製造業の大きな武器になります。