投稿日:2025年10月29日

小さな企業が“技術を売る”から“商品を売る”へ変わるための発想転換

はじめに:製造業における発想転換の重要性

21世紀に入ってからも、日本の製造業は世界に誇る技術力を武器に成長してきました。

しかし、時代の変化は著しく、単に「技術が優れている」だけでは生き残ることが難しくなっています。

特に、従来の昭和型アナログ業界に強く根付く「技術を売る」発想は、大手と資本力で勝負できない小さな企業にとって、時に自らの可能性を狭めてしまう要因ともなり得ます。

本記事では、なぜ今、「技術を売る」から「商品を売る」への発想転換が必要なのか、その背景・現場事例・失敗談、そして“どうやって変えていくか”の具体的な方法について、20年以上の現場経験をもとに深堀りしていきます。

製造現場で日々奮闘する方、調達や生産管理に関わる方、またはバイヤーを目指す方にとってのヒントになれば幸いです。

技術力至上主義の功と罪

昭和の成功パターン:技術で勝つ

日本の多くのモノづくり中小企業は、その高い技術力を大手メーカーから評価され、下請けパートナーとして成長してきました。

金型加工、精密部品の製造、表面処理や材料開発など、多くの分野で世界に誇る「匠の技」は健在です。

下請けとして指名される喜び、試作を丸ごと任される充実感、それが“製造業の誇り”でもありました。

この成功体験が、「うちは技術で食っている」という自負となり、やがて「技術=商品」という思考にすり替わっていきます。

時代の流れと“売れない技術”の増加

バブル崩壊やリーマンショック、中国など新興国の台頭など、マクロ環境は大きく変化しています。

バイヤーはコスト意識が強まり、適材適所でグローバル調達を推進します。

サプライヤー間の競争も激化し、「良い技術だから買ってもらえる」という時代から、「一体何ができて、どんな課題を解決できるのか」が分かりやすく伝わらない技術は選ばれなくなりました。

にもかかわらず、現場では
「うちは他所が真似できない技術を持っている。きっと分かるバイヤーはいるはずだ」
「技術力こそが差別化だ。商品に仕立てなくても話にすれば伝わる」
そんな“昭和的発想”が根強く残っています。

技術が商品価値に昇華できていないため、商談は盛り上がっても受注に結びつかず、苦しい経営が続くという声も現場から多く聞こえてきます。

“技術を売る”から“商品を売る”とは何か?本質的違いを考える

技術=原材料、商品=課題解決ツール

「技術」は、特定の加工法やノウハウ、特殊な設備、独自の製造プロセスなど、確かに価値のあるものです。

しかし、製造業の取引は“技術説明会”ではありません。

バイヤーが本当に求めているのは、御社の技術そのものではなく、「その技術で自分の課題をどう解決してくれるか?」です。

たとえば、

– 熱処理の温度管理が厳格にできる加工技術
→ 「高温でも寸法安定性に優れる部品」が“商品”となる
– ミクロン単位の磨耗公差を実現するノウハウ
→ 「長寿命でランニングコストが安い消耗品パーツ」こそ“商品”

つまり、バイヤーの仕事は「課題解決」であり、技術は“手段”でしかありません。

一方的な“技術説明”に走るほど、商品の印象はぼやけ、決め手を欠くことになるのです。

商品化・パッケージ化の壁と現場あるある

現場では、

– 「うちの技術は応用範囲が広いから汎用部品にできない」
– 「注文ごとに仕様が細かくバラつくから“商品”なんて作れない」
– 「職人の勘や経験がモノを言うから標準化できない」

こうした声をよく聞きます。

筆者も工場長時代に、「この技術を単なる受託加工じゃなく何か具体的な“商品”に生かせないか」と企画会議で何度も悩みました。

しかし、商品=完成品や自社ブランドの“箱モノ”商品にとどまらず、バイヤーが「これなら自分の課題に使えそう」と直感できるような“わかりやすさ・パッケージ感”が大切です。

たとえばプロセスそのものをサービス化する
「組立済モジュール納入」や、「検査・保証まで含む一貫パッケージ」、「サブスクリプション型の試作契約」など、売り方そのものが“商品”になりうる時代なのです。

工場現場目線で考える“商品化”の実例・アイデア

1. “加工請負”から“設計提案+組立モジュール”へ

技術力に自信のある中小部品メーカーが大きな受注単価・継続取引を狙うなら、
単なる部品加工ではなく、部品の設計・組立までワンストップで受ける「モジュール化」が有効です。

たとえば、
「顧客指定図通りのシャフトを納品」→
「最適なレンジの材質選定+ユニット化設計+限界駆動テスト済みで納品」

これにより「設計工数削減」「組み付けミス低減」「納期短縮」など、バイヤーの直面する課題を解決できる“商品”となります。

2. “バラバラの現場帳票管理”から“現場まるごと改善キット”へ

たとえば工場で使われている紙の帳票をIoT化したいが、なかなか初期投資の決断ができない中小工場が多いです。

この場合、「個別システム開発を請け負う」のではなく、「現場帳票→電子化スタートアップキット」と称し、初期費用ゼロ・数週間で導入可能という形でパッケージ商品を作ると、中小企業バイヤーが“今”の悩みに飛びつきやすくなります。

難しいITの話でなく、「御社のアナログ帳票をそのままタブレットで入力できる」現場目線が強い訴求となり、バイヤーは購買決定をしやすいです。

3. “品質管理技術”のコンサル商品化

工場現場で磨かれた検査ノウハウやデータ取りの技術が高く評価されつつありますが、
具体的な成果物としてパッケージ化すると“売れる商品”になりやすい傾向があります。

たとえば
「××検査工程改善プログラム」
「不具合ゼロ立ち上げサポートサービス」
「現場トラブル原因究明+リカバリープラン策定パック」

など、“何が変わるのか”“どんな価値をもたらすのか”を明快に打ち出すことで、
「あ、これ我が社の困りごとにピッタリかも」とバイヤーに思わせることができるのです。

バイヤーの発想を理解して商品企画に生かす

バイヤーは“課題の翻訳家”である

バイヤーの仕事は、“自社の技術カタログ”を集めることではありません。

工場や設計現場から寄せられるリアルな課題(品質不良/納期遅延/管理工数の肥大/コスト高騰など)に対し、
「どうやったら信頼できるパートナーで問題解決できるか?」
を考え、複数サプライヤーを比較しています。

だから、
– 分かりやすい形で「貴社技術」が「課題解決につながる」と提示される
– 「自分のプロセスでどこが良くなるのか?」が具体的にイメージできる
– 「試してみても失敗リスクが少ない」「実際に計測したデータや導入事例がある」と後押しできる

この3つの要素が強いほど、採用決定に近づきます。

技術説明だけでなく「運用イメージ」を伝える工夫

たとえば“新しい材料”なら、その特性だけでなく
「どんな現場作業が不要になるか」
「どの工程で省人化・自動化が叶うか」
「月間いくらのコスト低減/不良率低減が見込めるか」
など、導入後の具体的なイメージもセットで提示しましょう。

バイヤー側に「導入したらどうなるか」が明確に想像できることこそ、商品化成功のポイントです。

発想転換に必要な“現場巻き込み力”と仕組みづくり

商品化は“売り手”側の組織的変革がカギ

技術→商品への転換を阻む最大の壁は、“現場の納得と巻き込み”です。

– 「その技術、今さら商品化なんて無理ですよ」
– 「現場は忙しいし、横展開するリソースもないです」
– 「職人技だから現場にしか価値はわからない」

こうした現場社員・熟練者の“抵抗感”や“現場都合”を、どうクリアするかがキーポイントとなります。

筆者の経験上、最初の一歩は“社内の現場横断プロジェクト”です。

試作品を作る、小さなロットで限定販売してみる、新たな営業資料を作り展示会で反応を探ってみる…。
この“小さな実証実験”で得た現場フィードバックを、企画→営業→現場が共有しながら「勝てる型」を作り込んでいく仕組み化を意識しましょう。

若手・女性・異業種視点を巻き込み“固定観念”を破る

昭和型の感覚が色濃い現場ほど、若手や異業種出身者の発想が活きてきます。

「なんでこの説明だと売れにくいんでしょう?」
「自分ならどんなものだと買う気になりますか?」
「こうしたら現場作業が楽になるんじゃない?」

部署横断のワークショップや、現場主導の課題発掘会、時には外部コンサルや顧客ヒアリングを入れることも有効です。

多様な視点から「うちの強みは何か?」「この技術で本当に誰を幸せにできるのか?」を繰り返し問い直すことが、発想転換を加速させます。

まとめ:技術を“商品”に変えることが未来を拓く

これからの製造業においては、いかにして自社の技術を“売れる商品”として、市場に伝わる言葉・ビジュアルで発信できるかが成否を決めます。

– 技術は“原材料”、商品は“課題解決ツール”
– バイヤーが一目で「自分事」と感じる提案内容・パッケージづくり
– “現場巻き込み型”の商品化プロジェクト推進
– 多様な視点を取り入れ、現場の知恵を商品企画に活かす

このサイクルを繰り返し進化させることこそ、昭和型アナログ業界から真に脱皮し、将来にわたって安定した受注・収益を生む“勝てる製造企業”の条件となります。

今改めて、自社の技術を「どんな商品に変革できるか?」を考え、意志ある現場とともに新たな一歩を踏み出しましょう。

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