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設計段階で決まる原価の八割を下げるフロントローディング実践チェックリスト

目次
はじめに ― 製造業コスト改革の第一歩「フロントローディング」
製造業において、原価低減は利益確保の生命線です。
大手メーカーに20年以上勤務し、調達、購買、生産管理、品質管理、工場長と現場を歩んだからこそ痛感するのは、「コストの八割は設計段階で決まる」という事実です。
「後からコストを下げよう」としても焼け石に水。
時代は大きく動き、従来の“見積もり合わせ”や“値切り”では太刀打ちできない時代になりました。
では、どうすればいいのか。
その答えこそ、「フロントローディング(Front Loading)」にあります。
この記事では、設計段階から徹底してコストをマネジメントし、原価の八割を下げるための実践的な思考法とチェックリストを、現場目線で詳しく紹介します。
バイヤー、エンジニア、サプライヤー、すべての製造業関係者必見です。
設計が原価の八割を決める本当の理由
なぜ設計段階がこれほどまでに重要なのか
昭和からのアナログ体質が根強く残る製造業。
実は世界の製造業先進企業が、「原価企画」として設計段階でのコスト決定を最重要視してきました。
図面ができ、試作が始まり、工程設計や調達を進めていく中で、「もう間に合わない」「設計変更はコスト増」となる場面は、現場では毎日のように起こっています。
設計図面一枚で、使用部品、材質、工数、そして必要な工程が決まり、そこで決まった仕様が、サプライチェーン全体のコスト構造をガッチリと固めてしまいます。
設計完了後に改善できるのは、多くても二割。
この「八割決まってしまう」事実を無視しては、どんな高度なバリューチェーン戦略も砂上の楼閣です。
従来型のコスト削減アプローチの限界
「見積もり合わせでコストダウン」という購買訓は、今なお昭和の現場で根強いです。
しかし、それではサプライヤーの利益を極端に削り合った結果、品質リスクや納期遅延、ロングタームでの生産安定性の欠如といった“ツケ”が必ずどこかで噴出します。
また、設計段階で見落としたコスト高要因を、現場で“カイゼン”のみで吸収できる時代は終わりました。
現場改善は大切ですが、設計で引いたレールの上をどれだけ丁寧に走っても、最初のレールそのものが間違っていれば、利益は出せません。
フロントローディングとは何か?業界の最新トレンド
フロントローディングとは、開発・設計段階の初期フェーズから、原価・品質・納期・製造のあらゆる検討を前倒しで集中的に行うマネジメント手法です。
従来の「やってみてから、直す」ではなく、「最初に徹底的に詰める」から始めます。
欧米や一部日系グローバル企業では「APQP(Advanced Product Quality Planning)」や「コンカレントエンジニアリング」など、部門横断での設計初期推進を定着させています。
この流れは、コロナ禍による部材調達難、グローバルサプライチェーンの分断とも相まって、ますます重要性が増しています。
原価八割を下げるフロントローディング実践チェックリスト
では本題、あなたが今すぐ現場で実践できる、「原価八割削減」に直結するフロントローディング・ポイントを具体的チェックリストとしてお届けします。
ここでは、設計者だけでなく調達、購買、生産管理、品質管理、サプライヤーそれぞれの視点も反映しています。
1. 初期コンセプト段階でのコスト要件明文化
・ターゲット原価、原単位(/個、/kg、/セット)を最初の企画段階で必ず設定
・競争他社や市場価格の徹底ベンチマーク、根拠データを明示
・仕様案とターゲット原価の整合を一覧表で比較
・設計者、調達、営業、工場長など部門横断で初期ミーティングを必ず設ける
2. 部品点数・材質・構造の徹底的な簡素化
・設計BOM(部品表)を最初に「本当に必要か?」で全洗い出し
・複数部品の一体化(モジュール設計、アセンブリ簡素化)の意識徹底
・使用材質を汎用品(特注→標準)へ大転換する思想
・設計思想の踏襲ではなく、「なぜその仕様なのか?」の深掘り検討
・変更による品質影響は同時並行でFMEA(故障モード影響解析)実施
3. 工法・生産プロセスの徹底レビュー
・複雑工程や手作業部分の排除、装置化可能性の都度確認
・既存設備の活用範囲で納まる設計かを生産技術担当と事前協議
・検査コストや工程内品質維持策の事前マッピング
・難加工部品や非汎用治具が必要な設計かチェック
4. サプライヤー参画型設計方式(DFM:Design For Manufacturability)の徹底
・主要部品サプライヤーを初期設計レビューに早期巻き込み
・サプライヤーの現場エンジニアとのリアルな技術対話を重視
・試作段階での「作れない」「高価になる」ポイントは即洗い出し
・単なる価格交渉でなく、市場購入部品(コモディティー)の検討も積極化
5. 型・金型・治具の共用と投資回避
・新規設計ごとに新金型・新治具を作らず、既存流用の最大化
・流用リスト・共通部品リストを設計標準書に組み込む
・初期投資額の回収シミュレーションを設計会議で確認
・「カスタマイズしない思想」を原価企画リーダーが徹底共有
6. 品質・規格要求の過剰設計排除
・「安全率」「精度」など、要求を闇雲に上げない(必要最小限化)
・自社/顧客/官公庁規格とのしっかりとした適合範囲を設計初期で遵守
・不要な検査項目や付加価値を「本当に顧客は望んでいるか?」で見極め
7. 納期・調達リードタイム前提の再設計
・長納期部材やグローバル調達リスク部品を「設計で使わない」判断
・短納期、地場サプライヤー調達のための設計的工夫(サイズ、仕様見直し)
・サプライヤーの在庫や余剰能力活用を見越したBOM設計
8. グローバルコスト情報と市場見通しを組み込む
・海外生産と国内生産の原価比較を初期から数値化
・為替、物流コスト、サプライチェーンリスクも同時勘案
・丸投げせず、バイヤーが自分の目で海外サプライヤー実力を現地確認
9. 技術伝承・標準化による設計変動要素の最小化
・属人的な設計ノウハウや“名人芸”に頼らない仕組み作り
・設計変更管理プロセスの標準化、省人化
・エンジニアの教育体系整備で「毎回一から設計」のムダを徹底排除
10. 失敗事例・過去のトラブル情報の活用
・「なぜコストが下がらなかったか」過去事例を設計会議にフィードバック
・他社/他業種の失敗・成功事例を積極参照
・設計・調達部門間の情報壁(サイロ化)を無くすためのナレッジ共有体制
なぜ、現場は「フロントローディング」に失敗するのか?
フロントローディング導入の最大の壁は、組織間の縦割り意識と“前例踏襲病”です。
設計は設計、購買は購買、生産は生産と分断され、初期段階で本質議論ができない構造に陥りがちです。
工場長・品質管理・サプライチェーンリーダーとして現場を見てきた実感として、真の意味で“部門横断”が実現できる組織はまだまだ極僅かです。
また、「設計の自由度が…」「納期が…」という理由で、初期会議は形骸化しがちです。
忙しさのあまり、「事後調整」で何とかしようとすると、必ず後で二度手間、三度手間が発生します。
昭和型の“なんとかなるさ”は、グローバル市場競争では通用しません。
では、誰が推進するべきか?
本質的には「経営層による覚悟」が必要です。
ですが、現場レベルでできることも多いのです。
・調達・購買担当がデータ分析・市場調査で設計者をリード
・設計者が「使いたい部品」ではなく「作れるもの・調達可能なもの」を主体的に選ぶ
・サプライヤーが提案型の技術営業で、初期段階からコスト低減案を提示
この3者(設計/購買/サプライヤー)が初期段階から腹を割って率直に協働する。
それが“フロントローディング型のモノづくり”の要諦です。
さいごに ― 新たな製造業の地平を切り拓くために
製造業の未来は、今この瞬間の「設計段階フロントローディング」の一歩から始まります。
最初に「いい設計」をし、「いいコスト目線」と「いいチームワーク」があれば、80%の原価は必ず下げられます。
現場で働く皆さんが、本記事のチェックリストを明日からの職場の“標準”として使い倒してもらえることを心から願っています。
組織や業界が変わる「きっかけ」は、必ず“現場の気づき”と“最初の一歩”です。
今日からあなたが、原価八割削減のフロントローダーです。
明日の現場を、いっしょにアップデートしていきましょう。
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