取引先に登録を頼めないとき——見積と発注は相手に合わせ、記録はこちらでまとめる | newji
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投稿日:2026年10月2日

取引先に登録を頼めないとき——見積と発注は相手に合わせ、記録はこちらでまとめる

この記事のポイント(結論先出し)

取引先にシステムへの登録を頼めないとき、無理に頼む必要はない。見積と発注のやりとりは相手の手段に合わせ、記録を一か所にまとめる作業は発注する側が引き受けると割り切るほうが回る。発注書は、2026 年 1 月から相手の承諾の有無にかかわらず電子メールなどで出せるようになったが[2]、相手から書面を求められたら遅滞なく交付する必要がある[1]。FAX・紙・電話で届いた見積は、届いた形のまま保存の扱いが分かれる[3][4]ので、原本の置き場と、社内の記録に入れ直す人と時点を先に決めておく。

登録を頼めない取引先は、珍しくない

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受発注や見積のやりとりをシステムに移そうとすると、必ず「その取引先にもシステムに登録してもらえるか」という問題にぶつかる。長く付き合っている小さな加工先ほど、担当者が現場と兼務でパソコンを開く時間が限られる。取引先の側から見れば、発注元ごとに別の画面へ登録してログインすることになり、発注元が 10 社あれば 10 の画面を覚えることになる。FAX で注文を受け、電話で納期を答えるやり方が、その会社にとってはいちばん確実だったりする。

登録を頼むこと自体は問題ではないが、断られたあとの押し方には線がある。公正取引委員会の優越的地位の濫用に関する考え方には、受発注の電子化の場面を扱った想定例がある。別の事業者のサービスで既に間に合っている相手に、取引をやめることをほのめかしながら、自社が指定する割高なサービスを使わせる、という形である[5]。公正取引委員会のテキストに資料として収録されている受託中小企業振興法の振興基準も、電子受発注に乗るかどうかは受託側が自分で決めることとし、乗らなかったことを理由に取引で不当に不利な扱いをしないよう求めている。発注側が持つべき費用を受託側へ回さないことも同じ箇所に書かれている[1]。断られたときの交渉の進め方は取引先に「システムは使えない」と言われたらで、登録させる方式を選ぶかどうかはサプライヤーポータルは要るかで扱った。この記事は、登録を頼まないと決めたあと、見積と発注を実際にどう回すかを書く。

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考え方:やりとりは相手に合わせ、記録はこちらでまとめる

登録を頼まない運用の基本は、二つを分けることである。相手とのやりとりは相手の手段に合わせる。社内の記録は、相手の手段にかかわらず一か所にまとめる。後者を相手に頼まないので、まとめる作業はすべて発注する側に残る。この作業を誰が・いつやるかを決めずに「相手に合わせる」だけを決めると、FAX の見積は複合機のトレーに、電話の回答は担当者の手帳に、メールの見積は担当者の受信箱に残り、社内のどこにも一覧が無い状態になる。

相手の手段ごとに、見積の受け取り方・発注書の出し方・保存の扱いを並べると次のようになる。

相手の手段 見積の受け取り方 発注書の出し方 受け取った見積の保存
メールなら返せる メールの添付、または登録不要の回答リンク 電子メールで送る(承諾は不要) 電子データのまま、検索できる形で保存
FAX(紙で受ける複合機) 紙の見積書 FAX で送る 紙のまま保存
FAX(データで受ける複合機) PDF などのデータ FAX で送る 電子取引として、データで保存
電話・口頭 聞き取り。後で書面かメールでもらう 書面か電子メールで出す(口頭だけは不可) 後から受け取った書面・データを保存

表の右の 2 列は、相手の手段で扱いが変わる部分である。以下で順に確かめる。

見積の受け取り方と、保存の扱い

メールで返せる相手

メールを使える相手なら、見積の依頼と回答はメールで回せる。回答用の欄を決めた画面にリンクで答えてもらう方式なら、相手はアカウントを作らずに回答でき、受け取る側の転記も減る。添付で回すときの詰まりと、リンクでの回答に替える方法は見積依頼をメール添付で出さないで扱う。

メールで受け取った見積は電子取引のデータとして保存する。国税庁は、電子取引の範囲に電子メールで取引情報をやりとりする取引を含め、添付ファイルによる場合も含むとしている[3]。

FAX の相手

FAX は、受ける側の機械によって扱いが変わる。国税庁は、ペーパーレス化された FAX 機能を持つ複合機を利用して受け取るものを電子取引に当たると考えられるものとして挙げ、受領者の側でデータの訂正や削除ができるのが一般的なので、タイムスタンプを付けるか、事務処理規程に基づいて適切に管理する必要があるとしている[3]。一方、紙に印刷して受け取る FAX は書面のやりとりである。国税庁のパンフレットは、保存の対象はあくまでデータでやりとりしたもので、紙でやりとりしたものをデータ化しなければならないわけではないとしている[4]。

同じ取引先でも、社内の複合機の設定を変えると見積書の保存の扱いが変わる、ということになる。FAX の受け方を変えるときは、保存の手順も一緒に変える。FAX と電話の見積・発注の保存はFAX と電話の見積依頼・発注は、電帳法でどう保存するかで詳しく扱った。

同じ見積が紙とメールの両方で届いたとき

FAX で見積書を送ったあと、念のためと同じ内容をメールでも送ってくる会社がある。国税庁は、電子データと書面の内容が同一で、書面を正本として扱うことを社内で取り決めている場合は、書面の保存だけで足りるとしている[3]。ただし、メールの本文で条件を補足しているなど、電子データに書面を補完する情報が含まれていて内容が同一でない場合は、両方を保存する必要があるとしている[3]。「どちらを正本にするか」を取引先ごとに決めておき、メール本文に条件が書き足されていないかを受け取るたびに見る。

電話・口頭の相手

電話で単価を聞き取ることは、急ぎの場面では避けられない。ただ、口頭で決めた単価は後から確かめようがない。振興基準は、原価低減要請に関する望ましくない事例として、口頭で削減幅などを示唆したうえで見積書の提出を求めるなど、書面等の記録を残さずに原価低減要請を行うことを挙げ、委託事業者と中小受託事業者の双方が取引対価の協議の記録を保存するものとしている[1]。電話で聞いた数字は、聞いた側がその日のうちにメモに起こし、後で相手から見積書を書面かメールでもらう、という二段構えにしておく。

発注書の出し方

見積と違い、取適法の対象になる取引では、発注書にも法令の決まりがある。2026 年 1 月施行の改正で、発注内容を明示する書面の交付について、中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず電子メールなどの電磁的方法によることが可能になった[2]。登録を頼めない相手にも、発注書は電子メールで送ってよい。

ただし、二つの条件が付く。一つは方法の要件で、公正取引委員会のテキストは、電磁的方法で明示する場合は、明示事項が中小受託事業者のコンピュータやスマートフォンなどの画面に文字・番号・記号などで明確に表示されるものでなければならないとし、その方法の一つに電子メールなど受信する者を特定して情報を伝達する方法を挙げている[1]。もう一つは書面の求めで、電磁的方法で明示した場合でも、中小受託事業者から明示事項を記載した書面の交付を求められたときは、遅滞なく書面を交付しなければならない[1](中小受託事業者の保護に支障を生ずることがない場合として規則で定める場合を除く)。

FAX しか使わない相手には、発注書を FAX で送り続けるのが現実的である。電子メールで送ってよくなったからといって、相手が読まない手段に切り替えても意味がない。届け方の詳細は発注書を取引先にどう届けるかで整理している。

社内の記録に入れ直す——代理入力の決めごと

相手に合わせてやりとりすると、見積はメール・FAX・紙・電話のメモとばらばらの形で届く。これを社内で比べ、発注につなげるには、どこか一か所の記録に入れ直す必要がある。これを発注する側が相手の代わりに入れる「代理入力」と呼ぶことにする。代理入力を回すには、次の 5 つを決めておく。

1. 誰が入れるか。見積を受け取った担当者が入れるのか、事務の担当がまとめて入れるのか。担当者が入れると早いが、休むと止まる。事務がまとめて入れると漏れにくいが、比較に使えるまで時間がかかる。

2. いつ入れるか。受け取った日のうちに入れる、と決める。週末にまとめて入れる運用だと、その週のうちに比較して発注先を決めたい案件に間に合わない。

3. 何を入れるか。単価・数量の前提・納期・最小発注数・有効期限・前提とした図面の版に加え、「どの手段で受け取ったか」と「原本の置き場所」を必ず入れる。原本へたどれない代理入力は、入れ間違いを後から確かめられない。

4. 入れた人と日付を残す。代理入力の記録には、相手が入れたのではなく自社の誰がいつ入れたかが分かるようにしておく。数字が食い違ったとき、相手の見積書の誤りなのか入力の誤りなのかを切り分けられる。

5. 原本は捨てない。入れ直した記録は社内の作業用であって、相手から受け取った見積書そのものではない。紙で受け取ったものは紙で、データで受け取ったものはデータで、それぞれ保存する。

Excel のままでよい場合

登録を頼めない取引先が数社で、見積も発注も月に数件なら、代理入力の先は Excel の 1 枚で足りる。取引先・依頼日・受け取った手段・原本の場所・単価・納期の列を作り、受け取った日に 1 行足す。担当者が 1 人で、その人が毎日見ていれば、漏れはまず起きない。

Excel では回らなくなるのは、メールで返せる相手と FAX の相手が混ざり、両方の見積を同じ案件で比べる場面が増えたときである。メールで届いた見積は回答画面やファイルから取り込み、FAX の見積だけを手で入れる、というように、手段ごとに入れ方を分けたくなる。こうなると、一覧と原本の対応を Excel で保つのは難しくなる。移行の進め方はExcel の購買業務をシステムに移す順番で扱う。

システムに移すときに決めること

相手の登録が要るかどうか。見積を依頼する相手、発注書を送る相手が、自社が使う道具にアカウントを持たなくても回るか。持たなくてよい道具なら、取引先ごとに方式を変えずに済む。

代理入力ができるか。FAX や紙で届いた見積を、相手の回答と同じ形で社内側から入れられるか。入れた人が記録に残るか。

メールの返信がどこに届くか。道具から送られる依頼メールや発注メールに相手が返信したとき、その返信が担当者に届くかどうか。届かない作りなら、問い合わせ先を依頼や発注書に書いておく。

FAX をどうするか。道具から FAX を送れない場合、FAX の相手への発注書は道具で作って印刷し、従来どおり送る。送った事実をどこに残すかを決める。

よくある質問

発注書をメールで送るのに、相手の承諾はもう要りませんか

2026 年 1 月施行の改正で、承諾の有無にかかわらず電磁的方法で明示できるようになった[2]。ただし相手から書面を求められたら、遅滞なく交付する必要がある[1]。

FAX で届いた見積を PDF にスキャンして、紙を捨ててよいですか

紙で受け取った書類をスキャンして保存することは、電子取引とは別の制度(スキャナ保存)の要件の話になる。要件を満たさないまま紙を捨てるのは避ける(要件は紙の注文書のスキャナ保存で扱った)。紙でやりとりしたものをデータ化しなければならないわけではない[4]ので、紙のまま保存しておくのが確実である。

登録してくれる取引先と、してくれない取引先が混ざっていても大丈夫ですか

大丈夫だが、社内の記録を一か所にする仕事が重くなる。登録してくれる取引先にだけ便利な方式を使い、してくれない取引先を発注の候補から外す、という扱いは避ける。振興基準は、電子受発注に応じないことを理由として不当に不利な取扱いをしないことを求めている[1]。

まとめ

取引先に登録を頼めないとき、やりとりは相手の手段に合わせ、記録を一か所にまとめる作業は発注する側が引き受ける。見積は、メールなら電子データのまま、紙の FAX なら紙のまま、データで受ける FAX なら電子取引として保存し[3][4]、紙とメールの両方で届いたときはどちらを正本にするかを決めておく。発注書は承諾なしに電子メールで出せるようになったが[2]、書面を求められたら遅滞なく交付する[1]。

代理入力は、誰が・いつ・何を入れ、入れた人と原本の置き場所をどう残すかを決めてはじめて回る。道具を選ぶときは、相手の登録が要らないか、代理入力ができるか、返信がどこに届くかを確かめる。

出典・参考資料

  1. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
  2. 2026年1月から「下請法」は「取適法」へ!(取適法リーフレット)(公正取引委員会)
  3. 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(国税庁/令和 7 年 6 月)
  4. 電子帳簿保存法 電子取引データの保存方法をご確認ください【令和 6 年 1 月以降用】(国税庁/令和 5 年 7 月)
  5. 優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(公正取引委員会/平成 22 年 11 月 30 日・令和 8 年 6 月 17 日改正)

相手に登録を頼まずに、見積と発注を一か所に残す

この記事で扱った項目のうち、Newji one では、見積依頼や発注の相手を自社の企業管理に登録しておけば、相手が Newji one のアカウントを持っていなくても見積依頼を送れます。取引先はメールのリンクからログインせずに回答でき、FAX やメールで届いた見積は購買側が代わりに入力して、ほかの回答と同じ比較に並べられます。発注は「確定して取引先に送付」で発注書 PDF を添付したメールが送られます。なお、FAX で送る機能はなく、依頼や発注のメールに相手が返信しても担当者には届きません。

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