投稿日:2025年7月11日

線寸法公差を英語で正確に記載する図面表記と注記実例ガイド

はじめに:グローバル時代の製造業が直面する「線寸法公差」表記の課題

ものづくりの現場では、図面は「言語」です。
設計者が意図した通りに、加工者がモノを作るためには、正確無比な図面が欠かせません。
近年、日本国内だけでなくグローバルサプライチェーンの中で、図面を国外へ展開する場面も増加しています。

こうしたときに必ず直面するのが、「寸法公差」の正確な英語表記です。
図面上の線寸法やその公差を、日本語で曖昧に書きがちなアナログなやり方は、国際標準であるISO、あるいはASMEなどと齟齬を生みがちです。

本記事では、20年以上製造業の現場を経験して得た知見を活かし、線寸法公差の図面英語表記について、実務目線で分かりやすく解説します。
また、バイヤーやサプライヤーの立場で起こりやすいすれ違い事例も交え、現場で役立つ「実用的な一例」を掲載します。

そもそも「線寸法公差」とは何か?その重要性

線寸法の定義と種類

線寸法とは、部品や製品の長さ・幅・高さ・厚みなど、直線距離で測定される寸法のことです。
JISでは「linear dimension」と表現され、例えば板金の長さやシャフトの径などがこれに該当します。

寸法公差の基本

設計上、寸法には必ず誤差(バラツキ)が発生します。
この「許容される誤差の幅」が「公差(tolerance)」です。
例えば、ある部品の寸法を“50.0±0.1mm”と指示すれば、49.9mm~50.1mmの間であれば合格となります。

なぜ英語表記や国際対応が必須になったのか?

日本ではJIS(日本工業規格)が主流ですが、グローバルな図面展開ではISO(国際標準化機構)やASME(米国機械学会)に準拠した表記も要求されます。
誤解やトラブルを減らすためには、日本語表記のままではなく、誰が見ても誤読しない英語注記や記号の正確さが求められる時代です。

現場で意外と間違っている「線寸法公差」の英語表記実例

最も基本の記載例:±(プラスマイナス)表記

通常の線寸法公差は、次のように記載します。

50.0 ±0.1
(英語表現:50.0 ±0.1)

図面の説明文や注記では、
“Tolerance: ±0.1mm unless otherwise specified.”
「特に指定の無い限り、許容差は±0.1mmです」という意味です。

上下不同の場合の表記(アッパー・ロワー)

±ではなく、例えば“+0.2/-0.1”のように上下異なる公差の場合は、
50.0 +0.2/-0.1
(英語:50.0 +0.2/-0.1)

注記の英語例:
“Tolerances: +0.2/-0.1mm unless otherwise specified.”

累進公差記載(General Tolerances)

JIS B 0405やISO 2768シリーズの累進公差(部分寸法による等級)を英語で記載する場合には、次のように注記します。

“Unless otherwise specified, general tolerances are in accordance with ISO 2768-mK.”

“m”は中級(medium)、Kは線寸法(Linear dimensions)を示します。
図面のどこかにこの記載と、「ISO 2768-mK」などと明記しておけば、公差は自動で規格に従った扱いとなります。

面倒な「穴径」やフィットに関わる公差の例

例えば穴径Φ10H7(公差を持つ穴)を英語で書きたい場合、
⌀10 H7
(Diameter 10 H7)

注記の例:
“Holes to be made in accordance with ISO fit H7.”

JISの英語式記号をISOやASME記号に合わせたいときは、必ず規格通り用語を選択する必要があります。

線寸法公差表記にまつわる現場トラブル事例と、そこから得た教訓

よくあるすれ違い:暫定値・口頭OK・手書き修正……

昭和時代から続くアナログ的なやり方でありがちなのが、「設計意図を口頭で伝える」「手書きで寸法を修正する」「暫定値をとりあえず記載」というもの。
日本の下請け同士であれば曖昧なやり取りでも何とかなっていましたが、ためらいなく海外に渡す時代、歪みや誤差が即アウトとなる場面が増えています。

例えば、日本語で「寸法は実情にあわせてください」と書いた図面を、何もせず英語化せず海外サプライヤーへ渡した場合、現地では“as you like(好きなようにやって)”くらいに勘違いされることも実際ありました。

規格違いによる寸法不良:JISとISO/ASMEのギャップ

日本ではJIS B 0405やJIS Z 8316が一般的ですが、グローバルではISO 2768、ASME Y14.5が主流。
たとえばJISの一般公差は、「寸法の範囲」と「等級(精級、中級、粗級)」で規定されますが、ISOやASMEでは呼称や分類が違う場合が多いため、対応表などで事前に照合しなければなりません。

よく経験するミスは、「日本の中級公差で合格ラインと思ったら、実はASMEではNGだった」「図面の注釈にISOの規格記号を書き忘れたため、サプライヤーで解釈が割れた」といったものです。

実務で使える:線寸法公差の図面表記フレーズ集

基本注記例(すべての寸法に適用)

– “Unless otherwise specified, all dimensions are in millimeters.”
「特に指定のない限り寸法単位はミリメートルです」
– “Unless otherwise specified, general tolerances as per ISO 2768-mK.”
「特に指定のない限り、一般公差はISO 2768-mKに準拠します」
– “Linear tolerances: ±0.1mm unless otherwise specified.”
「線寸法の公差は±0.1mm(他に指定がない限り)」

個別寸法への公差注記例

– “Length: 25.0 +0.1/-0.0 mm”
「長さ25.0mm、上側+0.1/下側0mm」
– “Diameter: ⌀10.0 ±0.05 mm”
「直径10.0mmで±0.05mmの公差」

位置公差、幾何公差に関する例

– “Perpendicularity tolerance: 0.02mm (applied to datum A)”
「直角度公差0.02mm(基準Aに対して)」
– “Flatness: 0.05mm FIM”
「平面度0.05mm FIM」

注意すべきは、注記を記載する欄(notes)や図枠、または該当寸法の直近に書くことです。
伝わりやすさ第一で、冗長な言い回しを避けましょう。

グローバル協業時代に求められる「現場で使える図面英語力」

バイヤー、サプライヤーそれぞれの悩み

部品を発注するバイヤーは「思った通りの精度で納品されない」「海外工場から問い合わせが絶えない」と悩みます。
逆にサプライヤーは「日本の図面は曖昧すぎて指示が読み取りづらい」「グローバル規格との違いに戸惑う」というのが現実です。

本当に必要なスキルセットとは?

形式的なTOEIC英語よりも、図面英語や国際規格の”筋肉質な語彙”・”現場的なニュアンス表現”を身につけることが効果的です。
実際の現場では、「正しく伝える力」そのものが設計品質や調達リスクを左右します。

昭和時代のアナログ体質からの脱却

紙図面、FAX文化、口頭伝承、現物合わせ……。
そうした昭和型のやり方では、今や現場トラブルや再加工コストが増大します。
今後は、グローバルな「共通言語」として、正確かつ明快な図面英語表記&注記が、ものづくり力そのものになるのです。

まとめ:未来の製造現場を築く「線寸法公差の正確な英語表記」の重要性

線寸法公差の正確な英語表記とは、単に和文を英文へ置き換えることではありません。
設計者の“意図”“許容範囲”を、世界中どこでも“不明点ゼロ”で伝達するためのツールです。

これを疎かにすると、設計ミス、加工不良、現場混乱、納期遅延、コスト増……といった多大なリスクに直結します。
特に今後は、デジタル連携や図面レス化、AI設計やIoT生産など、情報の一元化も進む中、公差管理や図面注記のグローバル標準化が極めて重要なキーファクターとなります。

本記事で示した英語フレーズや図面表記のポイントを現場で実践し、世界中の“ものづくり仲間”と、円滑な協働・品質の均一化を実現しましょう。

製造業を支える皆さま、バイヤー・サプライヤー問わず、“伝わる図面力”の追求こそが、これからのものづくりの競争力そのものです。
現場実例や国際規格を上手に使いこなし、次世代製造リーダーを目指してください。

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