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飲食業が自社ブランド食品を製造するためのHACCP対応と製造委託管理

目次
はじめに:飲食業における自社ブランド食品の製造が注目される背景
近年、飲食業界において自社ブランド食品(プライベートブランド、PB)の開発・製造が加速しています。
フードビジネスの多様化とともに、こだわりの商品を自社名義で展開し、店舗やECでの付加価値を高めたいと考える事業者が増加しています。
また、コロナ禍以降のテイクアウト・デリバリー需要の高まりや、コスト最適化の流れも背中を押しています。
自社ブランド食品の製造を検討する場合、「自社工場で製造する」「外部委託(OEM・ODM等)する」という2つのアプローチがあります。
ただし、どちらの選択においても避けて通れないのが「HACCP対応」と、その品質・生産体制をいかに担保し、管理するかという課題です。
本記事では、現場のプロ目線で、飲食業が自社ブランド食品を製造する際のポイントを、HACCP対応・製造委託管理の観点から包括的に解説します。
昭和時代の繰り返し的な「勘と経験」から脱却し、現代的な仕組みと安心安全、持続可能性を両立するためのヒントになれば幸いです。
HACCPとは何か?飲食業が直面する現実
HACCPの基本概要と制度化の流れ
HACCP(ハサップ:Hazard Analysis and Critical Control Point)は、食品の製造工程内で発生しうる「危害要因」を科学的に分析し、それを除去・低減する重要管理点(CCP)を設定して、継続的に監視・記録する衛生管理手法です。
従来型の“最終製品の抜き取り検査”だけに依存せず、製造プロセス全体で未然防止に力点を置く点が特徴です。
2021年6月、全ての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務化されました。
飲食店・給食施設規模であっても、簡略化された「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が必要です。
そして食品製造業やPB開発に乗り出す場合は、より厳格な衛生管理体系が不可欠となります。
飲食業が自社ブランド食品を製造する際の衛生管理課題
一般的な飲食店舗の調理工程と、食品工場における大量生産プロセスでは求められる衛生基準や管理精度が大きく異なります。
飲食店の延長線で考えがちですが、製品化・流通を目的とした場合、
– HACCPに基づいた危害要因分析
– 原材料・資材の調達管理
– 衛生区分(汚染区・非汚染区)の設定
– 作業者の教育・記録管理
– バリデーションやバリフィケーション(検証)
– トレーサビリティの確保
– 製造記録・出荷判定記録の整備
など、求められる仕組みは一気に高度化します。
特に中小規模の飲食店がいきなり“食品製造業”を始めるのは大きなハードルです。
自社工場での製造 vs. 製造委託(OEMなど)の選択肢
厨房を食品製造工場へレベルアップするための現実的ハードル
自社工場化の最大のメリットは、ノウハウやレシピの秘匿性と、徹底的なブランド管理、スピーディなPDCA推進です。
しかし現場レベルでは、
– 専用ライン構築や衛生ゾーニングのための改修・初期投資
– 使用機器や設備の清掃・管理
– HACCP計画の策定~実践~維持
– 人員配置と教育の徹底化
– 不測のクレーム・異物混入リスクへの備え
– 保健所、行政への対応
– 膨大な書類・記録義務
など、多岐にわたる難題が立ちはだかります。
飲食店舗のバックヤードを単純に「製造ライン化」するだけで乗り切れない点には注意が必要です。
製造委託(OEM/ODM)の活用:サプライヤー選定と管理の実際
物理的・人的リスクや、初期投資リスクを抑えられる有力な選択肢が、外部の食品製造業者への委託、いわゆるOEM(相手先ブランド製造)やODM(製品開発まで含む委託)です。
昨今は「小ロット多品種/OEM受託」に対応できる中小規模工場も増えています。
ここで重要なのが、「どのようなサプライヤー(委託先)を選ぶか」「自社がどのように管理するか」というバイヤー的視点です。
数十年来“なあなあ”の顔なじみで済ませてきた商慣習から、一歩抜け出す必要があります。
委託製造の場合は、
– 委託先工場のHACCP取得・認証状況(ISO22000等も含め)
– 製品毎の工程・CCP妥当性、現場オペレーションの見学、監査
– 原材料・資材のロット管理
– レシピ・ノウハウ管理(秘密保持契約など)
– 製造記録・出荷記録の開示
– 品質異常対応やクレーム調査のフロー
– 商品仕様の設定(変更管理含む)
といった、「自社工場と同等レベルの管理・牽引」を委託先と組んで推進していく必要があります。
製造委託はアウトソーシング=“丸投げ”ではありません。
現場との情報共有や課題改善のリーダーシップが、バイヤー(発注サイド)の大きな役割となります。
HACCP対応を担保するための現場主導の“ラテラル”思考
ヒューマンエラー防止と現場力の底上げ
HACCPはシステムの導入がゴールではなく、現場1人ひとりの「なぜその作業が必要か」を理解したうえでの実践が命綱です。
昭和型の“叱って教える”現場文化では、うわべだけの形骸化リスクが高まります。
そのためイノベーティブな発想=ラテラルシンキングが求められます。
例えば、「なぜ工程ごとの記録が必要なのか?」
これは「万が一の異常発生時、ロットの特定と原因究明を的確に行い、社会的信用と命を守るため」であるといった現場への本質的な腹落ちを促進することが重要です。
またAIカメラやIoTセンサーの活用による自動記録、ヒューマンエラーの見える化といった“現場目線”の実装こそがファクトリー・フードテックの新潮流となっています。
点から面への管理:工場だけでなくサプライチェーン全体のHACCP
HACCPは工場内部のみならず、原材料調達から流通・保管・最終提供まで、サプライチェーン全体にわたる管理が理想とされています。
つまり「原材料サプライヤー→OEM工場→物流→最終拠点」という全体の中で、どの部分のリスクがどこにあるか(工程分析)を徹底することです。
ありがちな「責任の押し付け合い」にならず、共通KPI・連携体制の中で“チーム全体”としてのHACCP運用が求められます。
バイヤー(発注者)が旗振り役として主導し、PDCAループで仕組みを進化させることが自社ブランド食品の信頼度向上、CSR(社会的責任)の実現に直結します。
現場目線で見る「HACCP対応」の定着化とデジタルシフト
帳票管理から“スマート工場”への一歩
HACCP運用の大きな壁として、帳票管理や記録作業の煩雑さがあります。
これは特に“手作業文化”“パート・アルバイト中心現場”で負担感が増大し、記録ミス・虚偽記載・抜け漏れといった問題が発生します。
ここで注目されているのが、電子化・デジタル化による省力化です。
例えば、
– スマホやタブレットでのチェック記録
– IoT温度計との連携
– クラウドベースの工程管理システム
– 作業ID(ICカード等)による作業者の自動記録
– 異常発生時のアラート自動化
こうした施策は、現場目線で「簡単・分かりやすい・すぐできる」ものでなければなりません。
また、ITツールの導入は“付加価値向上”ではなく「リスクヘッジ」「省力化」「労働負担軽減」のための手段として現場従業員にしっかり伝えることが大切です。
現場の“納得感”がシステム定着の決め手となり、持続的な改善サイクルへとつながります。
バイヤー視点の製造委託管理:信頼できるサプライヤー選びのコツ
実績・データだけでなく“現場作業”を必ず自分の目で確認
設備が立派、認証取得済み……書類や言葉だけに頼る時代は終わりました。
真に信頼できるOEM・サプライヤーかどうかは、必ず「現場作業」を自ら見て、作業員数人にヒアリングすることが重要です。
工程ごとの衛生ルールが守られているか、現場に清潔感があるか、従業員の士気・定着度はどうか。
「うまく作れます」と言うだけでなく、「なぜその管理方法を取っているのか」「記録はどこに残しているのか」など答えられるか。
現場の雰囲気や働く人たちの“温度感”こそが「事故の起こりにくさ」に直結します。
契約前に最低一度は現場見学・監査(突発訪問も含む)を実施し、齟齬や懸念点はすぐに対策を協議しましょう。
“攻め”と“守り”のバランスが委託成功のカギ
価格、納期、品質、透明性。
委託製造ビジネスはこの4点セットであるべきです。
工賃やQCD(コスト・納期・品質)の攻めだけでなく、
– 長期的なパートナーシップの可能性
– 市場クレーム時の緊急対応力
– 情報開示やトレーサビリティ整備
– 表示・規格外等のリスク対応力
こうした「守り」の視点もサプライヤー選定基準に加えましょう。
製品の一貫生産 or 組立型受託など、生産形態の違いも事前に理解し、適した管理体制を自社主導で用意することが最終的なブランド価値向上につながります。
まとめ:業界の“古い常識”から脱却し、食の新時代をリード
飲食業が自社ブランド食品製造に乗り出す時代は、「厨房から工場へのジャンプ」が避けて通れません。
これまでの“勘と経験”“付き合い重視”から、客観的なHACCP運用・現場デジタル化・強固なサプライヤー管理の三本柱へ。
現場目線でのラテラルシンキング(横断的・革新的思考)が、リスクを制し、安心安全・高品質なブランド構築を可能にします。
バイヤー志望者やサプライヤーの皆様も、ぜひ「本質的な衛生・品質管理はどこにあるのか」という現場主導の仕組みづくりに一歩踏み込んでみてはいかがでしょうか。
自社ならではのPB商品×信頼される衛生管理体制が、他社との差別化、市場での競争力となることでしょう。
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