投稿日:2025年7月11日

熱交換器選定から運用まで押さえる最適活用の基礎

はじめに:熱交換器の重要性と選定のポイント

熱交換器は、工場の生産設備やさまざまな産業で欠かせない装置です。

冷却や加熱、エネルギー効率の最適化、省エネ対策など、その役割は多岐にわたります。

ですが、長年製造業の現場に携わってきた立場としては、熱交換器の強みや選定理由が、現場で本質的に理解されていない場面を多く見てきました。

特に、昭和から続くアナログな管理体制においては、「昔からこうしているから」「カタログスペックが良かったから」という理由で安易に導入されることも珍しくありません。

しかし、設備投資や運用コスト・保守性・ライフサイクルといった観点を含めて選定しなければ、将来的にトラブルやムダな出費を招くこともあります。

本記事では、熱交換器の基礎から選定、導入・運用で必ず押さえておくべきポイントを現場目線で解説します。

購買・調達担当者はもちろん、サプライヤー・エンジニアの皆さまにも役立つ内容になっています。

熱交換器とは何か―その仕組みと種類

基本的な仕組み

熱交換器は、異なる温度の2つの流体間(液体・気体・蒸気等)で効率よく熱エネルギーを移動させる装置です。

「冷却器」「加熱器」と目的ごとに呼称が分かれる場合もありますが、いずれも“熱を移す”という本質は同じです。

現場では、空冷式・水冷式・オイルクーラー・プレート式など、流体の種類や用途に応じて最適な型式が選ばれています。

主な種類

代表的なものに以下のようなタイプがあります。

  • シェル&チューブ(管束)型熱交換器:最も多用途で広く使われる定番。高温・高圧下でも安定動作。
  • プレート型熱交換器:プレートの重ね構造。洗浄・メンテナンス性や省スペース性が強み。
  • 空冷式熱交換器:水を用いず空気で冷却する方式。水資源を使いたくないプラント向き。
  • フィンチューブ型熱交換器:冷暖房機器、自動車、エアコン等でよく用いられる。

それぞれ一長一短があり、実際の選定では流体の種類・圧力・温度・設置場所・メンテナンス性など多角的な視点が求められます。

現場で実践する熱交換器の選定フロー

選定プロセスの全体像

熱交換器選定で、現場がまず押さえておきたいのは「どれだけ正確に自分たちの目的や要件、現場の課題を把握できているか」です。

ラテラルシンキングの観点からは、「従来のやり方」や「カタログ選定」の枠を超えた検討が大切です。

選定ステップは以下の通りです。

  1. 必要な熱交換量・流体の物性値(流量、温度、圧力、腐食性等)の把握
  2. 設置場所・周辺環境・スペース等の物理的制約条件の整理
  3. メンテナンス性(清掃頻度、交換工期、運転中交換可否など)の考慮
  4. 初期投資と運用コスト/ライフサイクルコスト(LCC)を「設備全体」で比較
  5. 将来的な増強や、可変運転への適応性(流量変動、温度変動への強さ)

この一連のプロセスにしっかり根拠を持たせることが、安定したライン稼働や品質確保に直結します。

バイヤーとサプライヤーのギャップを埋める

バイヤー(購買担当)はどうしてもコストや納期、「数字で測れる安全性・経済性」にばかり注目しがちです。

一方で、サプライヤーや技術部門、現場のエンジニアは「運用後のトラブル」「メンテナンス性」「保守パーツの入手性」など、定量化しきれない盲点を意識しています。

両者が歩み寄り、「実運用」「事故や不具合の再発防止」「長期的な安定稼働」を目指して意思統一することが、真の最適化への近道です。

アナログな文化を乗り越えるポイント

「今まで通り」は本当に安全か?

製造業では、「過去の実績」「経験則」だけによる選定が依然根強く残っています。

昭和の高度成長期から長らく日本の生産現場を支えてきたこの価値観には、実は“現場システムに強い職人のノウハウ”“人間系の柔軟な対応力”といった良さもあります。

しかし、裏を返せば

・時代とともに導入設備の多様化、流体の変化、高度な制御の必要性が増している
・最新技術やグローバルなベストプラクティスにキャッチアップできなくなる
・「想定外」に弱い“属人化リスク”が大きくなる

といった課題が潜在しています。

熱交換器選定でも、現場エンジニアが設計仕様書を横流しし「これで発注しておいて」と言い渡す例が後を絶ちません。

こうした体質を少しずつ変えるには、「データに基づく検証」と「ベンダーとの密なコミュニケーション」を両立する意識が大切です。

現場の声を活かすフラットなチーム体制

選定・導入フェーズでは、調達購買・設計・生産管理・現場保守、さらにはサプライヤーも巻き込んだクロスファンクショナルチームを作ることを推奨します。

現場で起きているリアルな課題や、将来の拡張性、保全コスト、トラブル時の“手当てのしやすさ”といった現場情報を一次情報として吸い上げることで、より質の高い選定が可能になります。

調達担当の方も、ぜひ「サプライヤーの営業担当」だけでなく、設計・製造技術者と直接対話の場を持つように心がけてください。

過去の常識にとらわれず、現場こそが積極的に時代を変えていけるポジションであることを忘れずにいたいものです。

導入後の運用で差が出るポイント

運転パラメータのチューニング

熱交換器を導入した後、多くの現場は“導入初期設定のまま長年運用”しがちです。

しかし、流体の種類や製造ラインの負荷の変化、工場全体の稼働バランス、季節要因による温度変化などが加わってくると、「本当にベストな条件か?」は随時見直すべきテーマになります。

例えば、流量や温度制御の自動化を進めたり、熱源ラインのレイアウト変更時に熱損失を事前シミュレーションしておくなど、能動的なPDCAを推進する体制が理想的です。

メンテナンス―アナログ管理から脱却するには

熱交換器は、スケール(配管内部の汚れ)や腐食、流体の詰まりが原因で、本来の性能を大きく落とすリスクを持っています。

昭和型の現場だと、メンテ記録が紙管理、担当者の経験に依存といった“属人化”が非常に多いです。

これを脱却する一歩として、デジタルでの記録化(クラウド管理やIoTセンサーの活用)、メンテナンス周期の自動アラート、点検・洗浄結果の写真による状態比較などが有効です。

また、パーツ交換・洗浄時の工数削減や、「予防保全」的発想での予備部品在庫化も忘れてはいけません。

現場の「なぜ」を掘り下げ続ける文化

現場では、突発的な能力低下や漏れ、温度異常といったトラブルが必ず起こります。

このようなとき、「なぜ起きたのか」「再発防止の本質は何か」をメンバー全員で徹底的に掘り下げ(なぜなぜ分析)、設計・運用・保守の各面に反映させていく仕組み作りが重要です。

つまり、熱交換器一つ取っても、単体の設備としてではなく、「工場全体の品質・安定性・長寿命化」のピースとして位置付け続ける姿勢が現場には求められています。

未来の熱交換器―進化する業界トレンド

省エネ・脱炭素への貢献

近年、地球温暖化やSDGs意識の高まりから、省エネ・カーボンニュートラル対応の視点が熱交換器選定にも欠かせません。

たとえば、排熱回収システムの構築や、既存熱交換器の高効率型へのリプレース(熱効率向上による燃料・電力コスト削減)、IoTでの運転最適化などが列挙できます。

これにより、「設備投資リターン」と「地球環境保護」を両立できる新しい技術革新が次々と登場しています。

AI・DX化の波―“現場の暗黙知”が資産になる

熟練現場のノウハウを「数値データ」に変え、ビッグデータやAIで予兆管理や設備保全に役立てていく流れが急速に広がっています。

熱交換器に関しても、デジタルツイン技術やオンライン監視システムを組み合わせることで、“現場の経験則”を再現可能な「資産」として蓄積できます。

昭和型アナログ管理と最新技術は、決して二項対立ではありません。

両者のベストミックスによって、「真に強い現場と競争力あるサプライチェーン」が今後も生まれていくでしょう。

まとめ:熱交換器選定を究め、現場から未来を切り拓く

熱交換器は、単なる装置の一つではなく、工場全体のパフォーマンス・エネルギー効率・品質安定性などを左右する高度なシステム要素です。

日本のものづくり現場は、たしかにアナログな部分が色濃く残っています。

ですが、過去のやり方に固執せず、「なぜ」「どうして」の問いかけを止めずに、ラテラルな視点で新たな方法を追い求めることで、時代を超えた現場力を築くことができます。

調達・購買だけでなく、現場エンジニアや設計、サプライヤー、経営企画、多様な立場のプロが協働し、経験を知恵に変え、明日の製造業を強化していきましょう。

本記事の内容が、熱交換器選定と運用の実践的なヒントとなり、あなたの現場で新たな価値創出に役立つことを願っています。

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