投稿日:2025年9月7日

指向性エネルギー堆積法による高強度高機能造形の実現手法と応用事例

はじめに:指向性エネルギー堆積法が拓くモノづくりの新地平

指向性エネルギー堆積法(DED:Directed Energy Deposition)は、Additive Manufacturing(積層造形)分野の中でも、特に産業用・製造業向けに発展してきた加工技術です。

この技法は従来の3Dプリンティング技術と一線を画し、高強度と高機能を両立した金属造形や修復、複合材料での開発、そして「一発物」では難しかった大型構造物や部品の製造を可能にしています。

製造現場に20年以上勤務してきた私が現場目線で、DED技術の強み・業界の生々しい実情・導入する際のリアルなポイント、そして具体的な応用事例までを立体的に解説します。

デジタル化に出遅れがちな昭和世代の製造業プロフェッショナルにも腹落ちする「なぜ、今DEDなのか?」を紐解いていきます。

指向性エネルギー堆積法(DED)の基礎知識

DEDとは?仕組みと他方式との違い

DEDは、金属粉末またはワイヤー状の材料をエネルギービーム(レーザー、電子ビーム、プラズマアーク)で局所的に溶かしながら基板上に堆積していく造形手法です。

熟練者なら「肉盛溶接」や「クラッディング」と言うとイメージしやすいかもしれません。
違いは、NC(数値制御)で設計データ通りに精密に材料を配置・成形できる点です。

いわゆる「粉末床溶融結合法(PBF)」と違い、DEDはワークサイズが大きいものや、既存部品への部分追加・修復にも強みを持っています。
部材の選択肢、組成のカスタマイズ幅も大きいのが特徴です。

DEDに適した主な材料

DEDの技術は、以下の主要な材料群で活用されています。

・鉄鋼・ステンレス系
・チタン・チタン合金
・ニッケル基合金(インコネル等)
・コバルト基合金
・アルミニウム・銅等の非鉄金属
・金属間化合物や、セラミック複合材

「軟鋼なら板金でいい」と思うかもしれませんが、DEDは「高価な難加工材」「複数の材料を部位毎に積層」「クリティカルな補修」が主な狙い目です。

なぜ今、DEDが注目されているのか

グローバルな競争と高度化する要求性能

製造業のバイヤー・サプライヤーの立場から見ると、「コストダウン要求」「リードタイムの短縮」「設計の複雑化」「SDGs対応」といった潮流が強まっています。

2020年代に入り、航空宇宙やエネルギー、産業機械向けの部品では、
・従来の鋳造や削り出しでは難しい複雑なジオメトリ
・軽量化と強度の両立
・新材料/異種材料のハイブリッド化
・補修・アップグレード・延命への対応
が急速に求められています。

そこで「一品ごとに柔軟に造形・修復でき、材料制約も小さい」DEDの持ち味が、従来工法では不可能だった領域で新たな価値を生み出し始めています。

昭和的アナログ調達からの脱却にDEDが与えるインパクト

日本の多くの製造現場は、設計図と手配書、紙の伝票で回る昭和的プロセスのままです。
部品サプライヤーの多くが「外注」「多工程」を前提とし、「追加変更は手作業」「材料変更は一苦労」という非効率さを経験してきました。

DEDの台頭は、こうした従来の価値観—
「できるできない」から「やれる・最善を探す」
機能・納期・予算をトレードオフせず「ワンチャン突破する」
というラテラルな視点を製造調達現場に持ちこみつつあります。

特にバイヤー視点で言えば、「短納期・多品種・小ロット・即応補修」への保険になると同時に、「今まで手放していた難案件」に挑戦できる引き出しとして活用できる時代です。

DEDによる高強度・高機能造形の具体的実現手法

① マルチマテリアル積層による新機能の創出

DED最大の特長のひとつが、造形中に材料を切り替えられることです。
同心円状やグラーデーション的に材料組成を制御することで、
「芯は高靭性・表面は耐摩耗」
「耐食層+高熱伝導」
「異種金属の接合+絶縁層」
など、従来不可能だった部品性能を一度に作りこむことができます。

材料粉末の細かい流量制御やレーザーエネルギーの設定を活かし、
金属間化合物による超合金形成や、表面硬化層・耐熱層の局所的生成も可能です。

② トポロジー最適化とDEDの融合

設計側でトポロジー最適化(=構造最適化)データを活用し、
最小限の材料で最大の強度・最軽量化形状を生成します。

DEDはこの複雑形状を高精度に「肉盛り」できるため、
航空部品や型治具など、従来製造不可能だった内部流路・リブ配置も一体形成できます。

この工程により、
従来比20-40%もの軽量化・高強度化・部品点数削減を実現した事例も出ています。

③ 補修・リマニュファクチャリングの高精度化

製造設備や輸送機の大型部品は、摩耗や損傷部分だけを高強度/耐熱材で「肉盛り溶接」してリユース・延命することが定番です。

DEDは、CAD/CAMデータに基づきミリ単位で補修領域をコントロール可能。
摩耗した軸受面やタービンブレード、型部品の局所肉盛溶接による精密補修が行えます。

さらに、摩耗部に従来より高機能な材料(耐食性・強度・靭性)を追加する「機能向上型補修」も登場しています。

④ 大型構造物、特注部品での一体成形

舟体やフレーム、プラント配管の一部など、従来の鋳鍛造ではサイズ・材料制限で非経済的だった大物部品も、DEDでは大型ワークで一体成形が可能です。

物流やプラントなどのメンテ現場で「その場でワンオフ造形」「現地で補修・延命」といったフレキシブル生産が現実味を帯びています。

DED応用事例:製造現場からのフィードバック

航空宇宙分野の最先端活用

海外大手航空機メーカーでは、タービンブレードの補修、燃焼器の耐熱材肉盛り、複雑冷却流路を持つ燃料ノズルの一体成形などにDEDが活用されています。

とくにエンジン部品においては、
・摩耗・損傷部分の選択的肉盛り再生
・従来より耐食・高温材料へのアップグレード
が高評価を受け、部品寿命100-200%向上・コスト20-40%圧縮を実現した例が多数報告されています。

産業機械分野:補修と高機能化の両立

プレス金型や射出成形金型では、摩耗や割れが生じやすいエッジ部にDEDによる耐摩耗合金の肉盛りを行い、型の寿命を飛躍的に伸ばしています。

また、金型内部へ冷却配管などを複雑に造形する「一体冷却金型」なども設計段階からDEDを活用。
少量多品種生産や短納期案件での勝ち筋になりつつあります。

エネルギー・重工分野:現地補修とローカル生産

大型プラント・発電所向けでは、圧力容器やボイラー、配管の部分劣化部位を現地で補修できる“出張DED”型の導入も進み始めました。

大型部品の持ち運び・納期問題・現地の特殊材の手配など、アナログ時代には物理的に不可能だったタイトなサービス要求に応えるキーパーツとなっています。

DED導入・活用のポイント(バイヤー・サプライヤー目線)

検討プロセスとROIの捉え方

DED導入は単なる設備投資ではなく、「何を変えたいのか」「どの医療で生産革新を起こすのか」という問題意識が不可欠です。

バイヤーや設計者が押さえておきたい論点は、
・なぜその部品/工程にDEDが適しているのか
・既存工法と比べたトータルコスト・納期・品質の見積り
・デジタル設計・CAMデータ連携や、検査工程の新設計
・サプライヤー側のDED技術力・材料管理体制

ROIは、単純な部品コストから「部品寿命延長」「在庫削減」「機能向上」「工期短縮」など、総合的に評価する必要があります。

アナログ調達現場への導入アプローチ

昭和的現場・サプライヤーでは、DEDのポテンシャルを理解できるかどうかが分かれ目です。

「今までこうだった」ではなく、
「できなかったことができる」「現場の困りごとが解消できる」
と現場実例に基づいて腹落ちさせる紹介・提案が成功へのカギです。

また部品点数と品種、補修案件数が多い中堅現場こそDEDの効果が最大化しやすく、パイロット導入から徐々に展開する方式がおすすめです。

今後の展望とまとめ―DEDが変えるモノづくりの未来

DED技術は、単なる金属3Dプリントの枠を超え、「個別最適・現場最適」の製造業を実現するカギと言えます。

・工場やプラントの“止まれない現場”での現地造形
・飛躍的な機能向上のための新材料積層
・部品点数削減・在庫最小化・サスティナブル製造のトータル実現

など、「次世代モノづくり」の生きた実践知の一つがDEDなのです。

バイヤー・サプライヤー双方にとって、「できる/できない」「今ある設備で何とかする」思考から、「新しい技術で成長を狙う」発想転換が、これからの製造業の前進には欠かせません。

昭和的アナログ管理体制も、DEDをきっかけにプロセス全体のデジタルシフトが加速しています。

本記事が、一歩先の未来志向で製造業現場を革新したい皆さまのヒントとなれば幸いです。

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