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叱責一辺倒の教育方針が離職を加速させるハラスメントの仕組み

目次
はじめに
製造業の現場では、長らく「叱って伸ばす」という考え方が根強く残っています。
品質や納期が厳しく求められる現場において、上司からの厳しい叱責が日常茶飯事という工場も少なくありません。
しかし、そのような叱責一辺倒の教育方針が、今や従業員の離職を加速させ、深刻な人材流出という問題に発展していることをご存知でしょうか。
本記事では、製造業が直面する「ハラスメントの仕組み」について現場目線で深堀りし、なぜ昭和型の教育スタイルが今の時代に通用しなくなってきているのか、そしてどのように現場改革を進めていくべきなのかを考察します。
調達購買、生産管理、そして工場全体のマネジメント経験を踏まえ、リアルな現実と未来への提案をお伝えします。
なぜ昭和型の「叱責文化」が今も根強いのか
工場現場に根付く価値観
製造業の多くは、まだまだ「ベテランが指導する」という徒弟制度的な価値観が生きています。
「失敗は叱って正すべき」「厳しく指導しないと現場はなめられる」といった昭和の成功体験が、管理層によって脈々と引き継がれてきました。
特に、製品不良や遅延に対して責任追及が厳しい現場では、感情に任せた叱責や高圧的な言動が無意識に「指導」と思われているケースが多いのです。
現場任せのマネジメントとリーダー層のプレッシャー
工場長や現場主任にとって、納期遅延、品質不良の発生は自分の評価やキャリアに直結します。
このプレッシャーが強いほど、「部下に失敗させるわけにはいかない」という焦りから、厳しい叱責という形で現場に跳ね返ってしまいます。
特に慢性的な人手不足や、慢性的な残業が常態化している工場ほど、この傾向は強まる傾向にあります。
アナログ文化と情報の断絶
IT化、デジタル化と言われながら、いまだに紙の伝票や電話連絡が主流という工場も少なくありません。
データに基づく業務改善やトラブルの可視化が進みにくい背景が、「とりあえず現場で頑張る」「気合で乗り切る」といった精神論の温床にもなっています。
叱責による教育が生み出すハラスメントの仕組み
ハラスメントはなぜ生まれるのか
叱責のなかには、業務上必要な注意も確かに含まれます。
ですが、過度な叱責や人格を否定する言動、ミスをした本人の名誉を傷つける公の晒しなどは、速やかに「パワハラ」の範疇に入ります。
日本の製造業では、「これはハラスメントかどうか」判断が曖昧で、「昔からのやり方」に抗うこと自体が難しい現実があります。
負の連鎖が生まれる心理的メカニズム
叱責が当たり前の職場では、人は失敗を恐れて本音を隠すようになります。
知識やノウハウの共有を避けるようになり、現場の課題は隠蔽され、問題が表に出てきた時には取り返しがつかない…、という悪循環に陥ります。
さらに「自分が苦しんだから、後輩にも同じ思いをさせる」という負の継承が発生し、ハラスメント文化が世代を超えて再生産され続けるのです。
現場リーダーの気づかぬうちの「マイクロアグレッション」
大きな怒鳴り声や長時間の説教だけでなく、部下を無視したり、失敗ばかり指摘して成功を認めない、といった一見小さな攻撃も積み重なると大きなダメージになります。
これは「マイクロアグレッション」と呼ばれ、職場の安心感やチャレンジ精神をじわじわと削っていきます。
離職加速の直接原因―なぜ若手や中堅が去っていくのか
他業界と比較した「職場魅力」の低さ
製造業の人材流出は、叱責文化だけが原因ではありませんが、今や他業界との「職場魅力競争」に明らかに負けています。
ITやベンチャー企業が「失敗は糧、成長のチャンス」と掲げている一方で、「一度の失敗で信頼をなくす」「上司の顔色を伺う」職場からは、意欲ある若者が去っていくのも当然の流れです。
現場の声を無視するトップダウン経営
現場で日々奮闘する従業員の声を拾わずに、上層部が方針や改革を押し付けるパターンが後を絶ちません。
これでは「自分の気持ちやキャリアが会社に尊重されていない」と感じ、エンゲージメントが著しく低下します。
最終的には「この会社で働き続ける意義」を見失い、離職という選択肢を取ることになるのです。
中堅層の「挟み撃ち」ストレス
叱責型の教育を受けて育った中堅社員は、自分も現場指導の責任を背負いながら、若手との価値観ギャップや上司からのプレッシャーにも挟まれ、消耗しやすくなります。
「自分も苦しかったが我慢した、だから若手も我慢せよ」という思考停止は、人材定着の最大のリスクになります。
世界・時代が求める新たなマネジメントへ
現場の心理的安全性が生産性に直結する時代
Googleが実施した生産性研究「プロジェクト・アリストテレス」でも明らかなように、チームの成果に最も寄与するのは「心理的安全性」です。
現場で「失敗しても支え合える」「自分の意見が言える」空気感があることで、創意工夫が生まれ、品質や効率も自然と向上していきます。
褒める・信じるマネジメントの威力
「失敗した時こそ、本人を責めるよりも仕組みや業務設計の課題を見直す」「人の強みに注目する」というマネジメントスタイルが、実際に離職率を大きく下げた工場の事例も増えています。
たとえば、毎日の朝礼で具体的な成功体験をみんなでシェアする、失敗事例も「再発防止の種」としてオープンにできる風土が「定着」「成長」「自律性」を伸ばす土壌になります。
バイヤー・サプライヤー視点の「信頼の連鎖」
調達購買部門やサプライヤーとの交渉でも、現場の人材が「安心して挑戦できる」環境であるほど、新しい製品開発や改善提案が活発になります。
厳しい納期、価格、品質の要求は変わりませんが、「自社は人を大切にしている」という評判がバイヤーにも伝われば、長期の取引や困難な条件でも協働関係が築かれやすくなります。
改革のための実践的アプローチ
1:叱るより「フィードバック」に切り替える
本来、叱る目的は「良い方向に行動を変えてもらう」ことです。
ですが、感情的な叱責は「反発」や「萎縮」を生みやすいものです。
そこで、「事実」と「改善案」にフォーカスしたフィードバックを徹底し、プロセスや努力もきちんと認めることが大切です。
たとえば
・「〇〇の手順が〇秒遅かった。しかし、〇〇の工夫は良かったですね」
・「次からは××を追加してみてほしい。難しい場合は相談して」
という具体と共感を込めた言葉が、現場の空気をガラリと変えます。
2:ハラスメント研修と現場対話の仕組みを作る
単なる知識習得のための研修では不十分です。
実際の現場で起きやすいリアルなケース(指示の出し方、叱責の場面など)をロールプレイすること、多職種や世代を横断した対話の場を実施することで、無自覚なグレーゾーンを明らかにしていきます。
3:現場改善につなげる「小さな成功体験」の積み重ね
従業員が自分から意見を言えるようになるには、日々の小さな変化・成長を感じさせることが重要です。
改善提案制度を見直し、提案件数より「参加したこと自体」「チャレンジした姿勢」も積極的に評価しましょう。
「一人一役」「毎日一つ良いことを報告する」など、プレッシャーにならない形で、現場全体の雰囲気を前向きに変える取り組みが鍵です。
おわりに
製造業は、現場の人と人とのぶつかり合いが多い世界です。
「厳しい指導がないと成長できない」「昔の自分より楽をしてはいけない」――その発想が、今や人材流出を招き、企業の競争力を根本から揺るがすリスクになっています。
昭和型の教育を踏襲し続けるのか、それとも現場に心理的安全性とイノベーションを根付かせるのか。
その選択は、一人ひとりの現場リーダーから始まります。
自分自身が受けてきた教育と、今必要とされるマネジメントとの間で悩む方も多いでしょう。
しかし、変革は「今日からできる小さな一歩」から始まります。
人は支え合いで伸びるもの。
部下も上司も、バイヤーもサプライヤーも「誇りを持って仕事ができる現場」に育てていく――。
それが日本の製造業の新しい未来を切り拓くことにつながります。
現場からの、小さな実践と共感の輪が、やがて業界を大きく変える原動力となるはずです。
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