投稿日:2025年9月25日

セクハラを笑いでごまかす上司が現場に与える悪影響

はじめに:令和の現場でも、まだ残る“昭和の空気”

製造業の現場に長く身を置いていると、「今どきこんなことがまだあるのか」と驚かされる場面に直面することがあります。

その一つが、上司によるセクシャルハラスメント(セクハラ)を周囲が“冗談”や“笑い”でごまかしてしまうという現象です。

不適切な発言や行動が「昔は普通だった」「笑っておけば丸く治まる」と暗黙の了解で塗りつぶされ、誰も声をあげない。

こうした昭和のアナログな空気が令和の職場にも根強く残っているのが現実です。

この記事では、元現場管理者である私の経験も交えながら、「セクハラを笑いでごまかす上司」が現場にもたらす悪影響について深掘りしていきます。

また、バイヤーやサプライヤーとして関わる方にも有益な考え方、実践的な対応策についても触れていきます。

なぜ“冗談だからOK”という雰囲気が根強いのか

長く続く年功序列の壁

日本の製造業は、年功序列やヒエラルキーの強い組織文化が根深くあります。

たとえ不快な言動があっても、「先輩のことだから」「上司の冗談だから」で済まされてしまう。

かつて現場管理者だった私自身、研修や朝礼で「部下が話しかけやすい雰囲気作りを」と言われながら、現実には年長の上司の機嫌を損ねないよう配慮し続ける部下を多く見てきました。

“チームワーク”という名の忖度

「和を乱さない」「チームワークを優先」といった価値観も、セクハラの笑いごまかしに拍車をかけます。

不快な発言を真正面から指摘したら「空気読めないやつ」「ノリが悪い」と評価され、場合によっては“使いにくいやつ”と烙印を押されかねません。

サプライヤーとして現場に出入りする方も、こういう文化に直面した経験は少なくないでしょう。

“男社会”ゆえのジェンダー意識

製造業、特に工場現場は昔から“男社会”色が色濃く残っています。

性差への認識が遅れ、古い価値観を持ったまま管理職になっている人も少なくありません。

「これくらい、冗談だよ」「あの子は笑ってたし」など、相手や周囲の反応でセクハラかどうかを線引きする風潮が未だに存在しているのが実情です。

笑いごまかしによる“現場の実害”

声をあげられず、離職・転職が増える

本来、セクハラは厳しく罰せられるべき行為ですが、「笑っておけば何事もなかったことになる」という職場では、被害者も声をあげにくくなります。

結果として、若手や女性社員が「ここでは働きづらい」と感じ、優秀な人材ほど辞めていってしまいます。

実際に私の知る工場でも、職場雰囲気を変えられずに退職者が後をたたなかったことがあります。

人手不足や高齢化が深刻な製造業では、これは死活問題です。

現場全体の“信頼関係”が壊れる

セクハラがジョークとして放置される現場では、社員同士の本音の会話や相談が減っていきます。

「問題を口にすると損な役回りになる」
「上層部は結局守ってくれない」
という諦めが蔓延し、健全な信頼関係や心理的安全性は構築されません。

バイヤーやサプライヤーとして関わる際にも、こうした空気は取引先の信用失墜や、協業の効率低下に直結します。

コンプライアンス意識の形骸化

「研修で学んだけど、現場では違う」
「マニュアル上は厳重だけど、現実は…」
こうした二枚舌状態が慢性化すると、現場のコンプライアンス意識がどんどん形骸化します。

とくに下請け企業や協力会社なども巻き込むような大規模現場では、リスク管理の面からも非常に危険です。

自動車や電子部品のようなサプライチェーン全体に広がる業界こそ、こうした“空気”の影響力は無視できません。

サプライヤーやバイヤー視点で考える悪影響

選ばれる企業と選ばれない企業

真剣に現場改革に取り組んでいる企業は、SDGsや女性活躍推進など、社会的要請も重く受け止めています。

調達担当者(バイヤー)としても、「セクハラ体質の企業」とは取引リスクを感じ、一線を画すようになってきました。

逆に「“笑いごまかし”を放置している会社」は、現場対応力や危機管理意識の低さも疑われるため、今後は確実に選ばれなくなっていくでしょう。

サプライチェーン全体の競争力低下

たとえば先進工場の自動化や新技術導入を検討する際、人材の多様性や柔軟な意見交換は不可欠です。

一方でセクハラを放置する現場では、失敗や疑問を“笑って流す”習慣が染みついているため、創造的な意見も生まれにくい。

ひいては、現場力が低下し、サプライチェーン全体の競争力を損なう結果になります。

バイヤーとしては、調達先や協力先の現場風土を慎重に見極めることが必須となる時代です。

なぜ今こそ本気で取り組むべきなのか

働き方改革・ダイバーシティ推進とのダブルスタンダード

働き方改革や多様性推進は、もはや世界的な標準となりました。

古い体質に甘んじることは、国内外の顧客企業から“後進的”と見なされるリスクを伴います。

特にグローバル展開するメーカーや、欧米規格への適合が求められる業種では、今まで以上に現場の“無自覚なハラスメント体質”が問われます。

現場の「リアル」をいかに変革するか

制度だけ整えても、現場での空気が変わらなければ何も動きません。

現場の管理職として、実効力ある対策(たとえば“即時・現場主体の注意喚起”や“定期的な意識調査”、“匿名相談窓口の設置”など)を小さくても地道に積み上げる必要があります。

また、サプライヤーの方も現場訪問時や商談時に、“冗談”に潜む違和感を意識的にキャッチし、取引の判断材料とすることが肝心です。

現場目線で実行できる改革アクション

“笑いでごまかさない”勇気を評価する文化へ

すべての原因は、「問題提起する人が損をする」職場風土にあります。

そのため、たとえば毎月のミーティングの場で、
「現場で“変だな”と思うことがあれば、必ず上司や人事に伝える。伝えた人は必ず守られる」
と明言し、ごく小さな事例でも取り上げる。
そして、その行動を全体の前で評価する。

こうした取り組みが日々のオペレーションに溶け込みはじめて、初めて現場の空気は変わります。

体質改善のための現場リーダー教育

管理職研修に「セクハラ防止」を加えるだけでなく、現場リーダーが“その場で止める”スキル、「先輩や上司の発言でも指摘できる心理的安全性」を徹底的に訓練する必要があります。

これは意外と、若手や女性だけでなく、ベテラン男性社員にも“味方”となる知識です。

“ミスは指摘してこそ減らせる”という現場管理の発想と同じで、“ハラスメントも指摘してこそ減らせる”という共通理解を育てたいところです。

アナログ現場ならではの「気づき力」を活かす

昭和型の現場には、良い意味で「ちょっとした異変に気づく」力があります。

これをセクハラ防止にも活かし、「誰かが苦い顔をしたら“それ、今の大丈夫か?”とサッと声をかける」「気まずい空気を“なかったこと”にしない」といった小さな動作を積み上げていくのが効果的です。

ルールや通報システムだけでなく、“現場の目”が機能するかどうかが実は最大のカギです。

まとめ:空気を変えることは、生産性を変えること

セクハラや不適切な言動を“笑い”でごまかす空気は、現場全体の信頼・人材・競争力に大きな悪影響をもたらします。

特に今後は、バイヤーやサプライヤーの立場でも「現場の空気」を見抜く目が求められる時代です。

“笑って済ませる”ではなく、“変だと思ったら声に出す”。
そしてその行動を勇気あるものとして評価する文化作りこそが、製造業の競争力を支える新しい常識になります。

今一度、現場目線で「空気を変える勇気」を持つこと。
それが、品質・生産性・人材確保の、すべての土台になるのです。

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