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投稿日:2026年6月11日

女性活躍推進と製造業におけるSDGs目標5の実践事例

製造業における女性活躍推進は、SDGs目標5(ジェンダー平等)の実践であると同時に、深刻な人手不足への構造的な打ち手でもある。2026年4月施行の改正女性活躍推進法により、101人以上の製造業企業にも女性管理職比率・男女間賃金差異の公表が義務化され、「見える化」の圧力は中堅・中小にまで及ぶ。調達・購買の現場では今まさに、サプライヤー評価の軸にジェンダー指標が加わる転換点に立っている。

製造業の女性活躍:データが示す現実のギャップ

「ものづくりは男の世界」という慣習の根強さは、数字に如実に現れる。大和総研が2024年3月期の上場企業約1,800社の有価証券報告書を分析したところ、女性管理職比率の平均値は9.8%、中央値はわずか6.3%にとどまる。しかも業種別の差は顕著で、製造業では同6.4%と、非製造業の12.5%と比べて大幅に低い[1]

厚生労働省が毎年実施する雇用均等基本調査(令和5年度)でも、課長相当職以上に占める女性割合は12.7%(部長相当職は7.9%)であり[2]、製造業はこの全産業平均すら下回る。対して、スウェーデンは43.0%、アメリカは41.4%と、欧米との乖離は依然として大きい。

調達現場で押さえるポイント

累計200社以上のサプライヤー視察経験から言えるのは、「女性が現場にいない工場ほど5Sが崩れやすく、業務標準化も遅れている」という傾向だ。これは性差の問題ではなく、多様な視点がプロセス改善に直結するかどうかの問題。女性比率の低い現場は、そもそも改善文化の厚みが薄いケースが多い。

もう一つ見逃せないのが就業者数の構造変化だ。2025年版ものづくり白書によると、製造業の就業者数は2024年に1,046万人と前年より微減し、中小製造業の従業員過不足DIはマイナス18.2という深刻な水準が続く。[3] 若年就業者が2002年比で125万人以上減少している中、女性就業者の活用は選択肢ではなく不可避の構造改革である。

改正女性活躍推進法が変えた「義務の射程」

2025年6月に公布された改正女性活躍推進法(令和7年改正)は、法の期限を2026年3月から2036年3月まで10年延長し、あわせて情報公表の義務範囲を大幅に広げた。[4]

2026年4月1日施行の改正では、常時雇用労働者101人以上300人以下の企業にも「男女間賃金差異」と「女性管理職比率」の公表が義務化された。従来、301人以上の大企業のみが対象だった開示義務が、日本の製造業の大多数を占める中堅・中規模帯へと一気に降りてきた形だ。[4]

また、「えるぼし認定」制度も2026年4月施行の改正で大きく見直された。新たに「えるぼしプラス」認定が創設され、職場における女性の健康支援に取り組む企業を評価する仕組みが加わった。[5] 公共調達においては、えるぼし認定企業が加点評価される仕組みもすでに定着しており、BtoG取引のある製造業者にとっては調達契約の優位性に直結する制度だ。

調達現場で押さえるポイント

製造業の調達・購買を10年以上担当してきた経験から言うと、サプライヤー評価シートに「女性管理職比率」の欄が加わったのはここ2〜3年の変化だ。特に自動車・電機の大手Tier1メーカーでは、CSR調達ガイドラインの更新のたびにジェンダー指標が追加されている。中小サプライヤーが「うちには関係ない」と放置していると、取引継続審査の段階で引っかかるリスクが高まっている。

SDGs目標5が製造業の調達基準に与える影響

SDGs目標5は「ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」が正式な目標文だ。企業活動の文脈では、ターゲット5.5(意思決定への女性の参画)と5.a(経済的資源への平等なアクセス)が特に製造業の実務と接続しやすい。経済産業省はSDGsの優先課題として「あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現」を筆頭に位置づけており[6]、企業向けのSDGs活用ガイドでも目標5の具体的な取り組み手順と公的支援を詳しく示している。[7]

では、サプライチェーンの現場でこれがどう具体化されているか。大手製造業のバイヤーが用いるCSR調査票には、すでに「女性管理職比率の開示有無」「育児休業取得率(男女別)」「行動計画の策定・届出状況」といった設問が並ぶ。応答できないサプライヤーはスコアを落とし、場合によっては次回の入札から除外される。

特に注目すべきは、なでしこ銘柄の選定企業の株価や経営指標がポジティブな傾向を示しているという経産省の公式発表だ。[8] 令和6年度のなでしこ銘柄は計23社、Nextなでしこ 共働き・共育て支援企業が16社選定されており、機関投資家が女性活躍情報を投資判断に活用する動きとも連動している。人的資本経営の評価軸が変わったことで、女性活躍の取り組みは「コスト」ではなく「企業価値の構成要素」として再定義されている。

製造現場に潜む「構造的ボトルネック」の解剖

なぜ製造業の女性活躍は他産業に比べて遅れるのか。理由を「男性文化」という曖昧な言葉で片付けてしまうと、対策も曖昧になる。金属加工・樹脂成形・化学・電気電子・組立完成品の5ジャンル横断でサプライヤーを見てきた経験から、ボトルネックは大きく3層に分かれる。

第1層:設備・施設の構造問題。更衣室・トイレが男性用しかない、重量物の搬送装置が未整備で体力前提の作業が多い、夜勤前提のシフト設計——これらは追加投資なしには変えられない物理的制約だ。特に中小規模の工場では設備改修の資本コストが障壁になりやすい。

第2層:人事制度の設計問題。育休復職後のキャリアパスが「ライン外し」になっている、昇格要件が転勤・異動を前提にしている、評価者訓練が未整備で無意識のバイアスが査定に混入している——これらは制度設計の見直しで対応できるが、中間管理職の意識変革が伴わないと形骸化する。

第3層:経営戦略への統合問題。女性活躍推進がCSR部門の単独プロジェクトになっており、事業計画・採用計画・設備投資計画と連動していない——これが最も根深い問題だ。女性活躍推進法に基づき、301人以上の企業の8割弱は行動計画の届出を済ませているが、実態として数値目標の達成率は低い企業が多い。数字を作るだけで経営の本丸に落ちていない状態だ。

現場実践の4パターン:成果が出ているアプローチ

中小・中堅製造業で実際に機能している取り組みをパターン別に整理する。いずれも特定企業の名前は出さないが、サプライヤー視察や取材を通じて確認した事実に基づく。

①設備投資で「体力差」を無効化する

アシストスーツ・電動台車・自動搬送ロボット(AGV)の導入により、「重いから女性には無理」という前提を物理的に解体する。ある金属プレス工場では、重量物搬送の自動化後に女性オペレーターを2ラインに配置し、品質検査工程の不良摘出率が改善したという。これは女性の感度が高いのではなく、新規配置者が工程を「当たり前」と見なさず観察を徹底したことによる効果と分析されている。

②シフト設計の多様化で「継続就業率」を上げる

夜勤ゼロ・時短・フレックスなど複数の勤務形態を現場に展開した工場では、育児中の女性だけでなく、介護を抱える男性や持病を持つシニアも継続就業できるようになったケースが多い。重要なのは「女性のための」ではなく「全員のための」設計にすること。特定属性向けの制度は往々にして利用を躊躇させる文化的障壁が生まれる。

③女性主導の現場改善プロジェクト

化学系の工場で「女性だけの改善チーム」を3か月間走らせたところ、動線の短縮・照明の改善・危険箇所の色分け表示が徹底され、全体の労働災害件数が前年比で減少したという報告がある。「自分たちで改善した現場」という当事者感が、定着率の向上と離職防止にも直結した。

④管理職登用と「見える化」のセット

経産省と東証が共同で推進する「なでしこ銘柄」選定は、採用から登用までの一貫したキャリア形成支援と、共働き・共育てを可能にする両立支援を両輪で進める企業を評価する制度だ。[8] 上場企業にとっては投資家向けシグナルになるが、非上場の中小製造業にとっても「どんな企業が先進的か」の学習材料として活用できる事例集が経産省のサイトで無料公開されている。女性管理職が誕生した際に「社内報で特集する」「取引先へのプレスリリースに入れる」という情報発信も、後輩社員のロールモデル効果と社外向けブランディングの両面で機能する。

調達担当者が実務で使う「女性活躍度」の評価軸

バイヤーとして、サプライヤーのジェンダー平等取り組みをどう評価するか。以下の数値比較表は、評価指標として使えるポイントを整理したものだ。

評価項目 対応が遅れている企業の典型例 先進的な企業の典型例 参照基準・出典
女性管理職比率(課長相当以上) 製造業平均以下(6%未満) 15%以上(助成金加算対象水準) 雇用均等基本調査R5・厚労省
女性管理職比率の情報公表 非公表・未把握 ポジティブDBまたは有報で公表済み 改正女性活躍推進法(2026年4月施行)
一般事業主行動計画の策定・届出 未策定(101人以上は義務違反) 策定済み・数値目標を毎年更新 女性活躍推進法
えるぼし認定の取得状況 未申請・認知なし えるぼし★★★以上 or プラチナ取得 厚生労働省えるぼし認定制度
男女間賃金差異 70%未満(男性=100%比) 80%以上かつ縮小傾向 大和総研上場企業調査2024
育児休業取得率(女性) 60%未満 90%以上(業界水準84.1%超) 雇用均等基本調査R5・厚労省
育児休業取得率(男性) 10%未満 30%以上(業界水準30.1%) 雇用均等基本調査R5・厚労省
女性の採用比率 製造業平均(21%程度)を下回る 30%以上を継続的に達成 経済同友会調査・各社開示情報
アシストスーツ等の省力化設備 未導入・重量物は男性専任 全工程に体力依存作業ゼロを目標設定 ものづくり白書・各社事例
多様な勤務形態の整備 2交代制のみ・時短なし 時短・フレックス・昼勤のみ選択可 女性活躍推進法・両立支援助成金
SDGsの社内開示・報告書掲載 掲載なし・取り組み不明 統合報告書またはCSR報告書にSDGs目標5の進捗を掲載 環境省SDGs活用ガイド第2版

上記11指標を5段階でスコアリングすれば、サプライヤーのジェンダー平等取り組み状況をCSR調査票と一体で運用できる。環境省のSDGs活用ガイドは企業の取り組み方法・事例・公的支援を詳しく解説しており[7]、調達部門が自社のCSR評価設計に活用できる実践的資料だ。

女性版骨太方針2024が企業に突きつける目標水準

内閣府は2024年6月に「女性版骨太の方針2024」(女性活躍・男女共同参画の重点方針2024)を閣議決定した。[9] プライム市場上場企業の女性役員について「2030年までに30%以上/2025年までに19%以上」という目標を掲げ、「2025年までに女性役員ゼロ企業をゼロに」という強い方針を示した。[1]

この目標水準と現実の乖離は大きい。製造業の上場企業で女性役員ゼロという会社はまだ少なくなく、非上場の中小製造業では女性役員そのものの概念が希薄なケースもある。しかし、プライム市場の要求水準が高まるほど、そのサプライヤーに対しても同種の開示・改善を求めるプレッシャーが伝播する。製造業のサプライチェーンは数珠つながりであり、Tier1の要求はTier2・Tier3へと波及していく。

男女共同参画白書(令和6年版)は、SDGs目標5と日本の男女共同参画施策の現状を詳細に記録した公式白書であり[10]、政府の本気度と政策のトレンドを確認する上で製造業の人事・総務担当者にとっても参照価値が高い。

中小製造業こそ今すぐ着手すべき理由

「女性活躍推進はコストがかかる大企業の話」と感じる中小製造業の経営者は多い。しかし、コスト試算を少し変えてみると見え方が変わる。

厚生労働省の両立支援等助成金(加速化Nコース)では、女性管理職比率を15%以上に引き上げた場合、1事業主あたり最大60万円(生産性要件適用時)の支給を受けられる。[5] また、えるぼし認定を受けた企業は公共調達で加点評価され、政府・自治体向けの取引拡大に直結する。BtoG比率の高い部品メーカーや機能材料メーカーにとっては、取り組みコストをはるかに上回るリターンが見込める。

加えて、改正女性活躍推進法により、女性管理職比率の公表義務は101人以上の企業に拡大された[4] 公表しなければ法令違反となり、取引先のCSR審査で「法令遵守が不十分」と判断されるリスクが生まれる。中小企業庁が収集した事例集にも、女性パート社員の正社員登用・女性管理職育成によって定着率と採用力を同時に改善した中小製造業の事例が複数収録されており、参考になる。[11]

調達現場で押さえるポイント

中国・東南アジアのサプライヤー網で典型的に見られるのは、「女性従業員の頭数は多いが昇進経路が断絶している」パターンだ。ライン作業員のうち女性が6〜7割を占めながら、現場リーダー以上の女性はゼロ、という構造は珍しくない。欧米バイヤーの調達基準がこの点を問い始めており、日本の製造業も対岸の火事ではない。

サプライチェーン全体でジェンダー平等を「埋め込む」方法

製造業における女性活躍推進をサプライチェーン全体に広げるには、単発のCSR調査票配布だけでは不十分だ。以下の3ステップで段階的に実装することをお勧めしたい。

ステップ1:自社の現状把握とベースライン設定。厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース(ポジティブ・アクション情報ポータルサイト)」では、産業別・規模別の平均値と自社数値を比較できる。[12] まず自社の立ち位置を客観的に把握することが、サプライヤーに要求できる水準の設定にもつながる。

ステップ2:サプライヤー調査票へのジェンダー指標の組み込み。年次のCSR調査票に「女性管理職比率(課長相当以上)」「育休取得率(男女別)」「一般事業主行動計画の策定状況」を加える。初年度は現状確認のみとし、翌年度以降に改善目標の提出を求める段階的アプローチが定着しやすい。

ステップ3:情報開示のサポートと優良事例の共有。サプライヤーへの要求だけでは関係が緊張する。自社のSDGsレポートや女性活躍の取り組みを積極的に開示し、「こういうやり方がある」と具体的な事例を共有することが、サプライチェーン全体の底上げを促す。関東経済産業局が公開しているSDGs先進事例集には、中小製造業が目標5に取り組む具体的事例が掲載されており[13]、社内研修教材としても活用しやすい。

まとめ:「コンプライアンス」から「競争戦略」への転換を

製造業における女性活躍推進は、法令対応という受け身の発想から抜け出す必要がある。調達の現場で見えてきた本質は、「女性が活躍できる工場は、標準化・見える化・改善サイクルが機能している工場」だということだ。これらはいずれも品質管理や生産性向上の基礎でもある。

2026年4月から101人以上の製造業企業に女性管理職比率・男女間賃金差異の公表が義務化され[4]、えるぼし認定制度も「えるぼしプラス」として進化した。[5] なでしこ銘柄の経営指標がポジティブな傾向を示すデータ[8]は、「ジェンダー平等への取り組みが企業価値を上げる」という仮説を裏付けている。サプライヤーとして生き残るためにも、バイヤーとして調達力を磨くためにも、SDGs目標5を経営の本流に位置づける時期が来ている。


出典

  1. 日本の上場企業における女性管理職比率と男女間賃金格差の現状(大和総研、2024年12月)
  2. 令和5年度雇用均等基本調査結果のポイント(厚生労働省)
  3. 2025年版ものづくり白書 概要(経済産業省・厚生労働省・文部科学省)
  4. 女性活躍推進法特集ページ(厚生労働省)
  5. えるぼし認定・プラチナえるぼし認定(厚生労働省)
  6. SDGs(経済産業省)
  7. すべての企業が持続的に発展するために-SDGs活用ガイド-第2版(環境省)
  8. 女性活躍に優れた上場企業を選定「なでしこ銘柄」(経済産業省)
  9. 「女性版骨太の方針2024」を決定しました(内閣府)
  10. 男女共同参画白書 令和6年版(内閣府男女共同参画局)
  11. 中小企業・小規模事業者の人手不足対応事例集(中小企業庁)
  12. 女性の活躍推進企業データベース(厚生労働省)
  13. SDGsに取り組む中小企業等の先進事例の紹介(関東経済産業局)

※ 出典リンクは2026年6月10日時点でリンク到達性を確認しています。

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