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投稿日:2026年6月11日

熱対策を構造で解決し高価な放熱材を減らすサーマル設計

「放熱材を足せば解決する」という発想が、調達コストと開発期間を同時に圧迫している。構造そのものを熱の通り道として設計し直すことで、高価なTIMやグラファイトシートへの依存を減らしながら、より安定した温度管理を実現できる。本稿では、学術論文と現場経験を掛け合わせ、構造アプローチによるサーマル設計の具体策とコスト判断軸を解説する。

熱設計の根本問題——なぜ「材料追加」で解決しようとするのか

電子機器の発熱密度はここ20年で急激に上昇した。
1980年代初頭の8ビットCPUは消費電力1.2W以下で、ヒートシンクも不要な自然空冷が当たり前だった。
ところが現在の車載ECUやインバーター制御基板では、同じ実装面積に桁違いの電力が集中する。このギャップを埋めようとするとき、多くの設計現場が選ぶのが「高性能TIMをとりあえず貼る」「グラファイトシートを追加する」という手順だ。

この発想には構造的な欠点がある。
TIMのコストは熱伝導率の高さに比例し、熱伝導率が4倍になるとコストもその分大きくなる。
さらに、材料を追加するたびに実装工数・品質管理工数・廃棄コストが積み上がる。当社では累計200社以上のサプライヤー視察と量産立ち上げ支援を通じて、「TIMや放熱シートを追加しても期待通りに温度が下がらない」という声を繰り返し聞いてきた。原因の多くは、材料性能より前に熱の経路設計が間違っていることにある。

製造業の調達購買10年以上の経験から言えば、高い放熱材の選定に時間をかけるよりも、設計初期段階で「熱がどこを通って最終的にどこへ逃げるか」という経路を正確に描き、その経路を構造で最短化することに集中したほうが、結果として材料コストも開発工数も削減できる。

放熱の3要素——構造設計で制御できる部分を見極める

熱移動は伝導・対流・放射の3形態に分類される。
電子機器では、発熱部品の熱を筐体等の冷却面に伝導させることで部品温度を下げる手法が基本となる。
3形態のうち、構造設計で最も直接的に制御できるのは「伝導」と「自然対流」だ。

伝導経路は固体の形状・材質・接触面積で決まる。金属シャーシ、ビス、ブラケット、基板の銅箔パターンすべてが「伝導路の一部」になり得る。これらを意図的に設計するか、無頓着に配置するかで熱抵抗は数倍変わる。自然対流については、
再生可能エネルギー設備やLED照明、静音性が求められるAV機器など、電力を消費せずファン故障リスクもない「自然空冷」の需要は高まっており、わずかな温度差で生じる浮力を活かした設計が求められている。

放射伝熱は表面積・放射率・温度差が支配因子で、アルマイト処理や黒色塗装など表面処理の工夫で増強できる。ただし放射が支配的になるのは高温域であり、一般的な電子機器の動作温度帯(50〜100℃前後)では伝導と対流の設計が先決だ。

調達現場で押さえるポイント

金属・樹脂成形・電気電子・組立完成品の5ジャンルを横断して見ると、基板から筐体外板への伝導経路に絶縁スペーサーや空気層が入り込んでいるケースが頻発する。これだけで熱抵抗が数℃/W単位で悪化し、その「穴」を埋めるためにTIMを後から追加投入する悪循環が生まれる。調達段階でサプライヤーに「伝導経路の断面図を提出させる」要件を追加するだけで、設計上の熱経路の問題を早期に発見できる。

サーマルビアと基板構造——放熱材に頼る前にやるべきこと

プリント基板における熱対策の第一選択肢として、サーマルビアの活用がある。
FR-4の熱伝導率は低く、銅の熱伝導率は高いため、銅で内壁めっきされたビアを縦方向の熱パイプとして活用することで、発熱源から裏面ヒートスプレッダや内層GNDプレーンへ熱を逃がすことができる。
[1]

サーマルビアの設計効果についての学術的検討では、配置密度・めっき肉厚・ビア径の最適化が熱抵抗低減のカギとされている。[2]さらに、基板内部の積層構造も見直す余地がある。
プリプレグの厚みを標準の200μmから60μm程度に変更すると、シミュレーション上で15℃程度の温度低下効果が得られ、全部品が恩恵を受けられる。
この手法は材料費の追加なしに基板設計の変更だけで実現できるため、コストパフォーマンスは高い。

プリント配線板の熱伝達特性は、構成材料と積層構造の選択によって大きく変化する。材料・構造因子の違いが熱伝達に与える影響は学術論文でも体系的に研究されており[3]、設計段階での構造選択が最終的な放熱性能を左右する。スルーホール部の高精度等価モデル化によって熱解析精度を上げることも、過剰な放熱材投入を防ぐ有効な手段だ。[4]

調達現場で押さえるポイント

中国・東南アジアのサプライヤー網で典型的に見られるのは、基板設計レビューが量産直前まで行われず、発熱問題が表面化してから急いでTIMを貼るパターンだ。この後付け対応は材料費だけでなく、実装工程の追加・検査強化・不良率上昇を招く。初回試作の段階でサーマルシミュレーションレポートを提出要件にすることで、後工程でのコスト増を防げる。

筐体・フレーム設計——既存構造を伝熱路に変える

基板だけでなく、筐体・フレーム・ブラケットを伝熱路として設計に組み込む発想が、構造サーマル設計の本丸だ。アルミ押出筐体は一般的なSUS筐体と比べて熱伝導率が格段に高く、発熱部品をアルミフレームに直接密着させるだけで放熱面積を飛躍的に拡大できる。

ヒートシンクの構造最適化に関する研究では、3Dプリンティングで作製した格子構造ヒートシンクが従来形状と比べ高い伝熱性能を示すことが報告されており[5]、「形状の工夫で性能を引き出す」アプローチの有効性を学術面でも支持する。フィン形状・ピッチ・高さの最適化によって、同じアルミ重量でも放熱性能は数十%変わる。

また、既存のビスやスタッドの材質を絶縁品から金属材に切り替えることも検討に値する。金属スタッドを経由して基板からシャーシへの伝熱経路を確保すると、ヒートシンク不要になるケースもある。当社が支援した組立完成品メーカーでは、筐体溶接ラインの見直しと金属スタッドへの切り替えを組み合わせ、放熱材のBOM削減と部品コスト削減を同時に実現した実績がある。

チムニー構造と自然対流設計——ファンレス化の実現条件

ファンを搭載すると消費電力・騒音・故障モードが増え、特にIP保護等級を要求される産業機器では筐体密閉との両立が難しい。これを解決する構造的アプローチが「チムニー(煙突)構造」だ。筐体内部に意図的な気流の流れ道を設計し、暖かい空気が自然に上昇して外部に排出されるよう通気口の位置・面積・高低差を最適化する。
自然空冷機器における煙突効果の活用では、ダクト設置による温度低減効果や発熱中心の移動による改善が有効な手法として整理されている。

チムニー構造設計のポイントは、入口と出口の高低差を最大化し、通気断面積のボトルネックを排除することにある。
電子機器の小型化・高性能化が進んだ現在では、設計時から放熱を考慮し、部品配置・筐体材質・形状への対策を繰り返すプロセスが必須となっている。
発熱部品を意図的に筐体の下部に集中配置し、排気口を上部に確保する基本レイアウトを守るだけで、ファン追加なしに5〜10℃程度の温度改善が期待できる設計も少なくない。

TIM・放熱材を「どこに・どれだけ使うか」の判断軸

構造設計で対応できる限界を超えた場合、初めてTIMや放熱材の選定が意味を持つ。ここでの失敗パターンは「高性能材料を全箇所に一律投入する」ことだ。
TIMに求められる性能は熱伝導率だけでなく、薄膜で使用できること、熱抵抗を下げた状態であること、そして界面熱抵抗を限りなくゼロに近づけることが求められる。
つまり、熱伝導率の数値だけを見て選定しても、密着性・厚みの管理ができていなければ期待した効果は得られない。

高分子コンポジット系TIMの熱伝導率向上については学術的な研究が進んでいるが[6]、それでも材料単体の熱伝導率向上には物理的な限界がある。パワー半導体の放熱構造における実測評価では、接触熱抵抗がTIM性能を左右する最大因子であることが確認されている。[7]すなわち、高額のTIMを選ぶよりも「いかに密着させるか」という実装構造の工夫のほうがコスト効果が高い場合が多い。

中小企業庁の公的助成事業では、AD法によるAlNコーティングをヒートシンクに直接一体化することで、ヒートシンクの小型化と放熱グリスの省略を同時に実現した事例が報告されている。[8]このように「材料と構造を一体化する」発想が、コスト削減と性能向上の両立につながる。

各アプローチの効果・コスト・リスクを比較する

アプローチ 熱抵抗低減効果 材料追加コスト 設計変更コスト 実装工数増加 故障リスク追加 量産適用難易度 主な適用場面
サーマルビア最適化 大(構造依存) なし なし なし QFN/MOSFET直下基板
プリプレグ薄板化(60μm) 約15℃低減 微増 なし なし 低〜中 4層以上の多層基板全般
金属スタッド化(絶縁→金属) 中(経路依存) ほぼなし なし 絶縁設計要確認 アルミ筐体搭載基板
チムニー構造(通気路設計) 5〜10℃低減 なし なし なし ファンレス密閉筐体
アルミ筐体ダイレクトタッチ 大(面積依存) ほぼなし 中〜高 なし パワー半導体・車載ECU
格子構造ヒートシンク(3D造形) 大(形状依存) 高(製造コスト) なし なし 試作・少量・高付加価値品
標準TIM(低熱伝導率)貼付 約10℃低減 低〜中 あり ポンプアウト 後付け補完・既存品改良
高熱伝導TIM(高熱伝導率) 約4℃追加低減 あり ポンプアウト 構造対策後の残差対応
グラファイトシート(面拡散) ホットスポット緩和 あり 薄型モバイル・局所ホットスポット
強制空冷(ファン追加) 大(風量依存) ファン故障 高発熱密度・サーバー・産機
AlNコーティング一体化(AD法) 大(絶縁+伝導) 中〜高(初期投資) 削減 パワーデバイス・次世代実装

※効果・コストは一般的傾向を示す。製品仕様・発熱量・筐体条件により異なる。

バイヤーが見落としがちな放熱材の「隠れコスト」

調達担当者の目に入りやすいのは放熱材の単価だが、実際のトータルコストには複数の隠れた要素が存在する。

第一は実装工数だ。グラファイトシートやTIMシートを手作業で貼り付ける工程は、位置精度・押圧管理・バブル排除が必要で、熟練度によって品質がばらつく。自動化ラインに乗せにくい製品ほど、この工数コストが積み上がる。
TIMの実際の性能(接触熱抵抗)を決める要因は熱伝導率だけでなく、密着性や挟み込み圧力、厚みなど多くの要因があり、得られる性能とかかるコストのバランスからTIMを選定することが重要だ。

第二は経年劣化だ。放熱グリスはヒートサイクルによる熱膨張差からポンプアウト現象を起こし、長期信頼性を損なう。
時間が経つと発熱体とヒートシンクの熱膨張率の違いによりポンプアウト現象などが起こる。
これは予防保全や返品対応コストとなって後から顕在化する。

第三はサプライチェーンリスクだ。高性能TIMや特殊グラファイトシートは特定メーカーへの依存度が高く、調達リードタイムが長い。構造設計で代替できる部分を増やすことは、そのままサプライチェーンの分散化と調達リスク低減につながる。

設計・調達・製造の三者が協働する構造サーマル設計のプロセス

構造サーマル設計を成功させるには、設計・調達・製造の三者が同じ「熱の経路マップ」を共有することが前提条件だ。設計者だけが熱解析を持ち、調達が材料コストだけを見て、製造が後付けで対応する体制では、最適解は生まれない。

当社が製造業の調達購買支援で実感することのひとつは、「サプライヤーから構造改善提案が来ることはまれだが、来たときには採用率が高い」という事実だ。サプライヤーが「今ある外装フレームをヒートパスに活かすことで、この放熱シートは不要にできます」という提案を持ってくると、バイヤーは材料コスト削減と信頼性向上の両方を手にできるため、評価が高い。この種の提案ができるサプライヤーは確実にシェアを守り続ける。

熱設計の評価手順として有効なのは、熱解析CAEソフトを用いたシミュレーションの設計初期投入だ。
実装する電子部品と電子基板の発熱特性・熱伝導特性データをもとにした熱量解析を行い、設定した上限温度を超えないことを確認するプロセスを繰り返すことが必要だ。
このシミュレーション工程に調達部門も参加し、「材料を変えた場合」と「構造を変えた場合」をコスト込みで比較できる体制を整えることが、現実的なコスト削減に直結する。

調達戦略としての構造サーマル設計——サプライヤー選定基準の見直し

構造で熱を制御するアプローチが広がると、調達戦略も変わる。従来の「高熱伝導材料メーカーからの調達」という一軸から、「設計・構造改善提案ができる機構部品サプライヤー」「基板設計段階から熱解析を提供できるEMS」「アルミ筐体の熱設計込み製造ができる板金会社」という複数軸の評価が必要になる。

金属加工・樹脂成形・化学・電気電子・組立完成品の5ジャンルを横断して発注先を評価してきた経験から言うと、熱設計の観点でサプライヤーを評価するチェック項目は次のように整理できる。(1)サーマルビア配置を含む基板レイアウトレビューが可能か、(2)筐体材質と熱経路の最適化提案を試作段階から提出できるか、(3)TIM選定の根拠となる熱解析データを提供できるか、(4)量産時の接触熱抵抗管理(トルク・押圧・表面粗さ)の工程管理基準を持っているか。

これらを調達評価シートに組み込むことで、「とりあえず高い放熱材を使います」というサプライヤーと、「構造で根本解決します」というサプライヤーを選別できる。前者への依存を減らし、後者との関係を強化することが、長期的な開発コスト低減につながる。

まとめ——構造ファーストで設計し、放熱材は最後の調整手段に

高価な放熱材は「問題を解決する」のではなく「構造設計の不足を補う」ものとして位置づけるべきだ。サーマルビアの最適化、プリプレグ薄板化、筐体フレームの伝熱路活用、チムニー構造による自然対流強化——これらをすべて検討した上で残った温度マージンに対して初めて、適切なスペックのTIMを最小量投入する。この順序を守るだけで、放熱材のBOMコストを削減しながら設計信頼性を高めることができる。

調達バイヤーにとっては、サプライヤーに「どんな放熱材を使うか」を聞く前に、「熱経路をどう設計したか」を問う習慣が、開発費用と量産コストの両方を下げる出発点になる。


出典

  1. サーマルビアの効果的利用方法の検討(エレクトロニクス実装学会)
  2. 表面実装部品を搭載したプリント基板の熱抵抗算出手法の提案(エレクトロニクス実装学会)
  3. プリント配線板の熱伝達特性に及ぼす構成材料因子と構造の影響(エレクトロニクス実装学会)
  4. プリント基板の熱解析におけるスルーホール部の高精度等価モデル化手法(エレクトロニクス実装学会)
  5. 金属系3Dプリンティングにより造形した格子構造を有するヒートシンクの伝熱性能(日本冷凍空調学会)
  6. 高分子コンポジットのTIM(Thermal Interface Material)の現状と展望(日本ゴム協会誌)
  7. 高熱流束下における次世代半導体用TIMの接触熱抵抗評価(日本機械学会)
  8. 次世代型放熱部品の開発(中小企業庁 Go-Techナビ)
  9. パワー半導体の放熱経路とTIM材料(エレクトロニクス実装学会誌 Vol.17 No.6)
  10. 電子機器における熱対策(日本金属学会誌)

※ 出典リンクは2026年6月10日時点でリンク到達性を確認しています。

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