投稿日:2025年11月8日

金属材料と樹脂材料の違いを理解して最適な加工法を選ぶ考え方

はじめに:製造業における材料選定の重要性

製造業に携わる皆様にとって、製品の品質やコストに直結する「材料選定」は、避けては通れないテーマです。
特に、金属材料と樹脂材料については、その性質や特性、加工法の違いが現場の成果を大きく左右します。

しかし、昭和から続くアナログな業界慣習や過去の成功体験に縛られ、
「とりあえず○○は鉄で作る」、「この部品は樹脂しかダメ」
といった発想に陥っているケースは少なくありません。

本記事では、現場目線に立ち、金属材料と樹脂材料の違い、そしてその最適な加工法を選ぶためのラテラルシンキング的アプローチを解説します。

金属材料と樹脂材料の基本特性を再確認する

金属材料の基本的特性

金属材料は、鉄やアルミニウム、ステンレス、銅合金など多岐にわたります。
一般的な共通点は、強度や剛性が高く、熱や電気をよく伝えるという点です。

金属材料は加工時に熱を加えたり、削ったり、曲げたり、圧力をかけることで自在な形状変化ができます。
また耐熱性や耐久性に優れるため、高負荷のかかる自動車部品、機械部品、構造部材などに幅広く使用されています。

樹脂材料の基本的特性

一方、樹脂材料は軽量で、絶縁性があり、加工性にも非常に優れています。
アクリル、ABS、ポリカーボネート、PEEKなど多種多様な種類があり、それぞれに特徴があります。

金属と比較すると耐熱性・耐薬品性で劣る場合があるものの、
射出成形や真空成形、押出成形などの大量生産に向く加工法が充実しています。
デザイン自由度も高く、複雑な形状や軽量化が求められる家電・OA機器や自動車内装部品、医療部品、食品包装材などに活躍しています。

よくある誤解を解消する:材料選定の現場の盲点

「金属なら安心」「樹脂は安価」…教科書的発想の危険性

現場では「とにかく金属の方が丈夫だ」「樹脂は価格重視のもの」といった固定観念が根強いです。
この発想は時に設計過剰やコスト増を招き、最適解の選択を妨げます。

たとえば、樹脂でもナイロンやPEEKといったエンジニアリングプラスチックは摺動性・耐熱性・耐摩耗性に優れ、金属以上のパフォーマンスを発揮する場面も増えています。
逆に、金属で軽量化やコストダウンを図ろうとすると成形手間や加工歩留りの低下で失敗するケースもあります。

昭和的な「間に合わせ加工」からの脱却

古い現場文化では「万が一の強度を求めて金属にしておこう」「形になればいいからアクリルで」
という場当たり的な選定が見られます。
これは品質問題・コスト増・歩留まり低下・納期遅延の温床となります。

設計時点で材料物性、加工後の仕上がり、耐久性やリサイクル性までをしっかり読み込み、
本当に最適な手法なのかをラテラルシンキング的に疑ってみることが大切です。

金属と樹脂、それぞれの加工法と製造現場での選択肢

金属加工の主要手法と選び方

金属材料の加工法には、切削加工、プレス加工、鋳造、鍛造、圧延、溶接、レーザー加工、放電加工など多種多様な選択肢があります。

設計形状、生産量、コスト、寸法精度、初期投資などを総合的に考慮し、
最適な加工法を選定する必要があります。

・単品生産や精密加工には切削やワイヤーカット
・大量生産向けにはプレス、鍛造、ダイカスト(鋳造)
・高付加価値、複雑形状には3Dプリンタや放電加工

また、最近は生産設備の自動化やロボット活用が進み、短納期・多品種対応力が求められています。
従来のライン化+職人頼みだけでは対応しきれない場面も増えているため、
現場のデジタル人財育成やIoT連携も無視できません。

樹脂加工の主要手法と選び方

樹脂材料の場合、代表的なのは射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、切削加工(MC)、3Dプリントなどです。

・大量生産には金型コストはかかるが高効率な射出成形
・小ロットや試作品には切削や3Dプリント
・中空品や大型品はブロー成形や真空成形

また樹脂の場合、材料自身が着色可能だったり、リサイクル材活用といったサステナビリティ視点の工夫も重要です。

成形不良(ソリ、バリ、ヒケなど)をいかに抑えるかについても、金型設計や成形条件の最適化が鍵です。

バイヤー・サプライヤー実務者が押さえたい「材料×加工法」選定のポイント

コストだけでなくTCO(トータルコスト・オブ・オーナーシップ)で考える

材料と加工法の選定で最も陥りやすい罠が「目先の材料単価に引っ張られる」ことです。
材料費だけでなく、加工コスト、歩留まり、輸送・保管コスト、加工後の二次工数、リサイクル性や廃棄費用まで含めてトータル最適を目指すべきです。

調達段階でサプライヤーに加工歩留まりや不良発生リスク、品質安定性、納期遵守実績までヒアリングし、
加工法や材料選定におけるリスクとコストを見極めましょう。

設計変更×調達リードタイム短縮のために

近年は設計の最適化・変更要望も頻繁に発生します。
材料選定と加工法を柔軟かつ早期に評価できる体制(VA/VE活動やサプライヤーとの技術連携)が不可欠です。

また、部品標準化やサブアッセンブリ化、多品種対応の柔軟な生産体制構築などで
設計から調達、生産へのリードタイム短縮が実現できます。

従来は「設計⇒材料指定⇒現場で何とか合わせる」的だったプロセスも、
今後はサプライヤーのノウハウを巻き込むことで大きく生産性が伸びます。

環境規制・サステナビリティも材料選定の新たな判断軸に

近年、RoHS、REACH、PL法などの規制強化により、有害物質非含有やトレーサビリティ対応、
リサイクル材の活用、省エネルギー加工の推進が求められています。

「今まで通りの金属」「従来からの樹脂」では、
サプライチェーンとしての責任や市場ニーズにも後れを取るリスクが高まっています。

現場目線で発想を広げるラテラルシンキングのすすめ

ラテラルシンキングで過去の常識を疑う

昭和的な「前例踏襲」から脱却するには、設計・調達・サプライヤーが垣根を超えた横断的視点=ラテラルシンキングが必要です。

たとえば…

・「ここは摩耗が激しいから鉄にしよう」⇒本当に鉄しかないのか?
 摩耗しやすい部分だけPEEKやPOMに置き換えてみる。
・「複雑形状で金属だと加工費が高い」⇒樹脂成形やAM(積層造形)で一体化できないか?
・「軽量化したいが剛性が心配」⇒金属&樹脂の複合材やハイブリッド構造を検討できるのでは?

このように、既存の「材料の枠組み」や「加工法の既成概念」を飛び越え
現場目線で最適解を柔軟に探る姿勢が、VUCA時代の製造業サバイバルのポイントです。

現場のコミュニケーションと情報共有の仕組みがカギ

最適材料・最適加工法へとたどり着くには、現場オペレーターから設計者、バイヤー、サプライヤーまで
リアルタイムで意見交換・情報共有できる仕組みづくりが不可欠です。

・情報はサイロ化せず全体最適志向で集約
・データベースやナレッジ共有、現場勉強会の仕組み導入
・サプライヤー訪問や現場改善の合同プロジェクト推進

こうした積み上げが、ひとつ上の「ものづくり力」につながります。

まとめ:これからの製造業を支える材料選定の新常識

金属材料と樹脂材料の選定、そして最適な加工法の選択は
今後ますます「現場目線」「ラテラルシンキング」「サステナビリティ」そして
「部門横断的な情報共有」の重要性が増していきます。

過去の成功体験や昭和的な慣習から一歩踏み出し、
より創造的かつ顧客価値の高い製品づくりのために、
材料・加工に対する発想をアップデートしていきましょう。

バイヤーを目指す方や、サプライヤーとしてバイヤーの思考を読み解きたい方は、
こうした最前線の「材料選定×現場力」にぜひ注目してください。

製造業の未来を担うのは「今ここ」にいる皆さん一人ひとりの
新しいチャレンジです。

You cannot copy content of this page