投稿日:2025年8月29日

海外拠点での再検査を無くすバイリンガル検査成績書の作り方

はじめに:海外拠点での「再検査問題」に終止符を打つ

海外に生産拠点を持つ多くの製造業では、製品の輸出や移管時に「現地での再検査」が大きな課題として立ちはだかっています。
現場での検査成績書がうまく伝わらず、せっかく日本国内で厳格な検査を経て送り出した製品が、現地で再チェックされてしまう。
そのたびに余分な工数・コストが発生し、納期遅延やクレームの種もまいてしまう——。
これは製造業に携わる方なら誰しもが一度は経験する「昭和から続くアナログな悪習」といえるでしょう。

その多くの原因は「情報伝達の壁」、すなわち“バイリンガル検査成績書”の不在にあります。
この記事では、20年以上の現場経験を持つ筆者が、実践的な視点から「再検査を無くすバイリンガル検査成績書」のつくり方を徹底解説します。

なぜ再検査は発生するのか?根本原因を掘り下げる

1. 検査成績書が海外拠点で「読まれていない」現実

海外工場や現地サプライヤーに書類を送付するとき、多くの現場では未だに日本語の検査成績書がそのまま添付されがちです。
「日本語がわかるスタッフがいるから大丈夫」と思っていませんか?
実際には、現地担当者が仕様や測定条件を理解できず、結局「現地基準でもう一度全数測定」となりがちです。

2. 用語や測定方法の「解釈ずれ」

測定器や検査方法についても、日本本社と海外拠点で微妙な違いが発生します。
「測定基準点の指示が曖昧で、違う場所を測定していた」
「合格/不合格の閾値が現地基準と異なる」
こういった測定の“解釈ずれ”が再検査や品質トラブルを引き起こしているのです。

3. 海外スタッフの“心理的な壁”

欧米やアジアの現場スタッフは、「読めない日本語資料」について問い合わせるのを避けがちです。
“わからないなら再確認”という保守的な行動が根付き、結果的に再検査工数が増加します。

「バイリンガル検査成績書」の威力

1. 再検査撲滅の最短ルート

検査成績書を日本語と英語(または現地語)で明示するだけで、現地管理者・オペレーターの理解度は劇的に向上します。
これは単なる翻訳ではなく、「測定基準」「合否判定ロジック」「現地との違い」を可視化し、工場現場に共通言語を与えることを意味します。

2. 信頼構築&納期短縮につながる

誤解なき検査成績書は、現地の受け入れ作業を最小限に抑え、「日本拠点の品質を信頼する」文化を育てます。
それは即ち、納期短縮・コスト削減だけでなくサプライチェーン全体の最適化にも貢献します。

バイリンガル検査成績書の「つくり方」実践ガイド

1. 必須項目とレイアウトの鉄則

海外拠点とやりとりする検査成績書は「必要情報の過不足」が最もトラブルを生みやすいです。
そこで下記のフォーマットを推奨します。

– 製品名、型番(Product Name/Type No.)
– 管理番号、Lot No.
– 管理特性項目(Quality Characteristics)
– 測定基準・判定基準(Measuring Method/Judgement Criteira)
– 実測値(Measured Value)
– 合否判定(Pass/Fail)
– 測定日、担当者名、使用測定器
– 特記事項(備考欄)

各項目には必ず日本語+英語の“対訳”を添え、同一シート内で対応を明示しましょう。

2. 機械翻訳に頼りすぎない「現場寄り表現」

Google翻訳などの自動翻訳はあくまでも補助です。
「寸法」や「平行度」「外観検査」など現場固有の用語は、実際の現地スタッフに微修正してもらうことが肝要です。

具体的な例:
– 寸法:Dimension
– 平行度:Parallelism
– 外観検査:Visual Inspection
– バリ取り:Deburring

品質管理、検査部門、海外拠点それぞれの担当者が納得できるまですり合わせて用語集を作成し、それを毎回参照するのがベストです。

3. 測定方法の「具体的な図解」添付

文章だけでなく、実際の測定手順や治工具の写真・イラストを必ず添付してください。
どの治具で、どの部位を、どう測るか。
視覚化することで「やり直し」「再検査」を根本から減らせます。
現場同士の「阿吽の呼吸」に頼らず、だれでも理解できるマニュアルを目指しましょう。

4. カスタマイズシートで現地適合をレビュー

グローバルに展開している企業は、各拠点ごとのローカルルールが存在します。
日本標準を一方的に押し付けるのではなく、「現地仕様との違い」を一覧化した“カスタマイズシート”を作成します。
例えば、「日本側ではミツトヨ製ノギス、タイ拠点ではKEYENCEの3次元測定器を使用」のような違いがあれば、それも明記します。

後悔しないために:こんな落とし穴に注意

1. 担当者任せの属人化リスク

「英語ができるあの人に任せればOK」と属人化してしまうと、その人の異動や退職時に品質リスクが顕在化します。
【組織のルール化】として“フォーマット化・ナレッジ共有”まで徹底しましょう。

2. システム導入で現場運用が回らないケース

高機能な海外対応システムやRPAの導入も有効ですが、現場が理解しきれず「結局紙ベース」になりかねません。
完全ペーパーレスは理想ですが、現実的には現場の運用感覚にフィットしたデジタル化が必要です。

3. 品質トラブル時の責任転嫁連鎖

万が一、不良や受入拒否が起きた際、「言語の壁」が原因だと証明できるバイリンガル成績書は最強の証跡にもなります。
トラブルの証拠資料としても役立つため、作成ルールと残存期間にも気を配りましょう。

昭和アナログ現場から脱却するコツ

製造業現場には、良くも悪くも「口伝」「暗黙の了解」が根付いてきました。
しかし、グローバル市場や多拠点化の波のなかで、アナログ的なやり方には限界があります。
真の“現場力”とは、曖昧さを排除し、情報の「翻訳力」まで高めてはじめて発揮されるものです。

“伝わらないトラブル”こそ、現場改善・カイゼンがもっとも価値を発揮する領域です。
「なぜ再検査になったのか?」を現場主導で深掘りし、情報伝達の“言語・文化のギャップ”を一つ一つ埋めていく姿勢が、今後ますます求められるのです。

バイヤー・サプライヤー目線のメリット

バイヤー(調達購買担当者)にとって

– 現地での受入検査コストを大幅削減
– 品質保証体制の国際基準準拠をPRでき、サプライチェーン最適化にもつながる
– サプライヤーとの信頼性強化

サプライヤー(海外拠点・協力工場)にとって

– 日本本社からの「無理難題」が減り、現地ルールに準拠した運用が可能
– 標準化された書類でクレーム対応も効率化
– グローバル企業との取引実績を積みやすくなる

まとめ:現場の「伝える力」こそ次世代の武器

バイリンガル検査成績書の導入は、一度つくれば終わりではありません。
現場からのフィードバックをもとに改善し続けることで、はじめて「再検査ゼロ」の体制が出来上がります。
昭和アナログ現場からグローバル化時代への脱皮は、たった一枚の成績書からでも始められるのです。

製造現場に誇りと責任を持つすべての方へ、ぜひ今日から“伝わるバイリンガル資料作り”を実践していただきたいと思います。

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