投稿日:2025年8月17日

複数調達先の価格弾力性を見極めるカテゴリ戦略の立て方

はじめに:製造業におけるカテゴリ戦略の重要性

製造業の現場で、「カテゴリ戦略」という言葉を耳にする機会が増えています。
カテゴリ戦略は、単なるコストダウンや取引先拡大を越えて、サプライチェーン全体の競争力をいかに高めるかという視点をもたらします。
特に、複数調達先を持つことがスタンダードになった現在、その直面する課題のひとつが「価格弾力性」を見抜く力です。

本記事では、昭和時代の“御用聞き調達”から脱却し、グローバル化・デジタル化の両波に適合するために、現場目線で“複数調達先の価格弾力性を見極めるカテゴリ戦略”の立て方について、実践的かつ深い視点で解説します。

カテゴリ戦略とは何か?現場での本当の意味

カテゴリ戦略とは、調達品ごと(原材料や部材、外注品など)に市場環境・技術動向・供給リスク・コスト構造を踏まえて、最適な調達の方針と実行計画を設計することです。
従来の価格交渉一辺倒の調達から「どのカテゴリにはどんなアプローチが有効か」を見抜き、優先順位・分散度・価格交渉力・パートナーシップ度合いなども構造的に考えるのが特徴です。

現場に即した実践としては、「A部品は外注先A・B・Cに分散発注するのがなぜ最適か?」、「B材料はなぜ1社集中が許されるのか?」といった問いに論理的根拠を持つことが大切です。
これは、単なる帳尻あわせのコストダウンではなく、「安定調達とコスト変動リスクの最適化」に直結します。

複数調達先(マルチソーシング)の狙いと落とし穴

1980~90年代の日本の製造現場では、長期的な“御用達”サプライヤーとの蜜月関係が一般的で、いかに「価格表を下げさせるか」が調達の主テーマでした。

しかし、グローバル化や震災・感染症リスクなどサプライチェーンの不確実性が顕著になった現代では、「複数調達先」の確保が最強のリスクヘッジとみなされています。

複数調達先の主な狙いは以下です。

  • 供給途絶リスクの分散(災害/倒産など)
  • 価格競争力の創出(相見積もり)
  • 技術・品質の比較によるイノベーション促進

一方、複数調達先を用意することで起こりがちな課題もあります。

  • 調達数量が分散され、1社あたりの規模メリットが薄くなる
  • 交渉力が分散し、価格弾力性の“見極め”が難しい
  • 品質・納期管理などの管理コストが増加する

現場では「分散しすぎて1社ごとの購買ボリュームが下がり、逆にコストアップした」「品質トラブルをサプライヤー同士で押し付け合う」などの問題も少なくありません。
つまり、“ただの多社化”ではなく、賢く活用する力が問われるのです。

価格弾力性とは?製造現場流「競争力」の正体

価格弾力性とは、簡単に言えば「どれだけ価格を変えたら、供給側の反応や市場の変動がどこまで出るのか」の度合いを指します。
調達単価を1割下げたとして、それが本当に可能なのか?それとも、結果的に品質や納期、アフターサービスの低下を招くのか?を冷静に判断する指標です。

特に、素材価格・為替・物流費・電力コストなどグローバルな不安定要素が多い現代、単なる「値引き要求」だけではサプライヤー側のモチベーションや供給安定性を揺るがしてしまいます。
現場では、以下のようなさまざまな価格弾力性要因を押さえておくことが重要です。

  • 市場の寡占度合い(競争が激しい=弾力性高い)
  • 代替技術や調達先の多さ(選択肢が多い=弾力性高い)
  • 特定の仕様・品質要件の厳しさ(独自設計=弾力性低い)
  • サプライヤー側の設備・投資回収状況(受注が生命線=弾力性高い)

これを肌感覚で実感できるようになるには、「現場での取引履歴」「サプライヤーの工場見学」「市場ニュースのウォッチ」など、足で稼いだ情報収集が欠かせません。

業界固有の“昭和流”調達のジレンマとは?

バブル期以降も残る多くの工場や購買部門では、“御用達”の関係を前提にした「根回し型価格交渉」が今でも根強いです。
サプライヤー側も“顔で助ける”文化が支持され、帳票はFAX、見積もりは口頭、現場訪問して一杯飲み交わすのが信頼の証、という昭和的シーンも根付いています。

しかし、製造コストのグローバル化・サプライチェーン細分化、デジタルツールの普及によって、従来型の“阿吽の呼吸”だけでは限界があります。

この過渡期にこそ「価格弾力性」をロジカルに分析し、本当に競争力を持った取引構造へと進化させる必要があるのです。
昭和流のしがらみだけに留まらず、合理性と現場主義の絶妙なバランス感覚が今、求められています。

実践編:価格弾力性を見極める現場の分析ポイント

価格弾力性を現場で見極めるには、以下の観点でカテゴリ分析を進めることが肝要です。

1. サプライヤー選定時の交渉材料の棚卸し

まずは、過去の調達単価推移表や相見積もり履歴を見返しましょう。
「昨年比ダウン」「ボリュームディスカウント」「競合A社との差」など、数値と事実で“どこまで下げられるのか”のボーダーを見ます。

2. 市場調査・業界情報の取得

原材料や部品の市況価格や、同業他社の調達構造の情報収集も不可欠です。
業界団体や専門誌、展示会、BtoB取引サイトなど、アナログ現場でも使える情報源を駆使しましょう。
また、得意先/サプライヤーの営業マンとの昼食や工場見学も疑心暗鬼にならず、信頼構築と情報収集の場として積極活用すべきです。

3. コスト構造と原価の「見える化」

原材料費、加工費、運賃、管理費、利益…といった原価明細をサプライヤーと一緒に分解していくことで、“どの項目が強い交渉力を持つのか”を見抜きましょう。
例えば

  • 「素材調達費」が高止まり→グローバルソーシングも検討
  • 「設備償却費」が重い→最新生産ラインの導入先も探索

といった打ち手が見えてきます。

4. サプライヤー別の“硬さ・柔らかさ”を数値化する

一見同じ製品を作る複数サプライヤーでも、工場規模や受注安定性による「弾力性」の度合いはまちまちです。
現場ヒアリングやKPI(品質不良率、納入リードタイム、稼働率など)も併せて分析し、“どこのサプライヤーがどんな値段なら本当に動けるのか”数字と手触り感の両面で評価しましょう。

戦術例:価格弾力性を生かすカテゴリ戦略設計のパターン

具体的なカテゴリ戦略の設計事例をいくつか挙げます。

パターン1:コモディティ品のパワーゲーム戦略

市況品や汎用性の高い部品(例:ねじ、一般鋼材、配線)は「競争原理」を育てるのが王道です。
多社見積もり・入札制度・サプライヤー定期入れ替えで価格弾力性を最大活用します。

パターン2:付加価値部品の共創型戦略

独自技術や品質要件の高いもの(例:高精度加工品、エンプラ成型品)については、「パートナー型」の戦略が有効です。
サプライヤー1~2社と密に共同開発し、価格弾力性を高める代わりに、中長期の技術課題共有や投資リスクシェアで“相場より安い”を目指します。

パターン3:リスク分散の二面待ち戦略

災害対応や急激な原価変動リスクがある調達カテゴリでは、主力+補助の2~3社を「柔軟待機」状態にして、定期的な取引実績を確保しつつ価格弾力性を保ちます。

調達購買・現場サイドでいま実践すべき行動

価格弾力性を最大限生かすカテゴリ戦略を現場で浸透させるには、まず調達部門―現場―経営層・サプライヤー間のコミュニケーションがポイントです。
システムやエクセルだけに頼らず、「現場の声」と「データ」の両面でリスク・競争力・ボトルネックを洗い出しましょう。

また、現場レベルでも「単なる安売り要求」ではなく

  • 供給安定のシナリオプラン
  • アップチャージにならない工場自動化や品質改善提案

などを内省・提案する力が求められます。

昭和的なアナログ現場なら特に、日々の現場観察・一声一声の情報蓄積、失敗談の共有などが貴重な“現場アセット”になります。
デジタル時代だからこそ、現場主義の魂を残しつつバイヤーとして新たな分類・見極めスキルを高めることが、未来の調達力向上へとつながるのです。

まとめ:カテゴリ戦略の未来と現場バイヤーへのメッセージ

複数調達先の価格弾力性を見極めるカテゴリ戦略は、単なるコストダウンの枠を超え、製造業の根本競争力を磨く“現場発”の知恵です。

カテゴリ戦略×現場の五感×データによる提案型バイヤーは、今後さらに需要が高まるでしょう。
調達購買に携わる方、これからバイヤーを目指す方、サプライヤーとして顧客の真意に触れたい方は、ぜひこの視点を日々の業務に活かしてください。

アナログとデジタル、威圧と信頼のバランス感覚を兼ね備えた“本気のカテゴリ戦略”で、日本のものづくりの現場から持続的イノベーションを実現していきましょう。

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