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OEMとODMの境界線が曖昧になるケースの見極め方

目次
OEMとODMの基本的な違いとは何か
製造業やバイヤーにとって、「OEM(Original Equipment Manufacturer)」と「ODM(Original Design Manufacturer)」という言葉は、もはや避けて通れないキーワードです。
まずは基本的な定義から振り返りましょう。
OEMは、発注元(ブランドオーナー)が設計や仕様を決め、その指示通りに製品を製造する形態です。
一方、ODMは製造事業者自らが設計から製造まで手掛け、バイヤーはその製品に自社ブランドをつけて販売するモデルです。
つまり、OEMは「作りたいものが決まっていて、工場に発注する」スタイル、ODMは「まだ製品の仕様が荒い状態から、設計・開発を一貫で任せる」スタイルと言えるでしょう。
昭和から続くアナログ的な業界構造の現実
製造業の現場、とりわけ日本のメーカーに目を向けると、未だに“設計は自社、製造は外注”という明快な棲み分けが強く根付いています。
バイヤー側から「設計図があるので、その通りに作ってほしい」と依頼され、工場は忠実に“図面通り”のモノづくりをこなしてきました。
この分業構造は昭和の大量生産型モノづくりから脈々と続く文化です。
しかし、ここ数年でグローバルサプライチェーンの複雑化や、顧客要求の高度化、タイムトゥーマーケットの短縮圧力によって、OEMとODMの間が曖昧になる事例が増えてきました。
境界線が曖昧になりやすい実務の現場例
では、実際にどのような場面でOEMとODMの“境界線”がぼやけるのでしょうか。
ケース1:仕様詰めの中で発注元が設計変更を繰り返す場合
最初はOEMとして「この仕様で作ってください」と依頼がスタートしたものの、コストや納期、技術的な観点から工場側が提案を重ねる。
すると発注元側も「そっちのやり方の方がいいね」と設計を大きく修正し、最終的には工場のノウハウが大きく盛り込まれた設計に仕上がる。
この過程では、どこまでがOEMでどこからがODMなのか線引きが難しくなります。
ケース2:試作・テスト段階での仕様確定の遅れ
初期要求自体がふんわりしている(例:「この市場で求められる安価な製品を作りたい」)場合、工場と発注元の間で何度もプロトタイピングとフィードバックを行うことになります。
やり取りを重ねているうちに、「仕様設計はどちらの役割なのか」曖昧になり、気づけば設計の中心が工場に寄っていく、ODM的なプロセスにシフトしやすいのです。
ケース3:不具合や品質問題対応の過程で設計に踏み込む場合
ビジネスの現場では、量産後に問題が発覚した際、工場が「根本的な仕様変更を提案」するケースがあります。
アフターフォローを重視するあまり、工場側が改良設計や再設計まで実施してしまい、「OEMのはずが、局所的にはODMに酷似した至れり尽くせり」な状況に変貌することも珍しくありません。
なぜ曖昧になりやすいのか―現場視点の実践的考察
これらの背景には、バイヤー側とサプライヤー側双方にとって“メリット”が存在します。
バイヤー側は市場動向の変化やコスト制約、新技術への対応などで悩んでいます。
そのため、技術ノウハウ豊富なサプライヤーに助けを求めます。
一方、サプライヤー側は「提案型」によるバリューチェーン登頂を目指し、より上流工程(設計フェーズ)に食い込みたい――こうした相互依存が、OEMとODMの境界をぼかしているのです。
特に昭和型慣行が強い業界ほど、“なあなあ”、あるいは“阿吽の呼吸”で線引きを棚上げにしやすい傾向が見受けられます。
曖昧さが生むリスクと課題
境界線が曖昧なまま進めてしまうと、様々なリスクが生じます。
たとえば“知的財産権(IP)”の所在問題、責任範囲の曖昧さ(不具合発生時の改修費負担やリコール時の対応など)、コスト増加や納期遅延リスク、将来的な取り決め不備による紛争などです。
中には、「どっちが本当の設計者(責任者)なのか?」という問いが、後々に深刻な問題として浮上するケースもあります。
こうした事例は、部品レベルから製品全体まで、あらゆるレイヤーで散見されます。
境界線の見極めポイントと実務対応
曖昧さが現場ではしばしば“便利なグレーゾーン”にもなり得ますが、適切な管理と運用が必須です。
以下に、境界線を見極めるポイントと、現場で求められる対応策をまとめます。
1. 商品・技術の「核心部分」に注目する
どの部分が「顧客にとって価値の源泉」かを分析します。
例えばブランドの独自性や技術コア部分はバイヤーが握る。
一方、どう頑張っても工場側でないと実現できない工程・ノウハウが関与していればODM的色彩が強まります。
技術資料や仕様書の“どこまで誰が担当しているか”図に書き出して俯瞰するプロセスは効果的です。
2. 権利・責任関係の契約明確化
境界のグレーゾーンについても、契約書や仕様書、会議録などでロール(役割分担)と権利関係を明文化しましょう。
特に「設計成果物の所有権」「瑕疵担保責任」「製造責任範囲」などの条項には注意が必要です。
弁護士や法務部門と連携し、リスクを未然防止する運用が望まれます。
3. 継続的なコミュニケーションとレビュー
試作段階・量産移行前・変更設計時など、重要な局面ごとに必ずバイヤー・サプライヤー双方が目線合わせを行いましょう。
公式なドキュメント化(議事録や変更履歴)も重要です。
組織レベルではPDCAによる運用監査や定期的な社内勉強会の実施も有効です。
4. 「モノ」から「コト」への発想転換
従来の「部品・製品(モノ)」ベース発想から一歩進み、本質的なビジネス価値や消費者体験(コト)に着目してみましょう。
バイヤーとサプライヤーが“目指すゴール”を共に再確認し、そのうえで適切な境界設定を再定義することが、次世代型モノづくりに不可欠となります。
まとめ:戦略的な「曖昧さ」のマネジメントが製造業の未来を左右する
OEMとODMの境界線は、グローバル化・技術革新・市場変化の中でますます曖昧になる傾向があります。
現場目線で見れば、バイヤーもサプライヤーも「一緒になって良いものを作る」ためのクリエイティブな共創環境が求められています。
その反面、曖昧さに潜むリスクを放置すると、知財や責任分担、そして契約トラブルに直結する可能性も無視できません。
だからこそ製造業のプロとしては、「どこからどこまでがOEMで、どこからがODMなのか?」という点を単なる概念ではなく、実務に落とし込んで見極める眼力と、柔軟なコミュニケーション力・ドキュメント力を兼ね備えることが不可欠です。
時代が変わる今こそ、“昭和型のなあなあ”から脱却し、戦略的な曖昧さのマネジメントを強みに変えていきましょう。
現場の知恵と工夫が、次世代の製造業イノベーションの原動力となることを願っています。
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