投稿日:2025年11月2日

生地検査で見るべき“織キズ”“汚れ”“歪み”の具体的な見分け方

はじめに:現場に根付く生地検査の重要性

製造業、とりわけ繊維やアパレル業界の現場では、「生地検査」が品質保証の基礎そのものです。
品質トラブルの一因となる「織キズ」「汚れ」「歪み」などは、一見すると分かりづらい場合もあります。
しかし、これらを見過ごせば、お客様の信頼を失う致命的な問題にも発展します。

この記事では、実際の工場現場で生地検査業務に携わってきた経験から、業界内で確実に役立つ“織キズ”“汚れ”“歪み”の見分け方と、その背景に流れる業界の事情について、わかりやすく解説します。

見落としがちな“織キズ”とは?その基礎知識

“織キズ”の種類を知る

織キズとは、織物工程で発生する繊維の欠点や異常箇所の総称です。
以下のようなパターンが存在します。

– 緯糸抜け(よこいとぬけ):緯糸が正常に打ち込まれていないことで線状の隙間ができる
– 糸切れ・糸ムラ:途中で糸が切れてしまい、生地表面に乱れやふくらみが発生する
– 糸ゴミ・異物混入:異物が生地と一体化して織り込まれる

こうした織キズは、納品後の製品クレームに直結しやすいため厳格な検査が求められています。

現場で使われる具体的な“見分け方”

基本は「目視検査」が中心です。
ロール状の生地を、回転させながら蛍光灯照明下で丁寧にチェックします。

コツは「光の当たる角度」を変えることです。
織キズの多くは凹凸感や色の変化、糸の乱れとして現れますが、真正面からだけでは見落としやすいです。
真横や斜めからすかしてみると、微細な変化を捉えやすくなります。

また、指先で優しくなでるように触れることで、手触りの違い(ざらつき・凹み・ふくらみ)も感じ取れます。

業界では「10cm四方のエリアを区切り、一定距離ごとにチェック」「キズの場所をチャコペンなどで印をつける」といった定型作業も徹底されています。

“汚れ”はなぜ発生する?製造過程と管理ポイント

“汚れ”発生の主な原因

生地に付着する汚れは、工程ごとで発生します。
具体的には、

– 製織時に機械油や手汗が付着
– 輸送時や保管時のホコリ・ゴミ
– 環境要因(湿気、静電気でゴミが吸着)

といったケースがよく見られます。

多くの工場では、工程ごとに手袋着用・クリーンルーム対応・梱包の工夫などで再発防止につとめています。

納入先の要求水準で大きく変わる“許容範囲”

“汚れ”の許容範囲は納入先や用途によって異なります。
たとえば、自動車の内装用生地など「高級感が求められる分野」では、小さな油染みもNGです。
一方、工業資材の一部など「最終用途で隠れる部位」については多少汚れを許容する場合もあります。

ベテランのバイヤーは、こうした“顧客基準”を熟知し、「どこまでOKか」をサプライヤーに明示します。
現場担当者が困るのは「現場判断で勝手にリジェクト(不合格)」してしまい、本来納品可能な生地までもロスになるケースです。
必ず打ち合わせ記録や検査基準書で、顧客要求をすりあわせておきましょう。

“汚れ”の検査テクニック

一般的な生地汚れは、光源を強めに当てながら角度をつけてチェックします。
白い生地の場合、少し暗めの部屋で懐中電灯またはLEDライトを使って横から照らすのが効果的です。

また、綿や合成繊維の生地では「拭き取り」で汚れの簡易判別が可能です。
(ただし、再現性のためクロスやアルコールを統一しましょう)

最終的な判定基準には、国際規格(JISなど)を用いた色差計測やグレースケールによる「数値管理」も活用されています。

“歪み”とは何か?生地の大敵である理由

“歪み”の具体的な種類

生地の“歪み”とは、本来は直線であるべき縦糸・緯糸が波打ったり、左右にずれたりしてしまう現象です。
分類すると以下のタイプがあります。

– 歪斜(わいしゃ):織物の経糸・緯糸が斜めになり、生地が菱形に歪む
– ボウイング:反物全体が弓なりに湾曲してしまう
– シワおよび波打ち:生地表面に小さいシワまたは大きな波

裁断・縫製作業の際に最も困るのが“歪み”です。
生地が真っ直ぐでないと「柄合わせができない」「裁断ラインがズレる」など重大な問題が発生します。

現場での“歪み”検査の実際

歪み検査の古典的方法は、「基準線」を作って配置し、縦糸・緯糸を1mまたは全面チェックすることです。
生地の端から端までを定規や目盛り付きテーブルで広げ、端部の糸を抜いて“線”が真っ直ぐ出るか確認します。

また、光を当てた際、織目のパターンや線が滑らかに見えるか、波打ちが明らかに発生していないか……といった観察も重要です。
斜め方向から真横・真上と目線を振りながら総合的に判断します。

現代では高精度カメラとAI画像解析を組み合わせた「自動検査装置」も普及しつつあり、瞬時に“歪み”データを数値化しています。
しかし、現在も最終工程ほど「人間の目と手による感覚」が頼られており、熟練の職人は数ミリ単位の歪みも見逃しません。

“見分ける力”はどのように養うか

現場OJTと“ベテランから盗む”姿勢が大切

生地検査の技術は、一朝一夕で身につくものではありません。
現場では、ベテランの検査員の横につき、流れる生地を一緒に観察しながら「見る、触る、確かめる」を繰り返します。

ときには「キズを意図的に混ぜたサンプル」を使い、意図的に違いを経験学習することも行われています。

また、「自分の判断をメモしてベテランにフィードバックしてもらう」訓練も効果的です。
こうすることで、「見逃しやすいパターン」「判断基準があいまいなシチュエーション」に強くなり、応用力が身につきます。

“ダブルチェック”体制と品質文化が現場力を高める

業界全体で根付いているのが「ダブルチェック(複数人による再検査)」です。
ひとりの検査力だけに頼ると見落としや基準のブレが起こりやすいため、「異なる担当者が交互に検査」「月に1度の抜き取り監査」といった現場ルールが有効です。

また、検査データや写真の整理・蓄積による“ビジュアルDB”化で、誰でも失敗事例やGoodサンプルをすぐ参照できる環境づくりも重要です。

“デジタル化”がもたらす新潮流とアナログのよさ

画像解析AIと現場職人の融合へ

近年、生地検査の分野でも画像認識AIや自動検査ロボットの導入が始まっています。
大量ロット、厳しい納期……こうした現代の製造業ならではの要請を満たすためです。

しかし、どれほど技術が進化しても「最終判断は人間の目で」という現場文化は根強く残っています。
微妙な色合いや触感、ニオイ・質感の変化は、いまだにベテランの経験に頼る部分が多いのが現実です。

“アナログ文化”の中で活きる現場ノウハウ

今も中小メーカーや下請け町工場では「明文化しきれない暗黙知」が検査現場に厚く残っています。
「この季節は湿気でキズが目立ちやすい」「ベルト音が変わったら油切れ」――そういった細かなノウハウが品質事故を予防しているのです。

また、現場スタッフ同士の「目の合わせ方」「軽い世間話の中で生まれるヒヤリ感」すら、潜在的な気づきにつながっています。

こうした“アナログの強み”も活かしつつ、積極的にIoTやAIによるデータ蓄積・共有を進め、現場全体で「目利き力」を底上げしていくのがこれからの時代の使命です。

おわりに:生地検査を“価値ある仕事”に

生地検査は、地味で辛抱強さのいる作業ですが、まさに“現場力”の象徴のような仕事です。
繊維製造やアパレルものづくりの根幹をなすこの業務を、どれだけ細やかに、どれだけ高精度で、どれだけ効率的に行えるかによって、企業の信頼や付加価値は圧倒的に変わってきます。

今後は、旧来のアナログ手法と最新デジタル技術を絶妙に融合させながら、「現場の静かな誇り」を次世代につなげていきましょう。
サプライヤー側の皆さんもぜひ、バイヤーが「何を重視し、どういった視点で生地を見るのか」を理解し、確かな“検査の目”を磨いていただきたいと思います。

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