投稿日:2025年8月31日

受領時の「クリーン/ダメージド」記載で後日のクレーム勝率を上げるコツ

はじめに:製造現場における「受領時記載」の重要性

製造業の現場では、部品や材料の受け入れ時に「クリーン(良品)」または「ダメージド(損傷品)」と記載することが一般的です。
この一見単純な記載が、後日発生するクレームの対応や勝率を大きく左右することを知っているでしょうか。

本記事では、工場の現場を知り尽くした目線で、「受領時のクリーン/ダメージド記載」を活用し、クレームの勝率を高める実践的なコツを解説します。
また、なぜこのアナログな運用がいまだに業界で根強く残り続けているのか、現場の実情も交えて考察します。

部品メーカーの営業担当や、これからバイヤーを目指す方にも役立つ内容です。

「受領時記載」はなぜ重要なのか?

1. 不良発生時の証拠保全は、製造現場にとって生命線

入荷時に部品の外観や数量を確認し、「異常なし=クリーン」または「異常あり=ダメージド」と納品書や検査記録に記載する行為は、品質保証の観点から最重要プロセスです。

万一後日不良が判明した場合、「受領時には異常なし」と記録済みであれば、工場内で要因が発生した可能性が高くなります。
逆に、「初めから傷あり」と記載してあれば、サプライヤーの責任となりやすくなります。

この『事実の記録=タイムスタンプ』が、責任分界点の根拠になり、クレーム発生時の“勝率”を大きく左右します。

2. 現場での“言った言わない”トラブルを防ぐ

現場は口頭での指示や確認が多く、どうしても「言った」「聞いてない」といったトラブルが日常的に発生します。
とくに、納品当日は忙しい朝礼時間帯や繁忙期に重なることが多く、誰が何を確認したのかが後になって不明になりがちです。

「受領時記載」というシンプルなルールを徹底することで、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。

3. サステナブル調達の流れと、昭和のアナログ運用

近年はデジタル化の波が押し寄せていますが、「受領時記載」の基本運用は変わりません。
その理由は、“現場証拠”の強力さにあります。
どれだけシステムが進化しても、現物を目視し、記入し、署名確認する運用は最終的な担保となります。

サステナブル調達やトレーサビリティ要求が高まる今だからこそ、一次データとしてのアナログな記録の価値も見直され始めています。

クレーム勝率を高めるための「受領時記載」実践のコツ

1. “チェックリスト方式”で見落としを防ぐ

納品物の検品ポイントを事前に整理し、「外観チェック」「数量確認」「仕様一致」「付属品有無」などをチェックリスト化しましょう。
“クリーン”を記載するだけでなく、このチェック項目ごとに記入・サインするフォーマットを作り、誰がどこまで確認したかを明確にすることが重要です。

これにより、受領者個人の見落としリスクを抑制できます。

2. “写真撮影”でダブルエビデンスを残す

スマホカメラによる納品物の撮影をあわせて行うことで、“言葉”+“画像”の二重の証拠が残せます。
ダメージド物品は全体写真・クローズアップ写真をセットで保存し、日付・担当者名も記録しましょう。

写真データは後日クレーム時の“決定打”になりやすく、サプライヤー側も納得せざるを得ない状況を作れます。

3. “第三者立ち合い”で証拠の信頼性UP

トラブルになりそうな高額品や繊細部品の受領時には、現場リーダーや資材部門の責任者にも声かけし、立ち合いを依頼することを推奨します。
2名以上のサインや、第三者立ち合い記録の有無が、クレーム裁定時に重要な信用度アップ要素になります。

4. “記載ルール”の徹底と継続教育

受領記載は現場任せにせず、「こう記載する」「このフレーズはNG」など具体的なルールを策定し、定期的な教育や運用チェックを行いましょう。

たとえば以下のようなフレーズは極力避けます。

– 「少しだけ傷あり」(→どの程度かを数値や写真で明記する)
– 「多分問題なし」(→主観を排除し、誰が見ても同じ基準となる表現にする)

これにより、どんな担当者でも一定レベルの証拠資料が残せる体制となります。

なぜ「アナログ記録」が昭和から現代まで残るのか

1. AI・デジタルでも“現物”の重みは変わらない

多くの製造現場では、365日24時間稼働や多ロット・多品種の入出荷が当たり前となっています。
こうしたなか、完全なデジタルによる自動判別・自動記録などの仕組みは、システム導入コストや現場の柔軟性の問題ですぐに導入できない事情があります。

また、現場で“目で見た”という一次証拠が必要なトラブルはゼロになりません。
そこに、“昭和のアナログ運用”がいまなお強く根付いている理由があります。

2. 人的要因・現場力の差を吸収する「保険」としての役割

AIやIoT技術が進化しても、
– 作業者ごとに“気付き”や“受け止め方”が違う
– 日本独特の「やったつもり」が生まれやすい現場文化
– システムエラー時のバックアップとして紙の記録も必要

こうした状況下で、「記録のダブル化」「アナログとデジタルの両面運用」が現場力を支える“保険”となっています。

3. 下請けサプライヤーとの“信頼関係”を左右する

サプライヤーとバイヤーの関係では、単なる文書管理だけでなく“信頼を証明できる記録”が長い目で見て重要です。
不利な情報も正しく記載し運用していれば、「現場は誠実にやっている」と認識され、将来的な交渉でも有利になりやすいです。

バイヤー・サプライヤーの立場で知っておくべきポイント

1. バイヤーにとって重要なのは「客観的な証拠集め」

受領時に現物・データ・記録・立ち合い証拠と、複数のエビデンスを集めることが“クレーム勝率”をきわめて高めます。
また、記録は社外への説明力も担保するため、調達部門や品質保証部門での共有が重要です。

2. サプライヤーは「見落とし指摘」や「不当指摘」にも備えるべき

「クリーン」とされたにもかかわらず後日クレームが発生した場合に備えて、「発送時の出荷検査記録」や「梱包状態の写真」を厳重に管理することが対抗手段となります。

また、「ダメージド」記載時には対応をスピーディーに行い、信頼失墜を防ぐことも肝心です。

3. バイヤー・サプライヤー両者の“協調型クレーム解決”がいま求められる

昭和流の「責任押し付け合い」ではなく、データと記録をもとに客観的に原因分析し、再発防止策を共同で進める時代へとシフトしています。
受領時記載の活用は、その“共通言語”としてきわめて重要な武器となるでしょう。

まとめ:「受領時記載での証拠力」は“現場知”が生み出す競争力

「受領時のクリーン/ダメージド記載」は古臭い、面倒、時代遅れ――そう思われがちです。
ですが、現場を守り、品質を守り、バイヤー・サプライヤー双方の信頼を築くためには、このアナログプロセスが今なお欠かせません。

現場現物現実(げんばげんぶつげんじつ)が最強の防御となるため、
– チェックリスト化による抜け漏れ防止
– 写真の活用で「説明力」を最大化
– 第三者のサインで信頼性アップ
– 誰でも分かるルールで人的バラツキ排除

といった多角的な工夫が、“クレーム勝率”を大きく左右します。

そして、これを支えるのは現場で日々働く人々の「気付き」と「実直さ」です。
いま求められるのは、単なる記載の形骸化ではなく「記録の意味を理解する目線」を現場全員で持つこと――。
それこそが、製造業の発展と、みなさまのキャリアを支える新しい地平線になります。

受領時記載を、ぜひ一度見直してみてください。
それが、あなたの現場の強みを一段と引き上げる第一歩となります。

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