投稿日:2025年11月25日

ODM依頼時の“ブランド側の責任範囲”の整理術

はじめに:ODM時代の「責任範囲」を整理できていますか?

ODM(Original Design Manufacturing)というキーワードがものづくりの現場で当たり前になって久しくなります。
ブランド側が製品企画とマーケティングに専念し、製造は信頼できるサプライヤーに委託するこの手法は、時代のスピード感にもマッチし、多くの企業に欠かせない選択肢となりました。
しかし、ODM化が進む一方で「どちらが何をどこまで責任を持つか?」という“境界の曖昧さ”が大小トラブルの温床にもなっています。

特に日本の製造業界は、昭和から受け継がれる“暗黙知”や“忖度文化”が根強く残っており、書類や契約でがっちり線引きをしないまま、現場任せでことが進んでしまうことも珍しくありません。
本記事では、ODM依頼時に必ず整理しておきたい“ブランド側の責任範囲”を、ベテラン現場目線で具体的・実践的に解説します。

ODMにおける主要な責任範囲の項目

1. 製品仕様と設計情報の責任

ODMでは、ブランド側が「ターゲット顧客」「性能要件」「外観イメージ」「売価」などの企画情報を提示し、サプライヤーが設計図面・製造工程を起こすことが多いです。
この時最も揉めやすいのが「要求情報の記述不足・曖昧さ」から生じる認識ズレです。

【整理術】
– 基本仕様書(スペック表)は必ず詳細に作り込み、「必須要件」「希望要件」「許容できる不確定事項」を明記します。
– 大手メーカー現場では、フェーズごとに承認印を押すプロセスがあります。
設計初期→中間レビュー→最終仕様承認と段階を追うことで、情報の抜け漏れを防ぎます。
– 要求仕様が後から変わることも多いので、変更管理台帳をブランド側で用意し「いつ・なぜ・誰からの指示で・どこが変わったか」を記録します。

2. 法規・認証関連の責任

製品が流通するエリアで必要な法令適合や認証(CE、RoHS、PSEなど)は、行政や市場ごとに異なります。
万が一適合外となると、販売禁止や厳しいリコール対応が求められます。

【整理術】
– 基本は「製品の販売主体=ブランド側」が法規認証の最終責任を持ちます。
– ただし認証に必要な試験結果や物証資料の作成は、サプライヤーに委託できる場合もあります。
– 各国法規や最新動向情報は、現地代理店や法規専門のコンサルと連携して収集する体制を検討します。
– 認証取得費用、試験方法、証明書保管などの役割分担を書面化しましょう。

3. 材料・部品選定とトレーサビリティの責任

「どの部品を使うか」「サプライチェーン情報は誰がどれだけ把握するか」も大きな論点です。
調達難や品質トラブルが起きた時の対応力にも直結します。

【整理術】
– 絶対に守りたい部品(指定部品)はブランド側から事前に明示します。
– それ以外についてはサプライヤー側の“調達合理化提案”も受け入れつつ、量産前に必ず部品承認リストを確定します。
– 製造ロットごと、どの材料・部品が使われていたかのトレーサビリティ体系(ロットNo管理)をブランド側で義務化することが多いです。

4. 品質基準と検査体制の責任

品質基準が曖昧だと社内・社外で「こんなはずじゃなかった」「うちは指示されていません」の泥沼になるリスクがあります。

【整理術】
– 合格・不合格の判定基準となる「検査仕様書」「受入検査基準書」はブランド側主導で作成し、必ず現場立会いで内容認識を一致させましょう。
– 不具合発生時の報告プロトコル(誰がどこまで情報収集、判断、是正するか)を細かく決めておきます。
– 品質監査の立ち入り権限や定期レビュー回数なども、契約時に細かく設定がベストです。

5. 不具合時の責任分担と損害対応

量産後、どんなに気を付けても不具合ゼロはありません。
ここで大切なのは「問題発生→影響把握→対応→費用負担」のシナリオです。

【整理術】
– 不具合発生時、まず「初動対応(情報収集・隔離)」と「是正(再発防止)」の一時責任担当を整理します。
– OEMの時代は「検収OKでサプライヤーの責任終了」が常識でしたが、ODMでは実際の市場クレーム発生後も一定期間責任を明文化しておくケースが増えています。
– クレームコスト分担や損害拡大時の補償範囲は、曖昧なままにせず「軽微な修理費まで/重大なリコール時のみメーカー責任」など、想定事例で線引きをしておきましょう。

デジタル社会に進化する“昭和製造業”の責任分担意識

日本の製造業では「言わなくてもわかるでしょ」「お互い様で適当に」になりがちなカルチャーが根強く残っています。
昭和的な現場信仰が一面の強みであった時代もありますが、グローバルODM、ひいては中国やASEANなど“欧米型契約社会”との取引が増える現在、これでは通用しなくなっています。

【進化ポイント】
– 文書化、手順化、デジタル管理(WBSやエクセル台帳、クラウドの仕様変更履歴)でトラブルの未然防止につなげます。
– サプライヤー、バイヤー双方で「言語化トレーニング」を行い、“なんとなく”を廃していく努力が必要です。
– 定例進捗会議や多職種レビューミーティングを設け、現場・設計・営業など垣根を外した責任分掌を進化させましょう。

ODMプロジェクトでのトラブル事例とその教訓

よくあるトラブル:期待値の食い違い

量産時になって「デザインがイメージ通りでない」「コストが約束より膨らんだ」など、後戻りできない段階で問題が顕在化することは珍しくありません。
一方で、現場では「ブランドから指示が曖昧だった」「コストダウン指示はしたが、設計条件までFixしたはずでは無い」などの言い分も出てきます。

【教訓】
– すべての依頼・変更指示・確認事項は“書面化”が鉄則です。
– 「絶対に譲れないポイント」と「歩み寄れるポイント」を、案件初期に洗い出しておきましょう。

認証遅延・市場投入遅れトラブル

設計終盤や量産直前で「工場の製造仕様では法規適合がクリアできない」と判明した例は多いです。
特に海外展開時には、規格要求が日本と異なる場合、大きな日程遅れ・コスト増の要因になります。

【教訓】
– 基本設計段階で法規・認証要件を“抜け漏れなく”チェックリスト化し、サプライヤーと共有することが重要です。

ブランド側の責任範囲、実践的なチェックリスト

1. 製品安全に関する法令/認証情報の最新化・適用判断
2. 製品仕様の策定・承認・変更管理
3. 採用部品の指定・トレーサビリティ維持
4. 品質基準の明文化・試験手順の確立
5. 不具合/市場クレームの発生時、報告・初動・是正フローの定義
6. 製造現場監査や定期レビューの頻度・内容の設定
7. 情報セキュリティや知財に関する注意点(機密保持契約の徹底)
8. 日英など多言語化対応時の仕様不一致リスクへの備え
9. 契約書や合意書への反映(責任分担、金銭補償範囲も明記)

これからODMに挑む企業/担当者への提言

ODMは企業のリソースを有効活用し、製品スピードを加速できる利点がある一方、“責任の見える化”が弱ければ致命的なコストを産みます。

“契約社会”の欧米企業は最初から「書面」「役割区分」「損害補償」の文化で守られていますが、日本独自のビジネス慣例のままでは、グローバル競争に適応できません。
バイヤー/サプライヤーどちらの立場であっても、「相手が何を重視し、どこに不安を持っているか」を想像し、ひとつひとつを見える化・明文化していく姿勢が、今後ますます求められます。

現場目線の「気配り」と「責任の明確化」を両立させ、ODMプロジェクトの成功率を高めることが、製造業の持続的発展に直結します。
これからの日本製造業は、伝統や現場力の良さを活かしつつ、世界基準の“責任整理力”を武器に新しい地平線を切り拓く時代です。

最後までご覧いただきありがとうございました。
皆さまの現場がより良いODMパートナーシップを築けるヒントとなれば幸いです。

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