投稿日:2025年10月24日

地元の強みを製品価値に変えるための素材・技術・物語の組み立て方

はじめに:なぜ“地元の強み”が今、注目なのか

製造業の現場は今、大きな転換期を迎えています。
グローバル化やコスト競争に押され、どこでも同じ物が作られる時代に差異化が難しくなっています。
さらにSDGsやサステナブル経営への要請、技術継承の困難など、昭和型のモノづくりでは立ち行かない場面が増えました。

こうした時代背景の中、地元の素材や技術、人や歴史など“地域らしさ”を製品価値に変える動きが強まっています。
これは観光業や食品業界だけの話ではありません。
工業製品の世界でも“地元生まれ”の価値づくりが、調達購買やサプライチェーン全体のあり方と結び付きつつあります。

この記事では、バイヤー・購買担当、地元サプライヤー双方にとって不可欠な、「地元の強みを製品価値へ転化する仕組み」を深堀りします。
20年以上の現場経験を活かし、実務で使えるヒントを具体的に示します。

地元の素材とは何か? 本質的な価値の再発見

素材=“単なる調達品”からの脱却

従来、材料や部品はスペック通りかつ安価で安定供給されることが最優先でした。
これは大量生産・ローコスト追求の時代には有効な原則でした。
しかし、今やスペック外の“背景”や“ストーリー”が付加価値となる時代です。

たとえば「この鋼材は新潟県の雪国で、熟練の職人が仕上げている」となれば、単なるJIS規格鋼では得られないイメージやブランド力が生まれます。
地元の素材を単なる材料以上の“物語あるマテリアル”としてとらえ直すことが第一歩です。

地域資源の掘り起こし:過去・現在・未来をつなぐ

地元発の素材には、長年受け継がれてきた伝統素材もあれば、新たな技術革新で生まれ変わったハイテク素材もあります。
両者の“掛け算”で化学反応を起こすアプローチこそ重要です。

・地場にしかない鉱石や木材、陶土、繊維
・特定地域に根付いた加工技術、検査・測定ノウハウ
・地元大学や高専、地場企業のR&Dチーム

こうした多様な“素材”をどう見い出し、組み合わせるかが製品価値の根幹となります。

地元技術の強みをどう活かすか:競争から共創へ

工場の伝統技能とデジタル変革の融合

製造現場では、昭和から続くアナログな職人技が今なお多く残っています。
一方で、IoTやAI、リモート監視といったスマートファクトリー化も避けて通れません。

これまでは両者が“競合”してきましたが、今後は「職人技×デジタル」の融合こそ競争力になります。
例えば、京友禅の手染め職人による仕上げに、画像解析AIを組み合わせて品質を可視化する。
地場の精密旋盤工場にて、職人の勘どころを機械学習で新卒教育に展開する、などです。

新旧の技術を地元でシームレスに統合する“現場改革”が、バイヤー・サプライヤー双方に求められています。

地元サプライヤーのネットワーク型組織化

地域に点在する中小サプライヤーが、それぞれの強みを持ち寄って「ネットワーク型生産体制」を組む事例が増えています。
・金属プレス屋、メッキ屋、組立屋が共同で“地元発OEM製品”を開発
・県や商工会が技術データベースを整備し、企業同士のマッチングを促進
こうした横連携は、バイヤーにとって素材・技術の新たな調達手段になりますし、サプライヤー側も付加価値向上に直結します。

物語づくりで製品を“体験価値”に変える

製品ストーリーが購買意思決定を後押し

購買現場では、コスト・納期・品質の三大原則が強固に根付いています。
しかし近年、最先端バイヤーほど「情緒的価値」「意味づけ」を重視しています。
つまり「なぜこの素材を使うのか」「その技術にどんな歴史や誇りがあるか」など、製品の“物語”が導入判断を左右するのです。

たとえば、「地元阿蘇山の火山灰土を使ったセラミックは、他産地の材料にない色味と強度が特徴。熊本の火山文化と共存してきた職人が一つ一つ手で形を整えている」と明示すれば、購買検討時の印象が桁違いに変わります。

“現場目線”のエピソードが共感を生む

物語構築のコツは、「現場の人」のリアルな声やエピソードを織り込むことです。
どこかのストーリーに載っていた話ではなく、自社の職人や購買担当者の日々の葛藤、学び、挑戦、失敗談こそがユーザーやバイヤーの心に響きます。

現場で「なぜこの素材でなければダメなのか」を実感したエピソードがあれば、それを短い言葉でまとめて伝えましょう。
動画やダイジェスト冊子など、デジタルでも紙でも提供できる工夫も大切です。

地元の強みを最大化する現場改革のヒント

“使われ方”から逆算する調達購買の新常識

調達購買の現場では、つい既存ルートに頼りがちです。
しかし、「その素材や部品が顧客の手に渡って、どんな使われ方をするのか」に立ち戻ることが、本当に価値ある仕入先開拓の出発点です。

ユーザー視点での価値、環境・サステナビリティ視点での価値など、新たな“評価軸”を現場のメンバー全員が共有することが不可欠です。
バイヤー候補者はOJTや工場現場体験、サプライヤーはカスタマージャーニー分析に取り組んでみましょう。

見える化とオープンコミュニケーション

地場産地ほど、昔からの商慣習や暗黙知が多く残ります。
あえて「見える化」「オープン化」を進めることで、若手の参画やITツール活用が加速し、新しいアイデアが生まれます。

たとえば、調達・製造・品質・営業が月一で情報公開する“部門横断会議”を設けたり、取引先を巻き込んだワークショップを実施することで、疑問や課題がすぐにキャッチアップできます。

地元の強みは“選ばれる理由”になる

日本のものづくりは今、“特別な価値”がなければSEO的にも市場的にも埋もれるリスクが高まっています。
大手メーカーにおいても、バイヤーは地元産品や地元協力企業との「他所にないパートナーシップ」をさらに重視しています。
昭和時代のように「同じものをたくさん、安く」だけでは生き残れません。

地場の素材、技術、ストーリーを掛け合わせ、「なぜ私たちがこの製品を作るのか」「どんな過程でどんな人が関わっているのか」を磨きこんでいきましょう。
それこそが激しい調達競争、品質競争、ブランド競争を勝ち抜く最強の武器になります。

まとめ:地元の物語を価値の源泉に

地元発の素材・技術・物語が一体となった製品作りは、アナログな昭和的現場にもデジタル化先端現場にも有効です。
現場で培った経験知やノウハウをバイヤーへ発信し、「地元ならでは」の強みを価値化するチャレンジを始めましょう。
最初の一歩は、小さな現場の気づきを“みんなで共有し、考える”ことから。
「実はうちの町でしか作れない」「あの職人しかできない手仕事」「地域の伝統×最新テックの掛け算」など、あなたの現場が本当に持つ強みを再発見してください。

製造業の新しい価値づくりは、あなたの現場から始まります。
地元だからこそできる“ものづくりの物語”を、世界に向けて発信していきましょう。

You cannot copy content of this page