投稿日:2025年6月30日

開発中製品の製品化に向けた超音波式ToFセンサー活用法

はじめに:変革期を迎える日本の製造業とセンサー技術

日本の製造業はかつて「モノづくり大国」として世界に名を轟かせてきましたが、近年は人材不足やグローバル競争、デジタル転換の波にさらされています。

特に、現場の可視化と迅速な意思決定が求められるようになり、その手段としてIoT(モノのインターネット)やAI、各種センサーの導入が加速しています。

その中でも超音波式ToF(Time of Flight)センサーは、現場の悩みを解決し、製品開発から量産までの現場力を高める革新的な選択肢として注目されています。

工場現場では依然としてアナログ的な慣習や昭和的な目視頼みの作業も残るものの、最新のセンシング技術を活用することで、歩留まり改善や品質保証、コスト削減など多角的な価値が生まれる時代となりました。

本記事では、20年以上もの現場経験を持つ筆者の実体験も織り交ぜながら、開発中製品から量産品へのスムーズな移行を見据えた超音波式ToFセンサーの本当の活用法を、バイヤー目線も加えて徹底解説します。

超音波式ToFセンサーとは?現場で重宝される理由

ToF原理をわかりやすく解説

ToFセンサーとは「Time of Flight(タイムオブフライト)」の略で、超音波などの信号を対象物に照射し、跳ね返ってくるまでの時間から距離や位置を測定する技術です。

赤外線式やレーザー式のToFもありますが、超音波式は「声」を使うイメージで、空気や液体、一定の材料中でも比較的安定して測定できるのがメリットです。

大きな特徴は、光によるToFと比べてコストが安価であり、しかも埃や水滴、色、透明度にあまり影響されずに対象物を検知できることにあります。

なぜ今、超音波式センサーが現場で選ばれるのか

従来、現場では赤外線やフォトセンサーが使われてきましたが、反射率や周囲環境、対象物の色・材質による検知ミスが多発していました。

また、狭所や汚れた環境下での誤動作、調整負荷も大きなボトルネックでした。

超音波式ToFセンサーはこれらの問題を克服し、工場の多様な現場(ライン、生産設備、研究開発部門)で「使い勝手の良さ」で選ばれる傾向が強まっています。

目視作業の標準化や省人化、遠隔監視にも最適であり、古き良きアナログの現場でもデジタル化を促すカギとなり得るのです。

開発中製品の量産化で直面する壁と、センサー活用のポイント

製品化プロセスで”よくあるつまずき”

新規性の高い製品や技術を量産プロセスへ適用する際、以下のような「現場の壁」に直面します。

– 試作時の検証データでは量産時のバラつきをカバーしきれない
– 設計情報に基づく品質保証と、現物現場で起こる誤差の溝
– 作業員の力量や目視検査の属人化による歩留まり低下
– 製造ラインの自動化を阻むセンサー選定の迷い

こうした壁は、部品サプライヤーとバイヤーとの交渉や技術仕様の詰めでも立ちはだかります。

従来の「経験と勘」や「根性論」だけでは、グローバル競争力やサステナビリティへの対応は難しくなってきました。

センサー活用の成否を分けるラテラルな考え方

従来の枠を超え、新しい発想で現場課題を解決するためには、センサー導入も「使うこと」そのものをゴールにしてはいけません。

つまり、「本来測りたい真因は何か?」「現場の勘と物理量データをどうすり合わせるか?」という問いを持つことが肝要です。

具体的には、

– ライン間や設備群で同じ規格・取付方式のセンサーを横展開できるか
– 前工程から後工程に至るまで一貫した測定基準・ログ化ルールを設けているか
– センサーで取得したデータを”合否判定”だけで終わらせず、トレーサビリティや予知保全に活かせる仕組みにできているか

こうした視野を持つことで、相見積りやカタログスペックだけでは分からない「現場のリアルな価値創出」につながります。

超音波式ToFセンサーの導入事例から学ぶ実践ノウハウ

事例1:組み立て工程での”締結確認”・”部品欠品検知”

ある大手自動車部品メーカーの現場では、手作業で締付けられる部品の工程で、

– 工員のミス防止(未締付・締付忘れ)
– ロボットによる自動組み立て後の最終チェック

の目的で超音波式ToFセンサーを導入しました。

ねじやカバー、ボルトの「存在・有無」「正しいはまり込み(深さ)」を非接触で一括検知することで、
目視検査では判別困難だった微細なミスも見逃しにくくなりました。

設定調整が非常にシンプルで済み、形状や材質のバラツキにも強く、「工場の標準化」と「人依存からの脱却」に貢献しています。

事例2:AGV・搬送ロボットの障害物検知&自動停止

工場内の自動搬送車(AGV)やロボット運用現場では、「安全第一」の原則から障害物検知が不可欠です。

特に、反射板や赤外線ビームが通り抜ける布・ビニールカーテンの検知には誤動作が多く、従来のセンサーでは「万全とは言えない」「現場設置が難しい」といった課題も見受けられました。

最新の超音波式ToFセンサーは広角でピンポイントの両方に対応できる機種もあり、布や合成樹脂、微妙な凹凸も高精度で捉えます。

さらにIoT連携で「搬送履歴」や「異常停止の時刻・位置情報」までデータ化できるため、トラブル後の解析・対策スピードが飛躍的に向上しました。

事例3:液体・粉体のレベル計測や異物混入検出

精密な品質管理が要求される食品・化学・医薬品メーカーでは、タンクや原料サイロの液位・粉量計測にも超音波式ToFセンサーの実績があります。

– タンク内部の残量検知
– 液面の波・揺れがあっても安定的にレベル計測
– 異物(たとえば過剰発泡や沈殿物)の有無をアラートで監視

これにより、現場のオペレーターは「見に行く」「触って確かめる」といった非効率な作業から解放されます。

また、HACCPやGMPなどの認証・規制対応としても、作業履歴やセンサーログが活用でき、品質・監査向けの信頼資料として機能しています。

サプライヤーとバイヤーの駆け引きを超える“共創”のヒント

カタログ比較だけでは見抜けない現場適合性

バイヤーや調達購買部門は、コストとスペックだけを基準にサプライヤー選定をしがちです。

しかし、現場主導の「使いやすさ」や「ノウハウ共有体制」まで見極めると、本当に現場価値につながるパートナーかどうかが浮かび上がります。

– 設置環境ごとのデモ機貸出/現場検証サポートの有無
– セットアップやパラメータ調整の工夫(現場オペレータへの教育のしやすさ)
– 長期使用時のランニングコスト(消耗部品、校正サービス、保守体制)

こうした体制面も含めて、対等なものづくりパートナー“共創”の関係づくりが御社の競争優位となります。

サプライヤー視点:バイヤーの本音・隠れたニーズを汲み取る

サプライヤー側は先方バイヤーの「本当の意図」や「現場困りごと」に寄り添う姿勢が差別化のカギとなります。

単なる製品売込みだけではなく、

– どんな作業現場、どんなターゲット品で困っているかをヒアリング
– 量産立ち上げや検証時の「ちょっとした調整」「非定常トラブル時の出張サポート」など実務寄りの提案
– システム連携やデータ活用まで見据えたアフターフォロー

こうした“現場目線”の提案・サポート力が高まれば、バイヤーから「困ったときはまず相談」と信頼を寄せられる“御用達”ポジションを獲得できます。

今こそ、製造現場の“地殻変動”を加速させよう

レガシー工場でもできる小さなデジタルトランスフォーメーション

「うちは古い設備だから…」「人もベテラン頼りで…」という現場こそ、超音波式ToFセンサー導入は最も手軽で成果の出る“DX”の第一歩です。

投資回収期間(ROI)がはっきりしやすく、測定値のデータ蓄積が次なる自動化整備やAI判定などの布石になります。

まずは一点豪華主義で改善効果が目立つ工程から始め、成果の可視化と社内啓発に活かすことで、徐々に工場全体の変革が加速します。

バイヤー・サプライヤーも越境コラボで業界発展を

業界の発展・サプライチェーン全体の底上げには、相見積りや価格競争にならない「現場ニーズ探索型」の共同実験や、現場トラブルのフィードバック共有が不可欠です。

現場起点の実践DX――
超音波式ToFセンサーはその起点となり得る道具であり、単なる「モノ」ではなく、現場知の“媒介者”となれる存在です。

アナログの知恵と最新デジタルを融合させ、これまで業界を支えてきたすべての人材が新たな付加価値創出に挑む。

その道しるべの一端に、本記事がなれれば幸いです。

まとめ

– 超音波式ToFセンサーは現場の物理量を正確に「見える化」し、製品開発から量産、品質保証まで幅広く活用できる
– アナログ慣習が根強い昭和的製造業でも、DX・自動化のファーストステップとして導入余地が大きい
– サプライヤーとバイヤーの「共創」の視点が業界全体の底上げを支える
– これから製造業へキャリアを歩む方、現場に悩みを持つ方へ、本記事が「現場の叡智」となることを願います

製造業の皆さまが、変わり続ける時代の中でよりよい製品・サービスを届け続ける礎になれば幸いです。

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