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デザインブリーフの書き方:ユーザー要件から仕様に落とす手順

目次
デザインブリーフとは何か?製造業における重要性
デザインブリーフは、ユーザー要件や要望を実際の製品仕様に落とし込むための要約文書です。
特に製造業では、顧客のニーズを正確に把握し、それらをどのように具現化するかがプロジェクト成否のカギを握ります。
多くの現場では「顧客から言われた通りにつくればよい」と思われがちですが、顧客自身が本当に必要としているものを言語化できていないケースも少なくありません。
また、製造業特有の伝統的な上下関係やアナログ的な情報伝達が絡むことで、ユーザー要件が正確にエンジニアや生産現場に届かず、トラブルや無駄なコストを生む例も多々あります。
このため、デザインブリーフは単なる「要求事項のメモ」ではなく、関係者全員が納得できる「共通の設計図」として機能するべきです。
ユーザー要件抽出のプロセス
デザインブリーフの最初のステップは、ユーザー要件=「顧客が本当に困っていること、実現したいこと」を具体的に抽出することです。
この段階での失敗は、後工程ですべてのコストや納期リスクの増大につながるため、最重要ポイントです。
ヒアリングは「なぜ」を徹底する
ユーザーから話を聞く場合、「もっと速いラインにしてほしい」「壊れにくい部品がほしい」といった表面的な要求に終始しがちです。
しかし、必ず「なぜ、それが必要か?」という根本の理由まで掘り下げる必要があります。
例えば、「なぜ速いラインが必要なのか?」という問いかけを繰り返すことで、「人員が減らされている」「過去トラブルで納期遅延が頻発した経験がある」など、背景事情を把握できます。
背景がわかれば、根本的解決策になる設計や仕様提案につながります。
現場観察とデータ活用
ヒアリングと並行して、大型ラインや工場の場合は実際に現場で観察し、作業者やオペレーターの動き、過去のトラブルデータなどを確認しましょう。
昭和型の現場では「いつものやり方」を疑問視しない風潮も根強いですが、現場こそイノベーションの種があります。
プロのバイヤーや開発担当者は、この現場観察力を武器にしています。
ユーザー要件を仕様に変換する際のポイント
得られたユーザー要件を「図面」「部品」「評価基準」などの仕様に変換する工程は、まさに“橋渡し”のプロセスです。
要求と制約条件を整理する
たとえば「生産ラインの速度を30%上げたい」という要望があった場合、ただし「既存の搬送設備はそのまま流用したい」「安全基準は変更できない」といった制約条件が存在します。
設計者・バイヤー・サプライヤーそれぞれの立場で「何が絶対条件で、何が代替可能か」を整理することが非常に重要です。
抜け・漏れを防ぐには構造化がカギ
・機能要件(何を達成したいか)
・性能要件(どの程度の精度や速度か)
・制約条件(サイズ、コスト、使える素材など)
・検証方法(ちゃんと実現できたかの判断基準)
これらをリストアップした上で、関係者とすり合わせを何度も行います。
ここを疎かにすると、たとえば現場では「A品番でしか作れない」「検査方法が想定外」などが量産化時に露呈します。
バイヤー・サプライヤー視点での注意点
サプライヤーとの協業時にありがちなのが、「ぼんやりした要件提示で手戻りが多発する」パターンです。
発注側としては、“なぜこの仕様・コスト・納期なのか”まで原理原則を説明できるブリーフを作成しましょう。
逆にサプライヤー側の方は、「表面のスペックだけでなく、お客様の現場悩みや利用シーン」を聞き出すことが受注のカギです。
「そこまで考えてくれたのか」と言われるレベルの提案が最終的な競争力につながります。
よくある失敗パターンとその対策
デザインブリーフから仕様化する工程には、いくつか典型的な失敗パターンがあります。
要件の曖昧さ
すべてのキーワードや基準が曖昧なまま進むと、試作時・納入時にトラブルになります。
「もっと軽く」「そこそこの耐久性で」といった表現は数値や比較対象を明確にしましょう。
関係者間の認識のズレ
営業、設計、生産管理、品管、それぞれの部門でニュアンスの違いが起こりやすい箇所を事前に洗い出し、「設計レビュー」「ブリーフ説明会」などの場を必ず設定しましょう。
現場力の過信・属人化
この業界では「ベテランの○○さんがいれば大丈夫」といった属人化も多いですが、デザインブリーフで知識やノウハウを見える化することで、引き継ぎや継続的なブラッシュアップができるようになります。
デジタル化時代のデザインブリーフ作成法
近年はDX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に求められていますが、いまだ「紙と口頭ベース文化」から抜けられない factory も多いのが実情です。
テンプレート化とクラウド活用
WordやExcelで要件整理シートを作るだけでなく、クラウド型の業務ツールを利用することで履歴管理や、他部署との同時編集が容易になります。
これにより日本ならではの“ハンコ文化”がボトルネックになるケースも減ります。
AIや自動化との連動
AIが過去案件の要件履歴から最適解をサジェストしてくれるようなツールも登場しています。
「似たような案件でどんな失敗があったか」「何を仕様に書き込むべきか」といった知見をデータベース化しておくと、若手や新人でも抜け漏れが格段に減ります。
現場目線で実感した“いいデザインブリーフ”の特徴
20年以上の現場経験者の立場から感じる「本当に機能するデザインブリーフ」の特徴を、いくつかご紹介します。
1. “なぜ”を三回以上問うている
2. 全員が同じアウトプットイメージを共有している(試作品や3DCADで仮確認など)
3. 数値と比較で判断できる
4. 必要十分条件と“妥協可能ライン”の区別が明確
5. 変更時のトレーサビリティ(なぜこの仕様になったか)が残っている
これらを意識すれば、「結局どういうものが欲しかったのか?」と迷うことが激減します。
まとめ:デザインブリーフ作成を業界価値向上の第一歩へ
デザインブリーフは単なる“伝達メモ”ではなく、顧客への価値提案力・自社の生産性・品質保証を左右する非常にクリティカルな文書です。
昭和からの伝統と最新デジタル技術の良い部分を組み合わせ
・徹底した現場主義
・論理的な構造化
・関係者間の密なすり合わせ
を実践することが、激動する製造業界での競争力向上につながります。
バイヤー志望の方には、「なぜその要件が必要なのか」を追求する視点を。
サプライヤーや連携するパートナーには、「本当に現場のお困りごとを解消できているか」の一歩踏み込んだ提案力を。
一人でも多くの現場担当者が、今日から“使える”デザインブリーフの力を発揮できることを心より願っています。
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